2002.April 20, Japan Tour Report

 by なつむ


・キャスト・

<ソワレ>

ディノ:スコット・アンブラー/ラナ:サラーン・カーティン/リタ:エタ・マーフィット
アンジェロ:アーサー・ピタ/ルカ:アラン・ヴィンセント


 ロンドンオリジナルキャストを見てから2年ぶり、途中DVDで映像は見たものの 、久々のAMP「The Car Man」の舞台。言うまでもなく、期待してオーチャードホ ールのエントランスをくぐりました。

 キャスティングを見るとアラン、サラーン、ピタ、エタ、スコットとお馴染みの主要キャスト。ウィルのアンジェロがピタになっている以外、主要キャストはDVDと同じ、ピタのアンジェロはロンドンでも見ているので、以前見た舞台と全く同じで、喜びつつも別キャストも見てみたかったとちょっと贅沢な文句を言ってしまいます。
でも、スコット!何度でも見たいスコットのキャスティングは私に至福の時を(大げさ?)約束してくれるのです。うれしいっ!

 関西在住の私にとっては初めてのオーチャードホールで、弥生さんにお願いして 取って頂いた席は中央前方。これなら表情まではっきり見える距離です。
 座席を確認してから、用意してきたマシュー・ボーンへの手紙を手に、直接手渡せないかしらと、マシューを探して友達とホール内を歩いてみます。そうこうしているうちに開演時間に。手紙を渡すことが出来ぬ まま、次の幕間に希望をつないで着席します。

 そこで、ショッキングなことが発覚。噂には聞いていまいたが、オーチャードの1階前方はことごとくフラット。しかも、座席を詰めるだけ詰めたのでしょう。前の席ときれいに重なるようになっていて、見えるのは前の人の後頭部ばかり。
 余りにも座席の配置が悪すぎる!更に、こう言っては失礼ですが、結構座高が高い人が前に座っているのです。舞台が、舞台が見えないっ!!!ううううううっ

 始ったものの、私の視界は舞台両端&前の人の頭のみ。つまり、舞台の中央が全て頭部で隠されてしまって、何が起こっているのか分からないのです。こんなホールって、あり?!客席設計がひどすぎる!動きの速いAMPの舞台だけに、見えないことの悔しさが山のように溜まってきます。前すぎると見えないといわれていたので、あえて10列目以降にしたのに、まだまだ甘かったようです。
 日本、NY、ロンドン、ウィーンと、あちこちの劇場に足を運んできましたが、これほど見えない舞台は未だかつてありませんでした。

 感動しようにも、感想を述べ様にも見えないのでは話しになりません・・・何せ中 央で踊る人達は見えないのですから。ルカのハバネラの音楽を使ったソロも、 舞台端にくると見える、テーブル の上に乗ってくれれば見えるという感じ。
 かろうじてタバコを使ってのカルテットは 少し中央からずれていたので他のシーン よりは見え、真実さんの切れのいい、それでいてエレガントな踊りを見ることが出来ましたが、それ以外は舞台セットの2階へ上がってくれるなどしなければ、途切れることなく一つの動きを見ることが出来ないのです。
 とは言え、ルカと浮気中のラナにディノが手を振るという、あのチャーミングなスコットの姿はしっかり目に焼き付けましたが(笑)

 せっかく私の希望通りに弥生さんが取ってくださった席なのに、ホールが悪くて見えない・・・これなら表情は見えないけれども2階席の方が良かったかもしれない・・・
という状態で、前半が終了。ダンサー達が魅力的に演じているのは分かるのですが 、何せ全ての動きが途切れてしまっていて・・・すっかり精神的に疲れてしまいまし た。

 ぐるっとホールを見まわすと、一階後方の席は結構空席が目立っています。という 事は、本当はいけないのだけれど、後ろに移ったほうがいいのかしら。と悩みつつ、 再びマシューを探します。
 しかし、今回よほど縁がないのか、マシューの姿は全く見当たらず・・・ついていない。仕方なくホールの方に渡してくださいと預ける事にしました。劇場の問題有りの作りとは別に、スタッフは親切だっただけに、非常に残念。これで座席の配置も良ければいいホールなのに・・・

   さて、後半です。再び例の席に戻って、また見えない闘いが始るのか?!と思った 矢先、状況が一変。前の人が何といきなり眠りの世界に入られたのです。深い眠りに 入るにつれ、どんどん座席に深く、深く沈みこんで行き、それにつれ、私の視界はど んどんクリアーに!(本当、思わぬ展開)
すると、どうでしょう。魔法がかかったように舞台が面白く(当たり前)素晴らしく (当然)、そして表情が手に取るように(だって本当はいい席なんだもん)分かるよ うになるではないですか!素晴らしい!!ブラーバッ!!(前の席の人を称えてみま した)AMPのメンバーには悪いけど、居眠り万歳!!

 という訳で、ACT2以降はもう舞台に目が釘づけです。相変わらず華のあるサ ラーンの姿に魅せられ、アランのルカに彼ならではの動きを堪能させられる。
アーサーのアンジェロは守ってあげたい衝動にかられっぱなしのウィル・ケンプのそ れとは異なり、こう言っては何ですが、いじめられている姿も非常にナチュラルで、線の細さを感じさせつつも自分が抱えている問題は、自分の問題という殻のようなものが感じられ、自分の感情を内に秘めた人物という印象です。
それにしても、マーサ・グラハムのパロディ!スコット、おかしすぎっ!!エッタと の息も相変わらずぴったりです。ディノとこのキャバレーダンサーの彼が同一人物とは、やっぱり思えない!!

 2年ぶりの舞台は、以前より当然のことながら完成度が高く、非常にスムーズ。私自身この物語を既に知っているということもあるでしょうが、初めて見たときの「とにかく物語りの展開が早すぎてついていくのに必死」という余裕のない張り詰めた印象は消え去り、落ちついて見ることが出来ます。そして、物語そのものも納得のいくものになっていました。突飛でもありがちでもなく、非常にスムーズに展開しています。相変わらず日々進化を遂げるAMPです。

 いつもの事ですが、レズ・ブラザーストーンの計算されつくした舞台美術に感嘆 し、全てのキャラクターが「生きている」マシューのストーリーテーラーとしての才 能に魅了される。次々に移り変わって行く場面、感情の揺らぎ、変容、そして変わら ない心。その全てがダイレクトに観ている側に伝わって来る舞台。いつもながら、言 葉が無い作品だとは思えません。

 脱獄をしたアンジェロが、ディノのダイナーのシャッターを引きおろすと表れる 「Murder(人殺し)」の文字。これは劇的な場面で、演出効果をあげる場面ですが、その行動より、今回まさしくアンジェロの心の叫びがこの書きなぐられた赤い文字に表れているという事を強く感じました。と同時に、「Murderって何だろう?どういう意味だろう?と思う人も居るだろうし、意味がわかってもらう事は物語を語る上では重要だと分かりつつも、まさかここまできて日本語で『人殺し』とはやっぱり書けなかったんだろうなぁ〜。いきなりここどこの国?モードになっちゃうもんなぁ」などという事も思ってしまったのですが(笑)

 マシューがトークショーで「最後のアンジェロからルカにしたキスの意味は?」と聞かれて「LOVE」と答えていたという話しの通り、観客の胸を痛めるアンジェロのキスがあり、いよいよ物語は終わりを迎えます。何度観てもやはり女は強い、ずるいと感じさせられるラナの手によるルカの死。そして、アメリカの田舎の町でならありえると信憑性を感じてしまう、恐ろしいラスト。そしてスクリーンに映し出されるブラックな意味合いを持つ文字。
舞台が始まった時には、その視界の悪さからどうなる事かと思った舞台の幕が閉じました。

 うーん。いつも思うのですが、あっという間に舞台が終わってしまいました。充実感と終わってしまったという焦燥感を感じつつ、一緒に来た母に、出待ちに付き合ってくれるという承諾を得てから、友達と合流して、今まで2回しかした事がない出待ちをするべく、劇場裏に向かいました。

 まず、今回日ごろしない出待ちをした理由の一つが、私のHPにコンタクトを取ってくださる真実さんに初めて実際にお会い出来るかもしれないという事。そして、今回ご一緒した方が、今回の来日で注目を集めたリチャード・ウィンザー君のお知り合い で、紹介してくださるとおっしゃってくださったという事と、もしかすると、マ シューやスコットに会えるかも知れないという期待からでした。
 でも、NYでマシューまでが言っていたように、「スコットは楽屋から出てくるのがものすごく遅いのよ。だから会える確立は思いっきり低いのよ」と、自分に言い聞かせていましたけれども(笑)

 さて、大道具の搬入口のような、ここは倉庫?と聞きたくなる場所で待つこと数 分。まず現れたのはリッチーことリチャード・ウィンザーでした。
 ジーンズというラフな姿で立つ彼は、もちろん目をひく存在ですが、本当に普通の男の子っていう感じ。早速ご一緒した方の姿を見つけ、こちらに歩いてきます。 その方に会った途端リッチーは
「マチネの時に手紙を受け取って待ってるって書いて たから、マチネが終わってからここで待ってたのに、来ないからずっと待って・・ ・」
と話し始めました。何とリッチーはその方を待って、ずっと搬入口でマチネの後 待っていたそうです。かわいすぎるっ!!

 ほどなくして、その方が私をリッチーに紹介してくれました。初めましてと握手を交わし、今回の来日で皆がリッチーを知って騒いでると伝えます。
「ブラット・ピットに似てるって皆が言ってわよ」
と言うと、満面の笑みを浮かべ、目を大きく見開いた後、ちょっと離れた所に腰掛けていた、一緒に出てきたダンサーに
「ねえ、今の聞いた?聞いた?!ブラット・ピットに似てるって聞いた?!」
と声をかけ始めました。かわいい、可愛すぎるっ!!!まだまだ、今スタートに立ち、これから成長していくスターの卵という感じで、その反応は新鮮でかわいすぎです。
「来年の白鳥に出るの?日本に来る?」
と聞くと、
「そもそものAMPのオーディションは白鳥で受けたんだけど、く るみ割人形もあるし・・・まだ分からないんだよね」
との答え。 「くるみ割はいつになるの?」
と聞くと、
「いつだっけ?」
とまた近くの友達に声をかけてます。
「ああ、11月。まだ場所は決まってないんだけど」
と答えてくれました。
 パンフレットにサインをもらい、これからも応援していくわねと伝えているうちに、ぞろぞろとダンサー達が出てきました。ああ、誰に何を言えばいいの?!というほどに。うれしい悲鳴をあげてしまいます。

 そして、遂に友谷真実さんに会うことが出来たのです。あの舞台での存在感を思う と、意外なほど小柄な方。急いで声をかけ、自己紹介をします。ネットを通じては、 色々ご連絡頂いているのですが、今回が初対面だったのです。
 舞台が素晴らしかったと伝え、今後の予定を伺います。
「来年の白鳥に出演されますか?」
と伺ったところ、
「多分・・・でもくるみと白鳥は時期が重なるので、どっちの舞台にするかを選ばなくてはならないんです」
との事。その後、真実さんは、11月のくるみに出演されることが決まったそうです。

 お友達を探しに行かれた真実さんを見送ってすぐに、エタ・マーフィットを発 見。やっぱり年齢より若く見える人だと思いながら、
「エタ・マーフィットさんですよね?」
と声をかけると、そうよという答え。早速サインをお願いしてパンフレットを開いていると、
「これも、これも、これも私。で、これも私」
とAMPの過去の作品の写真を指差してくれました(笑)
 ロンドンでも”CarMan”を観た事などを話し、エタだったら知ってるかもと思い、再度くるみ割はいつどこでするんですか?と聞くと、11月でまだ劇場は決まっていないとの答え。お礼を言ってると、離れて立っていた母の声がしました。

「マシュー!マシューが行っちゃう!!!」
えっ?と振り向き、急いで母の方に行くと、今目の前をマシュー・ボーンが通ったというではないですか。
 急いで歩道を追いかけると、アーサー・ピタが見え、日本人スタッフに囲まれたマシューが丁度信号にさしかかる所でした。恥ずかしながら、「マシュー!」と叫びつつ走る私。(日ごろの私からは想像できない行動に出てます!)

 そこに立ちはだかり、冷たい声で
「駄目だよ、あっち行って。急いでるんだから」
と邪険に追い返す日本人スタッフ。あっちへ行けと押される私をマシューが救ってくれました。
「一人だけ。一人だけだから、サインするよ。」
ああ、本当にいい人だわと、感動してしまいます。それでもまだ日本人スタッフは
「駄目だよ!」
と言う。その時マシューの手がのびて、私が持っているパンフレットをひょいっと持って行きました。急いでペンを渡しつつ
「先ほど、白い封筒に入ったあなた宛の手紙をスタッフに渡したんです。読んでください!」
と必死で話します。うなずきながら、はいっとパンフレットを手渡してくれるマシュー・ボーン。
 じゃあね、と交差点を渡って行くマシューの背中を見送りつつ、日本人スタッフの態度とマシューの対応のギャップを改めて感じ、マシューはやっぱりいい人だと感動してしまいました。

 再び劇場の裏に戻るべく歩いていくと、母が
「さっきね。立ってたらマシューが『バイバイ』って声をかけてくれて、驚いて『あ、マシューだっ!』と思わず言ったら、にこにこって笑ってくれたのよ」
と話してくれます。ますますマシューの好感度がアップしてしまいました。

 さて、戻ると今度はサラーン・カーティンが出てきました。舞台での彼女とは打っ て変わって、地味な雰囲気の女性です。
メイクを落とした今、彼女がサラーンだと気付く人はほとんど居ないのではないでしょうか。あのラナを演じている人とは思えないほど、物静かな佇まいなのです。サインをお願いしながら、
「ロンドンであなたのラナを初めて観た時に、凄く驚いたの。だって、ものすごくセクシーなんだもの」
と言うと、顔を赤らめるのではないかと思うほど、物凄く恥ずかしそうに笑いま した。ますますラナを演じた人とは思えない!このギャップに驚いてしまいます。

 お礼を言って見送り、もうほとんどのダンサーが帰ってしまったなぁと思った時、遂に出てきたのです!NY公演で、あのマシューが「彼はいつも遅いからねぇ」と、様子を見に行ってくれたこともある、ロンドンの公演で出待ちをしても会えたためしがないと友人が言っていたスコット・アンブラーが出てきたのです!!

 もう今日は幸せすぎ。スコット!と思わず名前を呼びながら駆け寄ってしまいまし た。パンフレットを急いで開き、ペンを渡しながら、ロンドンでシンデレラとCar Manを、NYでSwanを観た事を告げ、NYでは会ったとも言ってみました。そして、思わず
「とにかく、とにかく、愛してるの!」
と叫んだ時には、完全に壊れていた私。あはは。
「I love you」と言われたスコットは笑っていましたって、当然ですね。

そして、AMPとマシューについてのHPを5年前から作っているのだけれどと前置きし た後、今後の予定を聞いてみました。
「くるみ割り人形はいつになるの?」
と言うと
「11月の後半だね」
と、ここで
「ちょっと待って!書くから!!」
と急いで手帳を取り出す私。それを微笑みながら 待ってくれるスコット。用意が出来たので早速質問開始です。

なつむ「くるみ割り人形は11月後半なのね」
スコット「11月後半」
な「これは、AMPの作品じゃなくて」
ス「New Adventursの作品。8月に新しいカンパニーのはじめての作品をナショナル・シアターでやるんだ。
  あのね、AMPは3つだけ。  (指を折りながら)スワンとシンデレラと、カーマンしか持ってないんだ。」
な「3だけなのよね?」
ス「(Onlyを強調して)そう、3つだけ!」
な「だからこれからの作品は」
ス「新しいカンパニー。新作は全て、新しいカンパニーのものだよ」
な「8月の新作には出演するの?」
ス「うーん。多分ね」
な「ところで、くるみ割りの劇場は?」
ス「まだ決まってない」
な「ところで、リトル・マーメイドは?」
ス「2004年のえっと・・・11月。NY、ブロードウェイだよ」
な「シザー・ハンズは?」
ス「2003年の秋。これはNew Adventursの作品になるんだ」

 一生懸命メモを取る私の横で、的確に、はっきりとスコットが答えてくれます。今、今後の予定を聞くなら、スコットに限る!っていう感じ。しかも、メモをとる私に速度を合わせてくれるように、見守りつつ話してくれます。ますますスコットが好きになってしまうではないですか。どうしましょうって、どうしようもないけど(笑)

「で、白鳥で来年また日本に来ると聞いたのだけど、王子役で来日というのは?」
と聞くと、笑いながら
「もう駄目だよ。王子を踊るには歳を取りすぎているよ」
と答えるではないですか。私を含め友人一同、
「何を言ってるの。あなたの王子は最高よ!」と騒ぎ出します。
でも、もう踊らないよと笑うスコット。あーん。残念。でも、NYで観ておいて良かっ たと、ちょっと思ってしまいました。
 先ほどまでディノなんていう中年のおやじを演じていた人とは思えない、キュートな黒いスニーカー風紐革靴に、シャツとパンツというカジュアルな姿で、皆に笑顔を残してスコットは帰って行きました。彼が出てきたら、もうダンサーは残っていないだろうという(それほどスコットはゆっくりしている)判断の元、我々も劇場を後にしま す。

 という訳で、舞台はもちろんの事、非常に充実した出待ちを経て、我々は帰宅の途についたのでした。


・・追伸・・

 リチャード・ウィンザーの「くるみ割り人形」の出演が決定したそうです。という訳で、2003年AMP「SWAN LAKE(白鳥の湖)」での来日は無いと思われます。

最後に私事ですが、マシュー・ボーンを追った時に、その場をゆずってくれた友人に感謝致します。


・・・マシュー・ボーン&AMPダンサーの方々に日本のファンの皆さまへのメッセージを書いて貰った、
4月28日琵琶湖ホールのレポートは後日掲載予定です・・・

・・・作品についての感想は、Feeling noteの「DVD/The Car Man」に書いています・・・


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