West End report


By Mr.Joe

2000,December

★このレポートはJoeさんから寄せられたものです。これからも楽しみにしています★

by なつむ


12月22日「THE CAR MAN」ソワレを観てきました。
配役はLuca=Will・Kemp、Anjero=Ewan・Wardrop、Dino=Scott・Ambler、Lana=Michela・Meazza、Rita=Etta・Murfittです。

WillとScottがキャスティングされていたので、ワクワクしながらドレス サークルの2列目、ほぼ中央の席に着き、開演前の劇場の様子を観察。暗い赤と象牙色を基調に、金色がアクセントになっており、クラシカルでシックな内装。
手頃なサイズの劇場でしたが、舞台の間口が随分と小さいのに驚きました。
この時点で、舞台の大きさに些かな不安な感じを覚えたのですが、そうこうする内 にセイフティカーテンがあがり、舞台上はグラインダーの火花と金属音の飛び交う自動車修理工場に。

「むくつけき」といったカンジの男達と、どことなく「ハスッパ感」の漂う女たち が、うだるような暑さと、持て余すエネルギーから来る倦怠感のような雰囲気を醸し出していました。
序曲も何もナシでのオープニングでしたから、そのままロビーで過ごしてしまった観客も多かったようです。

個人的には、前2作での観客の心を鷲掴みにするような幕開きを期待してしまった ため、まずオープニングで肩透かしというか、今ひとつパワーが感じられなかったのは残念。
見慣れていたにも関わらず、紗幕の単純なトリックに驚いてしまった「Cinderella」、物語のテーマを力強く簡潔に表現しきっていた「SwanLake」に比べると、吸引力が少なかったと思います。
作品の性質上、観客を一発でノックダウンさせてしまうより、まるで現実の世界が そのまま舞台上に展開されるような効果を狙っての演出だろうとおもいますし、その分、自然で現実的ではありました。

ここでイキナリ結論に飛んでしまいますが、結局、舞台が小さいということと、作 品に現実的な要素が多かったため、ダンスで物語なり世界を構築していくAMPの特質に上手く噛みあわないまま舞台が終わってしまったような印象をうけました。

やはり、OldVicのあの小ささというのはストレートプレイにとっては好条件かもし れませんが、ダンスをするにはあまりにも枷になってしまうと思います。
事実、舞台セットも出切る限り最小限の要素で、幾つもの場面に対応できるように上手に設計されているのに、ダンサーたちの動きには空間的な伸びやかさが感じられませんでしたし、それどころか、常に他のダンサーとの距離を考えながら窮屈そうに踊っている感じすらありました。せめて左右にあと2〜3メートルくらいのスペースがあれば状況が改善されるでしょうに。

これは、ダンサーの力量とか振り付けが原因ではなく、純粋に舞台の大きさの問題 ですから、この点をもって作品の良し悪しを決めてしまうのは酷かもしれませんけれど、AMPが大きな空間を必要とするだけの力量をもったカンパニーであるという事実でもありますから、2002年よりOldVicがAMPの常小屋になるのは、大いに不安なところです。

現実的要素については、細かいところでは、ものを指し示す時のバレエ的マイムや メロドラマのカリカチュアのようなシーンと(例:LucaとLanaの最初の出会いでの、スポットライト処理など)リアルな描写との間がスムーズでない印象をうけました。
リアルで行くのか、カリカチュアで行くのか、どちらか一方に統一したほうが作品 としてまとまりがあったのではないでしょうか。

たとえば、クラシックバレエの動きを徹底的にパロディ化したセックスシーンなん て、かなりAMP的で面白かったはず。
性的な描写の仕方が、マドンナのコンサートとかビデオクリップのように見えてし まったのは惜しいところでした。
とくに、LucaとLanaの欲望の幻影のように現れる男女(男同士もいましたが)の扱 いには、マドンナのデジャヴュ感が強かったです。 衣装もちょっとウェスタンな雰囲気で、いま流れている「Don't Tell Me」のク リップとかぶるし。
逆に、テネシー・ウィリアムズの芝居のごとく、徹底的にリアルな動きにこだわっ てみるのも、前2作とは違った方向性が見えて良かったかもという気もします。
まぁ、そうなると無言劇かパントマイム芝居になってしまう危険性がありますけれど。

作品の内容については、これは個人的な好き嫌いレベルの意見ですが、僕はやっぱ り、ファンタジックでイデアルな物語のほうがAMPの個性に合っているように思います。
現実世界では上手く生きていけない人でも、想像力でもって、現実逃避ではなく、最終的には現実に勝利できるといったような物語。現実はツライだけっていう大人びた話はどんな人にも創れるんですから。
そういう意味で今回の作品は、「カルメン」を題材に選んだところからして、自分 の中のコドモっぽさに対する恥ずかしさみたいなものをMatthew・Bourneが感じてしまったのかも等と深読みをしてしまったりしました。コドモっぽくてもいいのに!!

あと、WillのAnjeroを観られなかったのも心残り。Luca役でも少年性を活かし、性 的な意味も含めて溢れ出るような魅力を持ったキャラクターを創造していましたが、Lucaにしてはあらゆるバランスを乱してしまう危険なフェロモンが薄いような気がしました。
少々、健康的過ぎるというか、なんだか、本人の自覚なく人々を誘惑してるといお うか・・・。 やはりLucaは確信犯の誘惑者でないと、まるで肉食獣のような。
Willの持っている独特な透明感や中性的な魅力は、Anjeroのほうがより強くアッ ピールするのでは?と思います。未見なので、あくまでも想像に過ぎませんが。
ちなみにWillのAnjeroにAdam・CooperのLucaなんてかなり観てみたいキャスティングですよね。Adamの出演はないんでしょうかね?

ScottのDinoも、もっと踊ってほしかったです。あ、彼はBARのシーンで、充分に楽 しませてくれましたね(笑)。

かなり否定的な感想になってしまいましたが、決して悪い作品ではありませんでし た。ただ、AMPとしてイロイロと新しい試みをしているために、今後への課題が見えたということだと思います。


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