・ Report By Ms.Secretary・

2005 Summer


オープニングから「この芝居を日本に持ってくるのは不可能だな」と痛感。

 主人公の姉弟の家=Banksさんの三階建ての家が丸々舞台に再現されている。 一階は居間を中心とした家族部屋、二階は夫婦の部屋、三階屋根裏はこども部屋。あとで登場する台所は多分半地下。
 子供部屋が中心の時は、一階二階部分は舞台後方にスライドして隠れ、三階が舞台中央にせり降りてくる(このような言い方があるのかわからないけど、せり上がるのちょうど反対)。この大がかりな舞台装置にまず圧倒される。これを日本に運んで、かつ劇場で使用するのは無理でしょう。

 映画で主演したジュリー・アンドリュースの印象が強いので、この芝居の主演女優ローラ・ミッシェル・ケリー(Laura Michelle Kelly)には不利だろうと予想していたら、初めて舞台に現れた時から圧倒される。歌はうまいし、ダンスも見事、何より美しい。ナニー(子供の養育係)にあるまじき美しさです。

 映画より展開早い。
♪'Jolly holiday'(「すてきな休日」とでも言うべき歌の場面)
メアリー・ポピンズが子供(ジェーンとマイケル)を連れて公園へ遊びに行くと、園内に飾られている彫像(中心となる彫像の名前が'Neleus'なのでギリシャ神話から題材を取っていると思われる)が、突然動き出して、彼らと踊り出す。この場面が圧巻。メアリー・ポピンズ、煙突掃除人のバート=ギャビン・リー(Gavin Lee)、と子供達以外の人間が通りかかると、お約束通り元の彫像の姿に戻る。彫像群舞が突然ぴたっと動きを止めるのは、踊り手達にも大変な苦行だと察するが、見事に止まる。今回ミュージカルは5本見たが、ダンサーの質はこの「メアリー・ポピンズ」が最上等。
 彫像の衣装の中に、マシューの「白鳥の湖」を思わせるフリンジ一杯ハーフパンツのみ半裸体あり。全身白塗りの所為もあって、まさしくスワンです。マシューからの観客サービスかな?

♪'Precision and order' この芝居のために新たに作られた曲。
バンクスさんがつとめる会社(多分銀行)の執務室の舞台装置が、リズ・ブラザーストンが美術指導したのかなと思ったほど彼の雰囲気。威嚇するような天井が、真上ではなくやや舞台後ろ側に傾いて観客を脅かす。リズの舞台の常のように、ゆがみ、斜行が生きている。

♪'Supercalifragilisticexpialidocious' おなじみの歌。
群舞も素晴らしかった。町の市場(?ちょっと自信ない)での、店主、客と主人公達。ダンサーの衣装が色とりどりで、それが一つにまとまって目も鮮やか。
多分ここで、煙突掃除人バートのタップダンスがあったと思う。 単なるタップダンスではない。歌の終わりあたりから、腰にワイヤーロープを巻きつけたので「宙乗りでもするんだろう」と待っていた。 すると彼は、舞台中央からステップし初めて、上手の舞台のぎりぎり端に(視覚的なものを言葉で表現するのは大変難しい)たどり着くと、やおら真横に舞台外枠を歩き始める。
 よく映画にあるでしょう?ジーン・ケリーだかが、床から壁にそのまま踊り続けるシーン。あれです、あれ。身体は手品の『空中に眠る美女』状態に真横になっているのに、タップダンス踊る。そのまま進んでついには舞台真上外枠を、コウモリみたいに逆さまになって、にこやかにタップを踏み続ける。
バート役は、映画のディック・バン・ダイクだと確信してましたが、いえいえ、ギャビン、あなたのものです。

♪'Temper Temper' 新しい曲
3階の子供部屋にあるドールハウス風のチェストから、人形の手が現れ、瞬くうちに等身大の人形となって踊り出す。ただし、元の可愛らしい人形ではなく、うち捨てられ、手足も壊れたままの人形達。ディズニー映画ユトイ・ストーリーユで、隣の家の乱暴少年が壊したおもちゃ達が、自分達で自身の部品を寄せ集めて修繕し、怪奇な姿で、ヒーローに迫ってくるシーンがありましたが、あんな感じです。 人形って洋の東西を問わず、どっか不気味。

♪'Chim Chim Cher-ee'
町の家々の屋根から、細長くたくさんの煙突がそびえ、そこで船遊びをするように、煙突掃除人が「チムチムリー、チムチムリー〜」と歌い踊る。メロディーと相まって、もの悲しい、そして美しい影絵のようなシーンでした。

大まかに印象に残ったところだけ書きました。

パンフレットに依れば
Producer and Co-Creator:Cameron Mackintosh
Director:Richard Eyre
Scenic and Costume:Bob Crowley
マシュー・ボーンはCo-Director and Choreographer
となってました。

 メアリー・ポピンズ、バート、バンクス夫婦、ジェーンとマイケルの子役、あと周囲の脇役も粒ぞろいで、見応えありました。さすがオリヴィエ賞を授賞するだけのことはある芝居でした。 もう一度、いやもっと見たかった。


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