愛と赦しと
よろこびの物語
昔から、子供というものは知りたがり屋で、「なぜ?どうして?」と質問しては大人たちを困らせる存在でした。ところがいまや、ブラックボックスのような機器が家庭にあふれ、映像の中では超リアルにメカが空を飛び、車も乗れないはずの子供のヒーローが操縦して敵を倒してしまいます。もはや誰も、「どうして空を飛べるの?」なんて質問しません。答えは、「だってアニメだもん」と決まっています。子供だけではなく大人までが、素晴らしい技量に支えられた日本のアニメが与えてくれる、めくるめきやこころよさに身をゆだね、心を奪われ、癒されています。「なぜそんなにうまくいくの?」などという質問は興ざめさせるだけです。
そういうとき、私は『キリクと魔女』に出会って衝撃を受けました。ここ数年来、これほど感心したアニメーション映画はありませんでした。大好きな『トイストーリー2』よりも、見事な『千と千尋の神隠し』よりも、ぼくは感動しました。
「どうして魔女カラバは意地悪なの?」-この問いかけからすべてがはじまります。「それは魔女だからさ」という答えに、この映画の主人公、キリクは決して納得しないのです。キリクは、生まれ方は神話的ですが、その実、真っ裸のただのちびの子供にすぎません。猛烈な速さで走れるだけで、体力もなければ魔力もない。キリクはひとりで闘うけれど、ひとりでは闘えません。人の協力が必要です。そのキリクが、なぜ村を支配する魔女に立ち向かえるのか。それは、キリクが連発する、まさに昔からの子どもの武器、「なぜ?どうして?」の質問によってなのです。また、キリクは次に何をするか、どうすれば成功するか、よく考えてから果敢に行動に移ります。これも日本のアニメにほとんど見られないものです。見すすむにつれて、だんだんと謎が解けてゆき、すべてがくっきりと明かになります。子どもたちや村人が折りにふれて歌う、ユッスー・ンドゥールの大地からわき上がるような歌がまた素晴らしい。喜びの太鼓と歌が爆発して大団円を迎えたとき、ぼくは心も頭もすっきりと解き放たれて、じつに爽快な気分になりました。
ミッシェル・オスロは、人類発祥の地アフリカの村を舞台に、女性たちを中心にすえて、まったく新しい、愛と赦しと人間解放の世界寓話を創作したのです。ぜひ御覧になってください。
音楽:ユッスー・ンドゥール
日本語吹替版:浅野温子 神木隆之介 日本語翻訳・演出:高畑勲
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