・〜・鑑賞レポート byなつむ・〜・


 「テルミンとはいかなる楽器なのか?!その実体は?一度この目で見てみたい!」
という誰もが抱くであろう欲望を一気に満たしてくれる「テルミンの演奏会付き試写会」に先日幸運にも呼んで頂き、この目でしっかりと見て参りました。

 ついこの間までその名前すら全く耳にした事もなかった楽器テルミンですが、資料を読むにつれ、その音は今まで何度となく聴いている事が判明。でもそれは映画音楽や効果音を作りだす一つの音源としてのテルミンで、これがその音だとはっきり認識している訳ではありません。
遂に今日テルミンの音がはっきり分かる!と期待のふくらむ中、テルミン奏者竹内正美氏が登場しました。

 プロのテルミン奏者とは一体どんな人なのかと注目の集まる中、現れた竹内氏は思ったよりも若く、そして一見サラリーマン風な好青年でした。
不思議な楽器テルミンとスーツ姿のさわやかな男性竹内氏のギャップに、ある種の意外性を感じる中、いよいよ演奏が始まります。

 人類が初めて作った電子楽器テルミンは、全く手を触れずに演奏をします。左手で音量を調節し、右手で音の高低を生みだします。体の動きに反応して音が出てくるので、楽器に対して真っすぐ立つ事が何よりも大切だそうです。その音は弦楽器のようでもあり、人の歌声のようでもある。それでいて、やはり電子楽器なのです。やっぱり不思議な楽器です。
「黒い瞳」を含む2曲の演奏が終わり、会場が沸く中いよいよドキュメンタリー映画「テルミン」の上映が始まりました。

 テルミン博士の発明した電子楽器テルミン。この映画は博士に関係のある人と、テルミンという楽器に魅せられた人、そしてテルミン博士本人の話しで綴られています。
特筆すべきは、何と言ってもテルミン博士の愛弟子で、天才テルミン奏者クララ・ロックモア。彼女の演奏は聴くものの体に深く染み入り、心をゆすぶってきます。普通電子楽器はアコースティックな楽器とは違い、誰が演奏しても同じ音が出てくると思うのですが、テルミンは実に不思議な電子楽器で演奏する人によって微妙に音が違う。そして、クララの音は他の誰のものとも明らかに違うのです。
その音は彼女の魂の歌。彼女の声。そして彼女の人生なのです。

 テルミンという楽器は、クララという演奏者がいなければ、恐らく今まで生き残れなかったでしょう。
彼女と出会う事によって、テルミンは楽器として認められ、芸術として人々に認識されたのです。

 そのテルミンの楽器としての魅力と平行して、この映画は旧ソ連の恐ろしさを同時に我々に訴えてきます。
これから映画を見る方の為に詳細は伏せておきますが、とにかく当時どれぐらいの天才が、ソ連という組織の中で抹殺されていったのか、実際に殺されないにしてもどれほどの人が社会的に抹殺されたのかと考えさせられ、背筋が寒くなってきます。

 時代に翻弄され、数奇な運命を生きたテルミン博士と天才奏者クララ。その不思議な楽器とその音に魅せられた人々。一つの楽器に、こんな話しが隠されていたのかと 見る人は誰もが驚く事でしょう。そして、映画は最後に誰もが避けて通る事の出来ない「老い」というものをまざまざと我々に見せてきます。

一つの楽器には沢山の物語がある。この映画を見た人は、その日から映画やCDでその音を耳にする度この物語を思いだし、まだその事実を知らない人に、その物語を熱く語るようになるでしょう。


HOMEに戻る

Movieに戻る