2002年11月21日、初めてロンドンで「Matthew Bourne's Nutcracke!」を観てから約1年と4か月後。まさか日本で、しかも大阪で「くるみ割り人形!」を観る事が出来るとは思ってもみなかった来日公演。
「The Car Man」に始まるマシュー作品の来日は毎年のものとなり、メディアの露出も増え、すっかり日本でもメジャーになってきました。
来日公演に先駆けてWOWOWでの放送も行われ、今まで絶対に知らなかったであろう人までもがマシューの名前を知っているという衝撃。そして、来日の少し前には友谷真実さんに続く日本人ダンサー、谷古宇千尋さんがデビューしたとのニュースも入り、ますます日本との繋がりを感じさせるマシューのカンパニー。
1997年にHPを開設した時からは想像も出来ない時代になったなぁ・・・と感慨深く、凄いなぁとしみじみ思いながら3月26日、27日両日のマチネを観に行きました。
さて、今回の見どころはサドラーズウェルズで観た作品がどう変わったのかという事。マシュー作品は生き物であると私は認識しています。キャストによって同じキャラクターでも印象が違ってくるというのは言う迄もありませんが、一つ一つの動作もより物語を明確化させるように手が加えられて行き、常に変化しています。
1シーズンの中でも初日と千秋楽では、詳細に観て行くとかなりの変更がされていると思われるマシュー作品。2シーズン目を迎えたくるみが変わっていない訳がありません。
また、今回はサドラーズで観た時と主要キャストがかなり変わっていました。
エタを除いて、スコット、エミリー、サラーン、アラン、アーサー、ユアンといったスターを欠く今回の公演。言う迄もなく、マシューのカンパニーの核となる人たちが入っていない舞台はどうなのか。これも見どころの一つです。
まず、3月27日マチネ。噂通りキャスト表の配布はなく、キャスティングボードでのキャスト掲示。東京でもキャスト表を配布して欲しいという要望を劇場に出された方が多かったと聞いていますが、公演直前までキャストが決まらないという事で、主催者側ではなく、今回カンパニーからの要望でこのような告知になったそうです。
本日のドロス夫妻はダレン・フォースロップとアナベル・ダリング。シュガーはミカ・スマイリー、フリッツはリー・スマイクルズ。クララはシェルビー・ウィリアムズ、くるみ割りはジェームズ・リースです。評判のフィリップ・ウィリンガムのフリッツを期待していたので、これはちょっと残念。そして、役人にはヴィッキーの名前が。どうせなら、リコリスで観たかった!役人の役だけなんて、もったいないです。
会場に入ると、ロンドンで観た時と同じ幕がかかっていました。氷で書かれた「Nutcracker!」の文字がなかなか懐かしい。今回はテープの為オケボックスは閉じられています。
さて、DVDでは残念ながらカットされている孤児達の登場シーン。クララがまず最初にチャイコフスキーの有名な「くるみ割り人形」の音楽に誘われるように舞台に登場しました。久々のシェルビーです。エタのクララより背が高く、しっかりしてそうな印象を受けます。そして続々と子供達が登場。
それぞれの人ととなりがこのシーンで私達に紹介されていきます。何故このシーンをDVDはカットしてしまったのでしょうか。残念でなりません。
さて、子供達が全員揃ったところで、それぞれが後ろを向き、幕に手をかけ思いっきりひっぱります。全てここまでは変更なし。バサッと幕が落ちた先には、恐いドロス夫人、マトロンが立っていました。
このマトロン。以前よりメーク方法がより分かりやすく変更されたのか、かなり厚化粧になっていました(笑)ダークな色を多様したメーク。アナベルは背が高い上にこの恐いメーク(デザイナー、トム・ウォードのデザイン画により近付いているとも言う)なので、一瞬男かと思うほどの迫力。よりキャラクターが分かりやすくなっています。
子供達は相変わらずのかわいさ。そして、マシューらしい演出の数々。シェルビーのクララは、ちょっと大人になりかけの元気のいい女の子という感じ。
枯れ木の植木鉢ツリーでは思ったほどの反応を観客は見せず、ちょっとロンドンとは違う静かな会場。ウェストエンドでは実に笑いがあちこちで起こっていたのですが。
さて、Drドロスの登場です。前回はスコット・アンブラーで観たので実年齢にもそこそこ合った(笑)キャスティングでしたが、今回のダレン・フォースロップは実年齢の方がかなり若い。どう演じるのかしら?と少々不安になりましたが、余計なお世話だったようで、メイクとヘアースタイルですっかり嫌なおやじに化けていました。
150%増でよりコミカルにというか、マンガっぽいドロスが誕生しています。アクションもオーバーに。そして全体にディズニーアニメに出て来てもおかしくないようなデフォルメがされていました。
私はスコットが演じればどんな役でも、いい所が自然発生的に見つかって好きになるという(笑)困った反応が常に脳内で行われているので断言は出来ませんが、ドロスは以前より嫌な人度が増しているように思えます。勧善懲悪がよりはっきりしていて、実に物語りがシンプルになっている感じです。
そして、ミカ・スマイリーのシュガーとリー・スマイクルのフリッツ。ミカはわがままな嫌な女の子、スマイクルはいたずらで饒舌な嫌なガキ。
サラーンのシュガーは院長の娘という優位に立ち、人を見下し命令に慣れた嫌な女の子という感じですが、ミカのシュガーは気に入らない事があると、ぷっとほっぺたを膨らまして怒るような、普通のわがままな女の子という印象です。
そして、ユアンのフリッツがおバカでいたずら、でもどこか憎めないガキならば、スマイクルのフリッツは饒舌で少々姑が入っている嫌なガキ(笑)そう。どうしても、姑が入っているとしか思えない!この言い付け体質、小言体質、そしておしゃべり体質!
と、ここではたと気が付きました。ドロス、マトロン、シュガーにフリッツ。この4人、とっても家族に見えるのです!これはスコット、エミリー、サラーン、ユアンの時には感じなかった感覚。
別に彼等がバラバラだった訳では決してないのですが、ダレン、アナベル、ミカ、リーは家族というまとまりというか、調和が出来ていました。なるほど。そう来たかという感じ。この夫婦ならこういう子供達が育つという説得力があるというか。
さて、クララがもらった人形の手が取れ、双子が治してくれるシーン。心臓マッサージで会場に笑いが起こりました。やっと出た反応に何だかほっとします(笑)
治す二人の横で心配そうにフィルバート(くるみ割り人形になる男の子)と見守るクララ。その二人の様子は、子供の容態に気をもむ若い夫婦に見えなくもない。
人形が治って喜ぶクララとその横で喜びを分かち合うフィルバート。この二人で人形を手に、彼の口を開けたり締めたりして、この人形はこう使うのよとクララが教えるシーン。
この口を開けさせて、閉めさせてという動作は、この男の子とくるみ割り人形は同一人物なのか、どうなのか?を考える上での大事な動作、モチーフだと思います。
さて、役人である女性の一人にちょっかいを出すドロスは唯の嫌らしいおやじとしか私の目には映らず(スコットがドロスの時は、相手もまんざらでもないのね〜ドロスは女好きなのね。としか思わず、嫌らしいおやじとは、かけらも思いませんでした。笑)ドロスの行動については、さくさくと訪問時間が終了。お見送りのシーンが少しチェンジされています。
そしておもちゃをクローゼットに無理矢理しまわされ、子供達は就寝へ。
くるみ割り人形を探しに登場したシュガーがクララのベッドに腰掛け、両足をばたばた動かすシーン。本当に子供が不満!!な気分で考え事をしているように見え、サラーンのような美しさ、華やかさはありませんが、ミカはなかなか役者だなぁと感心させられました。欲しいのよ、何処なのよ!!って体全体で言っています。わがままな子ね、甘やかされてるのね、と思わずつぶやいてしまいそうなほど、子供を体現していました。
そして人間大くるみ割り人形の登場。この時の逃げまどい、右端のベッドに子供達全員がのぼって怖がって固まるシーン。子供達は脅かされてる方なので立場は逆転していますが、一つベッドに大勢が乗るというこの場面は、Swan Lakeを少し思い出させます。
さて、今回は壊す前からちょと壁が裂けてガタガタしていましたが、漸くくるみ割りの登場で正式に破壊。正面も見事に割れて逃げ出す空間が出来ました。
ドロス一家の乱入にも、子供達はすっかり心強い見方が出来たせいか互角に、いえ、それを上回る勢いで応戦。ドロスの首を切り落とすシーンでは、切り落とせ、切り落とせと声援を送る子供たちの行動がより明確になっていて、会場からは笑いが。更に芸細な事に、首をすくめて一瞬ドロスの首が本当に無くなったかのように見せる演出も(笑)
最初のクリスマスのダンスで、シュガーとフリッツが子供達が作り出す波の上で踊るというシーンがありましたが、今度はベッドが船に見立てられ、ドロスはくるみ割り人形に攻撃されながら舞台から退散しました。
さて、子供達はくるみ割り人形が生み出した壁の裂け目から抜け出し、孤児院から立ち去ります。そして、残ったのはクララ。そこにくるみ割り人形が戻ってきました。彼がついにマスクを脱ぎ捨てます。いつ観ても、このマスクの下の汗は凄いんだろうなぁと思うシーンです(笑)
そして、くるみ割り人形は、上半身は裸で白いタイツに白いサスペンダーという姿に。そう。今は亡き英国のロックシンガー(誰だかはもう皆さん分かりますよね)を彷佛とさせる?スタイルです。
彼の登場に駆け寄るクララ。ここでまた、例の口を開けさせて、閉めさせてという、人形を真似る動作が入ります。今度は軽くクララの指を噛むという、茶目っ気と同時に、ちょっと顔を赤らめてしまうような甘い痛みまで彼はクララにプレゼント。そして、二人のデュエットが始まります。
改めて観ると、このシーン。実にリフトが多く難しいダンスシーンです。既に彼がこんな姿で出て来ているというのも象徴的ですが(笑)クララちゃんの性の目覚めとも言えるこのシーン。彼女の心の揺れ動く様が良く伝わって来ます。
そして、出ました。別名フレディー・マーキュリー軍団!(今度は実名入り。笑)どんどん左右に揺れながら増えて行く、この分身の術はいつ観ても笑いのツボ。クララちゃん、そんなにいっぱい出しちゃって!(これがクララの夢だとしたら、彼等は彼女が生み出したものですものね)というぐらい、タイツ軍団が増える増える。
そしてその行動たるや。もう、SPITFIREです。とってもマシューらしいこの展開。もっと笑いが起こってもいい所で、会場はかなり控えめ。イギリス人の大爆笑を思い出し、大阪人より英国人の方が笑い上戸なのか?それとも、笑いが違うのか?と少々頭を抱えつつ、一人クスクス笑っていました。
さて、舞台はフローズンレイクへ。暗いセットから一気に夢のようなきれいな空の青と、羽根と雲が美しい白の世界に。ここまで来ると、1幕目ももう終盤。何て早いの?!とどうしようもないのに、少々焦りつつ、雪遊びの国へ胸をトキメかせていました。
☆冒頭の写真は、Sadler's Wellsのポスターを撮影したものです(撮影・Natsumu)☆
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