ニューヨーク旅行記
〜メトロポリタン・ミュージアム編・1〜 



<11/3・午前>

 まず、素直に階段を上がった所にある「13〜18世紀ヨーロッパ絵画」の展示エリアに入ります。ガイドブックによると、私の見たい絵画はかなりここに集約されています。
ティツィアーノ、エル・グレコ、ヴェラスケス、ルーベンス、ヴァン・ダイク、レンブラント、そしてフェルメールなどなど、豪華なラインナップです。

 さて、扉を開けて右回りにスタートです。例によって広い美術館だけにどの部屋を見てどの部屋を見ていないのか分からなくなり、見落とす可能性が高いので、注意深く各部屋を記憶していきます。
 でも、元々が自慢になりませんが方向音痴の私の事。どんどん部屋がシャッフルされてきます。でも次々に現れる絵は実に素晴らしい。絵を見たかったらヨーロッパだと思っていた私の意識が徐々に変わってきます。
 絵を見たかったら、もしかするとアメリカなのかもしれない。次第にそう思うようになってきました。何せ世界に30点ぐらいしか存在しないと言われているフェルメールの絵が、メトロポリタンだけで3点も所蔵しているのですから。というところからも分かるように、アメリカに揃っている絵はオークション的だとも言えるのですが。

 ブリューゲルの「穀物の収穫」を見てウィーンの美術史美術館を思いだし、カナレットの「サン・マルコ広場」を見ては自分のイタリア旅行を思いだす。そして、エル・グレコの「枢機卿の肖像」を見てウィーン国立歌劇場で見たオペラ「ドン・カルロ」を連想し(実際この絵画の枢機卿があのオペラの衣装に反映されていました)レンブラントを見てロンドンのナショナルギャラリーを思いだす。と、何だか今までの旅行のおさらいをしつつ、各絵に感銘を受けているという感じです。

 それにしても、レンブラントの自画像はいつも見る人に何かを問いかけています。メトの自画像はかなり年をとった彼。黒い帽子に黒い目。全体のトーンは茶色で、じっとこちらを見つめています。今回もまた彼の人生を物語っている目だと感じ、色々な角度からこの絵を眺めます。その静かな目は、どこかに悲しみを含んでいるようです。
 肖像画と言えば、ヴェラスケスの「ファン・デ・パレーハ」も印象的。ムーア系画家の肖像画なのですが、絵の中からこちらを見つめる彼の目は、静かにこちらを見つめ返してきます。その目が何かをこちらに物語っている。肖像画でいつも気になるのはこちらを見つめ返している「目」です。

 さすがにいい絵が揃っていると感心しながら進んでいくと、遂にフェルメールに到着。「水差しをもつ若い女」「若い女の肖像」「信仰の寓意」の3点です。それが一部屋に集結さているのです。何と豪勢な。
 まず「若い女の肖像」黒い背景と一人の少女。おでこを出した卵型の顔と白い襟の大きなブラウス。こちらをじっと見ている二つの瞳。不思議なぐらいその少女は、光を帯びて画面から浮き出ています。浮き出ているのは「信仰の寓意」も同じ事。一人の女性が宗教画の前で、地球儀のような物に右足をのせ、上を仰ぎ見ています。その足元の大理石の床が、正に本物のようです。
 それに比べて案外押さえたトーンで地味な印象を受けるのが「水差しをもつ若い女」。白いずきんのような物を被った女性が中央に立っています。その布の質感がやはりさすがフェルメール。木綿の生地の手触りを思いださせます。フェルメールは実に不思議な画家だと再認識させられた3作品でした。

   それにしても、エル・グレコ。何でこの人の絵はこんなに不安になるのでしょうか。「トレド風景」は生理的に私には受けつけられない一枚です。
 一目見てすぐ彼の絵だと分かる独特のサテン地のような色使い。良くない事がこれから起こると言わんばかりの空の色。嵐の前のようです。
 いつ見ても、やっぱり私は苦手だなぁと思わされました。絶対部屋に飾りたいと思わない絵です。彼の絵を見ていると、こう、心の中の不安を感じる部分をちくちくと刺されているかのような感覚を覚えるのです。

 飾りたくないと言えば、イギリスの画家ターナーもそう。ここにもやっぱりありました。元から好きではなかったのですが、テートギャラリーのターナー攻め以来ますます苦手になったような・・・
こっちはエル・グレコの主張の激しさと違い、薄い色づかいでつかみ所がないところが嫌いなのです。何を見ても同じに見えてしまうという凄い特徴が耐えられません。しかも、彼はとっても多産!ルノアールといい勝負なのかもしれません。

 有名な絵は人の頭の間からしか見られない日本の美術館では考えられないほどゆったりとした空間で、ゆっくりと絵を見ながら、あれこれ頭の中で独り言を言いつつ、更に続く美術品の海を歩いて行きました。


・上の写真はメトロポリタン・ミュージアムの入口です。(著者撮影)


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