ニューヨーク旅行記
〜メトロポリタン・ミュージアム編・3〜 



<11/3・午前〜午後>

 見るからに現代アート、理解しにくいというより、土台理解されることを望んでないのかもしれないアートが始まります。 私は時々、現代アートを見ていると、この作品は見る者の心をざわざわとさせるのが最終目的であって、その作品を見た時の感想を言葉にする事に意味を見出していないのではないかと感じる時があります。

 上の階からおりていく形で現代アートの展示を見ていくと、少し階段を下りた所にテラスになっている部屋がありました。斜めに大きく取られた天井を兼ねた大きな窓。日の光が気持ち良く差し込み、アレクサンダー・カルダーノの赤いゴングというモビールの作品が、高い天井からぶら下がっていました。
何だかなごやかです。壁に展示された絵と、空間を利用した彫刻がゆったりと並んでいます。 その中で、一つ私の目をひく絵がありました。

「おっ!パンダだっ!」
全体的にはグレーの色調で、ボーダーの前にパンダが人に紛れて立っている。一見するとかわいいパンダなのですが、近寄ってみると・・・
人は銃殺されてるし、車は水の中に沈められ、スパイみたいなのは捕まってるという非常に物騒な絵。
「こ、怖い・・・パンダがかわいい顔して笑っているだけに、より不気味」
恐らく中国を批判した絵なのだろうと納得しつつも、その物騒なところにかわいいものを持ってきた時に生じる背中が寒くなる不気味さを感じ、悪趣味だなぁと足早にその場を立ち去ります。
が、そのインパクトは強烈で、しっかりその絵が頭の中に残ってしまいました。気になる。後で更に気になった時欲しくなるかも知れないので、仕方なく、戻って明るい室内故にフラッシュ無しの自然光で撮れるので、写真を一応撮っておきました。

 そうこうする内に、待ちあわせの時間が刻々と迫ってきました。
私の場合、普通の人より時間がかかると考えるべきなので、待ってもいいからとにかくカフェという事で、一階に下りていきます。一番下は絵画がずらっと並んだ展示室。ここにはピカソやルソー、マティスにカンディンスキーなど、馴染みのある画家の作品が並んでいました。 

 後で絶対に戻って来ようと、まずは展示室の出口を探し、地図を再び取りだしてカフェ方面に向かいます。
こういう大きい建物で怖いのは、地図では行けるはずなのに、時々建物が繋がっておらず、入口が見つからないというパターンです。しかし、ここはそこに見えてる部屋の入口が見つからず、途方に暮れるロンドンのA&Vミュージアムとは( ジュエリーの部屋をさしている)違いました。非常に分かりやすい。ほっと胸をなで下ろし、カフェの入口で友達を待ちます。 ほどなくして友達が到着。早速カフェの中に入って行きました。

 カフェの内部は2つに分かれています。広い広間の中央にテーブルサービスのあるレストランがあり、その周囲にセルフサービスのカフェのテーブルが設置されています。
 高い天井からぶら下がった照明は、何と泡立て器型!大きな白い泡立て器が天井から豪快にあちこちぶら下がっているのです。面白い。カフェもしっかりアートしてるのねと、その遊び心を感じさせる泡立て器の下を通って、一番奥にあるビュッフェに向かいました。

 全員が、学食のようにトレーを持って列に並んでいます。前の方にある料理をのぞき込みながら、何にしようかと考えているうちに、料理に手が届く所まで進んできました。
 何にしよう・・・とちょっともたついていると、後ろのおじさんが苛々と抜かしていきました。そんな、ベルトコンベアーのように立ち止まること無く選べないわよ、と心の中でつぶやきながら、レンズ豆のスープとターキーサンド、そしてソーダを買ってレジに向かいます。

 席数は多いのですが、利用者も多いカフェだけに、空いている席を探すのに少し時間がかかります。結局テーブルサービスのあるエリアを見下ろす所に位置するテーブルに着席。
 本当は余り好きでないのだけれど、それしかなかったので選んだレンズ豆のスープに口を付けます。
「あ、おいしい」
また当たり。ミネストローネ風なスープはなかなかの味です。NYは本当においしい!そして、ターキーサンドもそこそこの味で、すっかり幸せモードに入ります。 食事をしながら、お互い午前中見てきたものを報告しあいます。

 アンティークに造詣の深い友達は、既にティファニーのコーナーに行ってきたとの事。そうか。ティファニーの展示があるのねと、今ごろ情報を入手。 エジプトには行かなきゃとか、フェルメールを見たか、20世紀美術は見たかなど報告しあいつつ、結構なボリュームのお昼をたいらげていきます。
腹ごしらえが出来た時点で、再び解散。今度はミュージアムショップに4時集合と約束をします。

友達と別れ、私はエジプトとティファニーは必見と思いながら再び20世紀美術の展示室に戻りました。

 さあ、ここからは美術の教科書で馴染みのある画家たちの、ものによっては作品自体も教科書で馴染みのある展示の始まりです。まず私の目をひいたのは、マティスの「ダンス1」人がはだかで手をつないで円になって踊っているシリーズの一つです。
言ったら怒られるに決まってるのにあえていいますが、「下手うま」風(笑)人間が、非常に印象的。いや、べつにそういう風に描いている、一つの表現方法だというのはわかってるのですが、下手うまにみえちゃうんだよなぁ・・・何だか。

 さて、お次は一目で誰の作品かがわかるアンリ・ルソーの絵。いつものように、ジャングルのような緑が広がっています。ルソーの絵はその緑とオレンジ色のコントラストが印象的でエキゾチック、空想の世界のような印象があり、洒落た絵本の一枚のようにも見えるので油断しがちですが、気をつけなければならないのです。
何をかというと、その凶暴性に。ほら、ここにある絵も「ライオンの食事」と銘打って、ライオンが豹を頭から食べています。豹の頭はライオンの口の中。ほら、血がしたたっている。怖い怖い。

 そして、ありました。ピカソの絵。キュビズムの頃のものではなく、人は人の形をし、かなり暗い雰囲気で、特に「髪を結う」などはピカソの作品と教えられなければ分からないほど、我々の持っているイメージとは違う絵です。そして、厳しい表情の固い感じの女性の肖像画。名前を見ると、「ガートルード・スタインの肖像」・・・

 ガートルード・スタイン。ガートルード・・・えっ?ガートルード・スタイン!これがあのスタイン?!髪をひっつめ、茶色の地味な洋服を纏い、一点を見つめている女性。これがあのスタイン?
作家でレズビアンとしても有名で、ロスト・ジェネレイションという言葉を作りヘミングウェイに影響を与えたと言われる作家、ガードルート・スタイン。と言っても、私は彼女の名前を知っているだけで作品は未読なですが、漠然と思っていたのと違い、非常に地味な女性で、しかもピカソの絵のモデル。
うーん。二人にはどういう繋がりが?絵ではなくモデルにびっくりしてしまいました。 (後で知ったのですが、彼女は近代美術の収集家で、ピカソ、マチスの友達だったそうです。納得しました)

 再び歩き始め、カンディンスキーのシャガール風(勝手に決定)「愛の園」を鑑賞。この赤とか、筆のタッチがシャガール風。カンディンスキーの音楽を奏でる絵と私がいつも感じる彼の絵とは全く違う手法です。
さてピエール・ボナールの「ヴェルノンのテラス」。この筆遣い、スーラかと思っちゃったわ、という訳で、私はこの人の静物画が好きなの〜と心でつぶやき通過。
 ジョージア・オキーフの左右に赤、その内側に青、そして中央に私がバッファローだと勝手に思っている(非常に細長い顔なので、馬の方が近いぐらいかもしれません)白骨の草食動物の頭蓋骨が浮かんでいるという「赤、白、青」。これは教科書で見たことのある絵です。非常に印象的な一枚です。

 一方同じような「青、緑、赤」という題名で、本当に上から緑、青、緑、赤が平面的に塗られているエルズワース・ケリーの作品。
こういうのを見ると、いつも私なんぞは「だから、それで?」と言いたくなっちゃうんだなぁ。不快感を与える事はなく、心に訴えかけてくるパッションもなく、美しく塗られる色たち。色見本かというほどきれいに塗られていて何を言いたいのかが伝わって来ない。でも、案外展示作品にこのタイプのものって多いのです。分かる人には分かるのかしら。きっとそうでしょうね。何をもってして、分かったというのかも疑問ですが。

 一方ざわざわっと伝わってきて、もやもやっとくるのがスーザン・ローテンベルクの「ガリステオ・クリーク」。これはオレンジ色の上に非常に抽象的な白を基調とした物体が描かれています。絶対好きではないけれど、気になるタイプの絵です。うわ、見ちゃったみたいな感じと申しましょうか。

   いつものように、ああだこうだ思いながら展示室を歩き回っているうちに、一応一周。すると、またまた方向音痴な足が上の階へ移動を開始。だから、今度は一階にあるエジプトに行くんだってばと訴えるものの、頭に反して足は階段を登っていくのでした。


・上の写真はメトロポリタン・ミュージアムの「パンダの絵」(題名、作者不明)です。(著者撮影)


HOMEに戻る
ニューヨーク旅行記インデックスに戻る