ニューヨーク旅行記
〜ミュージカル「シカゴ」編〜 



<11/1・午後>

 NYの街は見事に区画整理がされていて、角々に55St.、54St.と順番に看板が 立てられています。

56stからはじめて、劇場のある44Stまで、我々は駆け抜けるように歩いてい たのですが、看板を見る度にまだ、まだだっ、というのが分かり、それと同時に確実に近づいているという確信が持てるので、安心しながら焦っているという複雑な状態でとにかく突き進みました。
「今、52」
「あ、51」
角ごとに現れる看板を声に出して思わず読み上げます。
「まだこれで49」
「後いくつ?結構遠いっ!!」
看板を追っているうちに、カウントダウンしているような気分になってきます。

 そして、タイムズスクエアーにたどり着き、遂に目的の44St.に着きました!角を 曲がった所にシューバート劇場はあるはずです。
タイムズスクエアー周辺は、まさしく劇場街で、42ndSt.では「ライオン・キング 」、シューバートのお隣ミンスコフ劇場は「紅はこべ」と、トニー賞にノミネートされた作品の看板が輝いていました。

 どれも心ひかれる舞台で、じっくり眺めたいところですが、今はそれどころではありません。
どうにかこうにか間に合ったという時間です。開演まで後10分をきりました。

急いでチケットを見せ、2階席に駆け上がります。でもまだ着席していない人が 結構多いような・・・
そこで時間が無いとわかりつつも、まだ大勢がうろうろしているから大丈夫だろうと 、念のためトイレに寄り、開演ぎりぎりに着席しました。

 座った席は2階最前列中央。やっぱりうれしくなってしまいます。
座席には、あらかじめブロードウェイの劇場では必ずもらえるPlay Billという、その劇場でやっている舞台のキャストなどを紹介したページと、他の舞台の宣伝とお店の広告が入った小冊子が置いてあります。
開いてみると、ありました。SWAN LAKEの紹介が!それだけでまたわくわく してしまいます。と同時に、本当にNYブロードウェイでやっているのねと感慨もひとしお。そして舞台が始まりました。

劇場に入ったときから、オープンになっている舞台。 そこには昔のジャズバンドが出てきそうなセットが置かれています。
そして、コンサートが行われそうな舞台に、ミュージシャン達が登場しました。 あえてこの言葉を使うなら、「ラッパ」らしいラッパの音で音楽が始まります。 その瞬間、ガツーンっとまたカルチャーショックというか、カウンターパンチをもら ったような衝撃が走りました。
違う!もう、根本から違う!音もリズムも、とにかく違う! ここはアメリカだーっ!!と今までで一番大きな衝撃を受けてしまいました。
どこで「アメリカ」を感じるか、それは人それぞれですが、私はとにかく、ブロード ウェイのミュージカルで、一番をそれを感じました。

 ひとしきり演奏が終わった後、黒ずくめのダンサー達が登場。 ショーガールたちの話しですから、とにかく露出度が非常に高いセクシーな姿。
その脚の長さ、そして細いのに敏捷で力強い動きに、この人達の体はどうなっている んだと、体のつくりが根本から違うとまたまた衝撃を受けます。
そしてベルマ(主役の一人)が奈落からせり上がって、登場しました。 ロンドン、ウェストエンド公演のオリジナルキャストのベルマ、ウテ・レンパーです 。

 ウテ・レンパー。日本にもコンサートだけで来日するほど有名なミュージカル女優。 ソロでCDも出しているほど、歌唱力には定評がある人です。
その堂々たる歌いっぷり。オーラが漂っています。そして、もう一人の主役ロキシー が登場。あっという間に男を一人撃ち殺し、いよいよ物語りがスタートしました。

 話しは非常に大雑把に言うと、ロキシーがボーイフレンドを殺し、裁判になりますが、弁護士の手練手管で無罪に持ちこむというもの。そこにショーガール達の話しがからんでるのですが、とにかく結構物騒な話しで、ブラックな笑いもたっぷりなのです。
ショーガール達がそれぞれに自分の話しを語っていくところで、観客はどっと笑いが あがっていましたが、残念ながらネイティブでない私達には、ほとんどが分からない 台詞。かなり英語が出来る友人ですら辛いという話しなので、これを理解するのは日本人には結構大変なのでしょう。後日、アメリカで大学を出てNYにも住んでいた友人と話しても完璧には分からないと言っていました。

 でも、言葉はそんなにわからなくても、それなりに十分楽しめるのが、ミュージカルの凄いところ。
途中、弁護士がロキシーを自分のひざにのせ、ロキシーには腹話術の人形のふりをさ せて裁判の受け答えを一人でやってしまうというシーンがあるのですが、これがまた 素晴らしい!本当に上手いのです。ロキシーも弁護士も。
正当防衛に持ちこもうとする弁護士は、ロキシーの声になりすまし、
「彼はトラみたいに怖かった。私も彼も銃に手が届く距離だった」
と正当防衛を主張しながら調子よく答えて行きます。その間ロキシーはずっと人形振り。でも
「反省してますか?」
の問いに、思わず彼女は
「冗談でしょ?!」
と元気良く悪態をつき、あっという間に会場は笑いの渦に。この間がまたいい!

 見ているうちにどんどんロキシーのファンになってしまう私。事件が華々しく新聞に 取り上げられるとまるでスター気取りのロキシー。そんな彼女が面白くないベルマ。
でも、また別の殺人事件が起こると、あっという間にマスコミは次の事件に群がって いってしまい、次の手を考えて
「赤ちゃんができたの!」
宣言でまた注目を取り戻そうとするロキシー。
犯罪者がスター気取りでマスコミに登場、自分から話題を提供しまでするというのは どこの国でも見られる光景なんだなぁと思わされる筋立てです。

 それにしても、歌といい、踊りといい、本当に高い水準です。また、フォッシーの振り付けがさすがいかしていて、すっかり彼のファンにもなってしまいました。
あっという間の2時間弱。圧倒される事の連続でした。

 ベルマとロキシーの二人が最後の締めに歌って踊り、二人が去った後もバンドはしばらく演奏を続けています。すると、ぞろぞろと会場を出て行くお客さんの波が・・・
そうか。NYではカーテンコールはないのね。噂には聞いていたけど、終わるととても 淡白なのねと驚かされます。バンドの皆もこれが当たり前という感じで、機嫌よく、バイバイという感じで退場行進曲を演奏。そして、数人の残っていた観客のぱらぱらの拍手を受けて、退場しました。

 うーん。祭りの後はあっけないと、しばし呆然と舞台を見ていた私達は次に、またてきぱきと紙吹雪を片付けに来たバキューム隊に遭遇しました。うーん、とってもスピーディー。

 ああ、終わっちゃったと話しながら我々も漸く階段を降り、シューバート劇場で記録的なロングランを続けた「コーラスライン」の、壁に掲げられた記念レリーフを見てから劇場を後にしました。


・上の写真は、シューバート劇場です。(著者撮影)


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