・ Spitfire ・

By 弥生さん

-At Sadler's Wells In LONDON 2003,September 28 -


 9月28日(日)、サドラーズウェルズ劇場で、25周年を迎えたDanceUmbrella(コンテンポラリーダンスの祭典)のオープニングガラを見てきました。もちろん、目的はSpitfireを見るため。(心配される(?)方がいるかもしれないので念の為お断りいたしますが、この11分足らずの作品を見るためだけに渡英したのではありません、他に目的があったのです。(私が愛するサウサンプトンFCの試合2試合の応援))

 Spitfireは、もちろん今まで見たことはなく、サウスバンクショーのビデオで、88年初演当時の映像を数秒見ただけ。ほとんど無名だったAMPを、ユーモラスなダンスグループとしてちょとだけ有名にした作品。ドン・キホーテ3幕のグラン・パ・ドゥ・ドゥの優雅な音楽に乗せて白い下着を着た4人の男性ダンサー(一人はスコット!)がユーモラスに踊るその映像は非常に強烈な印象を残し、いつか是非見たいものだと思っていた。数分足らずのこの作品は、セットもいらず、男性ダンサーが数名(+下着)さえあればいつでもできるので、その後も度々、ガラ公演などで演じられてきたので(亡きマーガレット王女の前でも踊りました。ニ?ル・ペンリントンとベン・ハートリーが、公演後下着姿のまま王女と謁見している写真を見て、恐るべしさすが英国!と思ったものです。)、いつかチャンスが訪れるかも、と思ってきましたが、とうとうその機会を持つことができました。

 私はダンス界に詳しくないので初めて知ったのですが、DanceUmbrellaは、UKのみならず世界の様々なコンテンポラリーダンス作品を1〜2ヶ月の間公演する祭典なのですね。今年も、このオープニングガラの直後から11月初旬までの間、毎日様々な作品が公演されるようです。

 さて、今回New Adventures作品としてガラ公演に出るSpitfire。実は、15年前のDanceUmbrella10周年記念ガラ(88年)で公演しており、今回はリバイバル版での再演となりました。マシューがアダム・クーパーに出演依頼した、という情報は得ていましたが、チケットを購入した時(1ヶ月前くらい)に劇場の方へ伺った時点でダンサーはまだ未定でしたし、劇場のサイトでもダンサーは紹介しておらず、全く未知のままこの日を迎えました。

 やはり、アダムが下着姿で踊るのを見たい!そして私が個人的に一番見たい!と熱望していたダンサーは、ユアン・ワードロップ。

 カーマンを見ていた頃は特別な感情をもっていなかったのが、PWWで、1回の公演の中で4つの側面(上流の青年アンソニー、危険な男スペイト、お馬鹿なダンサー、なよなよした可笑しなゲイカップル)を見せた彼の魅力にすっかりやられてしまったのです。そしてその中でも特に、お馬鹿なダンサー役の時の彼の顔が忘れられません。(この紫の衣装のダンスの彼がいかにノリノリだったかは、私のレポートよりも、ローブリッターさんのレポートVol.2を読めばよくわかります。私のみならず、ローブリッターさんをも釘付けにした左から3番目の「彼」です。)そしてさらに、くるみ割での、アホで間抜けな馬鹿息子(笑)フリッツを演じる彼の演技に更に腰抜かし、「もしかしてユアンって、本当はこういう三枚目な人なのかも、影のある美青年、という今までの印象は虚像???」という結論に達し、今や私の中でナンバー1ダンサーの座なのである。

 さて、迎えた当日、劇場でプログラムを買って早速Spitfireのダンサーをチェック!なんと・・・

Dancers
Adam Cooper, Lames Leece, Neil Penlington, Arthur Pita, Ewan Wardrop, Richard Winsor

 アダム!!ユアン!!そしてリチャードまで!私にとってはこれ以上望めない豪華過ぎるキャスティング。くらくらです。こんな、美しいダンサーたちばかり集めちゃっていいのかしら。それに何と言っても、「ありがたい」と思ってしまうのはアダム。元英国ロイヤルバレエのプリンシパルが、下着姿のこんな(失礼)作品に出ちゃっていいのかしら。でも、現に出ちゃうアダム・クーパーというダンサーって最高(実は彼はこういうのがお好き?と思われる節も・・・)。また、ジェイムス・リースは、ビデオ版カーマンにダーク役で出演してますが、来日はしてません。私にとって、生で彼のダンスを見るのは2000年のCARMANロンドン公演以来です。

 もう一つうれしかったことは、Spitfireが、12作品の中で「とり」を努めるのです。最後を飾るのです。ガラ公演のポスターも、サイトの記事も、かつてのSpitfireの写真(スコットとマシューの)を使用していたので、このガラ公演の目玉作品なのでしょう。

 さて、公演の方ですが、元ロイヤルのプリンシパル、デボラ・ブルが、作品毎に、幕前左端へ登場して、次の作品紹介をします。作品は全体的に、”いわゆる”コンテンポラリーダンス(変わった現代音楽に載せて、男女ともに中性的なルックスと衣装のダンサーが踊る)というものが多く、「男性は男性らしく、女性は女性らしく、音楽は美しいメロディライン」という作品(マシュー作品の特徴ですね。)が好きな私は、あまり楽しめませんでした。その中で私がよかったと思ったのは、イングリッシュナショナルバレエの”2 HUMAN”。鍛えぬかれた若々しいクラシックダンサー男女2人が、不良少年と不良少女、的なヤンキーっぽい(でもとってもスタイリッシュ)な衣装とメイクに身を包んで、さすが!というダンスを見せてくれました。イングリッシュ・ナショナルバレエらしい現代性と洗練を感じました。また、この祭典の常連マーク・モリスは、彼自身がソロを踊りました。

 まあ、他の作品はこの辺にして、本題へ…

 最後の最後、とうとうNew AdventuresのSpitfireです。あの、ドン・キホーテ3幕、キトリとバジルが華々しく登場する音楽(4?4小節)とともに幕があがり、舞台には、ポーズを決めた6人のダンサーたちがそこにノその瞬間から会場は拍手と爆笑の渦。
グランパドゥドゥの優雅なワルツのメロディが始まり、6人のダンサーが踊り始めます。ワルツの優雅な音楽と、彼らのユーモラスな動き&表情とのコントラストが最高に可笑しい!私も声を出して大爆笑。

 衣装ですが、皆真っ白の下着ですが、形はそれぞれ微妙に違って…
アダム…ちょうど肩辺りで袖を切ったような形の、袖無しシャツにパンツ
ユアン…短い半そでピタT(カーマンでルカが着ているような…)にパンツ
ニール…長袖シャツに、長ズボン(ズボン下みたいなの)
他3名は、ランニングにパンツです。

さらに、6人のダンサーは、一人一人、ちゃんとキャラを持っているのがわかります。

アダム…”ナルシス”アダム。表情がマジ。にこりともしません。「俺のこの美しいボディーを見てくれ!」といわんばかりの、ストリップダンサーばりの、陶酔しきった表情。参りました・・・

ユアン…私がハマった三枚目ユアンそのもの。困ったような含み笑いの表情も体の動きも、コミカルで可笑しい。

ニール…小柄で華奢な体に上下とも長い下着に身を包むその姿は、か弱い少年。弱々しく可愛らしい。

ジェイムス・リース…痩せて青白い顔に神経質そうな表情。繊細で病気がちなゲイ青年。

リチャード…肌の若さと美しさに弾けて輝かんばかり。ちょっぴりエロティック。

アーサー…ビデオで見た初演当時の4人のイメージに近い、ちょっと怪しげで大人な雰囲気。

 私が一番笑ってしまった動きがあるのですが、それは、クラシックの振りのグラン・パ・ドゥ・ドゥのクライマックスで、男性が女性を頭上にリフティングして、そのまま女性の体をスルッと下ろして、腰の脇に挟んで抱えて、女性は頭が下になって、2人でポーズを決めるところがありますよね。その動きのパロディ(?)をしてたんです!その女性役の方を、ユアンが可笑しそうな表情でやっていたので、なおさら見ていて可笑しくて、爆笑。舞台後方の目立たないところで行われていて、そのユアンがあまりにも印象的だったせいで、男性役が誰だったか覚えておらずノ(苦)。アダムだったような・・・

 グラン・パ・ドゥ・ドゥの音楽もフィナーレ。ああ、終わってしまうノとうとう音楽も終わり、6人は観客の大声援と拍手にお辞儀して応えます。あーあ、終わっちゃったノノ短すぎる・・・と嘆いていたらなんと!!バジル(男性)のソロの音楽が!そしてダンサーたちがまた踊りはじめます。これって、アンコール?って感じの、うれしすぎる大サービス!しかもこの曲では、アダムのソロ&5人の群舞、という形で、アダムの魅力全開。気持ちよさそうに踊ってる彼の表情が忘れられません。

 この音楽も終わり、あーあ、終わっちゃった、と思っていら、また音楽が!この3曲目の音楽、ドンキの音楽ではなく、私の知らない音楽だったのですが、プログラムの作曲者の欄に、Minkus and Glazunovとあったので、グラズノフの曲の何かだと思われます。また6人で踊り始めます。もう、ああ終わってしまう、と思わせておいてサービスするところがまた、憎いわノと思いながら、彼らの動きに爆笑の連続。

 結局4曲も踊ってくれました。4曲目は、ドンキの、コーダ(女性の32回転がある曲です)。最後の盛り上りでした。

 4曲が終わって、大歓声と拍手に包まれて幕が降り、公演は終わりました。

 この日のガラ公演は、時々少しユーモラスな作品もあって、お客さんは時に笑ったりしましたが、このSpitfireでは比べ物にならない爆笑の連続で、それまでとはまったく違った盛り上がり方をしてました。会場の雰囲気が最高潮になったところで公演が終わり、大満足で会場を後にしました。終わってみて、この作品が「とり」だった訳がよくわかります。

 マシューってやっぱりすごい!と改めて実感しました。

 やっぱり彼の振り付けがいいんです!下着を着てクラシックの優雅なメロディに合わせてユーモラスに踊る、と聞くと、そのシチュエーションだけで笑いを誘えるような気がしてしまう方も多いかと思います。でも、それで、もし振付けがつまらないものだと、見るに耐えられない退屈な作品で終わってしまうでしょう。今日この作品を見ていて思ったことは、振付けがいいから、笑えるし、かっこいいし、素敵なんだ、ということです。他の作品と一線を画してました。笑いを取る、ということを抜きにしても。振付けのオリジナリティ、そして、ただ純粋に、見ていて気持ちいい、素敵!と思わせる、人々の心を魅了する振付。さすがマシュー、と絶賛するばかりです。天才です。

 家に帰ってから、改めて88年当時の映像を見てみて感じたことは、当時の方は、スコットをはじめとする大人でちょっと妖しい(?)魅力の、髪もオールバックにした男性ダンサー達が踊っていたので、ちょっと大人な艶かしいゲイの世界、という印象に思えます。

 一方、今回私が見たのは、若々しいダンサーが多かったこともあり、もっとさわやかな印象でした。
 さらに、美青年が6人勢揃いでしたので、踊らなくとも、彼らがただそこにいるだけで絵になっていました。

 さて、この公演を見たせいで、困っていることがあります。

 ・・・私、ドン・キホーテのグラン・パ・ドゥ・ドゥの音楽をもう二度と真顔で聴けない体になってしまいました!・・・メロディを聴くたびに、思い出すたびに、ニヤけてしまいます。

こうして、聴くだけでニヤけてしまうクラシックの名曲がどんどん増えていく一方なので大変困ってます。

 それにしても、念願のユアン、そして夢のようなアダムまで総出演の豪華キャストのSpitfireを見られて、大満足でした。



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