AMP " SWAN LAKE " in Broadway report On 3rd November 1998 〜Vol.1〜


1997年のビデオリリース以来、何度繰り返し見たのか今や全く分からない、AMP「SWAN LAKE」。
この舞台が観たい!絶対にオリジナルキャストで観たい!その思いが私の背中を押し、とうとうここNYまで来てしまったと考えながら、11月3日の夜、私はニールサイモン劇場の座席に座っていました。
NYに着いて既に4日目。不幸にもNYに着いた翌日の11月1日からAMPは2日間のお休みをとっていたのです。

初めてアメリカの大地を踏み締めた10月31日。
到着するなり予約のチケットを取りにこの劇場まで足を運んだ時にはマチネの真っ最中で、チケットブースの横の閉じられたドアの向こうからは丁度「4羽の白鳥」の曲が流れていました。

キャスティングボードは「アダム・クーパー」と「スコット・アンブラー」。観たい!今すぐ観たい!ともがいていると、曲は二人のデュエットに。今このドアの向こうでアダムが踊っているのに観られないと思うと悲しくて、悲しくて、蛇の生殺し状態だと一緒に来た智子さんと涙を飲んだハローウィンの日。
その悔しかった日から3日後。漸く今日この目で、しかも前から8列目で観られるこの幸せ!と二人胸をときめかせながら開演を待ちます。

会場は既に満員で、ボックス席まで埋まっています。この調子なら大成功だと安堵し、次に観客をチェックします。相変わらずAMPの会場には結構年配の方が多く、御夫婦が多いようで、ロンドンよりも日本人は少なめです。
平日なので仕事帰りの人も多く、ところどころにおしゃれをした人もいるという感じ。でも中にはアメリカ人らしくジーンズとスニーカーという人も少数ですが居ました。

オーケストラのチューニングが終わり、指揮者が登場して劇場が暗くなります。舞台の幕は白地に、グレーで描かれた羽ばたいた白鳥(ちょっと太めなのでアヒルっぽくもみえる)音楽が始った途端その幕に光が当たり、舞台がその奥に浮き上がってきました。おなじみの幼年の王子がベッドで悪夢にうなされています。
 うーむ・・・スチュエーションは同じですが、アンドリューウォーキンショーももう18歳。少し大きめな「幼年」だなぁなどと、突っ込みを入れてしまいます。うなされている王子を尻目に私の目はベッドの上の窓の方へ。もうすぐ白鳥の登場です。

劇的な音と共にアダムが現れました。羽を広げた白鳥は、ビデオよりも大きく観えます。あっという間にアダムは消え去り、悪夢に目を覚ました王子がベッドに起き上がり、王妃が登場。ポーターの王妃もチャドウィックとほとんど変わらず、手足が長くなった王子以外は全てビデオ通りだと次の展開を見守ります。

さて、朝になり例の人間の階段を下りるシーン。ここで会場がどっと沸きました。更に、コーギー犬の登場でも笑いが。この犬がビデオとは違い、もっとリアルに出来ており、手足の動きが激しくなっていました。喜ぶ会場の笑の渦の中、これはかなりアメリカ用にコミカルさを増している?と感じ始めます。
そこに元英国ロイヤルバレエ団のポーター扮する王妃が登場。以前よりも派手な藤色のドレスで、髪は花で飾られています。かなりビデオより華やかな感じ。王子は以前と同じ衣装で母親の手を取り、二人揃ってベッドの上へ。ベッドの縁をつかんだままぐるりと回され、民衆に手を振るシーンに舞台はあっという間に変わります。

にこやかに手を振る王妃と嫌々手を振る王子。ここでもまた笑いが。そこにロイヤルファミリーに手を振る人達が登場。女性は皆眼鏡をかけて、ビデオではなかった黒い帽子を被っています。
王妃の肖像画はアンディー・ウォーホール風になっており、ここでも会場は爆笑の渦に。パパラッチたちのフラッシュによろよろとよろける王子が舞台の左そでに消えると、今度はスコット・アンブラー扮する王子が王妃、報道官と並んで手を振る台の上に登場。やっとスコットの王子が観られた!と喜び目はくぎ付けに。相変わらずスレンダーで、立ち居振る舞いから見る側に英国の皇太子を彷彿とさせます。

王子は男性の裸の像に以前より興味を示すように振り返り、会場はまた笑いの渦に。 セーラ妃を思い起こさせる王子のガールフレンドの登場でもまた笑いが起こります。
ガールフレンドはエミリー・ピアシーで、以前と同じショッキングピンクのドレスですが、髪のウェーブは以前よりきつく、全体に少し短めになっています。
実際に見るとこんなに細い人だったの?と驚くばかりのスタイルの良さ。
積極的に王子に迫り、王妃の反感を買いながらも劇場へ。あっという間に劇中劇の始りです。

「蛾の少女」は以前と違い、もっと「蛾」である事が分かるように、大きな「白い蛾」の髪飾りを前髪につけています。出てきた途端笑いが起こり、そのコミカルな踊りにますます笑いが起こります。
基本的には全くビデオと変わらないのですが、カメラで撮ったものとは違い、今は自分の目で好きな所が見られるので、私の目は先ほどから舞台上のロイヤルボックスと劇中劇を行ったり来たり。

あの白タイツにショートパンツ、斧を持ったノーブルマン(貴族)の登場では、けたたましい女性の笑い声が上がりました。そんなにおかしいかな?と疑問を感じてしまいます。
ビデオではフィル・ヒルが演じているので背が低くポっちゃりしていてかわいらしい感じですが、今回はワードロップなので背が高く、何だか異様。これはこれなりにおかしいなぁと感じました。

最後にはお決まりの、網で蛾の少女を捕まえようとするシーンが繰り広げられるのですが、今回はノーブルマンの背が高いので、網をもぎ取るだけで、女性よりも背が低いからノーブルマンの手が届かないというビデオ版のおかしさはなくなっていました。

その後、悪役の木の精が登場。お尻のあたりがこけっぽく、何だか気持ち悪さが増しています。それに全体的に以前より下品な感じ。アメリカ人はゲラゲラ笑っていますが、私から見るとちょっとやり過ぎの感があります。
まあ、仕方がないんだろうと少々戸惑いながら次の展開を見守ります。
皆が舞台に気をとられている内に、舞台右のロイヤル・ボックスでは王妃と王子のガールフレンドの間柄がますます険悪になっていました。

会場からは常に笑い声があがっているのですが、劇中劇もロイヤルボックスもどちらもおかしいので、時々どっちを笑っているのか分からなくなり、私たちの視線は舞台の上を行った来たり。とにかく見ている方は忙しいのです。
どっちを見ればいいのっっ!全部見たい!とにかく見たい!一つもらさず見たい!!!!
でも、それは無理なのです。舞台は流れるように進んでいきます。

ピアシー扮するガールフレンドは、登場してからずっとパンフレットを広げて写真を指さし、ダンサーを指さして「あの人はこれね!」と王子に話しかけたり、お菓子を食べたりとにかく映画館に来ているかのような騒々しさ。
その横で王妃の怒りが限界に達し、遂に手すりからバッグを落とすに至って爆発。
ここは全くビデオと同じです。
ガールフレンドは落としたバッグを慌てて拾い、そのまま舞台を横切って退場。王妃は怒って退場し、その後を王子が追いかけます。
劇中劇のダンサーはロイヤルボックスにお辞儀しようとしたその時、王妃のおつきの将校が王妃の忘れ物のバッグを取りに戻ってきてスポットライトを浴びてしまいます。
ここでまた笑いが。この笑いは分かる!と納得。

あっと言う間に舞台は王子の部屋になりました。ビデオでは鏡の前で王子が自分の姿を見ている所から始りますが、今回鏡は枠だけで実際の鏡は入っていません。という訳で、鏡の向こうの席の人達も王子の姿が見えるのです。
これは照明が反射するからかしら?と勝手に推測しました。
王子は鏡の前に座り、お酒をあおります。ビデオでは小さな携帯用の銀製の水筒のようなもので飲んでいましたが、今回は大きなボトルでラッパ飲み。客席の何処からでも分かるようにと思ったのでしょうか。
そこに王妃が白い壁につくられたドアから登場。ドアが開くと同時に、丁度鏡に当たる方向に照明が入りました。ここから王妃の愛情を求める王子と逃げる王妃のデュエットが始ります。
ビデオでのチャドウィックとスコットの場面は、本当に二人の間柄が良く表現されているので、ポーターとスコットではどうなるのだろうかと興味津々で舞台を見ます。

下手に踊ってしまうと男性が女性に迫っているかのように見えてしまうであろうこのデュエットを、二人は見事に母性愛を求める王子と、どうしていいのか分からず逃げ惑う王妃という関係を表現していました。
改めて舞台でこのシーンを見ると、王妃は冷たいのではなく、王妃自身も愛情に飢えて育った、子供時代に甘やかしてもらえなかったが故に王子に対してどう接したらいいのか分からず、途方にくれているのではないだろうかという事に思い当たりました。

王子を振りきり王妃が退室。王子の姿が私たちの胸を傷めます。そこに舞台右端に報道官が登場。携帯電話を取りだした途端、また会場から爆笑が。
少し遅れて舞台左端にSWANK BARの主人?が携帯を持って登場。ビデオと違って報道官が誰に電話をかけているのかが明確になりました。

舞台は瞬く間にSWANK BARのセットに。ウォーキンショーのジェームスディーン風?リーゼント姿はちょっと似あわないと、ぷぷぷと笑っているうちに音楽が始り、一瞬にして舞台はバーに変身。
以前よりもアップビートです。登場人物も少しずつ変更されていて、ジミヘン風アフロヘアーの男性とか、ナイス・ボディーの背の高い女性がいました。この女性。
どうも背が高くって、紫のボブでカチューシャをしており、白い繋ぎのパンタロンドレス(というのでしょうか?)の中に収められている胸は形がよすぎて作り物の様。何だか怪しいと目をつけます。

そんな中、王子はかわいそうに色々な目にあわされ、ここでもまた身の置き場がないのです。
スコットに何をするの〜っっっ!皆、王子だって分かっているの?この国はそういう事OKなの???と心の中でばかな台詞を叫びつつ、そのぐっとこらえて見続けます。

驚く程スピーディーかつ分かりやすい展開で、あっという間に王子はバーの外へ。
そこで、あれ?あの背の高い女性はどうなったの?とはたと気がつきました。王子に気を取られていて、その後の展開を見るのをすっかり忘れてしまっていたのです。
まあ明日ちゃんと見ようと思い、次の瞬間にはかわいそうな王子に胸を傷めていました。

バーから水兵らしき二人づれが出てきて、歌いながら王子にケリを入れます。大事なスコットに何をするの!と心で怒りながら、二人の姿を目で追います。
肩を組み、すっかりほろ酔い気分で立ち去る二人が舞台そでに引っ込む瞬間、一人の手がいきなり相手のおしりをぎゅっと触りました。やっぱりこういう展開だったのね〜と少し笑います。

次に太めの女性がよろけながら出てきました。そのよろけた瞬間、彼女がよっかかったバーの壁が右にずるっと移動。ここでまた笑いが起こりました。
次々にバーのお客が帰っていき、遂にガールフレンドと報道官、そしてウォーキンショーが出てきます。
お金を渡している所を見てしまった王子の姿はますます寂しげで、一層胸が痛くなります。
でも同時に、さあ、いよいよよ。いよいよアダムの登場よと期待で胸がわくわくし、思わず口元はほころんで来ました。この矛盾した状態で、先ほどよりも真剣に舞台を見ます。

ガールフレンドは結局もらったお金をウォーキンショー扮するリーゼントの男に渡し、彼は疑問を感じながらとぼとぼと歩いて退場します。
ビデオの子供役の時には、無邪気に喜んでいましたが、大人になった今反応を少し変えているのです。

皆が去った後、有名な情景の音楽が流れだしました。先ほどまでバーだった場所に今度は白鳥達が現れ、翼を動かしています。
王子は月を見上げ、悲しみの目は次第に遠くを見つめるそれに変わってきます。その瞳、その表情としぐさは純粋で、ますます私の胸を締めつけます。
そして何かを決めた様子で王子は立ち去り、セットも消え、辺りは月の出ている湖に。さあ、いよいよです。

舞台左端から座った姿勢でアダムの白鳥が登場。静かに、静かに舞台を横切っていきます。暗く青い静かな舞台。そこに白く美しい白鳥が音もなく横切る。
構図だけでも十分幻想的で美しいのに、その白鳥がクーパーなのです!あの、アダムなのです!!!と言わなくても十分皆さん御存知でしょうが、とにかくアダムが登場!
ここも大好きなシーンだけに、実際に目の前でビデオと同じシーンが行なわれているだけで夢見心地になってしまいました。

さあ、白鳥のシーンの始りです!


☆上の写真は、AMP「SWAN LAKE」公演中のニールサイモン劇場です(著者撮影)☆


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