AMP " SWAN LAKE " in Broadway report On 3rd November 1998 〜Vol.12〜


 未だ心臓のドキドキはおさまらず、くらくらしている私の横で、盛大に驚いた当人は落ち着きを取り戻して舞台に見入っています。 やはり銃の国アメリカだけに、発砲事件が本当に起こったと思ったのかもしれないと勝手に分析を始めてしまいました。

 私の心臓が大変な事になっているのと同時進行で、舞台の上でも慌ただしく王子がずるずると引きずられて退却させられています。
 王子が王妃を殺害しようとし、そのどさくさに紛れて報道官が王子を殺害しようとし、それをかばってガールフレンドが死んでしまうという凄い展開に観客が疑問を感じる隙を与えず、舞台はがらっと様変わりしました。

鉄格子のついた小さな窓が上の方にぽつんとあるだけの白い壁がセットを全て覆い隠してしまいます。そこにパジャマ姿の王子が登場。いつの間に着替えたの?という早さです。
そこに白衣を着た報道官と王妃が現れ、その後に王妃のマスクを被った看護婦達が続きます。
それにしてもこの何ともいえないブラックでさらりとしたグロテスクさ。これもマシューの持っているカラーの一つだなぁと眺めます。

 このシーンは壁で舞台をしきる事によって以前よりもこれは王子の悪夢なのだという印象が強くなりました。鎮静剤かなにかを投与されたのは現実だと思いますが。
再び舞台は一瞬に様変わりし、壁は消え去り最初に出てきたベッドが登場。その上に王子が横たえられました。いよいよクライマックスに突入です。

 悪夢にうなされる王子の眠るベッドの下から白鳥たちが登場。うーむ、いつ見てもちょっとこの姿、イグアナみた〜いと一人つっこみを入れてしまいます。
鳥というより、爬虫類を連想させるベッドの下からはい出る白鳥達。そして、あっという間に舞台の上は白鳥だらけになってしまいました。

 目の前にこう白鳥が並ばれてしまうと、やはりしてしまうのは白鳥チェック。
王子が可哀想だとか、この白鳥たちは夢?それとも現実?なんて事はどうでもよくなり、白鳥達の中にいいダンサーはいないか探す事に夢中になってしまいます。
何せあのウィルもビデオでは群舞の白鳥だったのですから、この中にまた主役を踊る事になるダンサーがいるかもしれません。私のお気に入りはとりあえず、右から3番目の彼と決めました。決めた所でこの白鳥のお化粧をした顔では判別がつかず、パンフレットを見たところで名前も分からないのですけれど。

私のチェックが完了する頃、白鳥達は消え去り同時に王子がばっと目を覚ましました。切迫感のある音楽の中、ベッドから下り立ち、ベッドの下をのぞき込む王子。
あれは彼の悪夢だったのか現実だったのか。

そして、彼は暗い広い部屋で一人さまよい歩きはじめました。その様子が痛々しく、また同時にせつなさといとおしさが私の胸に沸き起こり、思わず「スコット〜」っっと叫び、もう安心していいからと抱きしめてあげたくなってしまいました。
それはアダム演じる白鳥の役目なのですが・・・・

 その時、王子が寝ていたベッドに堆く積まれた枕がうごき始めました。そう、白鳥が彼を助けに来たのです。すぐに枕の間から、アダムの手が出てきました。私の胸は再びトキトキと早く打ち始めます。だって、このシーンも大好きなのですから。
しかしその時・・・何とまたアメリカ人達が笑いだしたのですっっっっっっ!!!!!
君たち、これの何処がおかしいんだっっっっっっっ!!!!!!!
こんな切ないシーンを笑うなんて、どういう神経してるんだっっっっっっ!!!!!!
黙れっっ!笑うなっっ!!!大ばか者どもがっっっっ!!!!!!
怒りとショックに震える私の周りで、アメリカ人達は実に楽しそうに笑っています。
こんなシリアスなシーンをギャグだとでも思っているのか、君たちっっっ?!確かにスコットが床に三角座りをしている状態で舞台を右から左に後ろ向きに凄い勢いで横切るその早さは、上手すぎて笑えるかもしれないけど、この笑いは明かに白鳥に向けられていて全然ちが〜うっっっっっ!!!!!
一人心の中でエキサイトしながら、でも目は舞台に釘付けで王子と白鳥の姿を追います。

はい出てきた白鳥が後ろ向きにベッドの上に立ちます。その大きさ。その力強さ。その彼がこちらを振り向いた途端、そのせつない表情に私の胸はきゅんと締めつけられました。

 このアメリカ人のばか笑いに二人は全く動じる事なく、自分たちの世界を作りだしています。
それにしても、この会場の反応・・・イギリスでもこういう反応が起こったのでしょうか?どう考えてもアメリカ特有な感じがします。
最初笑いが起こった時、本人達も驚いただろうと勝手に確信してしまいました。観客の反応も、所変わればなんだろうなぁとしみじみ思わされる出来事でした。

 ベッドから抜け出してきた白鳥の体は既に他の白鳥から攻撃されたようで、あちこちから血が出ています。痛々しい姿の白鳥と傷ついた王子。今その二人が互いを求めてゆっくりと近づいて行きました。


☆上の写真は、AMP「SWAN LAKE」公演中のニールサイモン劇場です(著者撮影)☆


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