AMP " SWAN LAKE " in Broadway report On 3rd November 1998 〜Vol.13〜


 床の上を這うようにして必死の思いでベッドに向かう王子。その彼をこっちにおいでと誘うように、励ますように美しくゆったりと大きな翼を動かす白鳥。
そのしなやかな翼の動きに白鳥の包容力と優しさがあらわれています。
大きなベッドが普通の大きさに見えてしまうほど彼の存在感は大きく、その醸し出す雰囲気が彼の体以上に白鳥を大きく見せています。その瞬間、私はアダム・クーパーというダンサーの成長を確信し、彼の懐の大きさを感じていました。

 王子は漸くベッドに辿り着き、両腕を白鳥の左足にしがみつくようにまわしましす。そんな彼を優しく翼でつつみ込む白鳥。
 その時、舞台の両サイドから他の白鳥たちが登場。緊迫感が舞台にみなぎります。
今や、どの白鳥がかっこいいかなどとチェックしている場合ではありません。あっという間に王子と白鳥は彼等に追い詰められ、ベッドの背に追いやられてしまいました。
 ここで、困っている二人もいいかも・・・などとどっちの味方なのか分からない複雑なファン心理を抱えつつ、二人をほっておいてあげて!と心の中で一応唱えて白鳥たちの不気味な動きを見守ります。

 おびえる王子と必死で彼を守ろうとする白鳥。今、この劇場にいる誰もが彼らを助けだしてやりたいと思っているのでしょう。
観客は固唾を飲んで白鳥と王子を見守っています。
次々に白鳥たちがベッドの上にのぼってきます。そして、あっという間に王子と白鳥は引き離されてしまいました。

狡猾な白鳥たちと、必死で抵抗する白鳥。
ずるずるとベッドから床に引きずり下ろされてしまった王子は白鳥たちに囲まれ攻撃をうけています。アンブラーのいじめられ役がいたについている事といったら!なんていっている場合ではありません。
ベッドの上では白鳥が必死で敵の攻撃を向かい打とうと翼を広げて威嚇しています。
自分も傷ついているのに必死に攻防をくりひろげている白鳥とは対照的に、王子はなされるがままに床にうずくまっています。彼を囲み攻撃を続ける白鳥達のその執拗さと不気味さを、計算されたライティングが生みだした彼らの黒いシルエットのような姿が表しています。

 もうこれほどまでに攻撃されてしまっては王子はもう駄目なんじゃないかと誰もが思った瞬間、ベッドの上のアダム扮する白鳥が大きく翼を広げて羽ばたきました。

 その瞬間、思った事は何て大きいのという事でした。再びクーパーの存在感に圧倒されてしまいます。
 再び力をふりしぼり、白鳥達をけちらし王子を助けに行く白鳥。やっとの事で王子の所に辿り着き、ぐったりと横たわる王子に彼は頬擦りをはじめました。
 その切ない場面に再び私の胸はきゅんとなり、かわいそうな二人に胸が締めつけられます。その心のすみっこの方で、私も頬擦りされたいと思いながら・・・
 必死で王子に呼びかけるものの全く反応がないので遂に白鳥はあきらめ、絶望に打ちのめされながら彼は王子から離れます。
あの、慟哭のシーンです。ここも好き!とばかりに倒れた王子はそっちのけで、舞台左端に立つ白鳥の一挙手一投足を見逃すまいと見守りました。
 うつむき、何かを叫び、悲しみの淵に沈む白鳥。その悲しみが見ている我々にもダイレクトに伝わり、こっちまで悲しくなってきます。

 と、その時ぴくりともしなかった王子がかすかに動きだしました。それにすぐ気が付く白鳥。再び二人が互いを求めあい、力を振り絞って動きはじめましす。
素早く白鳥は王子を抱き上げ、湖でしていた様に王子は白鳥の首に両手を回してしがみつきました。
湖ではしがみつく王子の背に白鳥の翼はまわされませんでしたが、今、この時、白鳥の翼が初めて王子の背にまわされました。

優しく、包み込むように包容される王子。そして、彼に安心していいんだよ、僕は何者からも君を守ってあげるからというように王子を包み込む白鳥。
この互いの信頼感。この魂の触れあい。
うーん、私がサラ・ウィルドー(言わずもがなですが、アダム・クーパーの婚約者)だったら、舞台と分かってても、絶対に複雑な気持ちになっちゃうっと心の中で思わず叫んでしまいます。
それほどまでに、この舞台の上での王子と白鳥の間には強い絆があるのです。そう。ビデオに撮影された頃よりも、二人の絆は深く強くなっている。何度も演じる事により、明らかに彼らに変化がおこっていました。

 再びベッドに敵である白鳥が一羽、さっと飛び乗りました。それに気づき振り返る白鳥。
しがみついた王子は白鳥の支えを失って、力なく白鳥の首から床へと落下を始めます。それに気づいた白鳥は、敵の動きを気にしながらも王子の方に視線を移します。

 王子がちゃんと怪我なく床に辿り着いたかどうかを確認した後、白鳥は二羽、三羽と増えてくる敵から王子を守るべく翼を広げて威嚇しはじめました。


☆上の写真は、AMP「SWAN LAKE」公演中のニールサイモン劇場です(著者撮影)☆


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