AMP " SWAN LAKE " in Broadway report On 3rd November 1998 〜Vol.14〜


 次々に現れてはベッドの上に飛び乗る白鳥たち。そんな彼らから王子を守るべくアダム扮する白鳥はおびえる王子を背負って逃げようとしますが、王子は力なく彼の背から滑り落ちてしまいます。
その間にも白鳥達は数を増やし、あっという間にベッドは白鳥で埋め尽くされてしまいました。

闇をあらわす深い青の背景に星が光り、その前に置かれたベッドの上では白鳥達が一つの塊になって翼をはためかせています。
その光景は恐ろしさとともに、何ともいえない美しさを持っていました。危険だと分かっていても誘い込まれてしまう魅力があるのです。
SWAN LAKEというと良くこの場面の写真が使われていますが、実際に見てなるほどなぁと思わされた瞬間でした。

 あっという間に白鳥はベッドの上の白鳥達に捕らえられ、王子も床の上に降りてきた白鳥達に捕らわれてしまいます。
必死で他の白鳥を振り払おうとする白鳥。そして、為す術もなく敵に抱えられてしまう王子。舞台は息もつかせぬスピードでラストに向けて進んでいきます。

 取り押さえてくる敵をどうにか振り払い、白鳥が再び床の上に下り立ちました。今度は王子を抱えている白鳥との闘いです。
と、緊迫している雰囲気のなか、私は『あの王子を抱えている白鳥。早くしてあげないと力つきちゃうかも。スコットがもう落ちかけてる・・・重たいんだろうなぁ・・・』と思わずチェックを入れてしまいました。

 白鳥の気迫が敵に勝ったのか、あっという間にスコット、いえ王子は床に放り出されました。すぐに白鳥は彼を助けに行こうとしますが、再び敵に取り押さえられ、再びベッドの上に引っ張り上げられてしまいます。

 今、白鳥は敵に囲まれてベッドの上に、そして王子は舞台前方の真ん中で倒れ込んでいます。
 そして、ついに白鳥が最後の力を奮って立ち上がり、次の瞬間王子のいる方向に倒れ込みます。しかし、彼はすぐに敵にベッドへと引き戻されてしまいました。
その白鳥の悲しげな表情が私の胸を打ちます。そして、「情景」の音楽が悲しみに追い打ちをかけてきます。
彼が完全に白鳥達に捕らわれてしまった事を確信し、王子は信じたくないという様に自分の頭を抱えています。しかし、まだ白鳥は王子の元に行こうともがいていました。再び王子に手を差し伸べる白鳥。しかし、それを見た白鳥達は再びベッドの上に集結し、あっという間に彼を取り囲み最後の攻撃をはじめるのです。
そして・・・白鳥達がベッドから降りた時にはもう、王子の白鳥の姿はあとかたもなく消え去っていました。
白鳥達は自分たちの勝利を確信して、力強く翼を動かしています。

 今まで客席に背を向けていた王子が、振り向きました。全てを失ってしまった今、彼にはもう泣くことしか残されていません。
王子の目からは涙が止めどなく流れています。その表情が再び私の胸を締めつけました。
今はもう、彼の目には何も映らないのでしょう。絶望に打ちひしがれ、彼は白鳥の消えたベッドに進んで行きます。今まであれほどまでに恐れていた白鳥達の間を通り抜け、まっすぐに。

ベッドに辿り着き、彼はその上で泣き崩れています。その心の拠り所を失ってしまったという孤独な姿がまた私の胸をいためます。
守ってあげたいと思うのと同時に、彼には白鳥以外守ってあげられる存在はいないのだという事実に思いあたり、思わずこちらの涙腺まで緩んできてしまいます。普段まず涙は出ない私の涙腺を緩ませるなんて、スコット・アンブラー、恐るべし!だと思いながら。

 そして、遂に王子は悲しみのあまり力尽き、ベッドの上に倒れ込みました。
次の瞬間ベッドの上には最初に出てきた窓が現れ、異常に気が付いた王妃が部屋に飛び込んできます。彼女は息子の亡きがらを抱きしめ、遅すぎた後悔を始めています。

そして、窓の中に幼少の王子と白鳥が現れました。安心しきって白鳥に抱きかかえられる王子と、そんな彼を優しく抱きしめる白鳥。そして、幕は下ろされたのです。

その瞬間、会場からは拍手とブラボーの歓声が沸き起こりました。私の隣に座っていた、ピストルの音で飛び上がった女性はハンカチで目元を押さえています。
その興奮状態のなか、キャスト達がカーテンコールを始めました。その途端、会場ではスタンディングが始ります。

アメリカの場合、案外観客はあっさりしているのでさっさと帰ってしまう事も多いのですが、AMPの観客は違いました。一人一人のキャストに盛大な拍手を送り、カーテンコールは終わる気配を見せません。

 満足そうに微笑むアダム・クーパーとスコット・アンブラー、そしておなじみのAMPのダンサー達に私も盛大な拍手を送ります。そして、何度目かのカーテンコールの時、一人のスタッフがマイクを手に登場しました。
 今、ブロードウェイではHIVキャリアの為の募金活動をしていますというアナウンスがあり、スワンが持っているバケツに募金をしてくださいという説明が続きました。そこでふと横を見ると、いつの間にかバスローブを来たスワン達がドアの前に立っているではありませんか!
スタッフのアナウンスが終わると同時に客席はお財布を出す人で騒がしくなり、それと同時にカーテンコールも終わりを告げました。

 私たちも少ないのですが1ドルずつ用意し、人の流れにそって白鳥の元へ。近くで見ると、目のまわりに塗っている黒いお化粧が汗で流れかけていて、なかなか怖いのですが、募金するとチャーミングな笑顔を浮かべてお礼を言ってくれました。

 そこでともこさんと二人、「スワンに微笑まれちゃねぇ。絶対募金しちゃうよね」などと話しつつ、これからの出待ちに備えて化粧室へ。
どうせ長く待つ事になると思われるので、寒い外に出来るだけゆっくり出る為に劇場内で時間をつぶしてから、大判のパンフレットをしっかりと抱えて外に出ました。

 


☆上の写真は、AMP「SWAN LAKE」公演中のニールサイモン劇場です(著者撮影)☆


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