AMP " SWAN LAKE " in Broadway report On 3rd November 1998 〜Vol.15〜


 興奮さめやらぬ観客がニールサイモン劇場の前にたむろしています。
劇場内のパンフレットなどを売るブースはもう閉まっていますが、劇場の外に出店をして盛んにスタッフが売り込みをしていました。

外に出た途端、冷たい風が私たちを包み込みます。
NYに来る前に教えてもらった情報を元に、早速我々は劇場の入口の右にあるステージドアの前に移動しました。ここが出演者達の出入り口なのです。

 日本の感覚からいうと、劇場裏側にありそうなものですが、ステージドアは観客用入口のすぐ横にあり、隠れてこっそり出入り出来る代物ではありません。
 出待ち初体験の私は全く何の用意もして来ませんでしたが、とこもこさんはしっかりサインペンを持ってきています。他にも待つ人がいるのだろうと思っていましたが、やはりアメリカという感じで、次第に観客の数が減ってきました。
しかも、誰一人としてステージドアの方にやって来ません。と、その時ステージドアが開いて一人の女性が出てきました。
スレンダーで黒髪のこの女性。眼帯をしたハンガリアン・プリンセス役のサラ・バロンです。近くで見るとこんな人なんだと思わず観察。彼女はさっさと帰っていきました。

 そして、次に出てきたのは幼少の王子役のアンドリュー・ウォーキンショーでした。
ジャンパーに毛糸の帽子を被り、出てきた途端飢えていた!というように急いでタバコをくわえて一服しはじめます。
頬はこけていて、かなりスレンダーです。ウォーキンショーはもうどこら見てもすっかり大人でした。

アメリカでは禁煙が当たり前なので、楽屋では吸えないのでしょう。
あーあ、すっかりAMPの他のメンバーと同じくヘビースモーカーになっているんだぁと思いつつ、二人で声をかけます。
「サインしてもらえますか?」
「もちろん!」
と快諾してくれて、煙草の火を気遣いながら渡したサインペンを握り、パンフレットを受け取りました。
「えっと、名前は?」
「ともこ。TO」
「TO・・・MO・・・・」
と書いている間に、つかの間のおしゃべり。
「去年ロンドンでシンデレラを見ました」
「僕は末っ子をやっていたんだけど」
「ええ。知ってるわ。あなたのエリオットはとってもキュートだったわ」
というと、笑いながら
「ありがとう」
次に私の番になり、パンフレットを手渡します。
「君の名前は?」
「なつむ・・・NAT・・・」
「NAE?」
「T!」
「おっと」
既にしっかりEが書き込まれている上から、慌ててTを書きくわえ、思わず笑ってごまかすウォーキンショー。
書き終えたパンフレットを受け取りながら、ありがとうとお礼をいいます。
早速書いてもらったページを見ると、 『To Natsumu Best wishes love from Andrew Walkinshaw』とありました。

 遂にアンドリューに会っちゃった〜と何だか現実離れしている事が起こっている気分で立っていると、次々にダンサー達が出てきました。
この勢いで出てきたら、アダムとスコットを見落としてしまうかもと、二人とも懸命にチェックを入れます。

 私たち以外待つファンもいないので、皆気楽〜な感じで外に出てきます。数人ダンサー達がおもてに出てきては、外でしばらく待ち、一緒に帰るダンサーが揃うとグループで帰っていきます。
その時、毛糸の帽子を無造作に被り、地味なジャンパーを 着た顔の小さな背の高い男性が出てきました。
 えっ?と思い数秒見つめた後、やっと私は気づいたのです。アダムだーっっっっ!!!第一印象は、何て顔が小さくて痩せてるのっっ?!という事。そして、次に感じたのは、何て構わない格好なんだ・・・・という事でした。
すっかり緊張しつつ、近寄り出た言葉は、今夜のあなたは素敵でしたでもなく、ファンです!でもなく、
「サインくださいっ!」
でした。あわてていたのでしょう。ともこさんから借りたサインペンを開ける時に思わずパンフレットにひっかけてしまい、線を書いてしまいました。ああっっと思いつつ、アダムにパンフレットを渡します。
サインしてもらうのは、黒鳥のアダムの裏表紙です。
そこに手慣れた手つきで彼は大きく『Adam Cooper』とサインしてくれました。その間何も言えず、ありがとうと受け取ります。
次にともこさんの番になり、
「このペンは?」
と聞かれ、
「それは私のなの」
とともこさん。アダム。ご、ごめんなさいっっ。ちゃんと用意してなくって。まさか出待ちすると思ってなかったから・・・と心の中で思わず陳謝。
何が何だかで全く話せない私の横で、ともこさんはサインしてもらう間アダムと話していました。

「去年、ロンドンでシンデレラを何回も見にいったんです」
「そうなの?ありがとう」
と楽しく歓談。
「サラは?」
と聞かれた途端、アダムはちょっと冗舌に。
「もうかえっちゃったんだ」
「シンデレラでのお二人はよかったです。また二人が一緒に踊るのを楽しみにしてます」
「ありがとう」
とにこやかに答えるクーパー君。

 サインを終えた後、誰を待つでもなく、アダムはじゃあねという感じで一人、劇場を後にしました。彼の去った後私はもっと他に言う事があったはずなのに・・・何てふがいない・・・という後悔の渦へ突き落とされたのでした。

 そんな事をくよくよしている場合ではありません。次は誰だっっ?!と再びステージドアのチェックを再開。もう帰宅ラッシュは終わりかけているようで、徐々に人が少なくなってきています。
寒いなぁ。でも、スコットに会いたい!と我慢。すると、次に私がとっても会いたかったもう一人が出てきたのです!!!!
「マシューだっっ!!!」
思わず叫んでしまいます。ジャンパーにセーター、ジーンズ姿というラフな格好でひょっこりマシューは現れました。
やっぱり来てたのね〜と駆け寄る二人。サインを頼むとまたまた快諾。その時ともこさんが、
「彼女は日本でAMPのホームページを作っているんですよ」
と説明してくれました。
そうだ、こういう事を言えば良かったのに、すっかり忘れていた!とともこさんに心の中でお礼を言います。
「本当に?」
「ええ」
と私はにっこり答えました。このお陰で漸くしゃべれるようになった私は、
「ところで、AMPの他の作品をビデオで見たいと思って、ジューン・ボーン(マシューのお母さん)に聞いたんです。私は・・・」
と、ここで「受け取る」という単語が出てこないっっ。
やっぱり緊張していたのでしょう。ここで頭が真っ白に・・・ともこさんに助けを求めます。

「受け取るって何でしたっけ」
「receive」
というやり取りの間、マシューは忍耐強く、にこにこと待ってくれています。優しいっっ!と感激しつつ、
「彼女からの手紙を受け取ったんです!」
私の英語は日頃からそう上手くはないので、緊張している今は恐らくかなりひどくなっているのでしょうが、彼は懸命に聞いてくれています。
「彼女はLATE FLOWERING LUSTが」
という所で、題名を言う声がマシューと重唱になりました。
「そう!それがいいって教えてくださったんですけど」
「そうそう。僕もそう思うよ」
「でも、もう売ってないんです。ソールドアウトしたって、去年ロンドンに行った時に言われて・・・」
「ダンスブックスは聞いてみた?」
「ダンスブックスでそう言われたんです」
「そう・・・それじゃあ、僕ももう入手出来ないなぁ」
と答えるマシュー・ボーン。ああ、いい人だっ!と感激しつつ、次の質問へ。

「ところで、次回の新作は何になるんですか?」
「そうだね。ロミオとジュリエットもいいと思っているし、コッペリアもいいかなぁ。くるみ割ももう一度作り直したいし。でも、僕にもまだはっきり分からないんだ」
話しながら、手渡したパンフレットにサイン終え、マシューは私たちに返してくれました。そこにあるのは『Thank you Matthew Bourne』の字。 お礼を言うと、
「ところで、まだ誰か待っているの?」
と私たちの心配までしてくれたのです。
「スコットを待っているんですけど」
「スコット?」
と言って、何とステージドアの中をのぞきに行ってくれたのです!
再び我々の元に帰ってきて、
「まだみたいだね。彼はいつも遅いから・・・」
「どうもありがとう!もうしばらく待ちます」
とっても親切で気さくなマシューのお陰ですっかり心が温まり、再び二人の出待ちが始りました。

出待ちを始めて1時間弱。寒い〜という二人に風が襲いかかります。ニールサイモン劇場の向かいの劇場に貼られているミュージカルの写真を、これはジーンケリーの踊るニューヨークだ・・・何となく見つつ待つこと数十分。ステージドアからヒゲをはやした背の低いおじさんが出てきました。劇場スタッフです。

「誰を待っているの?」
とまた聞いてくれます。
「スコットなんだけど」
確認して、彼はまた中へ。しばらくして再び私たちの姿を確認。
「寒いから、中に入っていいよ」
何と!!!という訳で、お言葉に甘えて二人、ステージドアの中に入れてもらったのです!

中は狭い階段がすぐに始っています。左手には小
さな部屋があり、ガードンマンらしき人と先ほどのおじさんが立っていました。
「そこで待ってて」
と言われたのは、階段を隔てた狭い部屋の向かいでした。ここ?と言いつつ移動すると、何とそこは舞台そでだったのです!
後ろを見ると、黒鳥シーンのテーブルがすぐそこにあります。そして、端には黒鳥シーンのプレス用チェーンがっっ!!!
思わず手で触れた後、テーブルの上に自分の荷物を置いてしまいました。

「見てみて、そこがもう舞台!」
思わず歓声をあげてしまいます。
舞台そでなので、そこには出演者の使ったものがあり・・・ 水の大きなタンクが備え付けられています。NYで良く見る大きな透明のペットボトルが逆さにささっている水飲み場。その横には大きなごみ箱が。見ようとしなくても目に入るごみ・・・

「あ、誰かバナナ食べてるよ」
などと話して時間をつぶします。それでもなかなか現れないスコット。
「ロンドンで、出待ちしてもいつもスコットには会えなくて。こういう訳だったんだ」
と言うともこさん。
「マシューが、いつもこうだって言ってましたよね」
話す二人に先ほどのスタッフのおじさんはにっこり笑いながら、遅いなぁと階段を見上げます。
「しかし、こんなにステージドアと舞台が近いなんて」
と再び舞台そでの観察開始。すると、その時、おじさんに動きが・・・
私たちも思わず階段を見上げます。すると、スコットらしき人が階段の上で楽しそうに話していました。

そうか・・・彼はおしゃべりなんだ。と認識。
「スコット!」
とおじさんに呼ばれても、彼は絶好調で他のスタッフ2人と話しています。
「スコット!二人がお待ちかねだよ!」
そこで漸く彼はトントンとステップを降りてきました。
「彼女達、君を待ってたんだよ」
そして、あらわれた彼は、誰よりもスレンダーでした。黒髪はシャワーで濡れているのか、ジェルを塗っているというのか、光沢を持っています。
先ほど仲間で話していた時と同じ流れるような・・・というより私にとっては聴き取りにくい早口で彼は話しはじめます。
ともこさんは再び彼女はHPを作っているいるとスコットに話してくれました。

「日本から来たんですよ」
「そうなの」
と言った後、彼は凄い早口で何か言いました。 何?何???と思っていると、
「明日もくるの」
「そうなの」
「実は、その次の日も来るの」
「そうなの!」
と笑います。ともこさんもサインをしてもらい、漸く二人スコットの出待ちを終えます。
返してもらったパンフレットには『Best wishes Scott Ambler』とありました。

スコットと、中に入れてくれたおじさんにお礼を言って再び寒いNYの街に出るべくドアを開けます。ぷるっと身震いがくる風の中、
「さっきスコットが凄い事言ってましたね」
と、ともこさんが言いました。
「私、さっき早すぎて聞き取れなかったんですけど」
「あのね。アダムと僕の日にあたってラッキーだったねって」
「・・・それって、ウィルとの日は・・・」
そこで、二人とも
「はっきりしてる〜」
「おかし〜」
と声を合わせて思わず笑ってしまいました。

 もう観客は全員帰ってしまった劇場前で、曲がってきたタクシーに手を上げてのりこみます。帰路の途中、再び舞台のシーンを思い出しながら、二人ああだこうだと話しが弾みます。数分後、泊まっているマンションの前に到着。
サインをしてもらったパンフレットを握りしめ、私たちの部屋へ。

こうして、SWAN LAKE in NYの第一夜は終わったのでした。


☆上の写真は、AMP「SWAN LAKE」公演中のニールサイモン劇場です(著者撮影)☆


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