AMP " SWAN LAKE " in Broadway report On 4th November 1998 


 昨日に引続き、今夜も足取りも軽く劇場に向かいます。今日も来ましたニールサイモン劇場という感じで、早速チケットを取り出し中に入ります。
入口にたむろしている人をよけつつ、まずは今日のキャストのチェック。
予定通りアダムの白鳥、スコットの王子です。やったっ!と心の中でガッツポーズを決めます。今日も女王はポーターでした。

キャスティングに安心して、まずは自分たちの席を探します。今日も昨日と同じく舞台向かって右端の、前から5番目ぐらいの席でした。
座席の確認が出来たら早速会場ウォッチングとトイレへ。何処の国でも女性トイレは混むので早めに済ませるに限ります。
とその時会場の観客が昨日とは違うのに気が付きました。今日は、圧倒的に男性が多いのです。しかも、
「ともこさん、気付きました?」
「なつむさんも?」
そう、今日は男性カップルと男性グループがめちゃくちゃ多いのです!!!
「さっき、すっごいハンサムなアジア系の男性が居たんですけど、隣にやっぱり同じようにかっこいいアジア系男性がいたんですっ!」
「私も気付きました。彼たちでしょ?」
「そうそう」
やはり、場所がNYで公演がマシュー・ボーンのSWAN LAKEだけに想像していた事ですが、今夜、この劇場はゲイだらけだったのです。

「うーん。今夜はAMPだけでなく、会場も楽しめますね」
「何言ってるんですか。もう。でも、本当にかっこいい人多いですよね」
「何でこう、ロンドンといい、ニューヨークといい、かっこいいと皆ゲイなんだろう・・・」
すっかり会場ウォッチングに夢中になる私たち。
全く何やって、何話してるんだかなぁなのですが、どうしても観客に目が行きます。

漸く自分たちの席に辿り着き腰掛けると、私たちの左側の席の人達が到着しました。
男4人組、どこからみても仕事帰り。スーツ姿のヤッピー風な男性達です。どうやらカップル2組のようで、お互いに握手しあっていました。
すると、そのグループにまた別の男性グループが声をかけて握手。更に、彼らはあそこで、彼らはあっちと、仲間の位置を指さして教えています。
今夜はゲイナイト?もしかしてAMPを観に行こうツアーでもあるの?という程、観客同士が知りあいで、ゲイで、昨日とは余りにも会場の雰囲気が違います!

NYだなぁ。ロンドンでこういう日はなかったなぁとぼんやり考えているうちに、あっという間に上演時間。
今までの事は全て忘れ、舞台に集中すべく心の準備を始めました。

 昨日と同じく舞台はアンドリュー・ウォーキンショーの王子で始り、スコットへスムーズに移行。
同じ所で人々は笑い、同じ所で私の胸はきゅんとなります。
何度観てもアダムの白鳥は大きく、美しく、今夜で見納めかと思うとますます食い入るように観てしまいます。

 昨日少しぎこちなく感じた黒鳥の各国の姫君とのダンスシーンも今日はぴったりと合ってスピード感も抜群!
三回転を決めるシーンでは正にブラボー!と叫びたくなるほどかっこ良くセクシーです。

 アダムとスコットのデュオは相変わらず濃厚で、せつなさと毒のある魅力が交互に押し寄せてきます。
一つ一つのシーンが、アダムとスコットの一つ一つの動きが今日で見納めかと思うと悲しくなりますが、目に焼き付けなければという思いも強くなり、昨日以上に息を詰めて観てしまいます。

 再び白鳥に戻り、追い詰められ、王子とともに旅立つ白鳥。その頃には目頭があつくなっていました。
物語のラストが悲しいのか、アダムの白鳥が見納めなのが悲しいのか、もう何が何だか分かりませんがとにかく、悲しいのです。
 大きな拍手の鳴り響く中、幼少の王子を抱えた白鳥が窓に姿を現します。
ああ、終わってしまう・・・出来るかぎり彼の姿を記憶に留めるべく、アダムの姿をただただ見つめます。そして、幕。

会場に拍手の音が鳴り響いていますが、昨日とは違い、スタンディングをしている人は一人も居ません。
後から思えば、自分たちだけでもスタンディングすれば良かったのですが、この時はもう、終わってしまったショックで茫然と拍手をしていたという感じでした。

カーテンコールが続く中、今夜もHIVキャリアの人達の為の募金の説明が始ります。
今夜は何とスコットがマイクを持って登場。昨日ステージドアで聞いたのと同じ流れるような早口英語で話し始めました。私の怪しげな英語力で聞いた限りでは、
まず今、ブロードウェイ全体でHIVキャリアの人達の為の募金活動をしているという説明がありました。
ここで、会場ではゲイのカップル達数名が互いの存在を確かめるように肩を抱きしめあい始めました。

「HIVキャリアの人達を援助する。それは、こんにちはでも、元気?でもいいんです。でも、お金も必要です」
とここでにっこり。会場からはどっと笑いが。
「会場にスワン達がバケツを持って立ってます。貴方達に出来る範囲で募金して貰えれば幸いです」

 拍手の後、会場は一斉にお財布を出す人達でざわめき始めました。
そんな中、20代らしきかわいい感じの男性と、ジーンズが似あう40代ぐらいの男性のカップルがお互いに感極まった感じで抱きあってそっとキスしていました。
昨日の観客よりも身近にこの病気を感じ、実際に友達も失っているであろう人達。AMPでも一人、AIDSで仲間を失っています。

 今夜も私たちは1ドルづつしっかり握り締め、扉の近くに立っている白鳥の持つ小さなバケツに寄付をします。
「素晴らしい夜をありがとう」と言いながら。

 今夜はNYの一面を見たなぁという気分で劇場の外へ。
お互いにしっかりさっきの年の差カップルをチェックしていた事を確認しつつ、今夜でアダムの白鳥が終わっちゃいましたねとため息をつき、後ろ髪ひかれる思いで劇場を後にしたのでした。


☆上の写真は、AMP「SWAN LAKE」公演中のニールサイモン劇場です(著者撮影)☆


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