AMP " SWAN LAKE " in Broadway report On 5th November 1998 vol.1


遂に3日目、私たちにとっては最終日がやってきました。今日の白鳥はウィリアム・ケンプ、王子はスコット・アンブラーです。
前日までの2日間と同じく、ニールサイモン劇場の入口をくぐるとすぐにキャスティングボードと座席表をチェック。今日の我々の席は2階です。

人の波にのりながら階段を登ると、そこにはドリンクを出しているバーがありました。そこを素通りして、早速会場へ。天井が近いせいか、一階とはまた違った雰囲気です。

本日の席は舞台に向かって左側、前から5列目ぐらいで舞台が良くみえます。表情を読み取るにはオペラグラスがいりますが、充分に楽しめるいい席です。
地下ではそんな事はなかったのに、2階のトイレではチップを要求されるという情報を入手。早速階段を下りて地下へ。開演時間が近くなってきているせいかますます人は増えてきています。

今日は少し遠い席なので、用を足した後は速やかに着席。昨日に引続き二人揃って客席チェックをします。
「今日は男女のカップルが多いですね」
「昨日とは打って変わって。昨日は一体何だったんでしょう」
と話していると、2階の最前列のよーく舞台が観えであろう席に、少しふくよかな体型で、40代後半から50代前半ぐらいの、身なりのいい紳士二人がいそいそと腰掛けました。
おしゃれな柄の布製のマフラーをしています。一人は口ひげを蓄え、きれいに髪を整えています。もう一人も同じ雰囲気で、いかにもな感じ。
そして、二人そろって、なんと、最前列にも関らず(と、あえて突っ込みを入れさせてもらいます)首からオペラグラスを下げていました。
席につくやいなや、早速グラスの調整が始まります。

「ねえ、ともこさん。あの二人、あのオペラグラスで誰を追うんでしょうね」
「やっぱり、ゲイの叔父様方のアイドル、ウィリアム君なのでしょうか?」
「いや、案外スコットだったりして」
「そうかも」
今宵もまた二人、観客ウォッチングを満喫してしまうのでした。

待っていると長いもので、まだ開演時間の8時には少し間があります。そこで、またまた二人、一杯になってきた客席をきょろきょろ。
私たちの周りの席もすでに皆着席しています。私の隣は、ふくよかーな体型の男女の中年カップル。ともこさんの隣も同じように男女のカップルが座っています。
「なんだか、今日は客席がおもしろくないっ!」
「おいおい」
などと再びばかな話しをしているうちに、漸くオケボックスに指揮者が入ってきました。はじまりです。

悲しげな音楽が流れ、今日もアンドリュー・ウォーキンショーの王子が一人、ベッドに横たわっています。
しかし、今日は2階席からなのでアングルが大きく変わり、同じ舞台なのにまた雰囲気が違ってとても新鮮に感じます。

ウィルの白鳥が、出るぞ、出るぞと期待する中、あっというまに白鳥が登場。
『ウィリアムだっ!』と思った途端、彼の白鳥は目の前から消え去っていました。 相変わらず早い展開です。

本日もまた王妃はポーター、報道官はバリー・アトキンソン、ガールフレンドはピアシーで王子はスコットなので、昨日までの舞台と寸分違わぬ感じで舞台は進行していきます。
今日が私にとっては最後のSWAN LAKE。となると、ますます好きになってしまったスコットを、とにかく目に焼き付けなければと必死で彼を目で追います。
どうやら隣のともこさんも同じようで、二人とも彼が動く方、動くほうに同じように顔が動いていくという異様な状態が二人の空間には出来上がっていました。

例の王子が大変な興味を示す「男性の彫刻」になったウィリアムの背中(あの彫刻はその日の白鳥が担当するそうです)を見送りつつ、白鳥のシーンの到来を心待ちにします。

劇中劇で笑い、SWANK BARでかわいそうな目にあう王子に胸を傷めているうちに、遂に白鳥のシーンに到達。
美しい深い青に支配された世界に、我々は誘われます。

死を決心する王子。美しい、しかし死への誘いを感じさせる月と静けさ。
何度観ても幻想的で悲しい場面です。よろよろと湖へと歩いていくスコットの背中を見守りつつ、いよいよだと、ウィリアムの白鳥の登場に胸を高鳴らせます。
と同時に、一昨日スコットが言っていた『アダムと僕の日が観られてよかったね』という言葉がちらりと頭のすみをよぎります。あれってどういう意味なの?という疑問が解けるのかしらと。

緊迫した音とともに、遂にウィリアム・ケンプの白鳥が入水自殺をしようとしている王子を引き留めるべく、さっと舞台に登場しました。
登場と同時に大きく翼を広げて舞台をとび、決めポーズをとります。その瞬間、私の頭に浮かんだ言葉は・・・
「えっ?!ひ、ひな???」
もう、かわいい!かわいい、かわいいんだもん!!!という感じで、昨日までの大人で包容力のある、体の大きなアダムの白鳥とはまったく違う白鳥が現れました!
白くてキュートな雛白鳥が舞台を所狭しと舞っています。そんな白鳥に興味を覚えた王子がおそるおそる触ってみようと手をのばすと、雛白鳥は即座に反応を示します。
「つ、つつかれるっ!!!」
と思ったのは私だけではないはず。そう、彼の白鳥はまさしく「生き物」、本当の鳥っぽいのです。その動き全体がとても鳥っぽい。白鳥なのです。
彼なりの白鳥がそこには出来上がっていました。

群舞の白鳥の踊りが終わると、再びウィルが登場。
翼をおおきく広げて舞台を斜め奥から前方にかけて移動します。でも、どう大きく羽ばたいていても、私の目には「ひなのウィリアム白鳥」とうつってしまうのでした。
実際にウィリアムはまだ20歳そこそこですし、背も伸びたとはいうものの、アダムに目が慣らされていると実際以上に小柄に見えます。
老婆心的ですが、この背丈であのスコット王子を抱えられるのかしらという不安が沸き上がってきました。

舞台はスムーズに進行し、あっという間に王子と白鳥が見つめあうシーンへ。
アダムとスコットの間にある、お互いが恋に落ちたという感じの濃密な空間はなく、野生の白鳥と王子の歩み寄りという感じが漂っています。

ウィルのソロが始ります。彼の動きを見ていると、成長が伺えうれしくなってきました。しなやかな動きは、自分の「白鳥」はこうだというのを私たちに心地よく伝えてきます。

そして、うっとりしているうちに、舞台は二人のデュエットへ。
さあ、スコットの言っていた事の答えが分かるのかしらと身を乗り出して舞台を見つめます。二人揃って同じ動きをするという場面が始りました。

と、ここではたとスコットの目の動きに私は気付いてしまったのです。
同じ動きをするこのシーン。二人の動きはシンクロしていなければなりません。アダムとスコットの時には、お互い空気で相手の動きが分かるというぐらい何の苦労もなくぴったりとあっていたのですが、今日は全く勝手が違う様子。
ウィルは自分のペースで踊っているのに対し、スコットは横目で彼の動きを逐一確認し、合わせよう、合わせようと努力しているのです!!

 自分の事で精いっぱいなのか、そういう風に合わせようと決めているのか分かりませんが、ウィルはとにかくスコットの動きを確認する事なく踊り続けていきます。
もしかして、これがスコットの言っていた答えなのかしら?と思っているうちに、白鳥が王子を抱えるシーンに突入。
並んでみると、長身なスコットとウィルの身長差は結構あります。大丈夫なんだろうか?と心配しつつ事の成り行きを見守ります。
王子が白鳥の首に腕をまわし、白鳥が両の翼を水平にのばした状態で舞台右から左へ移動。アダムの時には両の翼が王子をつつみ込まない理由は白鳥だからという感じなのですが、ウィリアムの場合は、これでバランスをとって、どうにか運んでいるという感じ(笑)
私の心の中は、 「頑張れウィル!力尽きてスコットを落っことさないように!」でした。

ウィルにとってスコットは、さぞかし大きくて重たいパートナーなのだろうなぁ、ベン・ライトとの舞台も観たかったなあと思いつつ、漸く無事リフトが終わって舞台そでに姿を消すウィルを見送りました。


☆上の写真は、AMP「SWAN LAKE」公演中のニールサイモン劇場です(著者撮影)☆


HOMEに戻る
AMP " SWAN LAKE " in Broadwayインデックスに戻る