大野富士(荒 島 岳)


【登山日】 94.11.13
【同行者】和子

 福井・大野盆地の南東に大野富士と呼ばれる美しい姿を聳えるこの山は、深田百名山に選定されて急に登山者が増えたそうだ。トイレ対策など行政の対応が遅れ、迷惑していると昨夜の宿・銀嶺荘の人がこぼしていた。日中、27度もあった晴天が夜には激しい雨となり、天候が気がかりな朝を迎える。薄明の外に出ると、黒い雲はあるものの頭上には思いがけずも青空が拡がり、勇躍して出発する。スキー場のリフト沿いに直登。いったん右に析れ、さらに別のりフト沿いにがらがらの石を踏んで登る。かなり勾配があり、またたく間に汗が噴き出す。リフト終点で休んでいると、朝食を知らせるアナウンスが聞こえた。ようやく山道になるが、下がぬかるんでいるので雨具のズポンを着ける。紅葉が真っ盛りの雑木林。木漏れ日がそれぞれ微妙に異なる階調の紅、掲色、黄色を照らし、光と色彩の大ページェントを繰り広げる中を行く。すぐ美しいブナ林となり、木の根が階段状になっている所を登る。胸を突く急登とやや緩やかな登りをくり返し、少し下って湿地のようなところを過ぎ、シャクナゲ平への急登が始まる。滑りやすい溝状の道を、両側の笹や木の枝にすがって、身体を引きずりあげるよう に登る。この頃から濃いガスが出て、先ほどから木の間ごしに見えていた本峰もすっかり隠されてしまう。風邪気味の体調不良でピッチが上がらず、何回も足を休めて和に待ってもらい、やっと平に着く。


美しいブナ林を行く


  シャクナゲ平は稜線上の分岐といったところで、平地はなく、道の真中にテントが一張りあった。少し下った佐開への分岐で、きのう大野で汲んだ名水・御清水(おしょうず)でお茶を沸かし、銀嶺荘で作ってもらった弁当を拡げる。テントの4人組が帰ってきたが、頂上もガスで白山もよく見えなかったそうだ。食事中に単独の人、8人のパーティが前後して頂上に向かう。ここからいったん下って、次に緩く登ってモチガカベの登りとなる。太い鎖や階段があるが、大した難所ではない。それより、ここを過ぎたあとの急登の連続には参った。つりそうな足を騙しだまし、ぼつぼつ落ちてくる雨の中を暗い気持ちで登る。次第に灌木の丈が低くなり、大きな熊笹の中を行くうちに、やや明るくなり薄日も射すようになる。前荒島、中荒島らしいピークを過ぎ、下ってきた単独行の人の言葉通り最後に急登と緩登があって、ぽっかりと本峰に飛び出した。



山頂には大きなコンクリートの箱のような通信施設の建物、二つの向かい合った反射板のマイクロウーブ塔、何体かのお地蔵さんが安置された小さい祠などあるが、天候のせいもあってか荒涼とした感じがする。ガスが巻き、風も出てきたので、和歌山から来ているという8人組と入れ替わりに建物に入る。熱いコーヒーで身体を温めているうちに、4人の若者が次々到着したが、彼らも少し消耗しているようだ。私たちが建物を出ると待ち兼ねたように中へ入っていった。もう一度、写真を撮り、頂上を後にする。下りはやはり楽で、二人とも何度か滑って尻を汚したり、バランスを崩しかけたりはしたものの、いつものペースで元の道を帰った。登ってくる何組かの人に出会ったが、皆、この山の厳しさを感じている様子だった。銀嶺荘前のべンチに帰って見上げるリフト終点への道は、歩いているときの感じよりかなりの急勾配に見える。期待した頂上からの展望は得られず、高度の割に手ごわさを味ったが、大した雨にも遭わずに百名山を一つ稼げた満足感がやっとこみ上げてきた。

<コースタイム>銀嶺荘6:15…リフト終点7:02〜7:15…シャクナゲ平8:47…佐開分岐(朝食後発)9:17…モチガカベ取り付き9:28…頂上10:25〜10:55…シャクナゲ平10:42〜50…リフト終点12:55…銀嶺荘13:30 

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