−石川郎女−
「あしひきの 山のしづくに 妹待つと われ立ち濡れぬ 山のしづくに」。大津皇子が石川郎女に贈った歌である。これに対して石川郎女はこのように歌を返している。「吾を待つと 君が濡れけむ あしひきの 山のしづくに 成らましものを」。私こそ貴方を濡らした山のしづくになり、あなたのそばにいたかったと、実は、石川郎女が大津皇子に会いにいけなかった理由が、次の草壁皇子の歌で解る。
「大名児を 彼方野辺に 刈る草の 束の間も われ忘れめや」。大名児とは石川郎女のことで、草壁皇子も石川郎女の事を愛しており、大津皇子と石川郎女の行動は鵜野皇后に監視されていたのだ。これに対して大津皇子は恋の勝者となる決定的な歌を返している。「大船の 津守の占に告らむとは まさしに 知りて 我が二人寝し」大津皇子は人目を忍んで石川郎女と寝たと言うのだ。
この挑発とも取れる態度は、草壁皇子の母である鵜野皇后の怒りに触れる事になり、大津皇子はさらに皇后の強い監視下に置かれる。