因幡の白うさぎ

島に居た白うさぎが、向かいの大きな丘へ行って見たいとおもって、海を渡る工夫をしていました。ある日浜辺へ出て見ると、ワニザメが居ましたから、「おまえの仲間とわたしの仲間と、どっちが多いか、くらべてみよう。」といいました。ワニザメは「それはおもしろかろう。」といって、すぐに仲間を大勢つれて来ました。白うさぎはこれを見て、「なるほど、おまえの仲間はずいぶん多い。わたしたちの方が少ないかもしれない。おまえたちの背中の上を歩いて数えてみるから、向かいの丘までならんでみよ。」といいました。ワニザメは白うさぎの言う通りに並びました。

白うさぎは一つ二つと数えて、渡って行きましたが、いま一足で丘へ上がろうというところで、「おまえたちは、うまくわたしにだまされたな。わたしはこの丘へ来たかったのだ。」と言って笑いました。ワニザメはそれを聞くと、たいそうおこって、一ばん最後に居たのが、白うさぎの毛をみんなむしり取ってしまいました。白うさぎは痛くてたまりませんから、浜辺に立って泣いて居ました。そこへ神様がたがお通りになって、「なぜ泣くのか。」とおたずねになりました。わけを申し上げますと、「それなら海の水をあびて、寝て居るがよい。」とおしえになりました。白うさぎはすぐ海の水をあびましたが、前よりもかえって痛くなってくるしがって居ました。

そこへ「大國主ノ神」がおいでになりました。この神様は先ほどお通りになった神様がたの弟の方です。兄様方のお供をして、袋をかついでいらしゃったので、おくれになったのです。この神様も、「なぜ泣くのか。」とおたずねになりました。白うさぎは目をこすって、又そのわけを申し上げました。すると神様は「それはかわいそうだ。早く川へ行って、真水で体を洗ってガマの穂を敷いて、その上に転がれ。」とおしえて下さいました。白うさぎがその通りにしますと、体はすっかりもとのように治りました。よろこんで「大國主ノ神」のところへお礼に行って、「おかげさまで、体はこの通りに治りました。」あなたはお情け深いお方ですから、後にはきっとお幸せの良いことがございます。」と申し上げました。その後「大國主ノ神」は、白うさぎの言った通り、偉いお方におなりになりました。


後記
☆因幡の国は鳥取県東部の古名
☆蒲の穂の花粉は古代、薬用とされていました。
☆出雲大社(島根県簸川郡大社町大社)
  大國ノ主神が国譲りに応じてこの地に篭ったことから
  祭神は大國ノ主命ただ一人。

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