電子カルテ運用留意点(自費開発した電子カルテ3年間の使用経験から)

鈴木 湛 耳鼻咽喉科鈴木医院(奈良市)

 

「始めに」    

電子カルテも一般的な医療道具として浸透しつつあるが未だ不慣れな点からその使用にあたっての不安も多い。それらを解消するためにハ-ド、ソフトの導入にあたって様々な工夫が必要である。特に個人の医院では、コンピュータの管理は医師が自ら行えないとその維持は困難になる。場合によっては診療パニックになる。自費開発したペーパーレス電子カルテ 3年間使用した経験から安全便利に運用するための必要なハ-ドの構成と必要なソフト、在れば便利な付帯ソフトを利用して日々の診療を行っているので併せて述べた。

 

「必要なハ-ドのシステム最小構成」

診療所ではハード設置の場所が充分広いわけではないので必要最小限のシステムを構成する場合。

デスクトップコンピュウター2台(サーバーとクライアント)ノートPCも考えられるが壊れやすいので避けたい。

サーバーにはOS、電子カルテ、その他ソフトのインストールされたハードディスクと別に内蔵ミラーハードディスク2台一組(リアルタイムのデータベースのバックアップ用)と外付けハードディスクを装備(毎日データベースのバックアップ用、すなわちサーバー用コンピュータには4台のハードディスクを装備している)

ネットワーク機器(ハブ、ルーター、モデム)インターネット、メールに必要。

レーザープリンター(レセプト、処方箋、文書発行)プリンターはUSB、パラレルポートよりLAN接続の出来るタイプが停止中のコンピュータが在ってもどのコンピュータからも印刷する事が出来るし設定もドライバーをインストールするだけで簡単に使用できる。      このことはコンピュータを交換、増設したときにも設定を簡単にする。

外付けハードディスク(毎日データベースのバックアップ用)これは携帯可能であるから万一コンピュータの盗難があってもデータベースの確保が出来る。

スキャナー(手書き文書入力)デジカメ(レントゲン撮影、顕微鏡写真撮影の画像入力用)画像入力はスキャナーでも可能であるが速度がデジカメに比べ遅い。

液晶タッチパネルモニター(手書き入力用)

スピーカー、マイク、電子聴診器(音声入出力用)その他デジタル診療機器

 

「必要な電子カルテ以外のソフト」

ウィルスバスター  Symantecサーバーバージョンが継続したライセンスがあり、毎年の更新は不要であるが毎日のウィルス定義のLive UPは必ず行いたい。コンピュータで診療中に情報を得るのはインターネットが便利で迅速であるがそのような使用をする場合は必需品である。

スパイウエア排除ソフトは無料ソフトでも良いが、信頼性の高いものが販売されている。

コンピュータ内の個人情報が漏洩しないためにも是非必要である。

ミラー環境監視ソフトはミラーしている一方のハードディスクが壊れた場合監視に必要と考えている。ミラーハードディスクの故障は起動時に画面を見ている場合は判るが、OSが起動してしまうと判らなくなるからである。

FAXソフト(自宅応診)とFAXモデム 休診時自宅や旅行先からノートPCから処方箋を送信出来るので、患者サービスを行いやすく調法している。専用ソフト(Star FAX)を使うとログが残るのでこれを印刷することが出来る。

画像加工ソフト Photoshop 動画加工ソフト これらは敢えて導入の必要はないが、データのボリュウムを調整やデータ形式を変換、編集する必要がある場合は導入しておくと便利である。

Office 電子カルテ内のデータの一部整理印刷や、informed consent のための文書、画像をpresentation の為に利用している。

 

「データのセキュリティーの確保の為に」

小規模医療機関では、休日、夜間にコンピュータの盗難が予想されるので、十分なセキュリティーが病院同様に必要になる。

 

1.漏洩防止のため)

1.  コンピュウターの盗難に備える

2.  Biosにパスワード

3.  OSにパスワード

4.  電子カルテにパスワード

5.  データベース内の個人情報暗号化

などが考えられるが、123.は第三者によって破ることが比較的簡単に出来る。

45.は電子カルテ内の個人情報暗号化を前提にシビアな安全性が確保出来る。 現段階で最も安全な方法と考えている。もちろんログインするID、パスワードも暗号化してあるのでこれを破るのは極めて困難であり、ハッカーがあってもデータベースを読み取る事は難しいと考えている。

2.その他データ保全のため)

1.  バックアップ(DVDへコピー)

2.  医療機関外でデータベースの保管

3.  ミラーサーバーの設置

4.  診療時間外には外付けハードディスクの  院外保管

等が考えられる。

 

「診療パニックにならないための故障対策」

1.大きな故障予防の為に)

l 定期的にコンピュータを点検する。

l 特にコンピュウターを加熱させない注意が必要にもかかわらずなおざりになりやすい(FANの点検ケース内の埃の除去を怠りなくする)。

l 壊れる前に機器を更新する。

l 冷却装置の故障はあまり気に付かないがハードディスクや他の部品の故障に繋がる。ケース内の埃の蓄積も同様である。マウス、キーボード、ディスプレーの小さな故障が在れば直ちに修理又は交換する。

l コンピュータの寿命を考慮して定期的にコンピュータの更新をする。

l コンピュウター知識を持ち故障時の訓練を体験する。

2.故障が生じた場合に必要な技術及び知識)

l OSインストールができる、電子カルテソフトのインストールができる。

l OSは多ライセンス版を所持しておかないとインストール出来ない場合が多い。同様に電子カルテインストールCDの所持することは当然である。

l コンピュウター機器接続が直ぐ判る。

 

「ウィルス対策」

電子カルテコンピュータでインターネットが出来ると便利な使い方が可能である。例えばレセプトデータの更新、電子カルテのバージョンアップ、OSのバージョンアップ、医療関係の知識の検索、院外医療機関と情報交換などが考えられる。この場合ウィルスの侵入とスパイウエアの侵入には十分な対策が必要である。特にウィルスはコンピュータを壊してしまうしその修復は膨大な時間と知識が必要となる。対策としてアンチウィルスソフトの導入。OSのインストールされたハードディスクとデータ格納したハードディスクを別にする。

そのようにしておくとウィルスはOS部分に侵入することが多いのでこのパーテーションを初期化OS,電子カルテソフトの再インストールで解決出来る。データを失わない為にこの対策は有効である。

時としてコンピュータ故障はハードの故障かドライバーソフトの故障判らない場合がある(ウィルス感染もあり得る)ので以下の対応を試みるのも一方である。

l 取り敢えずドライバーの再インストールを試みる。

l その為にドライバーソフトを手元におく。使用中のコンピュータにデータと同じ場所に保存するのも良い。

l ドライバーの再インストールが可能でコンピュータの機能が回復しても必ずウィルススキャンをする。

 

「その他故障対策」

ベンダーが直ぐ近くにいるのが理想であるがまれなケースである。その為にハードを重複所持し試運転をしておく(コンピュウター音痴には同じ機種が良い)。

データを絶えずバックアップするなどの用心は必要。

l 逆バックアップには要注意、旧→新はよくおきる事故

l 電子カルテは自動バックアップになっている必要がある

 

「アプリケーションソフトのインストール」

ソフトは時に相性の悪い物がある。同居させるとコンピュータが動かなくなる場合もあるので気まぐれに何でもインストールするのは危険である。特にダウンロードしたソフトには、スパイウエアが含まれている場合もあるので注意が必要である。あらかじめベンダー相談し、別のコンピュータで試験使用して、電子カルテ運用に差し支えないことを確かめてから、日常使用しているコンピュータで使用するくらいの注意はするべきと考えている。

 

「終わりに」

 自費開発したペーパーレス電子カルテを3年間使用した。

電子カルテシステムの3原則の1つである保存性を確保することは、快適な日常診療の道具となるための大切な要素である。

電子カルテはハード、ソフト、データのセキュリティーを確保出来てはじめてスムースな運用が可能となる。

電子カルテはその運用に慣れると便利な道具で入力速度もスピーディーになってくる。 その機能は益々充実していくものと考えている。但し慣れる為に多少の時間が必要であり医療機関で区々な画面構成をある程度標準化するのが望ましいと考えている。

コンピュウターの故障に備えて電子カルテソフトがインストールしてあるコンピュウターの重複備えがベターであるが小規模医療機関としては難しい。そこで信頼のあるアンチウィルスソフトの導入。データのセキュリティーの確保ではレイド機能によるミラーハードディスク取り付けによるリアルタイムのバックアップ、毎日一回外付けハードディスクバックアップと医療機関外保管、真証性を裏付けるため、1ヶ月~数ヶ月毎にDVDRにバックアップ、ハ-ドの故障に対して小部品も複数所持などが必要不可欠と考えられる。更に雷、停電の備えなども必要となる。

データベースの漏洩防止にはコンピュータのBiosOS、電子カルテにパスワードを設けるだけでは不十分と考えデータの暗号化が必要と考えている。

ハ-ド、ソフトとも診療中に問題が起こるとパニックになる。データの漏洩があると事態は更に深刻になる。それに備え医師もある程度コンピュウター技術に精通しておくことが大切と考える。

 

「参考文献」

1.   鈴木康弘. 電子カルテ体験物語 http://homepage3.nifty.com/sinkei/ecal.htm

2.   鈴木 湛 医科医向け電子カルテ開発に当たって 耳鼻咽喉科展望 第46巻 補冊 第3号 耳鼻咽喉科情報処理研究会 論文集 vol.3 2003

3.   鈴木 湛、山西 賢二.  耳鼻咽喉科における電子カルテの1例 23回日本医療情学連合体会論文集  2003

4.   ワコム http://www.wacom.co.jp/

5.   著者のホームページ http://www.kcn.ne.jp/~suzukisi/

6.   鈴木 湛. 開発したペーパーレス電子カルテの特徴と標準化データベースへの提案 臨床と薬物治療 20043 P63P66

7.   鈴木 湛、山西 賢二. ペーパーレス電子カルテ 24回日本医療情学連合大会論文集  2004年

8.   鈴木 湛、電子カルテのセキュリティー(データベースの暗号化について)2005耳鼻咽喉科展望 第47巻 耳鼻咽喉科情報処理研究会 論文集 

9.   中川雅文、耳鼻咽喉科診療における電子カルテ 日本耳鼻咽喉科学会専門医通信 第8612P13P


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