開発したレセコン付ペーパーレス電子カルテの特徴と標準化データベースへの提案 
奈良市 耳鼻咽喉科 鈴木医院 鈴木湛
 

電子カルテ自作の動機

  1. 既存のレセコンは高価過ぎる。
  2. 折角のレセコンを導入しても人件費の節約になるどころか、かえって浪費に繋がる。 入力に人手がかかる。手書きならDrが診療中に可能なのに……
  3. データはレセプト請求以外何の診療の役にもたたない。
  4. 又既存の電子カルテは手間暇かけて入力しても、やはりデータの垂れ流しであり、統計処理や抽出機能も無い。その上入力がレセプト請求の役には立たない。
  5. メンテナンスに費用がかかりすぎる。
  6. フロッピーでレセプト請求可能の時代が近々やってきた。
  7. カルテのハードコピーでの保存の必要性が無くなる法政化が行われた。
  8. データが最初に導入したソフトに独占されてしまう。 メーカーは データをユーザのものであるとは考えていない。この事は非常に重大で一端導入したメーカーから縁を切る事が出来ない。
  9. 電子カルテはレセコン付電子カルテが経済的で、入力のスタッフの省力化が可能になる。
  10. 原因は、ほとんどの既存の電子カルテは、プログラマー主導で、作られているように思える。そこで医側主導で、電子カルテを作ったらどうなるであろうかとの考えから今回自分で開発した。又機能がUPするに従って自分では手に負えないレベルになった部分はオーダーした。


電子カルテの構想と機能

  1. 人件費が節約出来るように設計する。 そのためレセプト機能を持つ事は当然であり、カルテ入力時レセプトも入力出来るシステムとした。また窓口での作業は新患登録と受付、レシート発行だけ、会計計算は電子カルテが行い一人で充分こなせるようにした。そこでの余剰人員をカルテ入力に回すと、Drがカルテ入力に追われて患者の顔もろくに見ないと言う弊害を解消出来ると考えた。(図1
  2. 度重なる法改正に対して出来るだけユーザ自身が簡単にロジックや保険点数を交換出来るようにする。 プログラマーに世話になるのを出来る限り避けようと考えた。診療報酬情報提供サービスのホームページを利用させて頂き、一度に大量のデータを交換出来るシステムとした。(図2
  3. 入力画面はSDI(Single Document Interface)形式を採用してメニューバーを撤廃し、すべての操作を画面上の処理の名前を記述したボタンを選択することで可能になるようにした。こうすることで1つの画面内の操作が限定されてイメージを捉えやすくなり、ボタンにかかれている文字情報から画面の展開を覚えやすくなった。この事はワコムタブレットの操作性も良くしていると考えている。
  4. 様々の項目にコードNoを持ち、後日の統計などの処理に答えられるようにする。 データの垂れ流しはつまらない。ワープロ入力は極力少なくして、あらかじめユーザが自分でマスター登録して用意したリストからクリックダウンする方法で入力する。 ワープロが下手でも入力は簡単にする。こうすることによって将来のバージョンアップ(統計処理等)が可能になる。(図3
  5. 投薬、処置、検査、診療行為などのセット入力も可能にした。セットの組み合わせもユ-ザが設定出来るように考えた。又保険制度のロジックが多少変わっても簡単に修正出来るようにした。(図4)
  6. 入力ミスや診療ミスも少なくする。例えば患者登録では、同姓同名チェック、保険番号の桁数、文字の種類にもエラーメッセイジが、投薬では、組み合わせ不適合薬剤、不適当病名、薬剤適応症の表示が出来かつ後者のメッセイジはユ-ザ-の都合、医学情報の変化に合わせてユ-ザ登録出来ることにした。
  7. 信頼できるデータベースソフトは高価である。そこで無料のMSDE(Microsoft Databace Engine)とmdb(Multimedia Databace format)を利用した。MSDEからmdbに出力することは可能であるから数ヶ月分を出力し、電子カルテはこのデータベースにも対応することとした。これは、データベースをノートPCで持ち出すことができ、自宅や旅行先での応診対応を可能にするためである。この電子カルテは両方のデータベースに対応している。(図5この事はデータの保存性の向上にも貢献している。(災害に対してデータの保全)MSDEは簡単に上級のSQLデータベースにバージョンアップ出来るので、システムが病院用に開発が進んでも直ぐ対応する事が出来る。
  8. 入力方式:(図3以外に自由記載が出来る画面を設けワープロ入力以外に文書の音声入力も可能にした。IBM VIAVOICE V.10  VIAVOICEI用医療用辞書を組み込んで文字変換精度の向上を計った。予め用意した定型文を呼び出して編集する事も出来るようにした。もちろん定型文はユーザが自身でマスター登録できる。
  9. 患者登録画面は、磁気媒体のレセプトがスムースに作れるように、入力項目の辞書設定、入力ミスを防ぐためのメッセイジの表示、患者検索機能、領収書発行機能も備えている。(図6)
  10. 処方箋入力もクリックダウンして行うことで、ミス入力を防ぎやすくなった。投薬の禁忌、飲み合わせ不適合もユーザーの必要と、医療状況の変化に応じてユーザー登録する事によって、処方画面に表示するようにした。(図7)
  11. 画像登録:(図8写真画像の取得、手書き、テンプレートからの図に追記記載、白紙画面を用意してあるのでワコムタブレットを用いて手書き文字入力も可能である。
  12. グラフ機能:(図9耳鼻咽喉科医にとって電子カルテをペーパーレスで運用するためにオージオグラムの記載は必須である。画像として取り込みは時間がかかるので是非とも必要と考えた。この機能は眼科視野測定や麻酔科の麻酔経過用紙、看護記録の熱記録表にも利用できる。グラフはユーザが自分必要な形式を作成しマスター登録して診療録から呼び出して使用する。もちろん計算式も登録しておけば(平均聴力4分法、或いは平均体温、平均血圧など)これを計算表示する。入力はマウスでプロットするだけであるから、手書きより速い。純音聴力検査(図9語音聴力検査表(図10)に示した。
  13. 音声記録:(図11はコンピューターのマイク入力で行う。音声波形が表示出来るので、これをX軸、Y軸に拡大表示させれば、波形からの診断の研究と可能性を期待できる。電子聴診器を使えば心音図も記録できる事になる。一時間の録音を1.5Mに圧縮出来たので、精神科の音声カルテにも利用し保存してもデータベースに負担を与えることは無い。
  14. 電子書庫:(図12診療用のデータを格納して、診療時必要な時データを表示して利用する。WordExcelPowerPoint、などのファイルが保存できるので、インフォームドコンセントの為のデータ、薬剤の体重換算表を保存して必要に応じて表示使用している。
  15. データベースの一元化:(図13安価なソフト供給が出来る為と安価なハードウエアーの構築を可能にしている。画像、音声、グラフ、電子書庫に登録するデータ圧縮加工の技術を開発することで可能にした。データベースの多元化による高コストを回避でき、ソフトの乗り換えも簡単になり、バックアップ作業の単純化、データの保存性の向上にも繋がる。
  16. 標準化データベースの提案:データベースの一元化は多元データベースに比べメリットが多い。日医提供のレセコンORCAシステムと連動の電子カルテは二元化を避けられない。ORCAがバージョンアップすれば連動する電子カルテのバージョンアップが必要になり、高コストになると予想する。一元化データベースの欠点(画面表示遅くなる)も圧縮技術の開発で克服したので、充分利用価値があるデータベース構築方法と考える。
  17. 開発言語はVB,VC++である。


電子カルテを制作しながら思うこと

  1. 電子カルテの制作の困難はレセプト部分である。保険制度があまりに複雑であるので、簡便入力のロジックを考えるのに、コンピューターで自動判断させるのには、無理が在り、人間の判断がどうしても必要になってくる。又度重なる保険制度の変更はそれに拍車をかける。電子化を望む行政の姿勢の問題が指摘される。年号の和暦使用の廃止、保険証の文字使用(記号・番号)の統一はプログラミングの簡素化と入力時のチェック機能の向上の為に是非望みたい。
  2. データベースはコンピューターの備えられた建物に天災、火災などが在ると消失する可能性は大である。mdbに出力出来ることは、データの保存性の向上に繋がる。
  3. 近年医療財政が厳しくなってきましたが、対策の一つに保険審査の簡素化が在ると思う。電子化を押し進めることで、フロッピーでの保険請求が行き渡れば保険審査の簡素化に繋がる。これにともない医療費の節減が可能なり患者負担や医療機関の収益減少を少しでも緩和出来るなら行政はさらに積極的に電子化をも働きかけ導入を志す医療機関には援助するべきと思われる。入力の複雑さの解消はソフトと、保険制度の簡素化、医療機関のスタッフの考え方次第でもある。多数の患者を診察してカルテの記載が出来ないとの考えは、インモラルである。 医療もIT革命という世間の情勢に従うべきであり、そうすることで医療環境の悪化防止に協力出来る可能性があると考える。
  4. フロッピーでの保険請求は将来の通信セキュリティーが確立すれば、メール送信でも可能である。現状では紙の総括表の提出が必要であり、折角の制度を色あせたものにしている。簡単なソフト開発によって支払い基金側で総括表が作れるはずである。紙レセプトにしても、色違いの国保総括表は、医療機関の仕事の煩雑を増す要因となっている。行政対応を強く望みたい。


終わりに

制作した電子カルテは健一君と命名した。今後更にバージョンアップをして、入院、病院に必要な機能を付け加えて行きたい。諸氏のご協力を期待したい。


参考文献と参考ホームページ

1.   http://202.214.127.149/   診療報酬情報提供サービス

2.   http://www.sqlpowerpage.co.jp/  sqlpowerpage  SQL専門サイト RDBMS

3.   http://www.microsoft.com/japan/sql/techinfo/development/2000/MSDE2000.asp SQL Server 2000 Desktop Engine (MSDE 2000)

4.   http://www.microsoft.com/japan/technet/treeview/default.asp?url=/japan/technet/security/virus/sqlslam.asp  SQL Server および MSDE を標的とした SQL Slammer ワームに関する情報

5.   http://www.ann.hi-ho.ne.jp/hirok/sql/ ようこそ、「SQLプログラミング入門」ホームページへ

6.   http://homepage2.nifty.com/inform/vbdb/ VB MDB, MSDE, SQL Server, Oracle を操作しよう

7.   西尾 章治郎.実践SQL教科書 マルチメディア通信研究会 アスキー 東京 1996

8.   http://www.orca.med.or.jp/  日本医師会研究事業プロジェクト[オルカプロジェクト]

9.   http://www.debian.org/    Debian について

10.  http://www.shiharaikikin.go.jp/  社会保険診療報酬支払基金

11.  http://homepage3.nifty.com/sinkei/ecal.htm  鈴木康弘. 電子カルテ体験物語 

12.  鈴木 湛、. 医科医向け電子カルテ開発に当たって 耳鼻咽喉科展望 第46巻 補冊 第3号 耳鼻咽喉科情報処理研究会 論文集 vol.3 2003

13.  鈴木 湛、  山西 賢二.  耳鼻咽喉科における電子カルテの1例  23回日本医療情学連合体会論文集  2003

14.  山西 賢二、 鈴木 湛.  ペーパーレス電子カルテ 23回日本医療情学連合体会論文集  2003年 

15.  http://www.wacom.co.jp/ ワコム

16.  http://www.kcn.ne.jp/~suzukisi/ 著者のホームページ


この論文は2003年4月7日金沢医科大学、耳鼻咽喉科情報処理研究会、

2003年11月第23回日本医療情報学会に発表電子カルテの名称を健一君とした。

2004年2月29日横浜私立大学医学部、耳鼻咽喉科情報処理研究会で発表した。

臨床と薬物治療 2004年3月号 P63~P66に掲載した。

2004年11月第24回日本医療情報学会バージョンアップして発表した。 

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