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目次

はじめに

1 か ぜ

2 生 活 習 慣 病

3 肥 満 症

4 高 血 圧 症

5 糖 尿 病

6 健 康 と ミ ネ ラ ル

7 歯 の 衛 生

8 うつ状態・ノイローゼ

9 そ こ ひ

10 難 聴

11 補 聴 器

12 人 工 内 耳

13 め ま い

14 い び き

15 花 粉 症

16 ア ト ピ ー 性 皮 膚 炎

17 肩 こ り 

18 腰 痛

19 頭 痛

20 脳 外 科 的 疾 患

21 脳 動 脈 瘤

22 狭 心 症

23 肝 炎

24 腎 炎

25 貧 血

26 喉 頭 癌 と 喫 煙

27 胃 癌 と 肺 癌 

28 大 腸 癌 と 痔

29 前 立 腺 肥 大 症

30 乳 癌 と 子 宮 癌

31 甲 状 腺 腫

32 癌 の タ ー ミ ナ ル

33 老 人 性 痴 呆

34 老 人 性 掻 痒 症

35 骨 粗 鬆 症

36 嚥 下 障 害

37 寝 た き り 老 人

38 公 的 介 護 保 険

39 電 子 カ ル テ

40 リ ス ク マ ネ ー ジ メ ン ト

 

健 康 の 心 得

酒 井 俊 一

はじめに目次へ

 数年前に香川経済研究所から依頼を受け、機関誌のMyHealthのページに三十回ほど連載したことがあります。今回、それを元にして、多少追記した形で四十項目に纏めてみました。

 読者諸氏がすでにご存じのことであればそれで良し、一言でも健康の心得が増えればさらに良しとしてください。

 私は耳鼻咽喉科が専門ですが、特に耳鼻咽喉科領域に発生する癌の治療に強い関心を持ちました。大学を停年退官してからは民間病院に勤務し、併設されている老人保健施設の施設長をさせていただき、最近では御老人を診る機会も多くなりました。

 いづれの項も読み切りの一口メモとして書きました。目次の括弧内は主題に関連した疾患で、本文中に少し触れています。

 若い頃から病気の予防、十分な睡眠、適当な運動、バランスのとれた食事に心掛け、定期的健康診断や症状によっては必要な検査を受け、病気の早期発見、早期治療の時期を逃がさないように、そして健やかな老後を迎えるようになりたいものです。

 

1 か ぜ目次へ

 【概念】かぜは万病の元と申します。かぜ位に負けていられないと言って、つい無理をすると取り返しのつかない事態になります。

 特に、夏の夜クーラーつけっぱなしによる夏かぜが増えています。

 かぜは医学用語ではかぜ症候群とか感冒といいます。診てもらう医師によっては急性鼻炎、急性咽喉頭炎、急性上気道炎などと主な病変部位をとらえた呼び方もいたします。

 普通のかぜは伝染しませんが、インフルエンザによるかぜは伝染します。

 【万病の元】かぜが万病の元と言われるのは、かぜが全身の病気だからであり、難しくいえば、自律神経失調状態になっていますので、体の調節力が弱り、すべてに対する抵抗力が弱くなるからです。

 したがって細菌感染を受け易く、肺炎に移行することも少なくありません。食欲もなくなり、下痢を起こすこともよくあります。糖尿病や心不全などの持病が悪化することも多いのです。

 【症状】さむけ、くしゃみ、水ばな、のどの痛み、咳、微熱、高熱、など。インフルエンザの場合は高熱、関節痛、筋肉痛、嘔吐、下痢、など。

 【検査】特に、必要はありませんが、十日以上長引くようであれば、胸の写真を撮るとか、血液検査を受けるとか、持病が悪化していないかなどを検査してもらわなければなりません。

 【治療・予防】安静保温がもっともよい治療です。昔から言われるように、たまご酒を飲んで寝るのもよく、市販のかぜ薬も有効ですが、何より早く床に入ることです。

 少し長引くようであれば、病院を受診し、解熱剤、鎮咳剤、抗生剤を処方してもらいましょう。

 日頃から規則正しい生活と適度の運動を心がけることは、かぜを予防するのに役立ちます。

 【インフルエンザ】インフルエンザ・ウイルスによってかぜ症候群ですが、ウイルスの種類によって香港かぜとかシベリアかぜとか、A型とかB型とか言われます。

 通常のかぜとは異なり、高熱、頭痛、全身倦怠、嘔吐、下痢、関節痛、筋肉痛などを伴ないます。症状が強く伝染力がありますから、特に、老人、子供は注意が肝要です。毎年、多くの人々が肺炎を併発して死亡されてます。

 鼻汁からインフルエンザ・ウイルスを同定すれば診断は確実です。その場合、抗ウイルス剤を早期に吸入すれば症状が軽く済みます。

 しかし、何より大切なことは、毎年秋口にワクチン接種を受けることです。ワクチンにはいろいろな型のインフルエンザ・ウイルス抗原が混合されていますから、いづれの型にでも有効です。最初の年は一か月の間を開けて二回接種しますが、二年目からは一回の接種で十分です。

 

2 生 活 習 慣 病目次へ

 【概念】肥満症、高血圧症、高脂血症、痛風、糖尿病、動脈硬化症、などをまとめて、昔は成人病と言っていましたが、最近は生活習慣病と呼んでいます。それは好ましいライフスタイルによって予防でき、逆に不摂生な生活習慣を続ければ進行が促進されるからです。

 これらの疾患は互いに密接な関連にあり、一つの疾患が他の疾患の原因になります。その意味でもまとめて生活習慣病という表現は正しいのです。

 これらの疾患群の中でも最後に来るのは動脈硬化症です。冠動脈では狭心症や心筋梗塞になり、脳動脈では脳出血、脳梗塞を起こし、また大動脈破裂など、いづれも死因に直結するからです。

 【症状】肥えすぎ、関節の痛み、糖尿、高血圧の他に、疲れやすい、めまい、頭痛などの不定愁訴が出てきます。しかし、本当はそのような症状が出てからでは遅いのです。

 【検査】会社や地域での定期健診は必ず受けましょう。そこで「ちょっと血圧が高い」「血清コレステロール値が高い」「糖尿が出ています」「血清尿酸値が高い」「少し肥えすぎです」などの答えが帰ってきますと要注意です。

 【予防】これらの疾患の原因は何でしょうか。遺伝、体質、加齢はいずれも関連性がありますが、これは自分で避けることはできません。一方、日々のストレス、美食、過食、不規則な食事、アルコールの飲み過ぎ、喫煙、そして運動不足は生活習慣に由来する原因です。これらの原因を遠ざけることは努力によってできることです。

 ストレスの発散手段に、酒・煙草は即効的ですが体には良くありません。むしろ計画的に一日の時間割を立て、職場と家庭とで気分の切り替えを上手にするべきです。熱中できる趣味を持つことは最もよい方法です。趣味が老化予防に役立つことは言うまでもありません。

 食事時間を規則正しくすることは実際には困難な場合も多いですが、少なくとも食事はゆっくり時間をかけていただきましょう。

 最近、赤ワインに含まれるポリフェノールがLDLコレステロール(悪玉)を減少させ、動脈硬化を予防することが明らかになりました。私が医師になった頃の病院では、食欲亢進剤として食前に赤ワインの少量を処方したことがあり、目的は違いますが符合するものがあるようです。

 現に肥満症、糖尿病の方は食餌療法が欠かせませんが、健康者でもその食事療法を勉強し、取り入れることは良いことです。

 適当な運動とは、毎日一万歩と言われる通りです。休日のゴルフ、テニス、水泳など良いですね。

 煙草は脳血管を収縮させ、癌の原因にもなりますから、やはり禁煙することでしょう。

 

3 肥 満 症目次へ

 【概念】心ならずも美食、過食傾向となり、体重が気になる方が多いのではないかと思います。肥満は、高血圧、心臓疾患、糖尿病、動脈硬化症の予備軍(生活習慣病)と言ってもよい状態ですから、真剣に取り組みませんと取り返しがつかない事態になります。

 小児期から肥満がありますと、動脈硬化症などの危険性は一層高くなります。また、心肺機能が低下したり、肝障害を起こすこともありますので、用心しなければなりません。

 【検査】一番よく使われる標準体重は、(身長-100)×0.9です。すなわち、身長170センチであれば標準体重は63キロになります。標準体重を20%以上オーバーすれば肥満症と診断しますので、身長170センチの方が体重76キロ以上になると肥満症です。また、体内脂肪量を示す指数としてBodyMassIndexBMI)を使います。

 すなわち体重(キロ)÷身長(メートル)2乗を計算し、その標準的指数は22です。肥満学会では、この値が26.5以上になると肥満症と判定しています。腹壁の皮膚を摘みあげて厚さを見るのも簡単な方法です。

 ちなみに、痩せすぎの判定は16.5以下です。若い女性は御注意ください。

 病院では内分泌性肥満(糖尿病、甲状腺機能低下症など)、視床下部性肥満(自律神経異常)、遺伝性肥満、薬剤性肥満(ステロイド剤、避妊薬など)の有無を検査いたします。そのような疾患が見つからない時は単純性肥満と診断します。

 【治療・予防】肥満の原因疾患が発見されればその治療をおこないます。肥満の治療と予防はまず食養生です。そして適当な運動が大切です。

 まず、強い意志を持つことが出発点になります。体重を測定しグラフに記入し、一日の摂取量のカロリー、脂肪、蛋白質を、常々気にかける必要があります。最近は、会社の食堂などにも、今日のメニューのカロリーや成分表が貼られているのを見かけます。

 低カロリーの食物として、おから、海草、野菜、こんにゃくがあります。脂肪の少ない蛋白質食品は、いか、たこ、えび、かに、貝類などです。丁度、糖尿病の食餌療法と同じでよく、基準値としては一日1600Kcalとされています。血清コレステロール値が別の指標になります。HDLコレステロール(善玉、運動により増加)を高く、LDLコレステロール(悪玉)を低くと言うことも常識になっています。よく咀嚼し、食事時間を長くかけることが大切です。時間をかけると、血糖が上昇してきますので満腹感が得られるからです。

 世に言うやせる薬は必ず副作用がありますから、お勧めできませんし、断食療法などの荒療治もそれほど有効ではなく、体を壊す危険性があります。

 太った人に悪者なしと言いますが、太った人が長生きできないのも確実なようです。

 

4 高 血 圧 症目次へ

 【概念】血圧が正常範囲を越えて高くなると、脳血管の出血が心配になります。また、動脈壁が固くなり、弾力性が悪くなると壁が脆くなり、脳血管が破れ易くなります。動脈硬化症は血管の内腔が狭くなり、血流が悪くなりますので、脳梗塞や心筋梗塞が心配です。

 【検査】血圧の正常範囲は一概には言えませんが、目安としては、最高血圧は150、最低血圧は90とされ、それを越えると高血圧症と診断されます。特に最低血圧が高いと動脈硬化症とされます。

 血液検査、心電図、腎機能、眼底検査、脳波検査、脳のCT検査、脳のMRI検査など、その原因や程度を調べます。

 【自宅で血圧測定】体温計、体重計と同じように、今日では血圧計を各家庭に備え、自分で測定されている方が多くなりました。高血圧がない方でも、日頃の血圧に注意する気持ちが大切です。特に、朝起床時に測定すると、他の要因に影響されることが少なく、一日のうちでは一番高い価が得られます。

 指や手首で測る簡便な血圧計もありますが、誤差が多いので、腕に巻く血圧計を求めてください。そのようなデータを持って病院に行けば、より適切な治療を受けることができます。

 運動した後、食事の後、飲酒の後で測定して見てください。血圧は起床時よりも下がっている筈です。それで安心するのは間違っています。

 【治療】もし高血圧の原因と見なされる心臓や腎臓の疾患、糖尿病や内分泌疾患などがあれば、その治療が先決となります。そのような原因疾患が見つからなければ、本態性高血圧症または高齢に伴なう高血圧症ですから、その程度に応じて、血圧降下剤の内服を続けます。

 降圧剤をのんでいるから少しくらい不摂生をしてもよいと思うのは本末転倒です。降圧剤の量が多すぎると、立ちくらみ、めまい、などの副作用が出てきますので、かかりつけ医によく相談し、薬の量を加減してもらってください。

 【食事療法など】食事療法は特に大切です。中でも食塩を少なくすることです。味付けは薄味にし、ラーメンやうどんの汁は飲まないように、漬け物、塩昆布、塩から、などは敬遠しましょう。血中コレステロールを下げるために、動物性脂肪は少なく、魚の内臓、卵黄を制限します。繊維質の多い食物を多く取り便通を整えます。唐辛子やカレーなど強い刺激物は少なくします。アルコールは原則として禁止いたします。

 少々の高血圧はこれだけで治りますが、さらに大切なことは規則正しい生活、適当な運動、精神的ストレスを避ける、十分な睡眠をとる、急に寒いところに出ない、熱い湯の入浴を避ける、など日常生活での注意を守ることです。

 

5 糖 尿 病目次へ

 【概念】現在の成人病で一番多いのが糖尿病と言われています。しかし子供でも、若い方でも糖尿病はありますので油断はできません。一般に肥満体質の方に多く見られますが、痩せ型の人でも糖尿病はあります。

 糖尿病が続きますと血管が脆くなり、脳動脈出血や心筋梗塞を起こしやすくなり、網膜症、腎症、神経障害が起こりますし、時には大動脈破裂や脳症のため死亡する危険性もあります。

 【症状】疲れやすく、のどが渇きます。症状が全くなく健康診断で見つかることもあります。もし糖尿病の合併症が出れば、視力低下、手足のしびれ、片麻痺、意識混濁などが起こります。

 【検査】糖尿病は文字通り尿中に糖が出る病気です。試験紙で尿糖を検査します。尿糖が(+)の方は、空腹時の血液中の糖を測定します。もし空腹時血糖値が140以上あり、食後2時間後も200以上あれば異常です。

 必要に応じて、眼科、神経内科科、外科などを受診しなければなりません。

 【治療】症状によって入院が必要な時もありますが、ここでは自宅での治療に限ります。まず糖尿病教室、啓蒙書、患者交流会に加入などにより糖尿病を勉強してください。

 食事療法でカロリーを制限いたしますが、栄養素のバランスを考えた食事が大切です。毎日の調理をされる方と一緒に栄養指導を受け、「糖尿病治療のための食品交換表」を座右におき、一日の摂取カロリーを正確に守ります。80キロカロリーを一単位として計算するための一覧表ができています。

 重症度、男女によって異なりますが、例えば、一日に1600カロリーに制限されますと、蛋白質、ビタミン、無機塩類など必要不可欠な栄養素だけで一日800キロカロリーになりますので、残りを主食で摂取します。

 主食の目安は御飯軽く一杯、食パン一枚、うどん一玉がそれぞれ200キロカロリーですから、一日で600キロカロリーとなり、お酒や間食は残りの200キロカロリーしか許されません。

 同時に運動療法が大切です。安定期に入れば、運動を積極的に行うようにいたします

 通常、多少の内服薬を手伝わせますが、血糖値が下がらなければ、インスリンの自己注射が始まります。朝晩時間を決めて自分で血糖を測定し、自分でインスリンを注射いたします。インスリンを持続的に送る機械を埋め込む方法(人工膵臓)も研究されていますが、まだ実用段階ではないようです。

 【予防】糖尿病は遺伝的要素もありますが、生活習慣病ですから、子供の頃から間食を少なくし、肥り過ぎないように注意してください。健康な人でも、糖尿病の食事療法と運動療法を取り入れますと、糖尿病の予防になるだけでなく、もっと健康な体になり長生きができるでしょう。

6 健 康 と ミ ネ ラ ル目次へ

 【概念】五大栄養素という言葉を聞かれたことがあるでしょう。人間が生きて行くために欠かすことができない栄養素を分類しますと、五つのカテゴリーになります。

 すなわち蛋白質、脂肪、炭水化物、ビタミン、ミネラルです。ミネラルは無機物質、金属元素のことですが、そのミネラルは比較的沢山必要なものとごく少量摂取すれば良いものとがあります。

 食塩(塩化ナトリューム)、カリューム、カルシューム、燐、マグネシューム、鉄、ヨード、などは前者に属します。食塩、鉄は血液の成分、カリュームは細胞液に多量に含まれ、カルシューム、燐は骨の成分、ヨードは甲状腺ホルモンの成分としてよく知られています。それぞれ後述の腎炎、貧血、骨粗鬆症、甲状腺疾患のところで触れますので、ここでの説明は割愛します。

 一方、亜鉛、銅、マンガン、ニッケル、コバルト、モリブデン、セレン、硫黄、珪素、弗素、錫、バナジウム、鉛、などは必要な微量元素とされています。これらの中には毒性元素もありますから、体内でどんな役に立っているのかと思われるでしょう。

 【微量元素の役割】これらの微量元素の役割はまだ十分に解明されていません。むしろ最近になって重要性が認識され始めてというのが本当です。

 たとえば、亜鉛が欠乏しますと、味覚、嗅覚が障害されます。

 銅は鉄と共に血液中のヘモグロビンを作る時に必要です。

 コバルトがビタミンB12を吸収するために必要だとか、マグネシュームが筋肉の伸縮に必要だと言うことも比較的最近の知見です。

 美しい髪の毛には硫黄を含むアミノ酸が大切だということが明らかになっています。

 【ミネラルの摂取】これらのミネラルは食物として摂取しなければなりませんので、それぞれのミネラルを多く含んだ食品を知らなければなりません。

 ここでは特に微量元素を含む食品をあげておきます。

 亜鉛・・・貝類、特に牡蠣、海苔

 銅・・・・貝類、特に牡蠣、ゴマ、牛レバー、かに、えび

 マグネシューム・・昆布、ゴマ、大豆、紫蘇

 硫黄・・・牛乳、卵

 それに赤身の牛肉はいずれのミネラルも含んでいます。

 これらは特別な食品ではなく、むしろ日常的な食品です。従って偏らずに食事をすればミネラル欠乏症になることはありません。

 しかし、中心静脈栄養のように長期に点滴注射だけで栄養を保つ場合や、長期に腎透析を続けている人はミネラル欠乏症になることがありますので注意が肝要です。

 その場合、ミネラルが配合された点滴注射をすることがあります。

7 歯 の 衛 生目次へ

 【噛む効用】歯の健康については再三聞かされる機会があります。むし歯になったり、歯が無くなりますと、歯の有り難みが分かりますが、それでは手遅れです。岩本はよく噛むことがもたらす効用を次のように述べています。

 1 精神安定効果 

精神的な満足感が得られます。

 2 覚醒効果 

運転中のねむけ防止にチュウインガムが勧められます。

 3 脳の活性効果 

噛むことが脳内温度上昇、脳内ホルモン増加があったという実験があります。マウスの迷路実験で、固い餌で飼育した群の方が、柔らかい餌で飼育した群よりも、有意に優れていたそうです。

 4 痴呆防止効果 

統計的にアルツハイマー型痴呆という老人性痴呆にかかる危険要因として、歯の喪失が有意差を示したそうです。

 5 肥満防止効果 

よく噛んで食べると食べ過ぎを抑え、肥満防止につながります。歯が良ければ線維性食品も多くとることになり、便通をよくする結果になります。

 6 体力増強効果 

瞬発力を要するスポーツでは歯を食いしばって力を出します。小学校の児童で50メートル競争と懸垂回数を調べると、咀嚼良好群の方が有意に優れていたそうです。老人ホームで平均年齢80歳の老人について、日常生活能力(ADL)と咀嚼能力とは明らかに相関関係が認められたそうです。

 7 がん予防効果 

発がん性物質は唾液によって抑えられます。線維性食品が大腸がんの予防になることは上にも書きました。

 【予防】歯が失われる原因は齲歯(むし歯)と歯周炎(以前は歯槽膿漏と言われた)ですから、その予防と治療が大切になります。

 そのためにはまずバランスのとれた食生活(カルシウム、蛋白質、甘いものは少なく)、よく噛む習慣、上手に歯を磨く、などに気を付けましょう。

 上手に歯を磨く方法は、歯と歯のすき間、歯と歯ぐきのすき間に歯ぶらしの先を立てるようにし、一本一本丁寧にブラッシングします。歯磨き剤は不要です。歯間ブラシや木綿糸を利用して歯のすき間を清掃することが勧められます。私は電動歯ブラシを軽く時間をかけて磨くことをお勧めします。成人の歯は全部で28本あります。平成5年の調査では80歳の日本人で残っている自分の歯の数は平均5本でした。現在、厚生労働省では80歳で20本を残す運動を推進しています。目標はまだ遠いと言わざるをえません。

 【参考】岩本義史著、健やかに老いるために、129~140、南山堂、1996

8 うつ状態・ノイローゼ目次へ

 【概念】うつ病には内因性うつ病と反応性うつ病とがあります。前者は年令に関係なく躁鬱病のうつ期として発症しますが、後者は未熟な人格に心の葛藤が加わり、環境に適応できない状態から表現されてきます。この場合は病気ではないのでうつ状態と表現します。

 入社して一ヶ月ほど経ち、新しい環境に順応できずに憂鬱になる5月うつ状態、50歳を過ぎ自分の限界を自覚したり、肩たたきにあったりして、窓際族の悲哀を乗り越えることができず、精神科のお世話になる初老期うつ状態の話しが連想されます。

 【診断】とにかく沈み込んでしまい、厭世観に囚われ、時には自殺願望、実際に自殺してしまうなど程度は様々です。

 ノイローゼは必要以上に自覚しますが、うつ状態は自覚のないことが特徴になります。

 早い時期に周囲の人が気をつけ、精神科を受診することです。自分では病識がないことが多いため、家族または知人が医師のところまで連れて行かなければなりません。

 「自分はノイローゼだ」「憂鬱で何事もする意欲がない」と言っている人は、正にノイローゼであってうつ状態ではないでしょう。とはいえ、ノイローゼも困った状態ですから一度は専門家の門を叩くべきでしょう。

 【治療】うつ状態にしろノイローゼにしろ医師から適切な指導を受け、適当な薬をもらって、しばらく休養すると軽快してきます。

 内因性うつ病は治り難く再発も起こりやすいですが、反応性うつ状態は心配ありません。

 反応を起こす因果関係をはっきり説明してもらい、自力で解決または回避すれば、うつ状態は回復し、再発も少ないようです。反応を起こす原因が明らかになれば、それから遠ざかるとか、環境を変えるとか、適切な助言が与えられる筈です。

 【予防】うつ状態になり易い素質はあるようです。日頃から非常に真面目で仕事熱心、些細なことも気になり、凝り性、ユーモアや冗談が少なく、対人関係も下手な人が多いようです。

 職場と家庭の切り替えを上手に、適当なお付き合いに同席し、自分の意見はどんどん述べ、誤りがあれば直ちに訂正するように、日頃から努力することも大切です。

 一日に一度も笑うことのない人は危険信号です。一日に5回以上笑える人ノイローゼにもうつ状態にもならないと聞いたことがあります。緊張した仕事の合間にも、人を笑わせるネタがないかと気遣う位になりたいものです。

 最近はユーモア療法、川柳療法、音楽療法なども盛んになっています。カラオケにも参加しましょう。

 休日をスポーツ、山歩き、趣味などに過ごすことが一石二鳥であることは申すまでもありません。

9 そ こ ひ目次へ

 【概念】昔から白そこひ、青そこひ、黒そこひと言われていますが、いづれも視力障害を来たし、時には失明することもある重大な眼の疾患です。

 人間は視覚の動物と言われるだけあって、視力障害による行動制限は想像以上です。特に成人後の視力障害は手探りで行動しなければならず、白い杖を使えるようになるには相当年月を要します。

 白そこひ、青そこひ、黒そこひを医学用語で言えば、白内障、緑内障、眼底出血又は網膜剥離となります。

 白内障は水晶体が混濁してくるために起こる視力障害です。

 緑内障は眼圧上昇による視力障害です。

 眼底出血は高血圧、脳動脈硬化症により起こり、網膜剥離は網膜に裂孔が生じて起きるもの、浸出性病変によるもの、牽引性病変によるものなどいろいろあります。

 【病状】白内障は老化と共に次第に進行することが多く、糖尿病が原因になることも多いので注意が肝要です。最初は霞か靄の中にいるような感じです。

 緑内障は激しい眼痛、頭痛を伴ない、時には一夜の内に失明することもあります。

 眼底出血、網膜剥離も急に起こりますが、痛みはなく、視野の一部が見えなくなるという症状から始まります。飛蚊症は網膜剥離の前駆症状として特徴的なものです。

 【診断】眼科的な検査の他に、血圧や血糖、血清コレステロール値など全身検査が必要です。内科受診も必要になるでしょう。

 【治療】白内障は生活に支障を来すくらい(視力0.2以下)になれば手術を考えなければなりません。

 最近は度の強い凸レンズを掛けた人が少なくなりましたが、それは眼底レンズを挿入する手術法が大勢を占めてきたからです。眼内レンズができない人は術後、眼鏡やコンタクトレンズを装用いたします。

 緑内障はまず眼圧降下剤を使います。有名なものとして、ダイアモックス内服、マニトール点滴注射、ピロカルピン点眼などです。

 白内障の手術は急ぐことはありませんが、緑内障、眼底出血、網膜剥離の場合は緊急手術をせねばならない場合もありますから、医師の勧めがあれば、躊躇なく手術を受けるべきです。

 眼底出血に対しては光凝固法により止血と浮腫の軽減を図ります。高血圧、糖尿病などの疾患が明らかになれば、その治療も必要になります。

 網膜剥離が進むと失明の危険性が高く、手術的治療によらなければなりません。特に裂孔原性の場合は緊急手術を要します。

 もし健側の眼の網膜に裂孔を発見した場合は予防的に光凝固や凍結凝固が行われます。浸出性網膜剥離や牽引性網膜剥離の場合も、それぞれ原因を治療することになります。

10 難 聴目次へ

 【概念】3月3日を耳の日と言い、日本耳鼻咽喉科学会では、耳が大切であることと、正しい補聴器の使い方の啓蒙を行っています。

 人が知識を習得し、社会でのコミュニケーションを保つためには、眼と同じように耳が不可欠です。新生児や成長する子どもにとって、耳は眼より大切と言われています。ことばは耳から覚え、ことばで物を考えることができるからです。

 盲と聾の重複障害を持ったヘレンケラーの残した言葉があります。「私がもし生まれ変われたなら、もっと難聴者救済に努力しなければなりません。聾は盲よりも大きな障害だからです。私は聴覚が重要な感覚だということがよく分かりました」

 老人でも難聴になり会話が不自由になってきますと、家族団欒ができず、友人とも疎遠になり、自室に閉じこもりがちになります。

 聴感覚毛細胞や聴神経細胞は脳細胞と同様に、加齢とともに破壊し、壊れた細胞は再び再生することはありません。産業医学におきましても、騒音職場の管理がやかましく言われる所以です。

 【症状】子どもの難聴は遺伝、母親の風疹、生後の髄膜炎などが原因です。老人性難聴は早い人は50歳代で始まり、70歳以上では30%において日常生活に不自由を感じてくる方があります。

 頑固な耳鳴(キーン、シーンなど)を伴なうのが普通です。

 【検査】聴力検査によって、難聴の程度と性質を診断いたします。

 難聴の始まりは、高い音だけが聞こえ難くなりますので、聴力検査をすれば分かりますが、日常生活には困りません。3000ヘルツの音が聞こえにくくなりますと、自分でも電話が聞き難く、会議や講演会での話が分かりにくくなってきます。

 【リハビリ】子どもの難聴は早期に発見し、難聴幼児通園施設において、補聴器を装用し、両親の理解と協力を得て療育を行います。または人工内耳の適応があれば、然るべき機関に紹介されます。

 老人性難聴は、鼻から管を入れて中耳に風を送る治療をされることが多いのですが、まず無意味と考えて良いでしょう。少し不自由を感じれば、補聴器装用を考えるべきです。

 【予防】アフリカの奥地の住民には老人性難聴が見られないという報告があり、その理由に、一生静かな環境で生活しているからだと言われています。

 高齢になり難聴となる原因は、遺伝的要素もありますが、若い頃から積み重なった騒音暴露も無視できないようです。

 若いころから騒音を避けるように心掛けましょう。たとえば、ワークマン、音量の強いカラオケ、秋祭りの鐘・太鼓、ディスコ、などは危険です。ディスコ難聴という専門用語があるほどに多いのです。

11 補 聴 器目次へ

【概念】今回は前回に引き続き、補聴器を解説いたします。補聴器は一言でいえば音の増幅器ですが、その種類や機能は沢山あります。補聴器の中に、調整する小さいネジがあり、その適合調整(フィッティング)によって、増幅特性が変わってきます。難聴の種類や程度に応じて調整いたします。

 老人が、誕生祝いに百貨店で買って来てもらった補聴器を掛けたが、雑音が大きく使いものにならなかったとか、最初から格好を気にして、小指頭大の小さな補聴器を誂えたが、期待したほど聞こえずに、補聴器の印象を悪くしてしまったという話が多いようです。いずれも正確なフィッティングがなされなかったためと思われます。

 【フィッティング】補聴器の選択は、まず診察を受けた耳鼻咽喉科医に尋ねましょう。どこの会社の補聴器も性能は大同小異で、最初耳掛け型の標準的なもの(10万円前後)を勧められるはずです。

 医師から紹介状をもらい、補聴器専門店に行き、値段や格好に関係なく、良く聞こえると思った補聴器をしばらく借りて帰りましょう。いろいろな環境での聞こえ具合を自分でテストし、その結果をもって補聴器屋の技師に相談しますと、補聴器の種類を変えるとか、中のネジを調整してくれますから、再度借りて帰りましょう。

 2,3回繰り返すうちに調整が終わり、自分で納得いけば購入することになります。その結果は紹介医に報告されてきます。

 【問題点】補聴器を掛けた時の問題点は次のようなことです。

     周囲の騒音がやかましく、話の内容が分からない。それも家庭、職場、会議、講演会など場所によって異なる。

     ピーピーと反響する。

     近くで大きな音がすると、頭に響く。

     茶碗の音など、高い音が頭に響く。

     男性の声は分かるが、女性の声が分かりにくい。またはその反対。

     耳が塞がった感じがする。

     自分の声がおかしく聞こえる。

     長く装用していると耳が痛い。

【アフターサービス】その後も、問題がある度に補聴器屋を訪ねましょう。半年後の再調整で一層聞き易くなることがよくあります。

補聴器は電気製品ですから、4,5年経つと、買い換える必要があります。自分の耳の聴力も少し変化しているかも知れません。再度、耳鼻咽喉科医を受診し、聴力検査をお願いしましょう。

【新しい補聴器】二度目に購入する時は新しい補聴器のことも研究してください。挿耳型補聴器をオーダーするのもよく、両耳補聴器とか、FM補聴器とか、特性切り替え式補聴器とか、デジタル補聴器とか、可能性はいろいろあります。

12 人 工 内 耳目次へ

【概念】耳鼻咽喉科学の領域で、最近のトピックニュースを一つ挙げよと言われれば、人工内耳になるでしょう。従来、内耳に障害のある難聴は治療方法がなく、せいぜい補聴器装用しかなかったのです。しかし、高度難聴(聾)になりますと、補聴器も役に立ちません。

従来、生まれつき高度難聴の子どもは聾学校に通い、手話や口話法によって、互いのコミュニケーションをしていましたが、一般の健聴者の世界に参入することは困難でした。

また、中途失聴者と言って、成人になった後にいろいろな原因によって全く聞こえなくなってしまう場合もあり、そのような人々は手話が使えるようになるまでに随分苦労しなければなりませんでした。

1980年代にメルボルンで発明された人工内耳は内耳に電極を挿入し、音波を電波に変えて聴神経を電気刺激するものです。最初は随分乱暴なことをすると思いましたが、成績が発表されるにつれて、その効果が認識されるようになりました。生まれつき高度難聴の子どもに対しても、諸外国での成績を見ますと、聾学校が不要になる勢いです。

【日本の状況】日本においても、1988年に第一例が手術されましたが、厚生省の慎重な態度のため、その普及は諸外国に比し遅れていました。しかし、1997年になり医療保険適用が認められ、急速に普及して来ています。

日本でも人工内耳の手術を受けた高度難聴児が増え、成績も非常に良いと報告されています。ただし、ことばを覚え出す満6歳までに手術を受けなければ十分な効果は得られません。できれば3、4歳で手術を受けますと、自然のうちにことばを獲得し、小学校も普通学級に進めるようです。

生まれつきの高度難聴児の出生率は0.1%と言われ、日本全体では毎年約二千人の高度難聴児が生まれています。それら全員に人工内耳の手術をするには施設数が十分ではありませんが、数年の後にはそれも完備することでしょう。

【香川医大の第一例】私が香川医大に在任中(10年前)に行われました最初の奨励も10年間音を聞いたことがなかったのですが、手術後2週間で家族と電話で話ができ、私自身も驚きました。

その時、患者さんは、言葉が分かると言っても健康な時に聞いていた音ではなく、頭を木槌で叩かれているような感じだと言われていました。それでも慣れると言葉として理解できるようになってきます。

【難聴の赤ちゃん】貴方の周辺の赤ちゃんは、音の出るおもちゃで遊んでいますか、後から小さい声で呼んだ時振り向きますか、と注意してあげてください。もし、2歳になってもことばが出ないようであれば、相当心配です。すぐに耳鼻咽喉科を受診してください。

13 め ま い目次へ

 【概念】内耳は音を聴く働きと、体の平衡を保つ機能とを持っています。しかし、昔はめまいは脳か脊髄の障害と思われていたのです。

 1861年にフランスの医師、メニエールが耳鳴・難聴を伴なう発作性めまいは内耳障害から起こることを発表しました。

 1906年、ハンガリーのバラニーは内耳の平衡機能について研究し、ノーべル賞を授与されています。

 1938年に私の恩師、阪大の山川教授がメニエール病患者の内耳に内リンパ水腫を認め、世界で初めて発表されています。

 一般には、めまい発作があると、メニエール病ですと言われていますが、厚生労働省の診断基準では、「耳鳴・難聴を伴ない、反復する回転性めまい発作が起こり、他に中枢神経疾患が見られない場合、メニエール病と診断する」となっています。

 【症状】めまいと言われる中には、回転性めまい、ふらふら感、立ちくらみなど、いろいろな場合を含んでいます。診察に際し、めまいの起こり方、強さ、持続時間などを詳しく話してください。

 頭痛、疲れやすい、微熱、複視、嗄声、嚥下困難、言語障害などを同時に訴える場合もありますので、そのようなことも話してください。専門医であれば、そのような症状を聞くと、大体の診断を付けることができます。

 【検査】耳鼻咽喉科診察では、聴力検査、平衡機能検査、耳のX線写真、頭のCT像、などで検査します。

 めまいは体中いろいろな原因で起こりますので、他の科の検査も欠かせません。神経内科、内科、眼科、脳外科、整形外科、婦人科、精神科などです。

 鎮痛剤、睡眠剤、抗うつ剤、抗てんかん剤、血圧下降剤、などを長期に内服すると、副作用としてめまいが起こることがありますので、かかり付け医によく相談してください。

 【治療・予防】他の科で原因疾患が分かれば、その治療をします。よくある疾患としては、高血圧症、高脂血症、動脈硬化症、貧血、糖尿病、変形性頚椎症、むちうち症、更年期障害、心因性めまい、などです。

 脳腫瘍、脳動脈瘤、脳血腫などは致命傷になる疾患ですから、脳外科的手術が必要になります。

 メニエール病と診断されれば、生命の危険性はありませんが、再発の可能性がありますから、抗めまい剤を内服し、日々の養生が大切になります。塩分と水分は少なめにしましょう。禁煙も大切です。

 メニエール病の発作が起きれば、メイロンの点滴注射をし、抗めまい剤、血管拡張剤、ビタミン剤などを内服します。日常生活では、精神的なストレスを避け、規則正しい生活、バランスの良い食事、十分な睡眠、適度の運動を心がけます。

14 い び き目次へ

 【概念】いびきは、睡眠中、気道のどこかに狭い部分ができ雑音を発生するものです。「白川夜船の高いびき」でも結構ですが、「いびきが大きいので同室の人に気の毒である」「いびきが大きく嫁の貰い手がない」などは困ります。

 ところが、時にはいびきがパタッと止まり、十秒もしてから息を吹き返したようにいびきをかきだす人があります。つまり、睡眠時に一時的に無呼吸状態になるためにいろいろな障害がでてくるのです。

 子供の場合ですと発育不良になったり、勘が強い神経質な子供になったりします。成人の場合ですと昼間眠たくて仕方がない、狭心症、高血圧、ポックリ病の原因にもなる、など最近医学会では話題を呼んでいるのです。十数年前から国際睡眠時無呼吸症候群学会ができ、世界の学者が集まって討議しています。

 【検査】耳鼻咽喉科で鼻腔、咽頭、喉頭、気管など気道の異常を検査します。狭窄部位として例えば蓄膿症のため鼻茸ができている、アデノイドが大きい、扁桃肥大がある、喉頭に炎症または腫瘍があるなどが見つかります。いびきの音源として多いのは、軟口蓋縁が膜状となり睡眠時に振動する、舌根が落ち込み喉頭口を塞ぐような状態になる、などです。

 これらを確認するためには入院していただいて一晩中測定器をつけて観察しなければなりません。心電図計や脳波計もつけて総合的に検査いたします。

 睡眠時無呼吸症の原因もいびきと同じことが多いのですが、稀には呼吸中枢に問題があることもあります。

 睡眠時のいびき、無呼吸状態を家庭用ビデオで撮影していただくと、検査入院までしなくても大体の様子が分かります。それを持って近くの耳鼻咽喉科専門医を訪ねてみてください。

 【治療】原因がはっきりすれば手術的に形成術を行います。鼻茸切除やアデノイド切除、扁桃摘出術だけで有効な場合もあります。

 成人の場合は扁桃摘出術と一緒に軟口蓋、口蓋垂(のどちんこ)の一部を切り取ります。舌根に原因のある時はその部分を楔状に切り取ります。俗に「いびきの手術」と言われています。

 【不定愁訴の原因】いびきは自分の知らない間のことですし、例え一時的な無呼吸状態になっていても自分では意識されません。昼間、体がだるく居眠りをする、仕事に集中できない、頭痛、めまい、食欲不振を起こすこともあります。

 幼児では発育障害、注意散漫の原因になります。そのような子供の扁桃とアデノイドを手術してやりますと、食欲旺盛になり、急に元気ななります。

 いびきや睡眠時無呼吸症が、不定愁訴の原因になりうることを知っていただき、大過に至らないように注意してください。

15 花 粉 症目次へ

 【概念】スギの花粉が飛び出す二月中旬から三月一杯、中には四月の初めまで、鼻アレルギーに悩まされる方が多くなりました。スギの花粉が抗原になり、それに異常反応するIE抗体が体内にできてしまいますと、毎年のようにアレルギー症状が繰り返されます。正確には、I型アレルギーといい、反応は鼻粘膜の他に、眼球結膜、気管支でも起こりますので、アレルギー性結膜炎や気管支喘息を起こす人もあります。

 スギ以外では、ヒノキ、ハンノキ、イネ科植物(ハルガヤ、カモガヤ)、ブタクサ、ヨモギ、アキノキリンソウ、などの花粉が問題になります。それらの花粉が飛ぶ季節に一致して症状が出ます。

 花粉以外に同じ反応を起こすものは、ハウスダスト、ダニ、カビ、ペットの毛などがあります。これらは年中存在しますので、一年を通じて悩まされることになります。

 【症状・検査】鼻の症状では、くしゃみ、水ばな、鼻づまりです。眼の症状は、眼が痒く、結膜が充血し、涙が出ます。喘息は咳と呼吸困難です。

 鼻中の中にアレルギー反応を特徴づける好酸球を証明します。

 血液検査により、I型アレルギーを起こすIgE抗体が増加していることを確認いたします。さらにどの抗原に反応する抗体かを検査しますと、原因となる抗原が明らかになります。

 【治療・予防】治療と予防の第一は抗原となる花粉を避けることです。天気予報(雨あがりの晴れた日は危険)や花粉情報に気を付け、不要な外出を避け、窓もきっちり閉め、室内の掃除もこまめにします。外出時にはアレルギーマスクやメガネを掛けます。外出から帰宅した時は花粉をよく払い、室内に持ち込まないようにします。洗眼、鼻洗浄、うがいを励行いたします。

 ハウスダストやダニ、カビが原因になっている場合は、ソファーや絨毯を木の椅子や板間に変えましょう。電気掃除機でよく掃除するだけでなく、桟や鴨居などは雑巾でよく拭いてください。布団は毎日電気乾燥機で乾かすと、熱でダニが死んでしまいますので良いようです。

 次に、いろいろな薬物療法です。点鼻薬、点眼薬、吸入薬があり、内服薬も沢山あります。抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤、ステロイド剤、漢方薬などを、その時の状態に応じて使用いたします。

 普段からの鍛錬も大切です。毎日汗をかく程度の運動、特に水泳は推奨されています。

 【減感作療法】特定された抗原を極く薄い濃度から毎週一回皮内注射し、次第に濃度を上げていきます。所定の濃度になれば、毎月1回とし、皮膚反応が見られなくなるまで続けます。通常二、三年かかりますので、気長に続けなければなりません。

16 ア ト ピ ー 性 皮 膚 炎目次へ

 【概念】日常遭遇する皮膚疾患の中では一番多い疾患とされています。アトピー素因というのは先天的・遺伝的な過敏性素因と解説されていますが、1966年に石坂がIgE抗体を発見して以来、IgE抗体を産生し易い素因と理解されています。同じIgE抗体で起こる鼻アレルギーや喘息とは同類のアレルギー疾患に属しています。

 接触性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、光線過敏症なども時々耳にする疾患です。専門的には別の疾患とされていますが、典型的でない場合は同じような症状、重なった原因もありますので、議論の尽きないところです。

 【症状・検査】掻痒感の強い皮疹が出ます。乳児期は顔面に多く、年長児では、脇や股、関節の屈側面に多く出てきます。成人では手足に出ることが多いようです。

 症状の増減と日常生活との関係をよく観察しますと、ある程度因果関係が分かってくる場合があります。

 原因の見当がつけば、パッチテストや血液中の抗体価測定を行って確認します。卵、牛乳、大豆のように特定の食品が原因のこともあり、花粉やハウスダストのこともあり、犬猫の毛、羊毛などが原因となることもあります。

 小児では親の養育法に問題がある場合もあり、その場合は心理学的検査が必要になります。

 【治療・予防】アレルギーの治療・予防はその抗原を同定し、それを遠ざければ良いわけですが、実際には理屈通りに行かないことも多いようです。まず検査の結果、明らかに原因となる食品、洗剤、化粧品、衣類、農薬などが見つかれば、それを避けるべきでしょう。

 肌着は化学繊維や羊毛を避け、刺激が少ない柔らかい木綿のものが勧められます。

 食品は厳格になり過ぎないように、むしろ偏食を避け、野菜を多く摂り、健胃・整腸に心がけます。

 皮膚科の先生は、皮膚炎の状態に応じて、軟膏、クリーム、ローションなどを処方されますから、それを忠実に塗ってください。内服薬も痒み止めとして軽い薬剤をくださるはずです。乳幼児では手袋を履かせ、爪で引っ掻いて刺激しないようにします。

 接触性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、光線過敏も、その治療方針は共通しています。

 【アレルギーマーチ】乳幼児期にアトピー性皮膚炎で悩まされた子供が、皮膚炎が軽快するにつれて小児喘息で苦しみ、成人して喘息が治ったと思ったら、鼻アレルギーが出てくるということがよくあります。これをアレルギーマーチを言っています。

 結局、一生アレルギーとお付き合いするわけですから、不必要に厳格な食生活をしたり、強い薬を長期に飲み続けることは、賢明な策ではありません。

17 肩 こ り 目次へ

 【概念】肩こりの原因には、寝違い、キーパンチャー病、五十肩、など比較的簡単なものから、頸椎の椎間板損傷、後縦靱帯骨下症、頸腕症候群、むちうち、など複雑なものまであります。

 また、慢性扁桃炎、齲歯、顎関節症、眼精疲労、狭心症、大動脈瘤、高血圧、など他の疾患が原因で肩こりを訴えることもよくあります。

 思い当たる原因がなくても、過労、睡眠不足、試験勉強、家庭の悩み、会社のトラブルなど精神的ストレスが原因となることも多いのです。

 【症状】肩こりは「痛み」だけではなく、「だるい」「重い」「締め付けられる」「張る」などの感じが混在します。「こる」場所も肩そのものというよりは、「うなじ」「背中」「胸」「腕」など広い範囲に及びます。

 肩こりの「こり」は、凝り性、凝った細工、凝った衣装、凝った趣向に通じる言葉であり、日本語は言い得て妙であります。

 肩こりに相当する適当な英語、ドイツ語がありません。「stiff shoulder」「Shulter Spannung」と言われていますが、「固い」「張る」という意味しかなく、「こる」とは少し違うようです。

 【検査】頚椎のレントゲン写真を撮ります。必要に応じて頚椎のCT検査やMRI検査を行います。

 頚椎に異常がなくても、上記の原因について検査します。すなわち、整形外科、耳鼻咽喉科、歯科、眼科、内科、婦人科、精神科への受診が必要になります。

 【治療】原因が見つかれば、その治療をいたします。そのために、整形外科、耳鼻咽喉科、歯科、眼科、内科、婦人科、精神科などにおいて、異常が見つかった科の専門的治療が行われます。

 対症的には圧痛点に局所麻酔剤を注射される先生もあります。即効的ですから喜ばれますが、安易に繰り返し、原因の究明を怠ってはいけません。

 鎮痛剤、鎮静剤、貼り薬を投与されることもあるでしょう。でも五十肩であれば、下記の自己管理により、十年も経てばいつの間にか治ります。

 その頻度は少ないが、頚椎の椎間板損傷、後縦靭帯骨化症、脊椎管狭窄症などのため手術が必要になる場合もあります。

 【自己管理】次に自宅でもできる治療法、予防法、しかし大切なことを挙げておきましょう。

 1 常に正しい姿勢を心掛けましょう。

 2 朝夕にラジオ体操をしましょう。

 3 適当なスポーツを続けましょう。

 4 風呂でゆっくり暖めましょう。

 5 マッサージも良いでしょう。

 6 枕の高さ硬さなどに注意しましょう。

 7 肩肘を張らないようにしましょう。

 8 肩の重荷を降ろしましょう。

18 腰 痛目次へ

 【概念】四十腰、五十肩という言葉があります。四十歳になると腰痛を、五十歳になると肩こりを訴える人が多いということです。

 ギックリ腰は重い荷物を持った拍子に電気が走ったような激痛と共に身動きできなくなります。ギックリ腰の原因は一般には椎間板ヘルニアと言われていますが、MRI検査などでも異常が認められないことが多く、その場合は椎間板周囲の線維輪が筋膜の小さな断裂と考えられます。

 徐々に腰痛が出てきた場合は、椎間関節症、脊椎分離症、変形性脊椎すべり症、脊椎圧迫骨折などと診断されることがあり、脊椎に異常がない場合は筋肉疲労と考えます。稀には悪性腫瘍の転移もあります。

 【症状・検査】急激な痛みと慢性的な痛みがあります。慢性的な痛みの時は、どのような時期か、どのような姿勢か、腰以外の痛み、しびれはないか、などについてよく注意し、診察に際しても詳しく説明する必要があります。通常のレントゲン写真で2方向から撮影します。問題がありそうな時にはCT像、MRI検査を行いますと、椎間板の状態、脊椎圧迫骨折が新鮮か、陳旧かの区別などを明らかにすることができます。高齢者では骨粗鬆症の合併を見ることが多いようです。全身検査により隠れた疾患にも注意します。

 【治療・予防】ギックリ腰の時は数日間安静に臥床せざるを得ません。その後、温熱療法を続け、コルセットを装着します。ただし、コルセットは2ヶ月位を限度にするべきです。

 もし、椎間板ヘルニアが起こり、脊椎が圧迫され、下肢の神経麻痺や膀胱、直腸障害を伴なう場合は緊急手術を要します。

 慢性的腰痛で検査の結果、何らかの脊椎変形が発見されても、日常生活によほど障害がないかぎり、手術の必要はなく、某医で手術を勧められても、他医の意見も参考にして手術を決めてください。

 保存療法には牽引療法、温熱療法、鎮痛剤などがありますが、牽引療法は無意味、鎮痛剤も飲み忘れた方が良いくらいです。

 【自己管理】もっとも大切なのは自己管理です。重い物を持つ時は、腰痛バンドをし、体に近く抱え込み、膝を使って立ち上がります。中腰での作業を避け、立位、坐位でも長時間同じ姿勢でいるのはよくありません。前かがみの姿勢も腹部を前に突す姿勢も悪いのです。台所の流しの高さに注意してください。

 腰背筋、腹筋の強化訓練を行い、腰部の柔軟性維持に努めます。腰痛体操も簡単なものから複雑なものまでありますが、継続することが大切です。朝起床時に臥せたままで、足を空中で十分間屈伸するだけでも立派な腰痛体操になります。水泳は腰椎に体重をかけずに、筋力強化ができますので、勧められます。

 女性は変形性脊椎すべり症のための腰痛が多いのですが、それも筋力が弱いことが原因になります。

19 頭 痛目次へ

 【概念】頭痛はあらゆる病気の症状または前兆として現れます。家庭薬で治る程度のものは心配ありませんが、中には生命に関わる病気もありますので侮っていると取り返しがつかないことになります。

 脳の内部には痛みを感じる神経はありませんが、脳を包んでいる脳膜が刺激されると頭痛が起こるのです。

 【原因】風邪をひいた時や二日酔いの時に頭痛が起こります。またひどく肩が凝ったり、疲れやストレスが溜まった時にも頭痛を感じます。でもこれらの頭痛はそれ程激しいものではなく、頭全体がズシンとする感じで、一晩ぐっすり眠れば軽快するのが普通です。

 次に多いのは片頭痛と言われるもので、片側の頭がズキンズキン、キリキリと痛みます。眼前に星が飛ぶ感じが前兆になるとか、吐き気を伴なう位強い頭痛もあります。しかし、これも翌日には軽快するのが普通です。

 ザクザクする頭痛は高血圧のことが多いようです。顔色が赤くなり火照った感じになります。

 脳動脈瘤が破裂し出血を起こすと激しい頭痛と吐き気を訴えます。頸にかけて痛みが走るので、頚椎症と間違われることがあります。

 脳腫瘍ができると持続的な頭痛を訴え、発生した場所に一致して視力障害、難聴、めまい、顔面麻痺、嚥下障害などを伴ないます。

 度が合わない眼鏡、緑内障のような眼の病気が原因の頭痛、中耳炎や蓄膿症から起こる頭痛、危険な頭蓋内合併症のために起こる頭痛、更年期障害の頭痛なども年頭に置かなければなりません。

 【検査】頑固な頭痛は精密検査を受けなければなりません。まず内科または神経内科で診察を受けましょう。必要に応じて眼科、耳鼻咽喉科、脳外科、精神科、婦人科などでの検査を勧められます。

 脳波検査、CT検査、MRI検査が大切であることは申すまでもありません。

 進んでドック検査を受けるのも良いでしょう。それも定期的に検査をするに越したことはありません。

 【治療】まず熟睡する、軽い運動をして緊張をほぐす、自宅で血圧を測ってみる、市販の頭痛薬を内服する、など自分でできることを行います。

 いつもの頭痛とはちょっと違うと思ったら手遅れにならないよう医師に相談しましょう。

 睡眠剤や鎮痛剤を長期に服用すると必ず副作用があると言っても過言ではありません。胃腸障害、朝の寝起きが悪い、めまい、立ち眩み、などです。

 また、睡眠薬や抗神経薬はだんだん利き難くなります。中には習慣性になる薬もあり、その薬が切れると精神状態がおかしくなります。その筆頭は麻薬です。でも麻薬でないからいくら飲んでも大丈夫という考えは甘いです。

20 脳 外 科 的 疾 患目次へ

 【概念】最近は、医療技術が進歩したため、比較的安易に開頭手術を行うようになりました。私たちの身辺でも、脳動脈瘤や脳腫瘍の手術を受け、命拾いしたという方が多くなりました。

 なぜ確実な診断、安全な手術が可能になったかを詳しく説明する紙面の余裕はありませんが、画像診断の進歩、顕微鏡手術の普及、手術機器の開発、麻酔学の確立、などを挙げることができます。

 交通事故による頭部外傷の際に、よく起こるのが硬膜外出血です。脳を包んでいる硬膜と頭蓋骨の間に血が溜まり、だんだん大きくなって脳を圧迫するものです。

 脳血管障害は現在も死亡原因として癌に続いて多い疾患です。しかし、脳出血の時、時宜を得た開頭手術によって助かったという例も多いようです。

 脳腫瘍は人工10万人あたり年間10例と言われていますので、香川県内では、毎年100例の患者が出ていることになります。

 【診断】突然の意識障害、痙攣などは別として、限局した脳の症状は将に千差万別です。すなわち起こった障害部位によって症状は変わりますから、その診断学はかなり難しい分野になります。

 でも、素人であっても気を付けていただきたい症状を列記しておきます。頑固な頭痛、突然の嘔吐、舌がもつれ話しがしにくい、物が二重に見える、視野欠損、めまい、難聴、顔面や手足のしびれ(動かしにくいしびれと感覚のしびれがある)、などです。

 神経内科、脳外科の先生が、診断をされ、CT像とMRIを撮り、脳の病変を診断されます。MRA(血管造営MRI)は無侵襲で脳血管を撮影できます。手術を前提にする時は本格的な脳血管撮影法により検査します。

 症状が視力に関連していれば眼科受診、めまい・難聴などであれば耳鼻咽喉科受診をいたします。

 【脳出血の治療】硬膜外出血の場合ですと、頭蓋骨に小さい穴を開けて、血を吸い取るだけで良いのです。

 出血部位が脳の表面に近ければ開頭して止血することが可能です。

 脳動脈瘤が発見されれば、開頭し、その基部をクリップいたします。

 【脳腫瘍の治療】脳腫瘍は良性腫瘍であれば、手術によって根治させることができますが、高齢者や危険な部位の場合は、手術せずに様子を見ることもあります。一般に良性腫瘍は成長が遅く、手術を行わずに寿命を全うされる方もおられます。

 悪性腫瘍であれば、手術の容易な場所に発生した比較的小さい物は、手術と放射線治療によって根治する可能性があり、少なくともQOLの改善と延命が期待できます。

 結局、信頼できる脳外科医の勧めに従うのが最善ということになります。

21 脳 動 脈 瘤目次へ

 【概念】脳動脈瘤は脳動脈に瘤ができ、もし破裂すれば一巻の終わりになります。たとえ緊急手術を受け一命を取り留めても、半身不随、言語障害、植物人間など重大な後遺症を残してしまいます。昔、脳出血と言っていた中には脳動脈瘤の破裂が含まれていたと思われますし、今日よく聞く、くも膜下出血の大部分は脳動脈瘤出血です。

 【症状】突然に起こる激しい頭痛です。痛みは眼の奥から頚、背筋、尾骨にまで走る痛みが特徴的です。吐き気を伴ない、多少の発熱もあります。風邪薬、痛み止めでは軽快しません。少し、軽快したと思っても、何かで力を入れた時に再び激しい頭痛が起こります。

 後日に分かることが多いのですが、激しい頭痛の度に小出血が起こっているのです。動脈瘤の圧迫によって眼瞼下垂、複視、視力障害を来すこともあります。

 【検査】CT像やMRIで脳に異常が見つかれば、血管造影MRAによって診断します。

 内科医、眼科医、整形外科医で別の治療を受けていたということがよくあります。脳外科医、神経内科医の受診も大切になります。尋常でない頭痛の時は「先生、私のは脳動脈瘤ではないでしょうか」とお尋ねになり、その検査をお願いしてください。

 小さな動脈瘤は症状がありません。脳ドック検査で偶然発見されることもあります。

 【治療】脳動脈瘤と分かれば手術しかありません。頭蓋骨を蓋を開けるように大きく切り取ります。(開頭術)。慎重に剥離を進め、動脈瘤の基部をクリップいたします。手術はかなり難しい手術ですし、手術による合併症も無視できません。しかし十分に医師の説明を聞き、状態が理解できれば、勇気をもって手術に立ち向かってください。

 偶然発見された脳動脈流派、手術をせずに定期検査で様子を見れば良い場合もあります。

 【妻の場合】私ごとで恐縮ですが、5年前に妻が脳動脈瘤の手術を受け、九死に一生を得ました。

 役2ヶ月に亘り、頭痛が続き、その間激しい頭痛が3回ありました。整形外科では変形性頚椎症だろうと言われ、頸の牽引療法をしていましたが、眼の症状(複視)が出てきたため、脳動脈瘤を疑われました。紺屋の白袴で、最初の頭痛の時に脳動脈瘤を疑っておけば良かったと後悔しています。

 7時間にわたる大手術でした。右内頚動脈から後交通動脈に分枝した部分から拇指頭大の動脈瘤を認め、その基部をクリップで挟み、周囲の血塊(3回の激しい頭痛に一致した)を除去し手術を終了したと説明を受けました。

 術後経過は順調で、失語症や意識障害、四肢の麻痺はなく、17日後に退院しました。痙攣予防の薬を2年間内服しました。現在の後遺症としては、軽度の複視のため素早い動作ができず、疲れ易く必ず午睡をとっていますが、日常生活には支障ありません。

22 狭 心 症目次へ

 【概念】狭心症は冠動脈(心臓に酸素と栄養を運ぶ)が狭くなり、心臓の筋肉が働かなくなり、激しい胸の圧迫感を来します。

 もし、冠動脈が閉塞し、心臓の筋肉が部分的に死んでしまいますと心筋梗塞をなります。その範囲が大きければ死に至ります。

 狭心症の原因は冠動脈の内膜がアテローム硬化し血流が悪くなってきます。すなわち動脈硬化症が冠動脈に起こったものです。

 その原因は肥満症、糖尿病などで、食事の好みが大きく影響します。喫煙も冠動脈を収縮させ血流を悪くさせます。運動不足も動脈硬化症を促進させます。精神的なストレスも感心しません。

 【診断】突然に起こる胸痛、胸部圧迫感、呼吸困難は狭心症の特徴的症状ですが、頭痛、腹痛、腕の痛みなどを訴える場合もありますので、侮っていると大変なことになります。

 ニトログリセリンの舌下錠で軽快しない場合は心筋梗塞に進んで行く可能性があります。

 心電図は欠かせません。運動中の変化をみる負荷心電図によって精査したします。この際、肺機能をはじめ全身のドック検査をするべきでしょう。

 心エコー検査は心臓の動きをより正確に捉えることができ、心筋梗塞(壊死となった心筋)の部位を診断できます。

 また冠動脈造影法によって狭窄部位とその程度を精査いたします。

 【治療】狭心症の発作が起これば予め常備しているニトログリセリンの舌下錠を使用し、多くの場合軽快します。この時、唾を呑み込まないようにし、薬が胃腸に入らないように、口の粘膜から吸収されるように注意する必要があります。

 発作が頻回に起こり、または発作が軽快しなし場合、外科的治療を勧められることになりますが、臆せず受けられる方がよいでしょう。

 心臓外科は随分進歩しましたし、それだけに危険性も少なくなっています。よく行われる手術はカテーテルの先で冠動脈を拡げたり、血管バイパス手術です。成功率は95%以上と報告されています。

 心臓の集中治療、心臓の外科手術、心臓の移植手術など、医学の中ではもっとも発達した分野であります。それだけに世間の話題になる事例も多いのはご存知の通りです。

 【予防】この病気は生活習慣病ですから、若い頃からの食養生、禁煙、適当な運動に心掛けます。

 それは高血圧症、動脈硬化症にも共通する日常的心得になります。

 検査上は異常がないのに、本人が自分の心臓の鼓動を感じ、非常に不安になることがあります。心臓神経症と言われています。

 説明を良く聞き、少し精神安定剤を内服すれば軽快します。ストレスを避け、睡眠を十分にとることは申すまでもありません。

23 肝 炎目次へ

 【概念】肝臓がなくては生きていけません。肝腎なものとはよく言ったものです。

 肝臓の病気は、まずウイルスによって起こる肝炎があります。A型、B型、C型、D型、E型、に分かれます。A型肝炎は飲み水を介して感染しますので、時として集団発生することがあります。B型肝炎は血液を介して感染し、時に激症肝炎で死亡することもあり、慢性に経過しますと肝硬変、さらに肝癌になることもあります。C型肝炎も輸血を介し感染し、しばしば肝癌の発生原因になります。

 ウイルス以外ではアルコール性肝炎、薬剤性肝炎があります。農薬中毒による激症肝炎が時々見られます。胆嚢にできる胆石症も肝臓の病気です。

 【診断】急性肝炎では、全身倦怠、発熱、嘔吐、黄疸などが表れます。慢性肝炎の時は全く無症状に経過することがありますので注意しなければなりません。激しい腹痛が胆石症から起こります。

 健康診断の血液検査の中に必ず肝機能検査が含まれています。ところが、肝臓は予備力が大きいため血液検査でも異常が出ないこともあります。そのため最近では、健康診断に腹部超音波診断を加える病院が多いようです。

血液中のウイルス抗体価を測定すれば、どの型のウイルス感染かを知ることができます。肝硬変や肝癌が疑われる場合は、CT像とMRI検査で有力な所見を得ることができます。血管造影法や胆管造影法は治療を兼ねた検査になります。診断を確認するためには試験切除術により病理組織検査をします。

【治療】病気の種類によっても異なりますが、一番大切なことは、安静と食餌療法です。重症の場合は絶対安静を、軽症の場合は食後2時間の臥床を守ります。臥ていると立っている時よりも肝臓の血流が30%良くなるからです。

食事療法は、一般に高蛋白質、高ビタミン食、低脂肪食、禁酒の励行です。最近は以前ほど難しいことは言わず、むしろバランスのとれた食事を規則正しく摂ることが強調されています。

ウイルス性肝炎に対してインターフェロン療法をしますが、その適応が難しいので、専門家の判断に寄らねばなりません。

【肝動脈栓塞術】肝癌に対し、肝動脈栓塞術と言われる方法がよく行われます。動脈の血流を止めて、癌を含む周囲の組織を固めてしまう方法です。切除とほぼ同じ効果が期待できます。2~3回までは可能ですが、癌が拡大して来れば限界があります。

【腹腔内視鏡手術】胆石の場合に、小さな孔を腹壁に開け、胆嚢摘出をすることができるようになりました。

かつて胆嚢摘出術は外科医にとって、もっとも難しい手術とされたものでしたが、内視鏡のお陰で、患者から見れば大きな福音となりました。

24 腎 炎目次へ

【概念】今回は肝腎なもののうちの腎臓について解説します。腎臓は血液中の老廃物を濾過して尿を作っています。腎臓の機能が悪くなれば、老廃物が血液中に溜まってきますので、尿毒症を起こし、生命維持ができなくなります。

腎臓の病気を主なものだけあげますと、急性糸球体腎炎、慢性糸球体腎炎、ネフローゼ症候群、腎不全、腎盂腎炎、腎硬化症、糖尿病性腎症、腎結石、腎腫瘍、などです。

【診断】腎炎の場合は、浮腫、血尿、高血圧が特徴的な症状です。ネフローゼの場合は、蛋白尿、低蛋白血症、高脂血症を特徴とします。腎不全というのは尿が産生され難い状態(乏尿)を言います。

会社の健康診断では必ず検尿が行われます。試験紙を浸けるだけで、尿中の赤血球、蛋白、糖の有無が分かります。もしプラスに出れば、その定量をし、また沈渣を顕微鏡検査し、白血球や腫瘍細胞の種類を精査いたします。

腎臓が悪い場合、その原因を追及しなければなりません。扁桃炎に起因する病巣感染の有無、高血圧、糖尿病、膠原病、痛風、など原因となる疾患の検査をいたします。

【治療】急性腎炎の時は、安静、保温、食事療法によって腎臓を庇護することが肝要です。食事療法は低食塩、高カロリー、低蛋白食、低カリウム食、水分制限を組み合わせます。

慢性腎炎の時は、過労を避け、睡眠を十分とり、適切な食餌療法で維持します。

ネフローゼの時は、高蛋白食を摂るようにし、ステロイド剤の内服が必要になることもあります。

腎不全は原因疾患を治療しなければなりません。食事療法は急性腎炎に準じます。

【血液透析】問題はどの時点から血液透析を開始するかです。腎の予備力が10%以下になれば、時期を失することなく血液透析を始めるべきです。適切な血液透析によって20年30年と日常生活を続けることができた事例が沢山あります。

【腎移植】血液透析は毎週2~3回行わなければなりません。その拘束状態から開放される唯一の策は腎移植です。

腎移植は臓器移植としては最も長い歴史があり、それだけに方法も確立しています。方法に生体腎移植と屍体腎移植があり、一年生着率は血縁生体腎なら75%以上、屍体腎では50%が限界のようです。

腎移植に際しては、予め血液型を合わせ、組織適合性も合わせた方が成績が良いことは分かっていますが、それを完全に合わすのは難しいことです。腎移植センターのコンピューターによって患者の必要性と適合性を照合して適応を決定しています。

組織適合性は完全に合わなくても、長期に免疫抑制剤を投与して、移植が成功するようになりました。

25 貧 血目次へ

 【概念】成人の血管内を流れる血液は約3リットルと言われています。血液には赤血球、白血球、血小板とそれぞれ働きの異なる成分が含まれています。それらの固形成分を除いた血漿にも蛋白質、糖、電解質など重要な要素が含まれています。

 怪我による大量出血、胃腸粘膜の潰瘍、腎炎による出血、異常月経などがありますと、貧血となります。

 特別に病名のつく貧血には、鉄欠乏性貧血、再生不良性貧血、溶解性貧血、紫斑病、血友病、白血病など沢山あります。中には放置しますと、生命を脅かす重篤な状態に進行することもあります。

 【症状・検査】顔色が悪い、立暗みがする、疲れ易い、微熱が続く、などが自分で気付く症状です。

 血液検査をいたしますと、貧血の程度、原因が分かります。全身の検査をし、隠れたところからの出血ではないか、血が固まる時間は正常か、骨髄における造血機能は正常か、などについて調べます。

 【治療】貧血の原因によって治療も異なります。常時出血している場所が見つかれば、その治療が必要になります。

 慢性腎炎のため少量の血液が尿にでている場合がよくあります。腎炎に対する減塩療法、食事療法を行います。

 鉄欠乏性貧血と分かれば、鉄剤を含む増血剤が投与されます。通常朝食前に1錠を内服しますが、胃腸障害の出る人は食後の内服に変えます。血液検査で正常値になっても2~3ヶ月飲み続けます。

 食事に気を使うことは当然で、鉄分を多く含む食事療法が勧められます。鉄はほうれん草、海草、レバー、貝類などに多く含まれます。血を造るためには良質の蛋白質も大切ですから、乳製品、赤身の牛肉、レバーなども摂る必要があります。

 骨髄で作られた赤血球は核を持たない細胞ですから、血液中では2~3週間で潰れてしまいます。そのため常に新しい赤血球を作ってやらなければ貧血になってしまうのです。

 外傷や手術による一時的な出血は、原則として輸血はしません。再生不良性貧血とか悪性貧血とか言われますと、事態は深刻です。頻回の輸血に頼らざるを得ないこともあります。

 【血液のがん】白血病は白血球が異常に増え、赤血球が減少して貧血になります。これは血液のがんと言われるもので、徹底的に治療をしなければなりません。

 幸い、最近では適切な化学療法によって完全寛解が得られる率が高くなってきました。

 いづれの貧血も早期の発見が大切であることは変わりません。

 【多血症】過ぎたるは及ばざるがごとしの喩えを地で行く病気もあります。原因が分かるものはその治療をしますが、原因不明の場合は瀉血することもあります。

26 喉 頭 癌 と 喫 煙目次へ

 【概念】喉頭は声を出す大切な器管です。後頭は刺激を受けやすいため癌の好発部位になっています。

 1877年にドイツのフリードリッヒ皇太子の喉頭癌をイギリスの名医が誤診したため、彼が皇帝の位についてまもなく死亡しました。もし、皇帝が存命していたならば第一次世界大戦は起こらなかったであろうと言われています。

 1492年にコロンブスが新大陸を発見し、煙草を持ち帰って以来、急速に喫煙習慣が世界中に広まりました。その普及経路に一致して喉頭癌の発生が多くなっています。

 【診断】声帯に癌が発生すると声がかすれます。初発部位が声帯を外れていると、症状の出るのが遅れ、血痰や嚥下痛、呼吸困難などが起こってから受診される方もあり、進展癌になっていることがあります。大きく腫れた頸のリンパ節をよく調べて見ると喉頭癌からの転移だったという場合もあります。

 喉頭検査で怪しい部分を発見しますと、組織切片を採り、病理組織検査をいたします。

 多くの場合、それで白黒がはっきりするのですが、時には移行形(前癌状態)のこともあり、再度の検査、慎重な経過観察が必要になります。

 【治療】初期癌の場合は放射線治療を行い、根治させることができます。進展癌または放射線治療後の再発癌に対しては後頭摘出術を行います。

 5年治癒率は約80%です。もし初期癌だけに限れば95%の治癒が期待できます。一病息災の例に出されることも多いのですが、癌になりやすい体質を考えて、第二、第三の癌を早期に発見するため、全身の定期検査が欠かせません。

 【術後のリハビリ】喉頭を摘出されれば自分の声を失うわけですから、人工喉頭や食道発声を習熟し、社会復帰に努力されています。

 香川県では喉頭摘出者が集まり、香川喉友会を結成し、互いに発声練習に励んでおられます。東京の銀鈴会、大阪の阪喉会が大きな会として活動されています。4年ごとに全世界の喉摘者が集まり、国際喉頭友の会を結成し、発声方法の研究発表や禁煙運動に努力されています。

【禁煙運動】喫煙が喉頭癌の一つの原因になっていることは明らかです。統計によりますと毎日20本を30年間喫煙した方は、喫煙しない方に比べ13倍の高頻度になります。男性が女性より10倍高頻度という原因も喫煙に関係すると言われています。

 漫才師のコロンビア・ライトさんが喉頭癌のため喉頭摘出を受けられ、食道発声で落語調の講演をして、禁煙運動に挺身されていました。阪喉会の方々が毎年5月31日の禁煙デーには梅田の駅頭に立ち、禁煙のたすきを肩にかけ、パンフレットを配られている話は有名です。

27 胃 癌 と 肺 癌 目次へ

 【概念】胃癌と肺癌は発生する場所も症状も異なりますが、日本では一番多い癌の双璧になっています。20年前、胃癌は全癌の50%以上でしたが、だんだん減少し、逆に肺癌が際だって増加して来たため、1998年からは胃癌よりも肺癌が多くなってしまいました。

 【診断】初期の癌は症状がないので、発見が難しいのですが、少しでも怪しい症状があれば、精密検査が必要です。

 胃癌の症状は胸やけ、胃痛、やせる、などです。早速に胃の透視検査、胃カメラが必要となります。

 肺癌の症状は血痰、咳漱、息苦しい、などです。肺癌の検査は肺のレントゲン写真、CT像、内視鏡検査などです。最終診断はいづれも、怪しいところの病理組織検査によって行います。

 最近は血液中のいろいろな腫瘍マーカーを検査しますが、癌を疑うことはできても、診断を確定することはできません。

 早期発見するには定期検診しかありません。地域の保健所や会社では毎年検診の機会があるはずですから、逃がさず受けるようにしてください。

 【治療】根治するには手術しかありません。胃の全摘出とか、片肺の切除などいずれも大手術になりますが、手術手技や麻酔方法が発達していますので、最近では手術による死亡事故は聞いたことがありません。発見される時期が早ければ、手術も小さくてすみますし、もし極めて小さい癌であれば、内視鏡で見ながら焼き切る方法もあります。

 手術の後、補完療法として化学療法を加えることもあります。治癒率は胃癌50%、肺癌20%というところです。

 【胃癌の予防】胃癌の予防には、塩辛い食事を少なくし、パン食と乳製品をお勧めいたします。最近、胃癌が少なくなった最大の原因は朝食を洋式にされている家庭が多くなったためです。焼き魚の皮には発癌物質が含まれていますから食べてはいけません。アルコールを飲みながら煙草を吸うと、ニコチンがアルコールに溶けて大量に呑み込まれ、胃壁を刺激するため発癌頻度が増します。

 【肺癌の予防】肺癌の予防は第一に禁煙です。20年以上喫煙者は非喫煙者に比べ、約4倍肺癌の発癌リスクが高いという統計が出ています。5月31日世界禁煙デイになっています。各地で講演会や街頭活動が行われます。

 車の廃棄ガス中に発癌物質が含まれています。廃棄ガスを吹き付けられた時は、しばらく呼吸を止めて通り過ぎてください。落ち葉の焚き火は問題ありませんが、ビニール、廃棄油、古タイヤなどを燃やした時に出る黒い煙にはダイオキシンが多量に含まれています。産業廃棄物を高温で焼却しなければならない理由です。

28 大 腸 癌 と 痔目次へ

 【概念】大腸癌のうち半数以上が直腸(黄門から0センチの範囲)に発生し、発見が遅れますと命取りになります。しかも最近では、食習慣が欧米化したため、日本人にも増加してきました。

 肛門付近に発生する病変には、痔核、肛門裂、肛門周囲膿瘍、痔瘻などがあります。便秘などのため肛門付近の血管が膨張して突き出してきたり、感染が起こって瘻孔が出来たりするのです。

 昔、痔瘻は結核性だと言われましたが、最近では一般の化膿菌によることが多いようです。すなわち排便後の不始末が原因です。

 【診断】排便時に出血があれば、まず直腸癌を疑います。肛門周囲の痛み、膨らみ、排膿などは痔の症状ですが、症状だけでは判断できません。直腸癌が大きくなれば、便が細くなるとか、腸閉塞を起こし、激しい腹痛を来すこともあります。

 恥ずかしい場所ですが、臆せず外科医に診てもらいましょう。直腸指診、直腸鏡検査、大腸の注腸造影検査などをされるでしょう。もし、癌が疑われれば、組織学的検査が行われます。

 【痔の治療】痔の程度が軽ければ、保存的治療が行われます。排便後の洗浄を励行し、軟膏または座薬を使います。便秘しないように軽い下剤を内服いたしますが、それより大切なことは食事です。野菜、果物、芋、豆など繊維の多い食物を摂るようにいたします。

 保存的治療が思わしくない時は手術になります。手術と言っても小さな痔核は輪ゴムで結ぶだけで良く、多くは数日の入院で終わるようです。手術後は自宅で上記の保存的治療になります。

 最近、多くの家庭で便器をウォシュレット式にされていますが、大変良いことです。痔の予防には最善の策です。

 【大腸癌の治療】外見的には直腸ポリープでも内視鏡検査時に切除し、組織検査をすると、癌と診断される場合がよくあります。

 少し大きな癌は腸を切り取らなければなりませんが、肛門から離れた場所であれば、肛門を保存した手術ができますから、術後の排便も心配ありません。

 もし肛門も一緒に切除しなければならない場合は、人工肛門(ストーマ)を腹部に作ります。ストーマの衛生処置は多少厄介ですが、その同好会ができており、互いに工夫されています。私の友人が、毎朝、大便に行く時間が節約できると負け惜しみを言っていました。

 【食習慣の変化】日本人の食習慣が欧米型になり、脂肪の多い肉食を好むようになっています。それと平行するように胃癌が減少し、大腸癌が増加しています。

 一方、欧米では日本食ブームが起こっていると聞きます。肉食を少なくし、繊維の多い食品をとることは大腸癌の予防になるのです。 

 長寿県として沖縄の食習慣が有名です。

29 前 立 腺 肥 大 症目次へ

 【概念】前立腺は男性にのみある臓器で、膀胱の出口で尿道の根本を取り巻き、胡桃くらいの大きさです。

 前立腺では精液の主成分を分泌し、精子が受精するまでの栄養源として重要なものです。高齢になると、前立腺肥大症が現われ、40歳代では25%に、70歳代では80%に肥大が認められるのです。

 前立腺肥大症と思っていたら、前立腺癌になっていたという例も少なくありませんので注意せねばなりません。

 【診断】排尿が困難になります。具体的に言いますと、排尿開始時に力む、放尿の勢いが弱くなる、排尿途中に尿がとぎれる、排尿後まだ尿が残っている感じ、排尿後2時間以内に次の排尿に行きたくなる、夜間に3回以上排尿に起きる、などを訴えます。

 毎年の健康診断やドック検査では無症状でも前立腺の検査は必要です。検尿で血液を認めれば要注意です。泌尿器科を受診しますと、触診や超音波検査で前立腺の大きさを測定いたします。

 前立腺癌の検査では、血尿の有無、尿中の細胞検査をいたします。血液検査によって前立腺癌に特異的な腫瘍マーカのPSA(PA)やPAPを測定いたします。

 前立腺癌は骨やリンパ節転移を起こし易いので、全身的な精査が不可欠であります。

 排尿障害は全くなく、ただの腰痛症だと思っていたら、前立腺癌の骨転移だったという話を時々耳にします。

 【前立腺肥大症の治療】排尿が困難になり、腎機能に悪影響が出るくらいになりますと、治療をしなければなりません。応急の場合、導尿によって排尿を図らなければならないこともあります。

 男性ホルモンに拮抗するアンチアンドロゲン剤、尿道を弛緩させるアルファ遮断剤の投与をします。

 前立腺の一部切除を行います。最近は内視鏡手術が主流となり、レーザ、マイクロ波、強力超音波など新しい熱源を利用した方法が行われています。

 【前立腺癌の治療】もし前立腺癌が発見されますと治療法も変わります。癌が前立腺に限局した状態であれば、前立腺の摘出術を行います。周囲に広がっていれば、放射線治療を併用いたします。

 同時に、去勢術(睾丸を切除)を行い、男性ホルモンの分泌を無くし、女性ホルモンを与えます。このような治療により、体格の女性化が見られますが、精神状態にまで影響することはありません。

 前立腺癌に対するホルモン療法は有名です。1941年にHugginsによって始められた療法で、去勢した後、女性ホルモンを大量に投与いたします。この療法によって20年間生存した人が多数おられます。その功績のため、Hngginsはノーベル賞を授与されました。

30 乳 癌 と 子 宮 癌目次へ

 【女性の癌】本邦における、乳癌による死亡頻度は人口10万人あたり年間約5名と20年前に比べると二倍になっています。罹患率でみますと50人に婦人のうち一人が乳癌に罹ることになります。

 一方、子宮癌の発生頻度を調べますと、人口10万人あたり年間に約3名と30年前の五分の一に減少しました。

 子宮頚癌発生の原因は、妊娠、分娩回数が多い婦人に多いのに反し、子宮体癌発生の原因は、月経不規則な婦人に多く発生します。いづれも閉経期前後に好発します。

 【集団検診】乳癌も子宮癌も集団検診の実施が老人保健法で決められています。検診の案内状が届いた時は逃がさず受けてください。

 乳房に出来るしこりは乳腺炎が乳癌です。その鑑別には、細胞診など精密検査が必要になります。乳房のX線造影撮影法、超音波検査などにより、早期発見が可能です。最終の確定診断は病理組織検査によります。

 子宮癌の初発症状は不正出血です。症状がなくても子宮癌の集団健診では細胞診を行い、百人に一人の割合で要精密検査となります。その十人に一人は病理組織検査によって子宮癌と診断されています。

 【乳癌の治療】本邦では集団検診のお陰で、乳癌が早期に発見される場合が多く、早期癌であれば縮小手術ですみ、通常術後に放射線治療を追加いたします。そうすれば乳頭も残り、胸部の変形もなく、腕の機能傷害もありません。

 治療成績も早期であれば90%を維持しています。

 不幸にして、進行癌では乳房を全部切除し、腋窩リンパ節の廓清術も必要になります。術後、腕にリンパ液が溜まりひどく腫れるので大変です。

 【子宮癌の治療】子宮癌も早期に発見される場合が多く、早期であれば比較的小さな手術で、または放射線治療によって根治できます。

 本邦における子宮癌の治療成績は平均で60%、早期癌ならば80%と良い成績です。

 【乳癌の予防】乳房の触診は指先で触れるよりも手掌でそっと触れると固い塊として触れます。ここでは夫の役割が大切になります。

 乳癌の原因は食生活の欧米化、特に動物性脂肪摂取の増加が大きいと言われています。

 また、乳癌の発生が初産年齢の高年化、妊娠中絶者に多いこと、授乳をしないことと関係があるとも言われています。

 女性ホルモンの人為的な異常化と関係があるようです。

 【子宮癌の予防】不潔な性生活は子宮癌の原因になると言われていますので、夫たる者は入浴を励行し、清潔な性生活に留意するべきです。

 また、性交後の僅かな出血でもあれば、躊躇なく婦人科を受診しなければなりません。

31 甲 状 腺 腫目次へ

 【概念】頚が腫れる病気の中に、甲状腺が腫れる場合がよくあります。甲状腺は生きていくのに大切なホルモンを分泌する内分泌器管です。

 バセドウ病は甲状腺ホルモンが多すぎる病気です。粘液水腫は甲状腺ホルモンが少ないために起こる病気です。甲状腺に炎症が起こって腫れることもあり、良性腫瘍や悪性腫瘍(癌)が発生することもあります。甲状腺の病気は何故か女性に多いのですが、その理由は分かっていません。

 【診断】甲状腺が腫れ、痛みや発熱がある場合は急性炎症ですが、慢性炎症の時は痛みはなく自己免疫疾患に属します。機能亢進症状の時は心悸亢進、手の震え、眼球突出が見られ、機能が低下すれば全身倦怠、貧血、浮腫が見られます。

 一側の腫脹は腫瘍によることが多く、その中には癌も含まれますので安心なりません。

 専門医が症状を聞き、注意深く触診すれば、大方の診断はつきますが、超音波検査と細胞診は当日にできる検査です。

 血液検査、X線検査、CT像、シンチグラフィー、全身検査など精密検査をいたします。

 【治療】機能亢進か機能低下かに応じて、与える薬剤が変わってきます。

 若い女性に見られる軽度に甲状腺が腫れ、機能異常は見られない場合は治療する必要はありません。

 小さな良性腫瘍であれば手術をせずに経過を観察いたします。

 バセドウ氏病で甲状腺ホルモンが多すぎる場合、その一部を切り取る手術をします。

 癌であることが判明すれば手術をいたします。癌が周囲に浸潤していると気管の切除もやむを得ない場合がありますし、リンパ節転移があればそれも含めた手術になります。

 幸い甲状腺癌の手術成績は治癒率が95%と高く、よく治る癌に属します。

 甲状腺の手術は瘢痕が見える所ですから、細心の配慮が必要ですし、近くに声帯を動かす反回神経が通っていますので、それを損傷しないように手術しなければなりません。

 甲状腺の専門医は手術が上手なだけでなく、内分泌機能の調整にも熟知していなければなりません。手術を受ける場合一考を要します。

 もし、甲状腺を全部切除した場合は一生にわたって甲状腺ホルモンを内服しなければなりません。副甲状腺の問題もありますがここでは割愛します。

 【甲状腺ホルモンとヨード】日本は島国ですから食物として海草を取る機会は多いのですが、大陸に生活する人々や日本でも山奥に住む人は甲状腺機能低下による粘液水腫に罹ることがあります。

 海草にはヨードが含まれており、甲状腺ホルモンを作るためにヨードが不可欠なのです。適量の海草類を摂取するように心がけてください。

32 癌 の タ ー ミ ナ ル目次へ

 【死に直面して】日本人の平均寿命が男性78歳、女性85歳となり、その死因を見ますと、癌が一位、脳血管障害が二位です。癌の治療方法が進歩し、生還した人も多い反面、万策つきてターミナルケアに頼らざるを得ない事態も少なくありません。

 最近はホスピスという言葉を耳にされるように、癌のターミナル患者を泉門にケアしようとする病院もあります。痛みを除去し、静かに自分の過去を振り返り、今日まで過ごした生の充実感に浸るとともに、次第に迫る死を正しく見つめようとするものです。

 【在宅ケア】入院されている病院が理想的な環境であれば結構ですが、在宅ケアも選択枝の一つとして考えてください。

 前提となる条件として、病状が落ちついている、痛みの対策がとられている、主治医の許可がある、実家に受け入れる用意がある、いざという時に再入院できる、などが必要になります。

 自宅には自分の過去の記憶、記録が一杯詰まっています。病院の狭い部屋では得られない安息と暝想が得られるはずです。

 家庭の暖か味が、痛みを柔らげ、不安を忘れさせることでしょう。そのような家族との接触を通して自分の像を家族に印象づけることも可能です。家族もまた貴方を再発見する面があることでしょう。

 【日本人の死生観】このような機会に、自分史を編集した方、闘病記を書いた方、没後に家族、友人が集まり遺稿集を出版された方など多くの例があります。

 もし、家族ぐるみの宗教一家であれば、抵抗なく死を受容されることでしょう。しかし多くの日本人は特定の宗教を持っていません。

 一般に日本人は仏教徒と言いますが、普段からお経を唱え、教義に精通した方は少なく、正月には神社に初詣、結婚式は教会で、葬儀は仏式でというパターンに少しも抵抗感はありません。

 これを日本教と評した人があり、その信念は強いものであると言われています。

 【受け継がれた習慣】最近、核家族化したとはいえ、盆・正月の帰省ブームは正に大家族の絆が残っている証拠です。

 仏教では輪廻転生と言って死後四十九日になると、どこかの世界に生まれ変わることになっています。話には聞いても、それを信じる日本人はいません。

 日本人の深層意識には儒教でいう招魂再生があるようです。家族によって営まれる故人の命日、盆、彼岸の祭祀には自分の魂が呼び入れられ、家族の心の中に再生するという心情には同感できます。

 自分の死後も同じように家族が集まり、自分の魂を迎えてくれるだろうと思えば、安心して死出の旅につくことができるのです。そのため、貴方も生前に、先祖を祀る習慣を家族たちに残しておかなければなりません。

33 老 人 性 痴 呆目次へ

 【概念】「最近、年のせいで人の名前を度忘れして困る。」と言ってる間は正常範囲でしょう。「昨日何処へ行きましたか?」「朝食に何を食べましたか?」「今日は何日ですか?」「ここはどこですか?」に答えられなくなると、痴呆という病名がつきます。

 わが国では老人の約5%が痴呆になると言われています。大きく分けて、脳血管性痴呆と、アルツハイマー型痴呆とがあり、後者は初老期から発症するものもあります。

 【症状】新しい事物の記憶ができない、時間・場所の見当識がなくなる、などが初期症状です。

 猜疑心が強くなり、被害妄想が見られ、あの人が自分の悪口を言っている、財布を取られたに違いない、などはよくある症状です。

 電話の応答や客人との挨拶はしっかりでき、昔の記憶は比較的よく保たれますので、呆けているように思えません。読み書きも比較的よく保たれます。いわゆる「まだら呆け」の状態がしばらく続きます。進行しますと、妄想、徘徊、興奮などが起こり、次第に人格が崩壊してきます。

 【検査】痴呆の場合、意識障害を来すことはなく、抑鬱状態が続くのも別の疾患です。まずは専門医による鑑別診断が必要になります。症状から診断はつきますが、CT像、MR像を見ますと、脳の萎縮や梗塞など器質的変化が認められます。脳波の変化は少ないようです。

 【介護】痴呆を予防する薬剤も出ていますが、抗精神薬、興奮剤、睡眠薬、鎮静剤などはむしろ害がありますので、長期内服薬には注意が肝要です。

 初期の痴呆は家族の協力に頼ることになります。子供扱い、甘やかすのはよくありませんが、説得、叱責も効果がなく、できる範囲の役割をしてもらい、できた時の褒め言葉が大切です。同じ説明も繰り返しを厭わず行い、大切なことはメモ書きにして持たせます。今日の予定、家族が帰宅する時間、忘れかけた人の名前など、メモに書いて渡しておくと、何度も読み直して安心しています。

 自分で書ける間は、努めて日記を付けるように勧めます。昔のアルバムや手紙などを見て若い頃を想起するのは良いことです。(想起療法)。テレビの見過ぎはよくありません。テレビは一方的ですから、自分で考える要素がありません。

 人格崩壊を来たし、家人の識別も困難になり、異常行動が激しくなれば、病院または施設へ預けざるを得ません。その判断は、むしろ家族の負担軽減を優先させるべきでしょう。

 【予防】肺炎などの大病、骨折などの長期臥床は痴呆を憎悪させますから用心しましょう。若い頃から趣味を持ち、年を取ってからも勉強を続け、対人関係をよくし、ボランティア活動に生き甲斐を見つける、などは痴呆の予防になるでしょう。

34 老 人 性 掻 痒 症目次へ

 【概念】痒いのは夜も眠られない位つらいものです。皮膚には触覚、痛覚、温覚、冷覚の4種類があり、それぞれ別の神経線維で感じています。しかし、痒み覚とは聞いたことがありません。

 虫に刺されて痒い、蕁麻疹のため痒い、湿疹ができて痒い、黄疸の痒み、白癬(水虫)の痒み、疥癬の痒みなど原因がはっきりしているものはその治療法があります。厄介なのは皮膚の外見は異常がないのに痒くて仕方がないという場合です。強いて病名らしく言うとすれば、老人性掻痒症、無脂性皮膚炎、心因性掻痒症などとなります。ここでは老人性掻痒症について解説します。

 【症状・検査】とにかく体中が痒くてたまらない。寝ている間に掻きむしっている。特に冬期にひどく、下腿の皮膚は乾燥し、粉をふいたように、または、細かい鱗のようになります。

 皮膚が発赤、痒みなどの変化があれば、家庭で市販のクリームを塗り、それで治れば問題は解決します。しかし、なかなか治らない場合や反復する場合には皮膚科を受診するべきでしょう。

 医師は虫刺され(蚊、蚤、だに、虱、など)、白癬(真菌)、疥癬(疥癬虫)、蕁麻疹(アレルギー性)、湿疹、薬疹(内服薬の副作用)など、病変の状態、顕微鏡検査などによって鑑別されるでしょう。

 アレルギーの検査や肝機能検査など全身検査も必要になります。

 【治療・予防】明らかな原因が見つからない場合には老人性掻痒症と言われるでしょう。老化現象により皮脂と汗の分泌が少なくなり、皮膚が乾燥しやすくなっています。刺激の少ない軟膏を日に2~3回塗ります。軟膏は尿素軟膏、抗ヒスタミン軟膏が良いのですが、オリーブ油を薄く塗るのが一番良いという先生もあります。

 皮膚の脂肪が少なくなっているのですから、入浴時に石鹸をタオルにつけてゴシゴシ洗うのは禁止します。夏期、汗をかいた後はすぐにシャワーを浴びておきましょう。ただし熱い湯の入浴は逆効果です。

 冬季は空気が乾燥します。特に暖房が入ると湿度が低くなりますので、加湿器を置いて湿度の調整に(湿度50%以上にする)気をつけてください。

 食事の内容も胃腸にこたえない程度に脂肪分をとり、水分を多くとるようにします。アルコールは控えめにしましょう。

 これらの注意はそのまま予防になります。

 【美容】女性のお肌を若く美しく保つ方法を教えましょう。多くのクリームや化粧品は肌を荒らしますので、できるだけ使わないことです。入浴時は熱い湯を避け、石鹸は使わないようにし、入浴後に保湿クリームを塗ると良いでしょう。また、夏季の紫外線避けクリームは常備してください。

35 骨 粗 鬆 症目次へ

 【原因】女性や老人では骨塩量が減少しやすく、その程度が強くなり、脊椎や大腿骨のレントゲン写真にも変化が明らかになりますと骨粗鬆症と診断されます。骨折が起こりやすくなり、特に大腿骨頚部骨折が起こりますと、寝たきりの原因になりかねません。

 【症状】腰痛、背痛が起こり、椎体の変形に伴い腰が曲がってきます。老人が布団の上で転んだだけでも、腰椎圧迫骨折や大腿骨頚部骨折を起こします。

 骨折が起これば激しい痛みを訴えますが、中には余り痛くないこともあり、起立できなくなって発見される場合もあります。

 【診断】脊椎や大腿骨のレントゲン写真で骨の微細構造(骨梁)が不鮮明になって来ます。椎体は圧迫されて扁平になり、細かい骨折像、骨萎縮像を認めます。最近では、多くの病院で骨塩量(骨密度)測定装置を設置していますので、骨塩量を測定します。同じ年代の平均値に比べ20%以上の低下があれば、骨量減少と診断します。骨量減少は骨粗鬆症の予備群ですが、医学的に骨粗鬆症と診断するためにはレントゲン写真でも変化が明らかなものに限ります。

 【治療】食餌療法と運動療法が基本になります。良質の蛋白質、カルシウムの多い食物を多く摂ります。牛乳、チーズ、ちりめんじゃこ、小魚・あみ・しじみの佃煮、ごま、などを勧めます。最近、ビタミンK2が重視され、納豆が見直されています。運動は何でも構いませんが、続けて行うことが大切です。手っ取り早いのは万歩計をつけて歩くことでしょう。毎日一万歩(約4キロ)が目標です。

 腰痛のひどい時はコルセットを付けますが、短期間にしておきませんと、腹筋、背筋の萎縮が起こってしまい、逆効果になります。

 是非、腰痛体操を励行してください。朝、ベッドに寝たまま足の屈伸をします。脊椎に負担をかけない状態で、腹筋と背筋を鍛えることができます。

 薬物療法は、カルシウム製剤、ビタミンD、ホルモン療法など、医師の指示に従ってください。

 【大腿骨頚部骨折】不幸にして大腿骨頚部骨折を起こしてしまえば、整形外科にかからなければなりません。年齢や全身疾患も考慮しますが、多くの場合、骨折部を金属棒で固定したり、人口骨頭に置き換えたりいたします。できるだけ早く離床し、寝たきりにならないように心掛けます。

 【予防】最近は車の生活が多く、運動不足になりがちです。

 宇宙飛行士が一ヶ月以上無重力状態で生活すると、筋力が低下し、だんだん骨のカルシウムが抜けて行きますので、その予防策として人工重力が構じられているということを聞かれたことがあるでしょう。

 骨粗鬆症の予防は、若い頃から日々の食事と運動に注意することです。

36 嚥 下 障 害

 【原因】人間は生きるために食物を摂取しなければなりません。何かの原因のために口に入れた食物を嚥下しにくくなる病気があります。健康な時には、反射的に行っている嚥下運動によって、口、咽頭、喉頭、食道、など多くの筋肉が協調的に働き、食物を胃へと運んでいるのです。

 しかし、脳梗塞後遺症などのため、舌や咽頭の筋肉が麻痺しますと、嚥下が困難になり、無理をすれば気管に吸い込み、肺炎を起こしてしまいます。

 下咽頭癌や食道癌のため食物が通過しにくくなり、嚥下障害を起こすことも気にしておかなければなりません。

 【診断】食物がいつまでも口の中に残る、無理に呑み込むと気管に入りむせる、一度は嚥下できても胸のあたりでつかえている、唾が溜まりごろごろ、ぜーぜー言っている、などを訴えます。

 耳鼻咽喉科や神経内科を受診し、嚥下障害の原因を調べます。口腔・咽頭・食道の透視検査をしたり、内視鏡検査をします。もし、癌らしいものがあれば、試験切除をして病理検査に提出します。

 【リハビリ】嚥下の協調運動が障害されている場合は、リハビリによって訓練します。

 例えば、食前の予備運動です。頚の運動、頚のマッサージ、顎の運動(口の開閉)、口唇の運動(頬を膨らます、パ行を言う)、舌先の運動(舌を前後左右上下に動かす、タ行を言う)、軟口蓋の運動(カ行を言う)、舌根の運動(ラ行を言う)を繰り返します。最後に大声で「パタカラ、パタカラ、パタカラ」と叫びます。

 これで嚥下運動に関係した筋肉のウォーミングアップができましたので、柔らかく舌触りの良い物から一口づつ時間をかけて食べるのです。ゼリーで固めたり、トロミアップで粘りを出すのも良いでしょう。次第に、粥食、きざみ食、に上げて行きます。

 【経管栄養】どうしても口から食べられない時は、経管栄養ににしなければなりません。鼻から細い管を胃まで入れて、食事は完全な流動食とし、必要カロリーと水分を流し込みます。

 胃瘻造設と言って、腹壁に孔を作り、胃に直接通路をつける方法もあります。

 【肺炎の予防】食後には口を濯ぎ、歯を磨き、食物残渣が口内に溜まらないようにします。残渣に繁殖した細菌を知らない間に誤嚥し、肺炎を起こす危険性があるからです。口に溜まった唾液は常に吸引しなければなりません。

 それでも、肺炎を繰り返すような場合は気管切開や、食道・気管分離術などの手術をしなければならない場合もあります。

 【癌の治療】下咽頭癌や食道癌が発見された場合は、その専門病院で手術や放射線治療を受けなければなりません。

37 寝 た き り 老 人目次へ

 【原因】脳出血、脳梗塞のために安静に臥床している期間が長すぎ、寝たきり状態になってしまう方がよくあります。

 老人が脚の骨を折り、三ヶ月も臥床していると筋力が弱り、立てなくなる場合も同じです。長い期間寝かせきりにいたしますと、老人性痴呆も進み、ますます起きられなくなり、本当に寝たきりのボケ老人になってしまいます。

 【在宅介護支援センター】対象者がおられるご家庭では是非近くの役場、保健所、特別養護老人ホーム、老人保険施設のいずれかを訪ね、相談してみてください。病状に合わせていろいろな助言をいただけます。

 これらの各施設内の在宅介護支援センターで介護方法や介護用具貸し出しについて、また介護保険利用法などについて教えていただけます。

 【早く在宅生活に】発作が起こった直後は病院での治療が必要ですが、一ヶ月を過ぎればリハビリを始めなければなりません。立派な病院(建物や設備ではなく、上手に自立させる病院)もありますが、一般的に言えば、病院に入院していると必要以上に安静を命じられることが多いようです。その点、老人保険施設の方が目的に叶っています。

 施設内のリハビリは、手足のマッサージ、電気治療、歩行訓練の他に、ラジオ体操、風船バレー、カラオケなどの集団リハビリ、朝の洗面、更衣、食事、排泄、入浴など、日常生活をできるだけ自分でやっていただく生活リハビリをいたします。

 在宅ケアに移られてからも、施設に一日だけ通うデイケアや短期間入所するショートステイを利用されると良いでしょう。

 【介助と自立】車椅子でゆっくりゆっくりと自分で移動されているご老人を見ると、後ろから押してあげたくなりますが、ご老人の自立を願うならば、できるだけ側で見守り、手を貸さない方が良いです。当然、時間はかかりますし、危険な状態になることもあるかも知れません。側で注意し、いざという時のみ援助の手を差し伸べるようにします。

 食事の介助、排泄の介助、入浴の介助、更衣の介助とすべてに当てはまることです。こちらがさっさとしてあげた方が早く終わりますが、じっと側で見守り、励ましの言葉をかけ、一人で完成されたとき共に喜ぶのが真に良い介護なのです。

 【自宅でも規則正しい生活】朝起きれば、洗面し、髪をとき、昼着に着替え、食事は食堂で、昼間はなるべく目を覚まし、読書、書き物、手芸、体操、散歩、家族団らん、などに努力しましよう。家族が面倒がっておむつを当て寝かせきりにしますと、本当に寝たきりになってしまいます。

 定期的に病院に通うとか、かかりつけ医の往診をお願いするとかして、再発防止に努めてください。

38 公 的 介 護 保 険目次へ

 【措置でなく保険】平成12年から実施された公的介護保険については、大方御存知と思います。でも、中には貧乏人が受ける措置で、なるべく世話にならない方が良いと思っている人もあります。

 日本国民は漫40歳になると介護保険をかけ始めなければなりません。その金額は年収により異なりますが、大まかな線として毎月2~3千円位です。介護が必要になれば、その程度に合わせた金額が保証されるという全国規模の保険制度なのです。

 【要介護認定】40歳以上の初老期痴呆症、脳血管障害、そして65歳以上の介護を要する状態になりますと、在住する市町村に介護保険利用を申し込みます。

 すると各市町村からケアマネージャーが調査に訪れます。その調査書とかかりつけ医の意見書を資料にして、高齢者介護認定審査会が開かれ、5段階の要介護状態と要支援状態のいづれかに認定されます。

 各段階の利用限度額は毎月6万円から30万円までの差がありますので、認定に当たっては客観的かつ正当でなければなりませんし、認定は3ヶ月ごとに見直されます。状況が変われば、何時でも再申請することができます。

 【サービス計画作成】在宅サービスを受けるために本人、家族、ケア関係者(マネージャー、かかりつけ医、保健婦、看護師、介護福祉士、理学療法士、ホームヘルパー、ボランティアー、民生委員など)が相談し、限度内でどのようなサービスを選択したらよいかを決めます。それに従って何時ヘルパーが行くか、保健婦が訪ねるか、医師が往診するか、といった一週間のスケジュールを立てるのです。サービス内容については最終的には本人、家族の意志により決定され、3ヶ月ごとに見直されます。

 身体状況や家庭の状況によっては各種施設(老人保健施設、特別養護老人ホームなど)を利用することもできます。介護してくださる肉親がおられない場合、老人ホームは人生の最後を送る場所となり得ますが、老人保健施設は終の棲家ではありません。

 【老人保健施設の役割】昭和63年厚生省令によりますと、「老人保健施設は、老人の自立を支援し、その家庭への復帰を目指すものでなければならない。また、明るく家庭的な雰囲気を有し、地域や家庭との結びつきを重視した運営を行わなければならない。」と規定されています。つまり「自立支援」「家庭復帰」「家庭的雰囲気」「地域・家庭との結び付き」を4原則としているのです。

 脳梗塞や骨折後のリハビリのため病院に入院している患者が、そろそろ退院が近くなり、まだ十分な回復が得られていない場合、病院と自宅との中間施設として利用します。

 また、自宅におられる老人が無理なく在宅介護を続けられるように援助する施設です。そのため、上の4原則で運営されています。

39 電 子 カ ル テ目次へ

 【カルテは誰の物】病院で医師が患者さんの所見を記入しているノートを一般にカルテと言います。正式には診療録と言われています。従来のカルテは医師の覚え書きであって、患者には見せないものとされて来ました。

 しかし最近では、医療の秘密性を取り除こうとして、患者からの求めがあれば、カルテを開示しなければならないのです。というよりも、カルテは本来患者個人の物で、医師に保管してもらっているという考え方に変わって来たのです。ただ、医師はカルテを少なくとも5年間保存し、必要な時には証拠書類として提出する義務があります。

 【電子カルテ】一方、進歩的な考えを持つ医師はIT化の時代に沿って、紙を廃止し、記録を全てコンピュータに入力し、必要に応じて画面に表示して見るという方法を取り入れるようになりました。

 平成11年に厚生省は、一定の条件を満たしていれば、診療記録を電子カルテにしても構わないとの通達を出しました。一定の条件とは真正性(書き換えができない)、見読性(いつでも印刷できる)、保存性(消去されても復元できる)の3条件です。今日のIT技術をもってすれば、いづれも可能です。

 【電子カルテのメリット】電子カルテシステムにすればどんなメリットがあるのでしょうか。

1 診療内容の向上:個人の病状を経時的に表示し、病状の予測までする。投薬や注射のエラーを未然に防ぎ、過去の文献を参照し、高質の診療を行う。

2 新しい学問体系:膨大なデータから正確な統計を行い、新しい診断学、予測医学の開発、医学教育に役立てることができる。

3 経営の効率化:事務の効率化、レセプトの自動作成、合理的病院管理運営ができる。

   【これからの診療場】電子カルテを採用される病院や診療所が多くなるでしょう。当然、診療場にはコンピュータが置かれ、医師や看護師は紙に書くことなく、直接コンピュータに入力します。

「これで良いですか?」と患者さんに画面を見せて確認を求め、参考資料も表示しながら説明する情景が予想されます。

 【病院の評価】患者さんからも病院を見る目が変わり、次のようなことに努力されている病院が良い病院と評価されるでしょう。

1 電子カルテを導入し、診療内容を患者さんに開示して、説明される医師がおられる病院。

2 電子カルテを駆使し、他の病院や保健所とも連絡をとり、地域医療に貢献している病院。

3 常に最新の医療を取り入れ、従業員の教育研修に熱心な病院。

4 アメニティにも気を使い、患者への応接に笑顔を絶やさない雰囲気を備えた病院。

5 危機管理が徹底されている病院。

40 リ ス ク マ ネ ー ジ メ ン ト目次へ

 【危機管理】最近、病院に限らず、企業においても危機管理という言葉を良く耳にします。

 日頃から安全確保のために改善するべき箇所はないか、うっかりした人為的ミスを未然に防ぐにはどうすれば良いか、もし事故が起きた場合、再発防止のためにどのような手立てを取ればよいか、などに苦慮されています。

 【病院に多い事故】患者さんの取り違え、手術の時に器具をお腹の中に忘れた、輸血の血液型の間違い、不適切な応急処置、当直医師が起きてこなかった、カルテの改竄、など新聞種に事欠きません。しかし、事故で一番多いのは注射の事故、処方過誤による事故、転倒、転落事故、針刺し事故です。

 【隠れた事故・事件】一件の係争事故の背後には29件のアクシデント(係争にならなかった事故)と、300件のインシデント(ひやり・はっとした事件)がある。これをハインリッヒの法則と言います。

 ひやり・はっと事件は当事者が「ああ良かった」と胸を撫で下ろして終りというのでは、その頻度はいつまでたっても減りません。

 【インシデントの届け出】最近、いづれの病院でも全てのインシデントを届け出て、その内容を分析し、以後の再発防止に役立てるようにされています。

 インシデントの背景要因分析法にSHELL法という方法があります。SHELL]SSoft Wear(システムや法則)、HHard Wear(機械や設備)、EEnvironment、(環境)、前のLLive Wear(人間、ここでは当事者)、二つ目のLは(周囲の人々)の頭文字を採ったものです。それにPを加えてSHELLPと言う人もあります。PPatient(患者)の意味です。

 インシデントの届け出があった場合、各部署から選ばれた検討委員会においてSHELLPのそれぞれについて検討し、従来何か見落としていたことがなかったか、今後改善すべき点はないかと考え、対策を講じるのです。

 【ある病院の場合】ある病院では事件が発生した時には直ちに院内のコンピュータ端末から無記名で登録します。登録する人は、その場に居合わせた人と一緒に、上記のSHELLPについての意見を付して状況を報告するのです。

 事故・事件の場に居合わせた当事者がどのように対処したかということと同時に、その時、側にいた人、患者さんはどうしたかも報告してもらいます。

 その報告を直ちに各部門の代表者からなる事故防止委員会で検討し、必要な改善策を院長に具申し、院長は結果をネットワークで院内に流します。登録した人の名は決して公表されることはありません。個人を責めても再発防止には何の効果もないからです。

 こんな素晴らしい病院には是非行って見たいと思いませんか。

おわりに目次へ

 私は、特に趣味はありませんが、好奇心は旺盛な方です。学会など国内の旅行はジパングの3割引を利用し、年20枚が足りない位です。常に長寿手帳を持ち、美術館や栗林公園によく足を運んでいます。毎週一回のロータリー例会に出席するのも楽しみです。

 また、ボランティア活動として、インドネシアには13回、ラオスには2回訪問し、講演をしました。

 最近、聞きました「呆けたらあかん、長生きしなはれや」は良い歌ですね。これを聞くと元気がでます。

    平成15年2月末日  酒井 俊一

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