足の捻挫も完治して、和海は順調に調子をあげていった。また、秀直の方も和海に負けず劣らずの力を付けてきていた。
「しかしよォ、なんだかんだ言っても来週だぜ、県大会。この間進級したばっかだって思ってたのにな」
「おぉ。もうすぐ和の悔しがる姿が見れるってワケだな」
「フン、そのセリフ、のしつけて返してやるよ」
「・・・先輩、もうすぐ大切な試合なんですからケンカはやめましょうょ」
いつもの口ゲンカを奈美が止めに入った。
「いや、俺は何も言う気はなかったんだけどさ、秀の野郎が・・・」
「何言ってんだよ、先に言いはじめたのはお前だろ」
「・・・・・・」
奈美は何も言わずに練習に戻っていった。止めても無駄な2人の茶番にあきれきったのだった。
「おい、この続きはコートでやんねぇか?」
「そーだな。来週は県大会だし、和海をたたきのめす練習でもするか」
「いったな。そのセリフ後悔させてやる」
「ナメんなよ。てめぇが休んでいる間のヒミツ特訓の成果を見せてやる」
毎度毎度の口ゲンカを続けながら、2人は並んでコートに向かうのだった。
快晴・真夏日のグラウンドに和海、秀直をはじめ、多くの選手達が集まった。和海達にとっては高校生活最後のインターハイだ。
組み合わせ抽選が行われ、和海はAコート第4試合。秀直はDコート第9試合に決まった。
「これでまず、当たることはなくなったな。秀、必ず二人そろって地区大会へ行こうぜ」
「ふん、望むところだ」
二人は笑いあってそれぞれのコートに分かれて行った。
和海の相手はN大付属の2年生だった。
「・・・負けるわけにはいかねぇ」
少なくとも地区大会へ行くためには、3試合勝たなければいけない。
その後、秀直も和海も難なくコマを進めていった。
―準々決勝― 後一つ勝てば、秀直は地区大会への切符を手にすることができる。まだ試合のない和海は、先に試合のある秀直の応援をしていた。
和海は二回戦もストレートで勝ち、次勝てば地区大会への出場が決定する。
『和、お前ならできる』
―父さん?―
『和海、ムリしたらだめよ』
―母さん?―
『和海ィ、あきらめたら許さねぇぞ』
―秀!?―
『先輩、がんばって下さい』
―吹田さん!?―
みんなが俺を応援している。みんなが俺を見ている。
(負けられない)
和海は静かに目を開けた。自分のためだけではない。人のために試合に勝つのだ。
「いっけぇ!!」
2ゲーム目、和海はこん身のサーブを放った。
「なっ!」
相手の声が聞こえたような気がした。和海のサーブは相手の反応より早くコートを飛び抜けていった。
(みんなのために・・・そして自分のために・・・負けるわけにはいかない)
「疲れましたね、準々決勝で・・・」
次の日、和海は夏祭りに来ていた。毎年恒例の祭りだ。和海としては奈美と来たかったのだが、摩佐に誘われていたので仕方なくあきらめたのだ。
(まぁ、一緒に来てくれるって言う保証もなかったけど・・・)
和海は閉会式の後でぽつっと柿崎にそう言った。
「だろうな。前半と後半、動きが全く違ったぞ。まるで別人みたいな感じだった」
普段冗談と怒鳴り声しか飛ばさない柿崎も、今日は少し優しい口調だった。
「先輩、おめでとうございます。」
奈美が後ろから声をかけてきた。
「ああ、サンキュ。あっと、ごめんな。君が負けた時なんて言ったらいいかわかんなくて・・・」
「いいですよ。そんなことより地区、がんばって下さい」
「おつかれっ、和」
「残念だったな、秀」
「ああ、この間のお前状態だよ」
テーピングぐるぐるまきの足を見せて秀が苦笑いした。
「おい県大会出場者あつめろ。晩飯おごってやる!」
「おっ先生、太っ腹!!」
「ようし、俺フランス料理!」
「阿保、そこまで持ち合わせがねぇ。ファミリーレストランで勘弁しろ」
「は〜〜〜〜〜〜い」
夕日は今日の結果を讃えるように赤く赤く燃えていた。
―第2部― 夏祭りの夜
(チッ、帰宅部のゲームおたくめ!)
むかむかする気持ちをおさえて、約束した場所で摩佐を待っていた。
「よォ!和海、久しぶり!!」
相変わらず脳天気な声で摩佐が登場した。しかも、たこ焼きを食べていた。
「てめぇ、遅すぎるぞ。20分も待たせやがって!」
青筋を立てて怒鳴る和海に摩佐はいつもの表情で笑っていた。こういう奴なのだ、こいつは。
「何怒ってんだよ。待ち合わせより30分も早く来たお前が悪い!」
びしっと言い放った摩佐に和海は、何も言い返すことができなかった。
「ところでよ、摩佐。お前彼女と来るんじゃなかったのか?」
和海は話をそらすように、聞いた。
「ん?あぁ・・・最近むこうもクラブとか忙しくってな、最近しゃべってないし、今日も連絡とれなかったんだ」
摩佐は少しうつむいてそう呟いた。
「もう分かれるのか?」
和海はいたずらっぽく尋ねると
「いや、俺は優しいからな。彼女を信じてるし、むこうも俺のこと信じてくれてると思うから・・・な」
笑って、時々もらすクサいセリフに顔を背けてしまった和海だが、摩佐の表情に一瞬悲しみの色が移ったのを見逃さなかった。
「悪い、話変えよう。この間言ってたDREAMERの件だけど・・・」
「そうそう、DREAMER本人は最近ほとんどチャットや掲示板に来てない。多分、あれはかなり自分の首を絞めたんじゃないのか?」
「あぁ、俺もそう思う。チャットで呼んでもメール出しても音沙汰ない」
二人はうなりながらため息をついた。
「よぉ、もしかするともうすぐ当人に会えるかも知れねェぞ」
不意に摩佐が言った。
「マジか?でも向こうもこっちのこと・・・」
まで言いかけてハッとした。
(まさか、あいつが・・・!? いや、まさかな・・・)
あのDREAMERのホームページ ―お茶の間― ではユーザー登録で、ハンドルネーム、職業、趣味、とかを入力するとパスワードとチャットか掲示板がもらえる仕組みになっている。和海は確か、香星高校2年生(登録時現在)と入力した記憶がある。
和海はホットドックとクリームソーダを口にしながら、くじ引きの残念賞で遊んでいる。だが、頭の中では色々なことがぐるぐると渦巻いていた。