〜第一章〜


 この日、香星高校で隣の新堂高校と練習試合があるのだ
  「・・・やるじゃねェか」と呟きながらも、新堂高生相手に
    6-4    3-6    6-3
で、勝ちをおさめた。もっとも、秀直はストレートで勝っていたが。
 一方、奈美の方は、相手がかなりの実力者だったらしい。それでも、そこそこ 食い下がり、1セットはとっていた。

 試合後、家へ帰る途中にあるコンビニで和海と秀直は買い食いしていた。
「やっぱ、新高生相手なら、ストレートで当然だな」
 自慢げな目で、秀直は和海に話しかける。
「ハハ、相手のミスにつけこんでの勝ちに、何威張ってやがる」
 和海はすかさず返す。
「うっせ〜なぁ、勝負じゃ、ミスする方が悪いんだよ」
「ストレートとかいってもよ、何度もジュースに持ち込まれてたくせに」
 毎度毎度、似たようなセリフでバカにしあいながら店を出る。ここからは、 家の方向が違うのだ。
「じゃ〜な」
「あぁ、また明日」
 秀直と別れて、和海は愛飲の炭酸飲料を飲みほして、愛用の自転車で家へ急ぐ(妙なことを考えながら)
「ちっ、今日も奈美と話しそこねたなぁ。くっそ〜、あいつ邪魔だなぁ」
 今日の試合後、目当ての奈美はクラスメートとずっと一緒だったので、 和海は奈美を励まそうにも近寄れず、少しいらついていた。

「さて、と・・・」
 家に帰った和海は、無意識にパソコンのスイッチを入れた。
両親は共稼ぎ、祖母は買い物、祖父は用事でいない。
 高校入学祝いに買ってもらったパソコンをいじるのが、和海の趣味だった。
インターネットに接続し、色々なHP(ホームページ)を飛び回っていた時期もあったが、 今は専ら『お茶の間』というHPに入りびたっている。
 小学校時代からの親友で、良き理解者でもある雪島摩佐も和海の紹介で このHPに来るようになっていた。

――お茶の間――

 軽い悩み事や、ジョーダン、近況報告がとかが出来るように、掲示板やチャットを 多数設置してある。また、暇つぶしや井戸端会議などにも用いられていた。
 制作者にして管理者は、HN(ハンドルネーム)『DREAMER』。本名、住所等、一切不明。どこかの高校の男子生徒だ、ということしかわからない。

 和海はチャットに移動し、机の上の写真と時計を交互に見ながら摩佐が来るのを待つ。
「おっせ〜なぁ、待ち合わせから、5分過ぎてるぞ」
 部活の都合で、アルバイトが出来ない和海は収入が親からだけなので、接続時間は 1時間と決めている。それを過ぎると、自動的に接続が切れる仕組みにしてあるのだ。

MASA「う〜っす」
  不意に表示されるとぼけたセリフ。
Kazu 「遅いんだよ>MASA」
MASA「悪い悪い。ちょっとデートしててさ(^^;)」
  そのメッセージが表れた瞬間、和海は多少の殺意を摩佐に抱いた。
Kazu 「殺すぞ>MASA」
MASA「へへっ、お前にはこのセリフはタブーだったな」
  バイクの免許と、彼女の両方をもっている摩佐は、和海からするととてもしゃくにさわる。 そういうところを除けば気前も良くて、親切な奴なのだが・・・
MASA「んで、なんだ」
Kazu 「あぁ、今日の試合のコトなんだけど」
MASA「おぉ、彼女のことか(^▽^)」
Kazu 「どぉうぁぁっ、誰が見てるかわかんねェところで・・・」
Kazu 「はっきりと言うんじゃねェェェ」
MASA「おぉ、すまんのぉ」
  人をあせらせても、少しも反省しないのが摩佐の特徴・・・とも言えるのだが・・・
Kazu 「ったく。そうそう、それでさぁ」
Kazu 「また、あいつの友達がそばにいてよォ」
MASA「話せなかった。と」
  本来この程度の会話なら、普通に電話を使うのだが、タイピング速度を 速くしたい。という単純な理由で、チャットで話しているのだ。摩佐は 迷惑に思いつつ、それにつきあっている。
それにタマ〜に出てくる「DREAMER」との口ゲンカも多少楽しかった。
DRE 「・・・苦労してるねぇ」
Kazu 「っどわぁ、いきなり出てくんな」
  「いやなのが来た・・・」チャットには書かず、摩佐は呟いた。
DRE「その娘の友達、邪魔ならいやがらせすれば?」
DRE「ほら、どっかのマンガにもあったしさ」
Kazu「知らんっちゅうねん」
MASA「マンガおたくめ」
Kazu 「でも・・・さ、あれだけ気の合う女の子が」
Kazu 「オレの学校の同じクラブにいるんだもんな」
MASA「お前、俺と違って押しの一手ってやつねェからな」
Kazu「ちっ、むかつくねェ」
DRE「ケーケンシャは語る、ってやつだね(^-^)」
  そんなとりとめもない話しをしているうちに、 1時間がたってしまい、接続が途切れてしまった。
「しっかし、なんだなぁ。彼女に会いたいし、クラブは嫌だし、だなぁ」
 机の上の、偶然誰かが撮った彼女とのツーショットに目をやりながら、 ボソッともらす和海だった。

 ――次の日、雨が降っていたため朝練は中止。
和海は始業ギリギリに登校した。
「せ〜んぱいっ!おはようございます!!」
 ズブヌレの自転車置き場で、唐突に和海は声をかけられギクッとした。 確認するまでもなく、声の主は奈美だった。
「あ、おはよ。昨日は残念だったね」
 少しギクシャクしながら答える。
「まあねっ、相手が強すぎたみたいだったから・・・」
「あっ、負けおしみぃ!」
 少し嫌みもまぜて和海は言う。
「なんだよう
 ぶっすーぅとした顔で、奈美は言い返す。
 和海はにまっと笑い、
「たいへいよう注)太平洋
と、しょうもないギャグをとばす。
「あぁっ、やられたぁ」
 奈美が悔しがる。二人はこんなつまらんシャレをよく言い合うのだ。

 その時突然、始業のチャイムが校内に鳴り響いた。雨具を片付け、 飛ぶように教室へダッシュする二人だった。


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