〜第二章〜



  市大会、そして・・・[前編]

 6月、時期は梅雨に突入し雨でグラウンドが使えない日が続いている。
コートでの練習ができず、部活は体育館を借りてやっている。がグラウンドとの違和感がどうも、 落ち着かない。
「しっかしよぉ。来週だぜ、市大会。
 毎日こんな調子で大丈夫かよ」
 土のコートでの練習に慣れてしまったため体育館は、やりにくい。 和海はかなり、いらだっていた。
しかし、和海に限ったことではない。おそらく、市大会出場選手ほぼ全てがそう思っているだろう。
「しゃぁねぇよ。空に文句いったところで、晴れ渡るわけないし。梅雨が嫌なら、  梅雨のない国にでもいってくれば?」
「そんなとこいってて、大会に間に合うのかよ?そんなことも考えらんねぇのか」
 相変わらず、漫才に近いような言いあいをする和海と秀直だった。
今度の大会は、個人の力を出来るだけ発揮させようと、シングルで出場することになっていた。

 奈美の方はといえば、友達と実戦の様に打ちあっている。試合での展開を想定しての ことだろう。うっすらと汗をにじませながら、必死でボールを追う奈美に、和海の目は、自然とくぎ付けになっているのだった。

「おい、コラ」
不意うちで和海と秀直の頭をラケットで軽くたたく人影。 テニス部顧問の、柿崎だ。
大学の頃全国大会に出場したことがある。 その後、某テニススクールのコーチをしていて 5年前に香星高校に転任してきたのだ。
「しゃべってばかりじゃなくて、試合の調整をしろ。 市大会は来週だろうが。アホ!
・・・まあ、市大会で落ちたほうがゆっくりと受験勉強できるわな」
顧問兼監督にはふさわしくないセリフを残して 柿崎は去っていった。


「あのオッサン、何しに来たんだ?・・・しかしだ。てめえのせいで、オレまでどつかれたじゃねぇか」
「何で、俺なんだよ」
「和海がわけわかんねぇこといいだすからだっ」
「ひとのせいにしやがって。大体、あれは独り言なんだからそれを聞いたお前が悪い」
コトあるごとに始まる二人の口げんかは、もう誰も止めようとはしなかった。

「たっだいまぁ」
疲れてフラフラの和海の声が家の中に響く。 平日は、家に帰ると7時を過ぎるのだ。 この時間になると、家族は全員そろって 食卓を囲んでいる。その輪のなかに入り 適当に夕食をつついて、今日の出来事などで 談笑する。そして、かばんをかついで部屋に行く。 特に決めたわけではないが、毎日毎日同じことを繰り 返している。別に嫌でないから問題ないけれど・・・
 部屋のイスに座って、机の上にかざった写真に向かって 呟く。周りに誰もいないのを確認してから...
「来週、がんばろうなっ」
 写真には、試合後で疲れた表情の和海と 明るい笑顔で話しかける、奈美が写っていた。


  市大会、そして・・・ [後編]

市大会当日、お約束のように晴れわたった空の下。 和海達は、市立運動公園のテニスコートの前に来ていた。
「晴れるんなら、せめて昨日も晴れて欲しかったな。 これじゃあ、マンガと同じ展開だぜ」
「だから天気に文句いうなって。当日が晴れただけで  よしとしようぜ」
相変わらず文句ばっかりの和海に、今日は冷静に 秀直は 突っ込んだ。
 この大会は、AとBのブロックに分かれての トーナメント方式。各ブロック上位4名が 県大会に出場できるのだ。
くじ引きの結果、和海はAブロック。秀直は、 Bブロックとうまく分かれた。そして二人とも、 ストレート勝ちの連続で危なげなくコマを進めていった。

 奈美の方はというと、準決勝で後輩とぶつかってしまい 終始押され続け、結局負けてしまった。しかし、 3位決定戦で勝ちをおさめ賞状と県大会への切符を 手にしたのだった。
 このときも、和海の目は奈美の方しか見ていなかった。 そのせいで、流れ球を腹に受けてしばらく地獄を見ていたのだが・・・。
その後、秀直はとことん押せ押せムードの試合で、Bブロック 楽勝を自慢していた。
 和海の方は、準決勝・決勝とも少し押されていたが 持ち前の勘と勝負強さで、何とかAブロック優勝をはたした。

 帰りの電車の中、秀直はハンバーガーをかじりながら 和海に話しかけた。
「最後の最後であんな試合をしてたんじゃあ、県へいったら  とてもじゃないけど勝てないぜ。やっぱ、オレみたいな 勝ち方じゃないとな」
皮肉を込めまくったセリフを和海に投げかける。
「うっせーなぁ。今日は調子が悪かったんだよ」
と強気に返事を返しながらも、和海はくじいた右足に 目をやった。その目には不安の色が浮かんでいるのだった。


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