家庭用空気清浄機に対するFAQ集
−カリフォルニア州環境保護庁−
2001年10月8日
CSN #207
前報CSN #206において、表1に示すカリフォルニア州環境保護庁の室内空気質ガイドライン[1]の中から、第3回目として、ガイドラインNo. 3「家庭における塩素系化学物質:Chlorinated Chemicals in Your Home」の概要を紹介しました[2]。本報では第4回目として、FAQ(よくある質問)「家庭用空気清浄機:Air Cleaning Devices For The Home」[3]の概要を紹介します。
表1 カリフォルニア州環境保護庁の室内空気質ガイドライン([1]をもとに作成)
内容 |
タイトル |
公表年月 |
ガイドライン No. 1 |
家庭におけるホルムアルデヒド |
1991年9月 |
ガイドライン No. 2 |
家庭における燃焼汚染物質 |
1994年3月 |
ガイドライン No. 3 |
家庭における塩素系化学物質 |
2001年5月 |
FAQ(よくある質問) |
家庭用空気清浄機 |
2000年4月28日 |
小冊子 |
室内空気汚染の削減 |
2001年5月2日 |
一般的な空気清浄機は、ビルや工場などの空気調和設備の一部として、取り入れ外気や循環空気中の粉じんや有害ガスを除去するためや、排気系統の一部として有害物質の外部への排出を減少するために用いられています。空気中の汚染物質は、1)空気中に浮遊している固体または液体の粒子状物質である浮遊粉じん、2)真菌、最近、ウィルスなどの微生物、3)人間に対して不快感を与える臭気や生物に対して有害なガス状物質の3種類に大別できます。それぞれ除去対象物質や使用目的に応じて空気清浄機を選定することが重要です[4]。
一般家庭で使用されている空気清浄機は、持ち運び可能な小型のタイプや、全部屋を対象とした全換気システム中に設置されているタイプがあります。このFAQでは、質問/回答形式で、これらの家庭用空気清浄機に関して概説しています。以下に、その概要を示します。
1. 家庭用空気清浄機の効果
家庭用空気清浄機だけでは、全ての室内汚染物質を十分に除去できないこと、現在入手できる制限された科学的根拠に基づくと、家庭用空気清浄機の健康への有効性は明らかではなく、特にオゾンを発生するオゾン式空気清浄機(オゾン発生器が組み込まれた空気清浄機)は使用すべきでないと概説しています。また特に、空気清浄機の大半は、浮遊粉じんは除去できるが、一酸化炭素、ラドン、臭気、鉛ダスト、カビ・ダニ・ゴキブリ・ペット起源のアレルゲンなどは、有効に除去できないと概説しています。
2. エアーフィルターの改良
エアフィルターは、性能に応じていくつか種類があります。その概要を表2に示します。性能の高いフィルターを選択すると、空気の質がより一層改善されます。フィルターのメンテナンスは非常に重要で、フィルターが詰まって性能が低下すると、汚染物質の除去性能が低下します。使用頻度の多いときは毎月清掃を行い、取扱説明書にしたがって交換するよう注意を促しています。
表2 エアフィルターの種類と性能([3]をもとに作成)
種類 |
対象とする粒子サイズ |
除去効率 |
低性能フィルター |
10μm以下 |
10%以下 |
中性能フィルター |
0.3−10μm |
20−50% |
高性能フィルター |
60−95% |
|
HEPAフィルター1) |
99.97% |
1)強力なファンを必要とし、家庭用の強制エアーシステムで使用されることは少ない。
3. 空気清浄機の種類
空気清浄機を捕集原理に基づいて分類すると、1)ろ過式、2)静電式、3)吸着・触媒・吸収式に大別されます[4]。それぞれの概要を表3に示します。
表3 捕集原理による空気清浄機の分類([3][4]をもとに作成)
捕集原理 |
概要 |
|
ろ過式 |
繊維状あるいは金属製のフィルターを使用して汚染物質を捕集するタイプで、中性能あるいは高性能フィルターに使用。 |
|
静1) |
静電集塵方式 |
静電集塵フィルターに弱い電荷を与えて粒子を収集する。 |
イオン化方式 |
イオン化型は、+イオンを発生させて粒子と結合させ、−の集塵板に粒子を集める。 |
|
吸着・触媒・吸収式2) |
ガス状物質の除去や脱臭に用いられる方法で、a)活性炭など表面積の大きい吸着剤によって除去する。b)吸着剤などに触媒や酸化剤を付着させ、触媒の酸化作用で除去する。c)水や薬液などに吸収させて除去する。 |
1)副生成物としてオゾンが生成する。オゾンの生成量を最小限化するために、定期的にメンテナンスを行う必要がある。高濃度のオゾンは刺激臭を発する。
2)活性炭などのフィルターは、すぐに吸着量が飽和し、たびたび交換する必要があるかもしれない。
4. 空気清浄機のサイズの選定
カリフォルニア州環境保護庁のFAQでは、1)持ち運び可能な空気清浄機、2)セントラル全換気システムの2つに対して、それぞれ目的に応じた必要換気回数を提案し、その換気回数を達成するために必要な空気清浄機の風量の算出方法について概説しています。
持ち運び可能な空気清浄機の場合、室内汚染物質の濃度を素早く低減させるために必要十分である、必要換気回数2−3回/hr以上(1時間あたり2−3回室内空気を入れ替える)が可能な空気清浄機を選定すること、セントラル全換気システムの場合、主な室内空気汚染物質の汚染源が除去できている家屋を継続的に換気するために必要な換気回数として、換気回数0.5回/hr以上を確保するよう提案しています。そして、それらの換気回数を確保するために必要な風量に関して、以下の算出方法を示しています。表4に計算例を示します。
必要風量(Air Flow Rate:m3/分) = (A x B x C x D)/ E
A:床面積(m2)
B:天井高さ(m)
C:必要換気回数(回/hr)
D:時間から分への変換定数:0.017
E:空気清浄機の効率因子(FAQでは商品の性能表に記載とあるが、日本の商品では記載がない)
表4 必要風量の計算例([3]をもとに作成)
項目 |
床面積 |
天井 |
必要換気 |
変換 |
効率 |
必要風量 |
単位 |
m2 |
m |
回/hr |
− |
− |
m3/分 |
記号 |
A |
B |
C |
D |
E |
− |
部屋を想定 |
18.6 |
2.44 |
3 |
0.017 |
0.50 |
4.62 |
家屋を想定 |
186 |
2.44 |
0.5 |
0.017 |
0.50 |
7.72 |
5. 効果がない空気清浄機のタイプ
1) オゾン式空気清浄機
カリフォルニア州健康サービス局は、オゾン式空気清浄機(オゾン発生器が組み込まれた空気清浄機)は使用しないようアドバイスを行っています。オゾンは強い酸化作用のある化学物質で、高濃度のオゾンに曝露すると、眼、粘膜、上部気道を刺激し、ヒトの呼吸器系に影響を及ぼします。
この件に関しては、アメリカ環境保護庁が報告書を作成しています[5]。それによると、オゾン式空気清浄機で室内空気汚染を効果的にコントロールできるかについては、これまで得られた科学的知見では、健康基準値を超えないオゾン濃度では、室内空気汚染物質はほとんど除去できず、臭いの原因となる多くの化学物質を有効に除去できないことを示す証拠があること、また、その濃度では、ウィルス、細菌、カビなどの生物汚染源を有効に除去できないと報告しています。
2) 室内用鉢植え植物
室内汚染物質に対する室内用鉢植え植物の除去効果は、ほとんどなく、多少の効果があったとしても、大量の室内用鉢植え植物が必要となり、室内湿度が増加するなど、他の室内環境問題が生じる可能性があると概説しています。
6. 汚染された外気からのシールド方法
屋外での焼却、風で運ばれる粉じん、花粉、自動車排気ガス、工場の排煙などは、室内に侵入して室内空気を汚染する可能性があります。カリフォルニア州環境保護庁のFAQでは、その対策として、1)窓や扉を閉めて、室内空気汚染物質の全ての発生源を最小限にすること、2)強い臭気には対応できないと思われるが、空気清浄機を使用することで、ある種の汚染物質の濃度は低減できる可能性があること、3)外気をろ過して室内に供給する全換気システムを検討することなどが概説されています。
室内空気汚染対策の基本は、汚染源の最小限化と換気です。しかしながら、これらの手段を補う目的で、家庭用空気清浄機を効果的に使用することは可能です。ただし、その適用範囲と使用上における注意事項をよく理解し、適切に使用することが大切です。
Author: Kenichi Azuma
<参考文献>
[1] A department
of the California Environmental Protection Agency, The California Air Resources
Board (ARB), “Indoor Air Quality and Personal Exposure Assessment Program”
http://www.arb.ca.gov/research/indoor/indoor.htm
[2] Kenichi Azuma,「塩素系化学物質に対する空気質ガイドライン」, CSN #206, October 1, 2001
http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/Oct2001/011001.htm
[3] The California Air Resources Board (ARB), “Air Cleaning Devices For The Home- Frequently Asked Questions”, April 28, 2000
[4]社団法人 日本空気清浄協会,「室内空気清浄便覧」,オーム社, 2000
[5]United States Environmental Protection Agency (USEPA), “OZONE
GENERATORS THAT ARE SOLD AS AIR CLEANERS: An Assessment of
Effectiveness and Health Consequences”, April 4, 2001
http://www.epa.gov/iaq/pubs/ozonegen.html
(参考)
Kenichi Azuma, “オゾン式空気清浄機と健康影響”, CSN #193, July 2, 2001
http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/July2001/010702.htm