妊娠中の有機溶剤の使用


C017

ご質問

妊娠中と有機溶剤について教えていただきたく、メールしました。私は、あるメーカーで材料開発をしている既婚者です。今すぐではありませんが、いずれは子供が欲しいと思っています。私の勤めるメーカーは、材料開発に関する仕事をしている女性の技術者が少なく、既婚者はいますが子供のいる人がいません。前例がないので、妊娠を希望した時、どのように仕事をすればいいのか、不安に思っています。そこで、他の企業で有機溶剤を使用している女性が妊娠したとき、または妊娠を希望した時、どのように仕事をしているのか、ご存知の範囲で教えていただきけませんか。

手袋、マスクはできるだけ着用するようにはしていますが、急いでいるとき、つい忘れてしまいます。皆、できるだけドラフト内での作業、換気等を気をつけてはいますが、実験室がトルエンやMEK臭く、その中で長時間作業する事がよくあります。

 

回答

保護手袋、保護マスク、ドラフトでの作業などで曝露をできるだけ避ければ、みな無事出産していると考えて下さい。揮発性の高い有機溶剤がメインのようですから、蒸気を吸入する、あるいは皮膚に触れて皮膚から吸収することによって体内に進入し、胎児に影響するかどうかを考えるのですが、そのような曝露を避けるよう、保護具の着用や、ドラフトなどの局所排気装置を使用していれば、大丈夫だと思います。

ご心配されること、決して神経すぎることではございません。このようにご心配されるお気持ちが、日常的に保護具の着用などでできるだけ曝露を避けるよう行動されることにつながります。そのような姿勢は、私たちのように化学物質を一般の方たちよりも日常的に扱う化学者に必要なのです。

昨年、アメリカ医師会雑誌(JAMA)において、妊娠中に有機溶剤に曝露した女性において、曝露していない女性よりも、流産が多い、出生児の体重が低い、脱腸症や心拍数異常症などの胎児障害が多いといった報告(異常数が約2−3倍多かった)が発表され、アメリカで大きな話題となりました。

http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/April1999/990429.html
http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/990327.html

しかしこれは、工場作業者、実験補助、アーティスト、グラフィックデザイナー、印刷産業労働者、化学者、画家、OL、獣医、葬儀場労働者、大工、社会福祉家、カー清掃業など、おそらく保護具の着用率が低く、換気器具が不十分で、曝露量が多い方たちとの比較だと思われます。ですから保護具の着用や換気に気をつけることは、とても大切なことです。ただ、妊娠13週目までの女性たちで比較していますので、妊娠初期が最も気をつけなければならない時期でもあることを、心に留めておかねばなりません。これは、妊娠期間中に限らず、日常的に曝露しないよう注意しなければならないことを意味します。妊娠がわかった時というのは、ほぼ妊娠3ヶ月目に入っています。

また、実験途中で多少皮膚に付着したり、蒸気を吸入したからといって、心配しないことも大切です。そのようなことを日常的に繰り返さないよう気をつけることが、最も大切なことです。

提示された有機溶剤の安全性については、国際化学物質安全性カード(ICSC)に毒性情報や予防方法が記載されていますので、ご参考下さい。

http://www.nihs.go.jp/ICSC/

この中で最も気をつけなければならないのは、トルエンです。エタノールの胎児への影響は、飲酒等によって大量に摂取した時ですので、実験室での曝露レベルであれば、あまり心配されなくてもいいでしょう。

実験室がトルエンやMEK臭いとお話されていました。ドラフト以外での有機溶剤の使用は禁止する。といった安全作業標準をご提案されてはいかがでしょう。基本的には有機溶剤の使用はドラフト内が原則です。


Q&A集へ

「住まいの科学情報センター」のメインサイトへ