欧州委員会による塩化ビニル樹脂のグリーン・ペーパー
2000年8月13日
CSN #148
塩化ビニル樹脂(PVC:以下、塩ビ樹脂)は、1931年にドイツで工業化が開始されて以来、建材、包装材、医療器具、玩具、家庭用品など様々な用途に使用されている汎用プラスチックスです。そして塩ビ樹脂は、原料である塩化ビニル(VCM)、添加される安定剤や可塑剤、廃棄物として焼却する際に排出される排出物による人の健康や環境に対するリスクが懸念[1][2]され、その安全性について議論されてきました。
そのような中、欧州連合(EU)の中核である欧州委員会(EC)は、2000年7月26日、塩ビ樹脂に関連した環境問題を評価するために、初めてグリーン・ペーパー(Green Paper)を発表しました[3]。
このグリーン・ペーパーでは、これまで得られた科学的知見に基づき、塩ビ樹脂に関連した人の健康と環境問題について、さまざまな情報を提供しています。特に主要な問題として、以下の2つを取り上げています。
1) 鉛、カドミウム、フタル酸エステル類などの添加物の使用
2) 塩ビ樹脂の廃棄物管理
欧州委員会は、2001年初期に塩ビ樹脂に対する包括的な共同戦略を採択するために、今回発表したグリーン・ペーパーに関する協議を開始しました。今後一般からの意見を求めるとともに、2000年10月に公聴会を開催し、2000年11月末までにグリーン・ペーパーに関する議論や意見を集約するとのことです。表1にグリーン・ペーパーの概要を示します。
表1 グリーン・ペーパーの概要([3]をもとに作成)
項目 |
概要 |
産業構造と製品群 |
産業構造、生産プロセス、製品の種類、経済的重要性 |
添加剤 |
使用量、有害性、添加剤のリスク、特に重金属系の安定剤とフタル酸エステル系可塑剤 |
廃棄物管理 |
廃棄物の量、処理ルート、将来開発 |
廃棄物のリサイクル |
リサイクルプロセスと想定量(マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル(原料へ戻すリサイクル)、他の技術) |
廃棄物の焼却 |
技術、残灰、焼却コスト、可能性のある焼却代替技術の評価 |
廃棄物の埋立 |
埋立地での挙動 |
このグリーン・ペーパーでは、塩ビ樹脂に関連した環境問題に関する情報提供を行うとともに、これらの問題に対して今後の方向性をいくつか示し、読者に選択できる形式が含まれています。以下に8つの問題を示し、その中から下線の3つの問題に関する内容を例として紹介します。
@ 安定剤(鉛、カドミウムなどの重金属)
A 可塑剤(フタル酸エステル類など塩ビ樹脂を軟らかくする添加剤)
B マテリアルリサイクル(破砕、粉砕などを行い、再度成形加工して再利用)
C 重金属を含む塩ビ樹脂廃棄物をマテリアルリサイクル
D ケミカルリサイクル(化学的に原料へ分解し、合成して再利用)
E 焼却(塩ビ樹脂廃棄物を燃やして処分)
F 埋立(塩ビ樹脂廃棄物の焼却後の残灰、あるいは塩ビ樹脂廃棄物をそのまま埋立処分)
G 他の全般的な面
<マテリアルリサイクル>
欧州委員会しては、塩ビ樹脂のマテリアルリサイクル率は増加すべきとの見解。環境影響と経済影響の双方の側面から、次の6つの手段が考えられる。
塩ビ樹脂のマテリアルリサイクル率増加には、どの手段が最も効果的?
<焼却>
欧州委員会としては、塩ビ樹脂廃棄物の焼却が数々の問題を生じるという解析に基づき、これらの問題に取り組むため、いくつかの手段を考えている。
塩ビ樹脂廃棄物の焼却に関連した問題に取り組むためには、どの手段が最も効果的?
<埋立>
欧州委員会としては、軟質塩ビ樹脂廃棄物の埋立が数々の問題を生じるという解析に基づき、これらの問題に取り組むため、いくつかの手段を考えている。
塩ビ樹脂廃棄物の埋立に関連した問題に取り組むためには、どの手段が最も効果的?
欧州委員会のグリーン・ペーパーから、欧州における塩ビ樹脂の主要用途と産業を表2、表3に示します。
表2 欧州における塩ビ樹脂の主要用途([3]をもとに作成)
分野・用途 |
比率(%) |
製品の平均寿命 |
建材 |
57 |
10-50年 |
包装材 |
9 |
1年 |
家具 |
1 |
17年 |
他の家庭用品 |
18 |
11年 |
電気・電子 |
7 |
21年 |
自動車 |
7 |
12年 |
その他 |
1 |
2-10年 |
表3 欧州における塩ビ樹脂産業([3]をもとに作成)
種類 |
企業数 |
生産量(千トン) |
従業員数(人) |
軟質塩ビ樹脂 |
10,321 |
3,700 |
260,000 |
硬質塩ビ樹脂 |
10,878 |
4,200 |
270,000 |
トータル |
21,199 |
7,900 |
530,000 |
欧州委員会(EC)は、塩ビ樹脂に関連した人の健康と環境へのリスクを削減するために、環境影響と経済影響の双方の面から最も効果的な手段を検討し始めました。そして広く一般市民からも意見・提案を収集し、議論を行おうとしています。今後の欧州の動き、日本の私たちにも参考になることでしょう。
Author: 東 賢一
<参考文献>
[1] Kenichi Azuma,
CSN #135, 塩化ビニル樹脂の安全性(Part1), May 15, 2000
http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/May2000/000515.htm
[2] Kenichi Azuma,
CSN #136, 塩化ビニル樹脂の安全性(Part2), May 22, 2000
http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/May2000/000522.htm
[3] The European
Commission, GREEN PAPER Environmental Issues
of PVC, COM (2000) 469, July 26,
2000
http://europa.eu.int/comm/environment/pvc/index.htm