家庭ごみのドラム缶焼却によるダイオキシン類の排出


2000年1月17日

CSN #118

私たちの生活環境中に排出されるダイオキシン類は、世界中で非常に大きな問題として取り上げられています。1999621日に厚生省と環境庁が合同で発表した日本のダイオキシン類に対する耐容一日摂取量(TDI:人が一生涯にわたり摂取しても健康に対する有害な影響が現れないと判断される体重 kg当たりの1日当たり摂取量。) は、4pgTEQ/kg体重/です [1]19985月に改訂されたWHO(世界保健機構)のTDI、ヒトの平均的なダイオキシン類曝露量を合わせた比較を図1に示します([1]をもとに作成)。

  

1から明らかなように、日本の平均摂取量は、日本のTDIを下回っていますが、WHOTDIから判断すると、決して安全とは言い切れない状況にあると考えられます。WHOTDIを決定した専門家委員会は、先進工業国における、現在のダイオキシン類摂取量(2-6 TEQ pgTEQ/kg体重/)や、体内蓄積量(4-12 ngTEQ /kg体重)によって、ある部分では、一般の人々の微妙に影響が生じている可能性があることを認めています[2]。そのため、ダイオキシンが社会問題に発展し、早急な対策が必要とされているのです。

ダイオキシン類の主な発生源は、一般廃棄物焼却施設でのごみの焼却です[3]ダイオキシン類の基本的な生成機構は、炭素源、塩素源、空気(酸素)、触媒(銅や鉄)が数秒間以上高温で共存することです。また、特に300度付近で最も生成率が高くなります。そこでごみを燃やす時にダイオキシン類が生成しやすい条件は、理論的に次のように考えられています。

(1)排出ガス相の混合が不十分

(2)低い燃焼温度

(3)酸素不足状態(不完全燃焼)

(4)粒子状物質(飛灰)発生量が多い

(5)粒子状物質(飛灰)への銅の吸着

(6)塩化水素、塩素の存在

(7)250700度の温度下で排出ガスが滞留する時間

燃焼温度、排出ガスの混合、酸素供給量、排出ガスの温度管理などの燃焼条件を十分制御した焼却施設では、ダイオキシン類の発生量を低減させることができます。しかし、このような制御が行われない家庭用小型焼却炉、ドラム缶での焼却、野焼きによる焼却では、燃焼条件を十分制御した焼却施設に比べてダイオキシン類が発生しやすいと考えられます。

これに関連した研究として、アメリカ環境保護庁(USEPA)の国立リスクマネジメント研究所のPaul M. Lemieuxらが、家庭から排出されるごみをドラム缶で焼却した時に発生する有害排出物について、199711月に報告しています[4]。そしてこの報告書のダイオキシン類に関する実験結果が、研究論文としてアメリカ科学雑誌の「環境科学と技術」で報告されました[5]

この研究では、ニューヨーク州の一般家庭から排出される家庭ごみを実験モデルとし、表1に示すリサイクル率が高いごみ(リサイクルごみ)と、リサイクル率が低いごみ(非リサイクルごみ)の2種類のごみをドラム缶で焼却し、ダイオキシン類の発生量を評価しています。

1 ドラム缶焼却実験に用いられたごみの内容物[5]

分類

内容物

非リサイクルごみ

リサイクルごみ

新聞、本、オフィス紙

32.7

3.3

雑誌、郵便物

11.1

0

段ボール箱、クラフト紙

7.6

0

厚紙、牛乳パック、紙パック

10.3

61.9

プラスチック

ポリエチレンテレフタレート

0.6

0

ポリエチレン、ポリプロピレン

6.6

10.4

ポリ塩化ビニル

0.2

4.5

ポリスチレン

0.1

0.3

複合物

0.1

0.3

食品

5.7

0

繊維製品/皮革製品

3.7

0

木材(化学処理/非処理)

1.1

3.7

ガラス/陶器

ボトル、瓶

9.7

0

陶器(破材、カップ)

0.4

6.9

金属

鉄、缶

7.3

4.0

非鉄

アルミニウム(缶、ホイル)

1.7

1.0

その他

電線、銅パイプ、電池

1.1

3.7

総計

100

100

1に示される2種類のごみを、一般的な容量である208リットルのドラム缶に6.4- 13.6kg投入した後、プロパンバーナーで着火して焼却した時に発生したダイオキシン類などの化学物質の排出量を図2に示します([5]をもとに作成)。

*リサイクルごみ(1),(2)と非リサイクルごみ(4),(5)は、同じ実験を繰り返しています。

PCDD(ポリ塩化ジベンゾ-p-ダイオキシン)、PCDF(ポリ塩化ジベンゾフラン)が、ダイオキシン類の代表。全ダイオキシン類は、PCDD+PCDFの合計量。

図2では、燃焼中のダイオキシン類の生成に関わるとされている、排出ガスに含まれる銅、塩化水素、クロロベンゼン、クロロフェノール、PM2.5(直径2.5ミクロン以下の粒子状物質)とダイオキシン類排出量が示されていますが、ダイオキシン類排出量と関連性があるのは、銅と塩素であることがわかります。これに関してさらにわかりやすく示すと、図3のようになります([5]をもとに作成)。

図3から明らかなように、銅と塩化水素の排出量がダイオキシン類排出量と密接に関連しています。ダイオキシン類の生成機構は、塩化ビニル樹脂など塩素を含有する化学物質が燃焼により分解して塩素や塩化水素を生成し、塩素や塩化水素が銅を触媒として反応性が高い塩素ラジカルを生成することが大きく関与していると考えられています。この実験結果は、理論上考えられていたダイオキシン類の生成機構を裏付けていると言えます。

次に、ダイオキシン類の排出量について、ドラム缶での焼却と都市ごみ焼却施設(MWC)とを比較した結果を図4に示します([5]をもとに作成)。図4における都市ごみ焼却施設のダイオキシン類排出量は、燃焼条件制御や排出ガスフィルター装置などを含む、近代的な都市ごみ焼却施設の報告値が用いられています[6]

 

4から明らかなように、近代的な都市ごみ焼却施設と比較すると、リサイクルごみのドラム缶焼却で約1,700倍、非リサイクルごみのドラム缶焼却で約75,000倍ダイオキシン類の排出量が多くなっています 

これらの実験結果から明らかなように、ごみの焼却によるダイオキシン類の排出は、銅や塩化水素が密接に関わっています。またドラム缶による焼却は、燃焼条件制御や排出ガスフィルター装置などを含む都市ごみ焼却施設と比べて、大量のダイオキシン類を排出します。 

塩素が含まれている身の回りの製品としては、醤油や味噌など食塩を使用した食料品、塩化ビニル樹脂(子供用玩具、衣類包装用袋など)や塩化ビニリデン樹脂(食品包装用ラップなど)などの塩素系プラスチックがあります。これらの製品は燃焼すると塩素や塩化水素を発生します。 

食塩は私たちの体に必要なミネラルなので、使用量を減らすことが良い方法とは言えません。最近は生ごみをコンポスト化(たい肥化)する処理装置の値段が低下し、購入しやすくなっています。また、共同で利用できるように、ごみ置き場に処理装置を設置している集合住宅もあります[7]。今後はこのような装置の利用が広がると思われます。 

塩素系プラスチックは、その必要性を再考しなければなりません。どうしても必要ならば、リサイクルシステムを構築する、必要ないのであれば、使用しないなどの処置が重要だと思われます。また、銅や鉄をできるだけごみの中に含めないようにすることも重要です。 

厚生省は200017日、廃棄物処理法を改正して廃棄物の野焼きを禁止し、違反者に罰則を科す方針を固めました[8]。ただし廃材を用いてのたき火、稲わらの野焼きなど社会慣習上やむを得ない場合は対象外とされます。またマレーシアでは、汚染作物や病死した動物を廃棄するため野焼きを行う場合、環境庁に事前報告し、関係部局の承認を得なければならなくなり、違反者には罰則が科せられる新しい法律が20002月に施行されます[9] 

このような国による規制とともに、ダイオキシン類の排出削減のためには、家庭ごみの処分方法について、私たちも様々な協力を行う必要があります。 

Author:東 賢一

<参考文献>

[1] ダイオキシンの耐容一日摂取量(TDI)について、厚生省生活衛生局企画課、環境庁企画調整局環境安全課環境リスク評価室、June 21. 1999
http://www.mhw.go.jp/houdou/1106/h0621-3_13.html

[2] Assessment of the health risk of dioxins: re-evaluation of the Tolerable Daily Intake (TDI) WHO Consultation, May 25-29 1998, Geneva, Switzerland
http://www.who.int/fsf/dioxin/whoinf.htm

[3] 東 賢一、「各国のダイオキシン類排出量の目録」CSN #109
http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/Nov1999/991116.html

[4] Lemieux, P. M. Evaluation of Emissions from the Open Burning of Household Waste in Barrels, Vol. 1; Technical Report EPA-600/R-97-134a (NTIS PB98-127343); U.S. Government Printing Office: Washington, DC, November 1997.
「住まいにおける化学物質」CSN #001で総括を解説
http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/990115.htm

[5] Paul M. Lemieux, Judith A. Abbott et al., Environmental Science & Technology, Web Release Date: January 4, 2000
http://pubs.acs.org/hotartcl/est/2000/research/es990465t_rev.html
“Emissions of Polychlorinated Dibenzo-p-dioxins and Polychlorinated Dibenzofurans from the Open Burning of Household Waste in Barrels”

[6] Finkelstein, A.; Klicius, R. D. National Incinerator Testing and Evaluation Program: The Environmental Characterization of Refuse-derived Fuel (RDF) Combustion Technology, Mid-Con necticut Facility, Hartford, Connecticut; EPA-600/R-94-140 (NTIS PB96-153432); December 1994.

[7] 朝日新聞(夕刊), January 12, 2000 

[8] 朝日新聞(朝刊), January 8, 2000 

[9] By Esther Tan, New Straits Times (Malaysia), January 11, 2000
“New law on open burning (HL)”


「住まいの科学情報センター」のメインサイトへ