人間血液中の鉛のビタミンC解毒と歯への影響


1999年7月1日

CSN #072

鉛は一度体内に摂取すると外に代謝することが非常に困難な物質です。不眠などの神経障害・脳炎・痴呆・腎臓障害を引き起こします。 

幼児では鉛を含む塗料を塗った玩具をなめて中毒に陥ることが多いようで、鉛脳症は小児に多く、鉛の急速な吸収によってアルコールせん妄に似た症状を引き起こします。慢性症状には無欲症、物忘れ、抑鬱状態とともに進行性痴呆が目立つと言われています。幼児の慢性鉛中毒では大脳の成熟障害が強く、慢性進行性知能障害、精神薄弱、骨発育障害を引き起こします。  

鉛に関しては、世界保健機関(WHO)・国連環境計画(UNEP)・国際労働機関・国際化学物質安全性計画が共同で作成した環境衛生クライテリア(基準)において、物理化学的特性、生体内への取り込みや蓄積、生体への毒性などが詳細に説明されています。以下のアドレスをご参考下さい。 

(出典)国立医薬品食品衛生研究所化学物質情報部

環境保健クライテリア(鉛はNo.85、原著106頁,1989年発行)Environmental Health Criteria

URL: http://www.nihs.go.jp/DCBI/PUBLIST/ehchsg/ehctran/lead-en.html

 

鉛の日本、アメリカ、カナダにおける水質基準

国名

水道水の水質基準

日本

0.05 mg/ l以下

カナダ

0.001 mg/ l以下

アメリカ

0.015 mg/ l以下(家庭給水栓)での濃度

他国に比べて日本は基準が何故か大きいようです。

 

今回紹介する論文は、血液中の鉛濃度に関するもので、ビタミンC(アスコルビン酸)が血中鉛濃度減少効果を示す可能性があること(文献1)血中鉛濃度と齲歯(歯の腐食)が関連している可能性があること(文献2)が、1999年6月23日付の米医師会雑誌で報告されています。

 


血液中のビタミンC(アスコルビン酸)濃度と鉛濃度との関連性に関する
統計的研究(文献1)
 

<出典>

米医師会雑誌(JAMA. 1999;281:2289-2293) - June 23/30, 1999
http://www.ama-assn.org/sci-pubs/journals/archive/jama/vol_281/no_24/joc81766.htm

Joel A. Simon医学博士

Esther S. Hudes化学博士

カリフォルニア大学、M.P.H. 

<概要>

鉛曝露は重要な公衆衛生問題であり[1]1984年の研究において、300万人から400万人の子供達が0.72 μmol/L (15 μg/dL)以上の血液中鉛濃度を有していると試算された[2]。また、それより低い鉛濃度であっても、神経心理の発育障害に関連すると指摘されている[3] 

EDTA(エチレンジアミン四酢酸カルシウム)の塩であるエチレンジアミン四酢酸カルシウム(Ca-EDTA)やエチレンジアミン四酢酸カルシウウムジナトリウム(CaNa2-EDTA)などのキレート化合物は、鉛中毒の解毒剤として内服及び注射が臨床で使用されている。また、Na2-EDTA及びNa4-EDTAは、医薬品添加物としての使用例もある。EDTAの金属キレート剤は、医薬品 (重金属解毒剤) や食品添加物 (CaNa2タイプ)として利用されている。 

このようなキレート(Chelation)療法は、体内から有害ミネラルや老廃物を取り除く方法の一種であり、血管内に投与されたキレート剤は血流を改善し、動脈硬化斑を除去することが知られている。そのためキレート療法は、動脈硬化軽減、心臓発作や脳梗塞の予防に利用されている。治療方法は点滴によって行うが、点滴中には、ビタミンC(アスコルビン酸)、マグネシウム、セレニウム、クロム、銅、亜鉛、マンガンを含めたビタミン、ミネラルと伴に、上記のキレート剤が含まれている。 

鉛中毒の治療のためにアスコルビン酸(ビタミンC)とEDCAの有効性を比較したある動物実験によると、経口投与したアスコルビン酸が、注射で投与したEDTAに見られた鉛解毒性と類似したキレート特性を有したと報告した[4]1939年から1940年に報告された古い論文によると、アスコルビン酸が労働環境中の鉛曝露に対する治療に有効である可能性があると報告している[5,6] 

しかしながら、後に人間に対して行った研究によると、そのような結論はでなかったと報告されている[7-11]。また、これまで人口ベースの多人数でアスコルビン酸と鉛の毒性との関連性について試験した研究はなかったと著者らは述べている。 

そこで本研究では、血清アスコルビン酸濃度と血液中の高鉛濃度有症率との関係について人口ベースでの統計的研究を行っている。 

1)研究方法

第3回国立衛生栄養試験調査NHANES III1988-1994の間に4213 人の6-16 歳の青年と、15,365 人の17歳以上の成人)に登録されている鉛中毒の経験がない米国国民の確率標本の横断分析によって統計的研究を行っている。そして、血清アスコルビン酸(ビタミンC)濃度と血液中の鉛濃度の関連性について検討している。 

2)測定結果 

血液中の鉛濃度

分類

血液中の鉛濃度

特に高濃度

の人々

22人の青年(0.5%)

0.72 μmol/L [15 μg/dL]以上

57人の成人(0.4%)

0.97 μmol/L [20 μg/dL]以上

トータル

青年

0.02 μmol/L (0.5 μg/dL) 2.36 μmol/L (48.9 μg/dL)

成人

0.02 μmol/L (0.5 μg/dL) 2.70 μmol/L (56 μg/dL)

 

アスコルビン酸(ビタミンC)以外の影響が混入しないようにコントロールした後での血清アスコルビン酸濃度と血中鉛濃度の比較

分類

結果

青年

最も血清アスコルビン酸濃度が高い青年群は、最も血清アスコルビン酸濃度が低い青年群と比較して血液中の鉛濃度が89%減少した。95%信頼間隔:65%-96%P=0.002

成人

最も血清アスコルビン酸濃度が高い成人群は、最も血清アスコルビン酸濃度が低い成人群と比較して血液中の鉛濃度が65−68%減少した。P=0.03

最も血清アスコルビン酸濃度が低い約4%の青年群と約2%の成人群は、血中鉛濃度が低かった。 

 

血清アスコルビン酸濃度と血中鉛濃度の関連性について、ロジスティック回帰分析によって全ての変数を制御した多変量線形モデルを用いて解析

分類

結果

二変量相関係数

青年

最も血清アスコルビン酸濃度が高い青年群は、血中鉛濃度が低い傾向を示したが、この関係は統計的にあまり重要でなかった(P=0.14)

r=-0.01 ( P=0.59)

成人

最も血清アスコルビン酸濃度が低い成人群は、血中鉛濃度が高かった(P<0.001)。統計的に重要で有意有り。

r=-0.16 ( P<.001)

 

さらに血清アスコルビン酸測定値の代わりに、飲食によるアスコルビン酸摂取量を用いて、アスコルビン酸摂取と血中鉛濃度上昇率の関係を多変量モデルで再試験している。 

10mgのアスコルビン酸を飲食により摂取した時の血中鉛濃度上昇率

分類

結果

青年

血中鉛濃度上昇率が1%減少(P=0.88):統計的に有意でない。

成人

血中鉛濃度上昇率を3.5%減少させた(P=0.10):危険率10%で有意あり。

 

飲食によってアスコルビン酸を摂取した場合の血中鉛濃度減少との関連性はあまり見られなかったが、血清アスコルビン酸濃度と血中鉛濃度との関連性は統計的に有意であった。このことは、ビタミンC(アスコルビン酸)が血中鉛濃度減少効果を示す可能性があることを示唆している。


齲歯(歯の腐食)と血中鉛濃度との関係に関する統計的研究(文献2)

<出典>

米医師会雑誌(JAMA. 1999;281:2294-2298) - June 23/30, 1999
http://www.ama-assn.org/sci-pubs/journals/archive/jama/vol_281/no_24/joc81529.htm 

Mark E. Moss化学博士(e-mail: moss@prevmed.rochester.edu)

Bruce P. Lanphear医学博士

Peggy Auinger, MS 

ロックフェラー医療センター大学、共同社会と予防医学部門 

<概要>

齲歯(歯の腐食)は現在でもアメリカの主要な公衆衛生問題であり、17歳までにアメリカの青年期の子供達の84%が永久歯の齲歯を経験してきた(平均8本)[2-1]。また、アメリカ合衆国における齲歯の年間の治療費は、少なくとも45億ドルと試算されている[2-2]。齲歯保有率は鉛曝露動物において高い[2-3]。しかしこの関係が人間に当てはまったという証拠はなかった。そこで本研究では、齲歯と血液中鉛濃度の関係について統計的研究を行っている。 

第3回国立衛生栄養試験調査NHANES III1988年−1994年)に参加した2歳以上−24,901人のアメリカ合衆国の子供と成人において、歯科検診と静脈穿刺血中鉛濃度分析に関する横断分析による統計的研究を行っている。

年齢層

統計計算に用いた項目

2歳から11歳の子供

腐食した乳歯数

6歳以上

腐食した永久歯数

12歳以上

腐食したり、抜け落ちた永久歯数

 

解析結果

歯の腐食に関しては、ダイオキシンが関連していることが臨床経験及び動物実験によって示唆されています。私の以下のサイトをご参考下さい。

URL: http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/990220.html

 

<文中の参考文献>

(文献1)

[1]. US Preventive Services Task Force. Guide to Clinical Preventive Services: An Assessment of the Effectiveness of 169 Interventions. Baltimore, Md: Williams & Wilkins; 1989.  

[2]. The Nature and Extent of Lead Poisoning in Children in the United States: A Report to Congress. Atlanta, Ga: Agency for Toxic Substances and Disease Registry, Public Health Service, US Dept of Health and Human Services; 1988.  

[3]. Baghurst PA, McMichael AJ, Wigg NR, et al. Environmental exposure to lead and children's intelligence at the age of seven years: the Port Pirie Cohort Study. N Engl J Med. 1992;327:1279-1284.  

[4]. Goyer RA, Cherian MG. Ascorbic acid and EDTA treatment of lead toxicity in rats. Life Sci. 1979;24:433-438.  

[5]. Holmes HN, Campbell K, Amberg EJ. The effect of vitamin C on lead poisoning. J Lab Clin Med. 1939;24:1119-1127.  

[6]. Marchmont-Robinson SW. Effect of vitamin C on workers exposed to lead dust. J Lab Clin Med. 1940;26:1478-1481.  

[7]. Sohler A, Kruesi M, Pfeiffer CC. Blood lead levels in psychiatric outpatients reduced by zinc and vitamin C. J Orthomolecular Psych. 1977;6:272-276.  

[8]. Flanagan PR, Chamberlain MJ, Valberg LS. The relationship between iron and lead absorption in humans. Am J Clin Nutr. 1982;36:823-829.  

[9]. Lauwerys R, Roels H, Buchet JP, Bernard AA, Verhoeven L, Konings J. The influence of orally-administered vitamin C or zinc on the absorption of and the biological response to lead. J Occup Med. 1983;25:668-678.  

[10]. Calabrese EJ, Stoddard A, Leonard DA, Dinardi SR. The effects of vitamin C supplementation on blood and hair levels of cadmium, lead, and mercury. Ann N Y Acad Sci. 1987;498:347-353.  

[11]. Dawson EB, Harris WA. Effect of ascorbic acid supplementation on blood lead levels [abstract]. J Am Coll Nutr. 1997;16:480.  

 

(文献2)

[2-1]. Edelstein BL, Douglass CW. Dispelling the myth that 50 percent of US schoolchildren have never had a cavity. Public Health Rep. 1995;110:522-530.  

[2-2]. Centers for Disease Control, Division of Oral Health. Public health focus: fluoridation of community water systems. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 1992;41:372-375, 381.  

[2-3]. Watson GE, Davis BA, Raubertas RF, Pearson SK, Bowen WH. Influence of maternal lead ingestion on caries in rat pups. Nat Med. 1997;3:1024-1025.


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