欧米における建材のラベリング
−フィンランド、ドイツ、アメリカ−
2001年9月3日
CSN #202
私たちは、日常生活の約90%を室内で過ごしています[1]。そのため室内の空気がきれいであることは、私たちの健康にとって非常に大切です。私たちが過ごしている住宅やオフィスなどの建物には、さまざまな建築材料が使用されています。また私たちは、生活するためにさまざまな製品を建物の中に持ち込んでいます。そのような建築材料や製品から、ホルムアルデヒドなどの有害な化学物質が放散されると、室内の空気が汚染されます。
前報CSN #201で報告したように、ドイツでは「ブルーエンジェル」というエコラベルがあり、RAL基準によって、木材、家具、塗料などに対してホルムアルデヒドや揮発性有機化合物の基準が定められています[2]。また、CSN #155で報告したように、デンマークでは、室内気候ラベル( THE INDOOR CLIMATE LABEL )というラベリングがあり、建材や家具に対してラベリングが行われています[3]。これらのラベリングは、製造者がより一層室内空気環境に適した製品を開発するため、また、消費者がそのような製品を選択するための、有用なツールとなります。
そこで本報では、これまで取り上げなかった海外の建材ラベリングとして、フィンランド、ドイツ(ブルーエンジェル以外)、アメリカにおける建材のラベリングを紹介します。
フィンランドの建材ラベリング
フィンランド建築協会(SAFA)と建築技術者中央機構(RKL)によって設立された、建築情報財団(RTS)によって1995年に作成された建材分類があります。試験方法は、「European Data Base on Indoor Air Pollution Sources in Buildings. Protocol for testing of building materials.及びOdour Emission Measurement Instructions for Finishing Materials.」に基づいて行われます。2001年6月21日の時点で、塗料、接着剤、壁紙、フローリング材、合板、タイル製品など465製品がM1に分類されおり、M2やM3に分類されている製品はありません[4]。
表1 RTSによる建材分類([4]をもとに作成)
化学物質の放散量 |
単位 |
M1 |
M2 |
総揮発性有機化合物 |
mg/m2h |
0.2 |
0.4 |
ホルムアルデヒド |
0.05 |
0.125 |
|
アンモニア |
0.03 |
0.06 |
|
IARCグループ1の物質 |
0.005 |
0.005 |
|
臭い |
− |
なし |
強い臭気を発せず臭いに不満をもつ人が30%以下 |
M3:放散データがない、あるいはM2レベルを越える放散がある場合。
ドイツの建材ラベリング
ドイツでは、ブルーエンジェルのRAL基準以外に、Gut(カーペット)、GEV- EMICODE (ワックス、下塗り剤、接着剤などの床用製品)のラベリングがあります。Gutは、環境配慮カーペット協会(the Association of Environmentally-Friendly Carpets)が1990年に作成したもので、カーペットのライフサイクル全体において環境への配慮を考えています。
施工時に使用する接着剤に関しては、アクリルアミド、アクリルニトリル、酢酸ビニル、ジオキサン、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどのVOCの排出量が、施工10日後で500μg/m3未満と定めています。またカーペットでは、ベンゼン、ブタジエン、酢酸ビニル、ホルムアルデヒド、フロン類、重金属、殺虫剤の使用を禁止し、チャンバー試験でTVOC:300μg/m3未満、芳香族化合物:150μg/m3未満の排出量を基準値としています[5]。
EMICODEラベリングシステムは、ドイツ接着剤製造業者らがNPOとして1997年に設立したGEV(Gemeinschaft Emissionskontrollierte Verlegewerkstoffe)によって作成されたシステムです。現在では400以上の製品が、規定のチャンバー試験によって、最も化学物質の放散量が少ないEMICODE® EC1として分類されています[6]。
アメリカのグリーンカード・プログラム
アメリカのエアー・クォリティ・サイエンス社 (Air Quality Sciences, Inc. : AQS)が発行しているラベリングで、床材、天井システム、接着剤、塗料、壁材、カーペット、オフィス家具などの室内建材に対して、グリーンガード(GREENGUARD™)と呼ばれるカテゴリーを作成しています。AST D-5116-97に基づいたチャンバー試験を行い、アメリカ環境保護庁(USEPA)、ワシントン州(SOW)、ドイツのブルー・エンジェルの勧告に基づき作成された基準値を満たした製品が登録されています[7]。
表2 AQSによる基準値([7]をもとに作成)
項目 |
全ての対象製品a) |
オフィス機器b) |
基準値 |
基準値 |
|
TVOC |
0.50 mg/m³以下 |
0.50 mg/m³以下 |
ホルムアルデヒド |
0.05 ppm以下 |
− |
全アルデヒド |
0.10 ppm以下 |
− |
10μ以下の微粒子 |
0.05 mg/m³以下 |
0.05 mg/m³以下 |
オゾン |
− |
0.02 mg/m³以下 |
スチレン |
− |
0.07 mg/m³以下 |
a)発がん性の疑いのある物質が全て同定され、California Proposition 65に基づいてリスクなしが示されること
b)レザープリンター、複写機、コンピューターなどのオフィス機器。カーペット清掃用品は、許容レベルの大気排出量であって、ダスト、猫アレルゲン、カビの除去効率が99%を示すこと
日本では、合板類や複合フローリングに対してホルムアルデヒドの放散量区分を定めた日本農林規格(JAS)、繊維板やパーティクルボードに対してホルムアルデヒドの放散量区分を定めた日本工業規格(JIS)、壁装材料に対してホルムアルデヒド、揮発性有機化合物(VOCs)、重金属類などの気中濃度を定めた壁装材料協会のISM、木製家具に対してホルムアルデヒドの気中濃度を定めた日本オフィス家具協会による自主基準などがあります[8]。
しかしながら、対象製品や基準が設置されている化学物質を欧米諸国で行われている建材のラベリングと比較すると、十分とは言えません。今後さらに、対象製品と基準を設置すべき化学物質に関する検討を行う必要があると思われます。
Author: Kenichi Azuma
<参考文献>
[1] 塩津弥佳 et al.,日本建築学会計画系論文集, No. 511, pp45-52, 1998
[2] Deutsches
Institut fuer Guetesicherung und Kennzeichung e.V., Willkommen beim
Umweltzeichen “Blauer Engel”, Status: April 2001
http://www.blauer-engel.de/
(参考) Kenichi Azuma, “ドイツのブルーエンジェルにおける建材の基準”, CSN #201, August 27, 2001
http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/Aug2001/010827.htm
[3] Danish Society
of Indoor Climate, Introduction to the Principles behind the Indoor Climate
Labeling, August, 2000
http://www.dsic.org/dsic.htm
(参考) Kenichi Azuma, “デンマークの室内気候ラベル”, CSN #155, October 2, 2000
http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/Oct2000/001002.htm
[4] The Building Information Foundation RTS, CLASSIFICATION
OF FINISHING MATERIALS, February 27, 1996
http://www.rts.fi/english.htm
[5] GuT: carpets tested for a better living environment
http://www.gut-ev-de
[6] Gemeinschaft Emissionskontrollierte Verlegewerkstoffe (GEV)
http://www.emicode.com
[7] Air Quality Sciences, Inc. (AQS)
http://www.aqs.com/greenguard.asp
[8] 東 賢一,まちなみ:「快適で健康的な室内空気質」Vol. 25, No. 285, pp18-21, April 2001