古材の利用とリサイクル住宅
1999年5月11日
文:東 賢一
最近の住宅における住環境問題として、化学物質を大量に用いた建材による室内空気汚染が取り上げられている。
また、室内が化学物質によって汚染される仕組みは不明な部分が多く、産官学による研究プロジェクトが発足している。
住宅から排出されるごみなどの廃棄物や、住宅を解体する時に発生する廃材は環境汚染の原因になる。阪神大震災による倒壊家屋の廃材の野焼き焼却によって、数百gTEQのダイオキシンが生成されたと推定されている。この量は、イタリアのセベソでの農薬プラント爆発事故で放出された2,3,7,8−TCDD(毒性が最強のダイオキシン)250gTEQに匹敵する量である(文献1)。最近の建材には塩ビ樹脂や塩素系化合物などダイオキシン発生源となる材料が多く用いられている。このような新建材が、ダイオキシン発生源の1つとなっている。
住宅から発生する廃棄物や廃材を有効活用するための完全リサイクル住宅の研究が進められている(文献2)。この研究は早稲田大学建築学科 尾島研究室で行われており、富山国際職芸学院との共同開発で1998年11月に富山県大山町で実験棟が建設されている。
釘や金具、新建材を用いずに杉を中心とした木材を、仕口や継ぎ手で組み合わせ、木材表面には防腐剤としてカキシブとベンガラを塗り込む。壁には断熱材としての機能を付加するためにもみ殻を混ぜた土を塗り込む。木材防腐剤、防蟻剤、塩ビ樹脂などの化学物質はいっさい使用しない。多くの資材は100年以上使え、家を解体した後も古材は次の住宅へ有効活用される。
釘を使わないので解体して再利用しやすい。柱や梁をむき出しにして空気と接触させて腐食を防止している。つまり日本の伝統的な住宅である。
100年経過した古材を再度活用できるのか? という疑問もある。築後約30年から約150年までの数棟の一般住宅から得た解体木材の強度試験を行った報告がある。柱、梁根太などから得られたヒノキ、モミ、スギ、ベイツガ、マツ、ケヤキ、ツガ材について曲げ強度試験、縦圧縮強度試験を行った結果、どの樹種も新材の標準値を上回る結果が得られている(文献3)。この結果から、一見して腐ったり大きな穴が開いている古材以外は、新しい木材と同程度以上の強度を有していると考えられる。
最近のプレハブ住宅は50年前後を耐用年数としている。ごく最近では100年住宅も開発されている。しかし、日本の伝統的な家が100年以上経過しても健在している。また、そこで使用されている古材は新たに活用できるだけの強度を保持している。
私の知人が築後100年の住宅から得た古材を利用してアトリエを建築した。太陽電池による最新のソーラーシステムと、柱や梁がむき出しの日本の伝統的な家とが見事に融合している。
近代産業によって発達した新建材を用いた住宅は、様々な環境汚染の原因を生み出している。伝統的な日本の建築技術の良いところは大いに取り入れて、廃棄物をできるだけ出さない新たな住宅設計が必要だと思う。
<参考文献>
1)宮田秀明:廃棄物学会誌、Vol.8, No.4, p301-311 (1997)
2)朝日新聞:朝刊 1999/5/3号
3)疋田洋子:解体材の再利用 講演要旨集、(社)日本木材保存協会、1999/5/7
<参考サイト>
富山国際職芸学院: http://www.iijnet.or.jp/shokugei/
早稲田大学理工学部建築学科 尾島俊雄研究室 完全リサイクルプロジェクト(富山プロジェクト参照)
URL: http://www.ojima.arch.waseda.ac.jp/~prh/index.html
住まいと医学プロジェクト(慶応大学医学部と早稲田大学建築学科の合同プロジェクト)
URL: http://www.ojima.arch.waseda.ac.jp/HLO/index.html