A181
「EU離脱派」を“ポピュリズム”と批判する読売新聞の記事こそ、「ポピュリズム」そのものではないか


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[激震 BREXIT]<中>はびこるポピュリズム
2016年6月28日5時0分 読売

 「英国同様の国民投票をフランスでもほかの加盟国でも行う必要がある。流れは止められない」

 EU離脱を選択した英国民投票の結果が伝わると、フランスの極右政党・国民戦線のマリーヌ・ルペン党首(47)は気勢を上げた。25日にはパリの大統領府で、オランド大統領(61)に国民投票実施を直談判した。

 オランド氏は「ノン(だめだ)」と一蹴したが、これで終わりではない。

 来年春の仏大統領選では、ルペン氏の決選投票進出が確実視される。ルペン氏は、国民投票実施を争点にすると言い切っている。

 スペインで26日に行われた総選挙。旗揚げからわずか2年の急進左派政党ポデモスが第3党となり、連立政権入りをうかがう。

 「我々はこの国の政治を変えるため、権力者に勝つまで戦う」

 長髪を後ろで結ぶパブロ・イグレシアス党首(37)が27日、首都マドリードの広場で訴えると、数千人の支持者の歓声で地響きが起こった。

 欧州全体を見渡すと、フィンランドやデンマーク、オランダ、オーストリアなどで極右政党が支持を伸ばす。英国民投票の結果はこれらの勢力を勢いづかせた。

 彼らのスローガンは、「反エリート」「反移民」「反EU」――。社会の特定の階層や組織を敵視し、響きの良い言葉で、現状に不満を持つ国民の共感を集める
ポピュリズム(大衆迎合主義)にほかならない。

 国境を越えて人や物が自由に行き来するグローバル化が背景にある。流れに乗る「勝者」と乗り遅れた「敗者」。その差は鮮明になっている。経済協力開発機構(OECD)の2015年の調査によると、先進国で所得が多い上位1割の富裕層と、下位1割の貧困層の所得格差は10倍近くとなった。1980年代の7倍から拡大した。

 政治・経済統合を進めるEUは、グローバル化の象徴だ。近年は、欧州債務危機へ対応するため加盟28か国に厳しい財政規律を求めてきた。加盟国は、増税や歳出削減を行い、貧困層や若者の生活を直撃した。

 だが、ポピュリズム勢力が、暮らし改善の具体策で支持を得ているわけではない。英国では、EU離脱を選んだ多数の市民が地元メディアに「離脱の意味をよく考えなかった。後悔している」と答え、扇動に踊らされたと嘆いている。

 欧州だけではない。米大統領選では、不動産王ドナルド・トランプ氏が「反イスラム」や「米国第一」を掲げて旋風を巻き起こし、共和党の大統領候補となる。

 仏国際関係戦略研究所のジャンイブ・カミュ研究員は、「感情の民主主義、感情の独裁が出現する恐れがある」と述べ、理性でなく、感情に訴え多数派を形成する政治の危うさを戒めた。

 (マドリード 三好益史、ロンドン 角谷志保美)

 ※Brexit(ブレグジット)は「Britain」(英国)と「Exit」(退出)を合体させた造語。
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 記事は国民投票そのものを批判
A180 「イギリスのEU離脱を問う国民投票自体を、「英社会を分断」とか、「異なる価値観、亀裂広がる」と言って批判する人は、投票結果が「残留」であっても同じことを言うだろうか」参照)すると共に、イギリスのEU離脱派ポピュリズム(大衆迎合主義)と批判しています。離脱派の主張を「『反エリート』、『反移民』、『反EU』――。社会の特定の階層や組織を敵視し、響きの良い言葉で、現状に不満を持つ国民の共感を集める」と言って非難していますが、EUの高給エリート官僚を批判したり、移民の急増に反対したり、経済統合(主権の喪失)に反対してはなぜいけないのでしょうか。

 「響きの良い言葉」で主張するのは選挙の場合でも、多くの候補者がすることです。今回特別と言うことではありません。「不満を持つ国民の共感を集める」と言うのも、有権者の支持を求める政治家は皆そうするもので、むしろ当然のことと言うべきです。

 これをポピュリズムと非難するのであれば、日本国内の非科学的な反原発の主張沖縄米軍基地反対闘争平和憲法“改悪”反対闘争の中にはポピュリズムに該当するものが少なくないと思われますが、未だかつてそういう指摘を新聞紙上で見たことがありません。

 EU離脱派をポピュリズム(大衆迎合主義)と批判するならば、大衆とは何か、迎合とは何か、大衆市民はどこがどう違うのかを明確にして、ポピュリズムの定義を明らかにした上で批判すべきです。
 離脱派が嘘を言ったというなら話は別ですが、そうでなければ記事の主張は全く説得力がありません。他人を根拠も示さずにみだりに蔑視して非難することを“ポピュリズム”とすれば、この
読売新聞の記事こそが“ポピュリズム”と呼ぶにふさわしいと思います。

 次に国民投票自体についてですか、国民投票は過去にも多くの国で実施されており、ポピュリズムとして批判されたことは全くなかったと思います。

 一昨年のスコットランド独立の住民投票の時も、昨年の財政危機に陥ったギリシャの国民投票の時も、
読売新聞はポピュリズムという批判はしていなかったはずです。
 スイスでは今までに国連加盟について、あるいは移民について等、頻繁に国民投票が行われていますが、スイス国内でも日本でも、その他の外国でもこの国民投票は民主主義のお手本のように取り上げられており、
ポピュリズムなどと批判されたことは一度も無かったと思います。

 過去の国民投票は問題が無くて、今回の国民投票だけが、ポピュリズムで問題があるとする根拠はあるのでしょうか。そして、批判はなぜ
投票の結果が明らかになってから噴出したのでしょうか。

 6月23日の産経新聞の記事「【宮家邦彦のWorld Watch】英国の選択は理性か感性か」によると、「英国加盟が実現したのは73年。2年後には英国で
国民投票が実施され、3分の2が加盟に賛成した」とあります。加盟の可否を国民投票に諮ったのであれば、離脱の可否についても国民投票に諮るのは極めて当然のことで、むしろ国民投票にしない方が、より大きな非難に値すると言うべきです。

 
いい加減な“ポピュリズム”の一言で、自分の気に入らない多数の国民の明確な意思表示を否定することは、民主主義の否定以外の何ものでもありません。読売新聞は自由と民主主義とは無縁の存在と言うほかはありません。いい加減な“ヘイト・スピーチ”の一言で、国民の言論の自由を奪った所業に続くマスコミの悪業と言うべきです。

平成28年6月29日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ