A229
選挙の争点から消えた「少子化対策」 −少子化対策の破綻と言論の自由のない社会(その3)−

 今回の衆議院選挙の投票日まで、あと1週間となりました。
自民党の公約を見ると「少子化・人口減少問題」に全く触れていません。多少関係がありそうな項目を見ても、内容は子育て・教育費や出産費用の公費負担などに止まり、「少子化・人口減少」に関する公約・主張は全くありません。
 10月13日の読売新聞は自民党の公約の要旨を、下記の様に報じています。(関係ない部分は項目のみ)
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2021年衆院選 自民党公約要旨
2021/10/13 05:00 読売

衆院選2021・公約
1 感染症から命と暮らしを守る
 ■感染症から命を守る
 ■感染症から生業と暮らしを守る
 ■感染症有事対応を抜本的に強化する

2 「新しい資本主義」で分厚い中間層を再構築する。「全世代の安心感」が日本の活力に
 ■コロナ禍で傷んだ日本経済を立て直す
 ■財政の単年度主義の弊害を是正する
 ■大胆な「危機管理投資」で、安全で強靱(きょうじん)な国を創る
 ■大胆な「成長投資」で、確かな未来を拓(ひら)く
 ■中小企業・小規模事業者を応援する
 ■「分配」政策で、「分厚い中間層」を再構築する
 ■
「全世代の安心感」を創出する
 「待機児童の減少」「病児保育の拡充」
「児童手当の強化」を目指す▽ベビーシッターや家政士を利用しやすい経済支援を行う▽看護師、介護職員、幼稚園教諭、保育士をはじめ、賃金の原資が公的に決まる方々の所得向上に向け、公的価格のあり方を抜本的に見直す
 ■
女性の活躍を応援する
 デジタル人材育成など女性の経済的自立を強力に支援▽新法を制定し、家庭内暴力(DV)や性被害など多様化する
問題を抱える女性への包括的支援を強化

3 国の基「農林水産業」を守り、成長産業に

4 日本列島の隅々まで、活発な経済活動が行き渡る国へ
 ■地方の「伸び代」を活(い)かす
 ■災害被災地の復興を加速化する

5 経済安全保障を強化する

6 「毅然(きぜん)とした日本外交の展開」と「国防力」の強化で、日本を守る
 ■毅然とした日本外交を展開する
 ■国防力を強化する

7 「教育」は国家の基本。人材力の強化、安全で安心な国、健康で豊かな地域社会を目指す
 ■人材力を強化する
 ■安全で安心な社会、健康で豊かな社会を創る

8 日本国憲法の改正を目指す

「政策BANK」要旨

1 感染症から命と暮らしを守る

2 「新しい資本主義」で分厚い中間層を再構築する。「全世代の安心感」が日本の活力に
 ■科学技術
 ■グリーン・カーボンニュートラル・エネルギー
 ■成長戦略
 ■社会資本整備
 ■中小企業
 ■防災・減災、国土強靱化
 ■金融
 ■経済・財政運営
 ■
子育て
 虐待や貧困などに対応する持続可能で、誰ひとり取り残すことがない
育成環境を整備するため、「こどもまんなか基本法(仮称)」を制定し、「こどもまんなか支援事業(仮称)」を推進
 ■
社会保障
 持続可能な全世代型社会保障を構築▽成長・人手不足分野への人材移動を促進▽柔軟かつ確実な医療提供体制を構築するため、診療報酬を改定▽国民皆保険を堅持し、
小児・周産期医療、救急医療などの確保や医師偏在対策などを推進▽介護・福祉人材の確保と介護の受け皿整備を推進
 ■
女性活躍
 指導的地位に占める
女性割合を3割程度とすることを目指す▽女性の視点も踏まえた税制、社会保障制度を構築▽緊急避妊薬の適切な利用を推進、性犯罪厳罰化に向けて刑法を改正

3 国の基「農林水産業」を守り、成長産業に

4 日本列島の隅々まで、活発な経済活動が行き渡る国へ

 ■地方創生
 ■観光
 ■デジタル
 ■環境
 ■沖縄振興
 ■復興の加速

5 経済安全保障を強化する

6 「毅然とした日本外交の展開」と「国防力」の強化で、日本を守る

 ■外交
 ■安全保障
 ■治安・テロ対策・海上保安

7 「教育」は国家の基本。人材力の強化、安全で安心な国、健康で豊かな地域社会を目指

 ■
教育・文化・スポーツ
 幼児教育・
保育の無償化を推進。「幼児教育振興法」を制定▽小学校における35人学級を計画的に推進し、効果検証を踏まえ、中学校での対応を検討▽私立小中学校の家計急変世帯支援低所得世帯の高等教育無償化を実施▽文化芸術、スポーツ、観光などのソフトパワー産業を国の成長戦略の要として活用し、30年に100兆円産業化を目指す
 ■
生活の安全
 侮辱罪の厳罰化や削除要請の強化などを通じインターネット上の誹謗(ひぼう)・中傷やフェイクニュースなどへの対策を推進▽
子供と接する職業に就く人の性犯罪などに関する無犯罪歴を証明する「日本版DBS」制度を創設
 ■
多様性・共生社会
 
性的指向・性自認(LGBT)に関する広く正しい理解の増進を目的とした議員立法の制定を実現▽技能実習制度及び特定技能制度の活用を促進

8 日本国憲法の改正を目指す
 ■憲法改正
 ■行政改革など
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 次に、
NHKが下記のニュースで報じた、各党の公約を見ても関係しそうな項目、「子育て支援・教育」の中を見ても少子化・人口減少に関するものは全くありません。(関係ない項目は項目のみ)
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各党の公約 NHK

https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/shugiin/2021/pledge/

政策別
新型コロナ対策

経済政策など

子育て支援・教育
各党の公約
自民
すでに実施している
幼児教育・保育の無償化などに加え、さらに財源を確保し、待機児童の減少や、病児保育の拡充、児童手当の強化を目指す。保育人材の確保と保育の受け皿整備を進め、放課後児童クラブの拡充や質の確保を進める。子どもの貧困や虐待対策を強力に推進するほか、ベビーシッターを利用しやすい経済支援を行う。

立民
子どもや子育てに関係する国の予算を倍に増やす。そして児童手当の所得制限を撤廃し、中学生までとなっている支給対象を高校生までに拡大する。「出産育児一時金」を引き上げ出産にかかる費用を無償化するなどとしている。

公明
新型コロナウイルスの影響が長期化していることを踏まえ、
18歳までの子どもを対象に、1人あたり一律10万円相当を支援する「未来応援給付」を掲げる。住民税非課税の世帯を対象に無償化にしている0歳から2歳までの子どもの保育は、段階的にすべての世帯に対象を広げるほか、「出産育児一時金」の増額も盛り込む。

共産
大学や短大などの
学費を半額に引き下げ、入学金制度をなくし、給付奨学金の制度を拡充する。私立高校の負担を軽減するとともに、高校教育の無償化を進める。また、すべての幼児教育・保育や、義務教育のもとでの学校給食を無償にする。

維新
幼児教育や高校、大学などの授業料の無償化。政府・与党で検討されている「こども庁」は、予算枠を財務省の取りまとめから独立させGDPの一定割合を必ず配分することを定める。
出産費用を助成する出産一時金を増額することなどで妊娠・出産への経済的負担を最小化する。

国民
「人づくり」を最重点政策に据えて、「教育国債」を発行し、
教育などの予算を倍増させる。義務教育の対象年齢を3歳まで引き下げて高校までの教育無償化を実現する。児童手当を拡充し、親の年収に関わらず、子どもが18歳になるまで1人あたり月額1万5000円を支給する。

れ新
児童手当の支給対象を高校生まで広げ、金額を倍増する。奨学金の支払いを免除するほか、教育の完全無償化も実現する。教員の数を大幅に増やして少人数学級にすることで、教育の質を高める。

社民
奨学金を原則、給付型にして、貸与型の奨学金は例外的なものにする。すでに返済中の奨学金も一部免除する。また、高校の授業料無償化の制度から朝鮮学校を外す差別をやめ、国籍を問わずに子どもたちに学ぶ権利を保障する。

N党
公約に記載はありません

年金・社会保障

外交・安全保障

憲法

原発・エネルギー

ジェンダー・多様性
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 次に、かつて
少子化対策喫緊の課題として議論されていた当時の読売新聞を調べて、少子化対策が、どの様な頻度で取り上げられていたかを調べたところ、次の様な状況が判明しました。

 以下は、過去
30年・40年前に遡って、「少子化対策」「少子化 社説」をキーワードにして検索して把握した記事の数と、そのタイトルです。
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キーワード「少子化対策」 過去30年間
全体で1,355件 古いものから
30件の記事のタイトルは次の通り

子育てコスト1人2000万円 厚生白書で費用試算 社会支援を求める
1994.04.08
[いんでっくす]
少子化対策専門官
1995.01.10
[賛否両論]私立高校の男女共学化 読者からの意見
1995.03.13
[合わせ鏡]不安な時代に本能的調節? 中川志郎(寄稿)
1995.03.27
少子化対策強化 不妊、乳幼児相談センターを来年度5か所ずつ開設/厚生省
1995.09.04
[政治考現学]
進む少子化、将来に深刻な影 日本の人口100年後=訂正あり
1996.08.25
[あっぱめやーい]八丈島赤ちゃん作戦(5)決定打ない
少子化対策(連載)
1996.08.31
[気流]
少子化対策 保育所頼みに疑問 社会福祉法人理事長・服部芳子73
1996.08.31
来年度から年金住宅融資を割り増し 子供のいる世帯が対象/厚生省
1996.11.03
[気流]97私の提言 行政改革 子にツケ回すな 主婦・近藤千恵子36
1997.01.25
高齢化と社会システム 家庭機能の支援必要 正村公宏(寄稿)
1997.02.07
[豆知識]
少子化対策 出生数・少子化の影響・各国の対策
1997.02.22
[気流]97私の提言 
少子化対策 不妊に保険適用 主婦・鈴木あゆみ29
1997.02.22
[気流]97私の提言 
少子化対策 職場の環境整備 農学博士・川口豊67
1997.02.22
[気流]97私の提言 
少子化対策 自分流に子育て パート・佐々木能子36
1997.02.22
[気流]97私の提言 
少子化対策 育児期間に減税 会社員・内藤剛34
1997.02.22
[気流]97私の提言 
少子化対策 移民受け入れも 地方公務員・湯山芳健53
1997.02.22
[気流]97私の提言 
少子化対策 男性の協力カギ 会社員・高味美奈子36
1997.02.22
[気流]97私の提言 
少子化対策 婚外子を認めて 公務員・匿名34
1997.02.22
[気流]97私の提言 
少子化対策 無痛分べん安く 歯科医師・中島潤子33
1997.02.22
[気流]97私の提言 
少子化対策 地域で力合わせ 貿易業・荘曜総36
1997.02.22
[気流]97私の提言 
少子化対策 自然に任せれば 産婦人科医・坂元正一73
1997.02.22
[気流]97私の提言 
少子化対策 夜はTV見ずに 会社員・石井孝47
1997.02.22
[気流]97私の提言 
少子化対策 育児経験評価を 建築家・越智詩子38
1997.02.22
少子化対策、「4人目」生まれたら車貸します 3年間無償/大阪・池田市
1997.03.04
[論点]
少子化対策保育改善 前田正子(寄稿)
1997.03.20
少子化対策の基本法制定を 東京商工会議所が提言
1997.04.11
[産地なま情報]学生服 倉敷市=岡山県 
少子化対策に新商品
1997.04.28
[気流]不妊治療バックアップ望む 主婦・匿名27=長野県南安曇郡
1997.05.28
中途視力障害者の福岡訓練施設、入所者定員割れ続く
1997.06.02
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キーワード「少子化 社説」 過去40年間
全体で182件 古いものから30件の記事のタイトルは次の通り

[社説]なぜ子供が減り続けるのか
1989.07.07
[社説]3人を割った核家族の
子育て
1990.08.16
[社説]21世紀への備えと国勢調査
1990.09.27
[社説]
「少子化」が促す変化に備えたい
1992.11.15
[社説]
子育てと仕事が両立する社会
1994.04.10
[社説]
学校基本調査に見る教育課題
1994.08.24
[社説]高齢者介護をどう充実するか
1994.09.09
[社説]理念なき「経済計画」の不幸
1995.06.16
[社説]進路学習に役立つ大学情報を
1996.10.07
[社説]「安全と安心」をどう守るか
1996.11.21
[社説]加速する
少子・高齢化を考える
1997.01.29
[社説]利用者本位の
保育サービスに
1997.04.07
[社説]頼れる介護保険にするには
1997.05.19
[社説]「豊かな人間性」をどう育てるか
1997.08.07
[社説]六・三制50年の歩みに学ぶもの
1997.08.15
[社説]スポーツ好きの
を増やそう
1997.10.10
[社説]
少子化対策は現状の認識から
1997.10.28
[社説]女性が働き
子供も産める国に
1997.11.06
[社説]「介護保険」に実を与えるには
1997.12.03
[社説]
子育ての見直しは家庭から
1998.04.03
[社説]
保育所子育て支援の基盤だ
1998.05.20
[社説]未来に「夢」を託せる社会に
1998.06.14
[社説]みんなで福祉制度を考えたい
1998.06.18
[社説]98参院選スタート 「景気」以外の争点も見逃すな
1998.06.26
[社説]
子どもの居場所のある学校を
1998.08.08
[社説]“年金不信”解消へ政治の出番だ
1998.10.11
[社説]非行防止に社会の連携強化を
1998.12.25
[社説]「男子のみ募集」は通らない
1999.03.10
[社説]春闘の転換を迫る最低回答
1999.03.18
[社説]社会保障改革の“痛み”直視せよ
1999.06.04
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 これらを見ると
20年〜30年前は、「少子化対策」喫緊の重要課題として、連日のように報じられていた事が窺えます。
 それでは、その「少子化対策」が、なぜ
選挙公約与野党全政党から無視される現在の事態に陥ったのでしょうか。

 考えられるのは次の二つのケースです。

ケース1 出生児数が順調に回復し、人口減少も増加に転じて
「少子化問題」は完全に克服されて過去のものとなった。

ケース2 出生児数の減少は年ごとに加速し、
人口減少に歯止めが掛からず、政府・マスコミ・学界も“さじを投げ”沈黙を決め込んでいるのが実情である。

 
現実はケース1ではありませんので、考えられるのはケース2しかありません。
 しかし、彼らが「さじを投げる」のは、大変無責任です。そうするしかないのであれば、彼らは
職を辞するべきです。
 更に30余年の歳月と多大な国費を投じて実施した
少子化対策(実態は共働きの母親に対する子育て支援策)が、何の効果も無く大失敗に終わったのであれば、とりあえず効果が無かった政策を中止すべきです。

 しかるに今回の
各党の公約を見ると、その効果がなく誤った施策である「子育て支援」中止するどころか、その延長・拡大とみられる施策が多数散見されます。
 これは一体どういうことなのでしょうか。彼らは
少子化対策に便乗して「子育て支援」をしただけで、「少子化」を改善する気などは元々(今も)なかったのです。そう考えるしかないし、それが一番妥当な解釈だと思います。(この点については、元厚労省官僚の山崎史郎氏が明確に認めています。(I78 少子化対策破綻の現実を前に、言い訳の詭弁を弄する元厚労省官僚山崎史郎氏)

 これは
国民を欺いたと言うことです。そういう人達が平然と現職に就いている日本の現状には絶望します。何度選挙をしても変わりません。それは日本には言論の自由がないからです。

令和3年10月24日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ