A240
事件が前職と無関係なら「元自衛官」の“肩書き”は不要

 7月9日の産経新聞は、「優等生から豹変、同級生『同じ人物か』 安倍元首相銃撃の容疑者」と言う見出しで、次の様に報じていました。
-------------------------------------------------------------------------------------
優等生から豹変、同級生「同じ人物か」 安倍元首相銃撃の容疑者
2022/7/9 21:47 産経

 安倍晋三元首相(67)を銃撃したとして、殺人未遂容疑で逮捕された
元海上自衛隊員の無職、山上徹也容疑者(41)は、奈良市内のワンルームマンションで1人暮らしをしていた。奈良市で育ち、中学や高校の同級生からは「優等生」「努力家」とも評されていた。凶行の背景に何があったのか。

(中略)

 防衛省関係者によると、山上容疑者は平成14年8月に21歳で海上自衛隊に入隊し、
17年8月まで任期制自衛官として勤務。高校の同級生の男性は「高校では文系のクラスに在籍していた。卒業後は大学に進学したと聞いていたが、自衛隊に入っていたと知って驚いた」と話す。

(以下略)
------------------------------------------------------------------------------------
 
記事には彼が“元自衛官”である事は、明記されていますが、彼の“肩書き”のような形での表記はされていません。

 今まで事件・事故の報道では、犯人・被疑者である人物の経歴の一部に
“自衛官”の期間があると、例えそれが短期間のものであって、10年・20年前、或いはそれ以上前のものであっても、またその経歴と事故との間に何の関係がなくても、“元自衛官”が、生涯不滅の肩書きのように付けて報じられていました。

 今回の山上徹也
犯行と、彼の経歴の一部に「自衛官」がある事の間に、直接事件と結びつく何かがあるのかは報じられていませんが、少なくとも3年間勤務して20年前に自衛官を退官しただけの者を、“元自衛官”の肩書き付きで報じなかったことは正しい判断だと思います。

 ここで思い出すのは、“元自衛官”ではありませんが、
“元通産省高級官僚”の起こした自動車事故(死亡事故)を報じる新聞記事です。
 2021年10月12日の読売新聞は、「飯塚元被告『暴走は勘違いによる過失。おわびします』初めて過失認める…収容され刑務所へ」と言う見出しで、下記のように報じていました。

------------------------------------------------------------------------------------
飯塚元被告「暴走は勘違いによる過失。おわびします」初めて過失認める…収容され刑務所へ
2021/10/12 21:20 読売

 2019年4月に起きた東京・池袋の暴走事故で、法務・検察当局は12日、自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死傷)で禁錮5年の実刑が確定した
旧通産省工業技術院の元院長・飯塚幸三元被告(90)を刑の執行のため、収容した。元被告は今後、東京・小菅の東京拘置所から刑務所に移送される。

 確定判決によると、元被告は
19年4月19日、豊島区東池袋で乗用車を運転中、ブレーキとアクセルを踏み間違えて暴走。主婦の松永真菜さん(当時31歳)と長女の 莉子りこ ちゃん(同3歳)を時速約96キロではねて死亡させ、通行人ら9人に重軽傷を負わせた。

(以下略)
------------------------------------------------------------------------------------

 彼が
旧通産省工業技術院院長に就任したのは1986年で、退任したのは1989年です。事故は退任から30年後の出来事です。彼の職歴と事故は何の関係もありません。
 しかるに
事故から2年6か月経過後の上記の記事で、あたかも肩書きのように「旧通産省工業技術院の元院長・飯塚幸三元被告」と報じています。

 この記事には
他意あるものと考えます。彼が通産省の高級官僚ではなく、読売新聞の元役員であったら、「元読売新聞取締役」と肩書き付きで報じられる事は無かったでしょう。(これだけではありません。他にもあります。参照 A184 NHKのニュースはなぜ被疑者の元の職業が自衛官の時だけ、「元自衛官」を強調するのか

令和4年7月11日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ