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違憲訴訟の乱用は民主主義の敵−夫婦別姓問題、女性の再婚禁止期間問題−


 11月5日の読売新聞は「夫婦別姓 年内にも決着 再婚禁止期間も 結審、大法廷憲法判断へ」と言う見出しで、次のように報じていました。
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夫婦別姓 年内にも決着 再婚禁止期間も 結審、大法廷憲法判断へ
読売 2015年11月5日3時0分

記者会見する、原告団の(左から)塚本さん、小国さんら(4日午後、東京・霞が関で)

 民法の夫婦別姓を認めない規定と、女性のみに再婚禁止期間(6か月)を定めた規定が違憲かどうかが争われた2件の訴訟の上告審弁論が4日、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)であり、原告、国の双方が主張を述べて結審した。大法廷は、両規定について早ければ年内に初の憲法判断を示す見通し。いずれの規定も
古い家族観に基づくとして見直しを求める声が高まっている一方、改正すれば家族や夫婦のきずなが揺らぐとの意見も根強く、大法廷がどう判断するか注目される。

 夫婦別姓を巡る訴訟では、東京都内に住む事実婚の夫婦ら5人が、夫婦同姓を定めた民法の規定は憲法に反するとし、国会が法改正を怠ったとして国に慰謝料計600万円の支払いを求めている。

 原告側は、結婚した夫婦の96%が夫の姓を選択している現状を指摘し、「女性のみに改姓を強いており、憲法の保障する平等権などを侵害している」と主張。これに対し、国側は「夫婦の姓をどちらにするかは2人の選択に委ねられており、違憲とはいえない」と反論した。

 一方、再婚禁止期間に関する弁論では、原告側が「女性に必要以上の制約を課しており、違憲だ」と主張し、禁止期間の撤廃を求めた。国側は「父子関係の紛争を防ぐための規定で、合理性がある」と反論。最高裁は1995年、小法廷の判決で規定の合理性を認めているが、今回、大法廷に回付して弁論を開いたことで、小法廷の判断を見直す可能性もある。

 夫婦別姓と再婚禁止期間を巡っては、法制審議会(法相の諮問機関)が1996年、選択的夫婦別姓の導入と再婚禁止期間の短縮を答申した。だが、自民党内などで異論が強く、法務省の民法改正法案は提出見送りが繰り返されてきた。

原告側 「
21世紀の判例期待」

 「
結婚後の名字で呼ばれると、他人が呼ばれたような感覚になる」。夫婦別姓を巡る訴訟の弁論で、東京都内の行政書士・小国香織さん(41)は、壇上の裁判官15人を前にそう訴えた。

 中学生の頃、大学の同窓会の名簿を見ながら、母親が「
女の人は結婚すると、名字が変わって誰だか分からない」とつぶやくのを聞いたのが、改姓を意識したきっかけ。2006年に結婚。事実婚だとお互いの手術の承諾などで支障が出ると考え、戸籍は夫の「丹菊たんぎく」姓に変えたが、行政書士は通称名が認められており、旧姓で仕事を続けている。

 ただ、遺言状の作成を依頼された際、効力に問題が生じないよう、公証人から戸籍名で署名を求められたことがあった。小国さんは弁論でこの時のことに触れ、「すべての場で旧姓を使うことは保証されていない。夫婦別姓を選べる社会を実現できる判決を強く望んでいる」と強調した。

 弁論後、都内で記者会見した原告団長の元高校教師、塚本協子さん(80)(富山市在住)は「
姓は私にとってどうしても譲れない、命そのもの。最高裁は別姓を望む私たちを救済してほしい」と訴えた。

 しかし、夫婦別姓に対しては、「家族の一体感が失われる」などとして反対意見が根強い。内閣府による12年の世論調査でも、
反対が36・4%容認が35・5%と、賛否が拮抗きっこうしている。

 一方、再婚禁止期間を巡る訴訟で原告となった岡山県内の30歳代の女性は、家庭内暴力(DV)などで前夫と別居後、1年以上の裁判を経て前夫とようやく離婚が成立。この間に現在の夫と知り合い、娘を妊娠したが、離婚後すぐに再婚できなかった。

 代理人の作花知志さっかともし弁護士は弁論後の会見で、「法制度に翻弄され、つらい思いをしてきた」と、女性の苦悩を代弁し、「
明治時代に作られた規定に対し、21世紀にふさわしい新たな判例を期待したい」と語った。
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 記事は「夫婦別姓」と「再婚禁止期間」の問題を並列して論じていますが、この二つは全く別の問題で、二つ合わせて「男女平等問題」として扱うのは、問題点を
歪曲する扱いだと思います。

 まず、「夫婦別姓」についてですが、この問題は
司法判断になじむ問題でしょうか。夫婦同姓を定めた現行の民法第750条「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」は長年問題なく運用されてきた法律で、近年一部の女性達から提起されて問題視されるようになっただけであり、法律制定当時にはなかった新たな問題が生じたわけではありません。夫婦別姓を容認する人が以前より増えてきたとしても、実際に夫婦別姓を望む人は極めて少数です。

 裁判所が制定時にさかのぼって民法750条を違憲・無効とするのは到底無理だと思います。違憲としたければ、制定当時は合憲であった民法が、ある時点から違憲になったとする以外に無いと思いますが、その為には姓(苗字)を巡る
客観的な状況の変化があったことを明らかにする必要があります。状況の変化が何もないのに、ある日突然「違憲」とするのでは法的安定性を欠くと言わざるを得ないからです。そして客観的状況の変化とは、国民の意識の変化以外に無いと思います。

 しかし、
最高裁の判事達は選挙選ばれたわけではありません。法廷に多数の裁判員がいるわけでもありません。裁判所の事務局が独自の世論調査をしているわけでもありません。また、原告も単なる一個人に過ぎず、いかなる意味に於いても国民の代表ではありません。しいて国民の代表と言おうとすれば、一番それに近いのは選挙で選ばれた政府の指揮命令下にある検察官と言うことになると思います。
 こういう構成の
最高裁法廷で、この問題の可否を論じること自体が不適当だと思います。そういう問題を論じるのは全国民の正当な代表である議会の役割で、裁判所が判断するのは能力がない者の越権行為です。

 次に仮に司法の問題だとした場合でも、「違憲」であるかどうかの議論は具体的な憲法の条文に照らしてなされなければなりませんが、記事は該当条文について報じておらず大変お粗末です。多分「第二十四条 ○2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない」と言う部分だと思いますが、
「両性の本質的平等」とは、逆に言えば「本質的」とは言えない部分については、不平等は容認されると解釈すべきだと思います。

 夫婦別姓を認めない夫婦同姓は「法の下での男女の本質的平等」に反するでしょうか。そもそも民法が結婚に際して、男性の姓を名乗ることを求めているのではなく、男女どちらかの姓の選択を求めているに過ぎない点を考えれば、
夫婦同姓は本来男女平等云々の問題ではありません。

 夫婦別姓には様々な重大なデメリットが生じます(I19 姓(苗字)は何のためにあるのか)。これらを合わせて考えると、たとえ男女平等に影響がある問題であるとしても、
夫婦同姓が良いか別姓が良いかは、「本質的」に男女平等の問題とは別の問題だと思います。
 記事の中に「
古い」とか、「21世紀の」とか「明治時代」言う表現がありますが、そういう主張は反対に、主張に説得力が乏しいことの表れだと思います。
  また、内閣府の世論調査は「
反対」と「容認」の2つの選択肢となっていますが、回答の選択肢は「賛成」と「反対」の2つであるべきです。

 次に、「女性の再婚禁止期間」の問題ですが、これは「夫婦別姓」問題とは、多少趣を異にすると思います。なぜなら、現行民法制定当時とは事情が多少異なるからです。
 
DNA鑑定技術の飛躍的向上により父子関係の有無は100%判定できるようになりました。
 ただし、前夫との離婚と再婚の時期が接近していれば、
父親を誤認するリスクは出てくると思います。自分の子だと思って育ててきたら、実は前夫の子だったと言うリスクが今よりも高まります。何年も経ってDNA検査をしたら実は自分の子ではなかったでは、遅すぎます。それを防ぐ意味から、合理的な期間の「女性の再婚禁止期間」は違憲にはならないと思います。

 ただし、
鑑定技術の進歩を踏まえて裁判所が再度判断するという限りでは、司法が判断しても間違いでは無いと思います。

平成27年12月4日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ


(平成27年12月16日 追記)

 最高裁は、女性の再婚禁止期間について、原告の「男女不平等」の訴えに答えず、180日が不合理で、100日とすべきと判断したようですが、100日が妥当か、180日が妥当かなどは、裁判所が判断すべきことではなく、
立法府の裁量の範囲内の問題です。こんなことで大法廷を開くほど最高裁は暇なのでしょうか。司法の劣化を改めて思い知らされました。