C85
25年以上前の札幌市の中学教員わいせつ事件 −司法を歪める判事のリップ・サービス、賠償を認めない法廷が、被害を認めるのは倒錯した論理−

 1月9日の読売新聞は、「25年以上前の中学教員わいせつ、異例の再調査へ…被害認定の判決確定受け」という見出しで、次の様に報じていました。
 
 この判決主文と判決理由の効力については、C12「献穀祭訴訟、『判決理由』の効力」でも書きましたので、ほぼ同様なことの繰り返しになりますが、一部の司法関係者(それとマスコミ)などで、この種の裁判制度の悪用という手口が、後を絶たない様であると感じましたので再度取り上げました。
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【独自】25年以上前の中学教員わいせつ、異例の再調査へ…
被害認定の判決確定受け
2021/01/09 07:46 読売
許すな わいせつ教員

 札幌市立中学生だった頃から男性教員に性的被害を受け続けたとして、東京都在住の女性(43)が
教員らに損害賠償を求めた訴訟で昨年12月、東京高裁が性的被害を認定する判決を出したことを受け、札幌市教育委員会がこの教員に聞き取り調査を進めていることがわかった。教員は過去の調査で性的行為を否定したが、市教委は司法判断を重く見て、25年以上前の事案について異例の再調査に踏み切った形だ。

 被害を訴えているのは、
写真家石田郁子さん。石田さんは、中学から高校時代にかけ、自身が通っていた中学の男性教員から性的被害を受け、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症したなどとして2019年、男性教員損害賠償を求めて提訴。1審・東京地裁判決と2審・東京高裁判決はともに、不法行為から20年で賠償請求権が消滅する「除斥期間」が過ぎたとして請求を退けた。

 しかし、昨年12月の
東京高裁判決は、石田さんが中学卒業前から高校時代にかけて、男性教員からキスされたり、性的な行為をされたりした事実があったことは認定。同判決は確定した。同判決を受け、石田さんは札幌市教委に対して男性教員の懲戒処分を求めている。

 一方、市教委は
16年、石田さんの申し立てを受け、男性教員に聞き取り調査を複数回行ったが、教員が否定したため被害の事実を確認できなかった。だが、性的被害があったとする高裁判決が確定したことで、市教委側は「再度調査する必要がある」と判断。今月に入り、男性教員への聞き取りを進めている。

 市教委では、わいせつ行為などにより教員として不適切と認定された教員は原則、
免職を含めた懲戒処分にする指針を定めている。男性教員は現在も市立中学校に勤務している。石田さんが中学に通っていたのは25年以上前となるが、市幹部は「高裁で事実が認定されたことは非常に重いと考えている」としている。

 男性教員の代理人を務めた
弁護士は読売新聞の取材に対し、性的被害を認定する高裁判決の確定について「ノーコメント」と話した。
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 記事は
「被害認定の判決確定」「性的被害があったとする高裁判決が確定」などと、司法が事実関係を認定し確定したことを強調しています。

 しかしこの裁判は
賠償請求事件で、判決は一審、二審とも事件から20年以上経過しているため、時効として請求を却下し、原告敗訴としたものです。“確定”したのは「原告敗訴」です。性的被害があったか無かったかに拘わらず、門前払いで良いはずの事案です。
 多分
一審はそういう判決だったのだと思います。問題となる争点があるとすれば、それは時効の起算点はいつか、時効の中断があったか無かったかぐらいです。時効が成立するのならそれ以上の審理は不要です。

 
20年経過していることを承知の上で、敗訴が確実であるにも拘わらず、原告が提訴に及んだのはなぜでしょう。また、一審に続き、二審でも同様に敗訴したにも拘わらず、敗訴を受け入れたのはなぜでしょうか。それは「東京高裁が判決で性的被害を認定する言及した」からに他なりません。原告の目的はここにあったのです。

 今回の
二審判事は、原告の期待に応えて、しなくても良い事実関係の審理をして、その上で「性的被害を認定」した上で、時効として原告の請求を却下する敗訴の判決を言い渡しました。
 これは言わなくても良いことを言ったという点で、判事の
“リップ・サービス”と言って良いと思います。しかし原告にとってはありがたいサービスでも、被告にとってはいい迷惑です。なぜなら被告は判決文の一部分(性的被害の認定)に不服があっても、判決としては勝訴のため、法的手段(上告)で対抗する事が出来ないからです。公平性の点で問題が有ると思います。

 そもそも
損害賠償すら認めない法廷が、「性的被害」を認めるというのは、倒錯した論理であり、矛盾していると思います。同じ事件でも刑事民事では取り扱いが異なることはあり得ます。刑事責任では免責されても民事責任は免れないと言うことはよくある話です。被告・被告人にとって民事は刑事より厳しいというのが通常です。

 今回の教員に対して検討されている
懲戒免職処分(行政処分)は、刑事と民事の中間と考えられると思います。とすれば、民事は行政処分より厳しいと言う考え方になり、民事が免責であるのに、行政処分(懲戒免職)を科されるというのは、本末転倒と言えると思います。

 また、
刑事、民事の世界でそれぞれ時効が設定されているにも拘わらず、その中間とも言える「行政処分」の世界で、時効の制度が法制化されていないのは法制度の不備と言えると思います。今回の騒ぎはその不備に乗じて、判事のリップ・サービスを利用して25年前の恨みを晴らそうとするもので、正当な対応とは言えません。
 二審の判事は
「性的被害」を認定したと言いますが、記事の中ではその証拠については全く触れられて居ません。

 読売新聞が記事で、
「被害認定の判決確定」「事実があったことは認定。同判決は確定した」などと、司法が事実関係を認定・確定したことを繰り返し強調しています。しかし、被告に上訴の道がないことと証拠に基づかない認定であることを考えれば、この事実認定には法的な拘束力は無いと思います。

 それにも拘わらず読売新聞が判決の拘束力と
“確定”強調し、札幌市教委の迅速な再調査を報じているのは、確定していないものを“確定”と報じる偏向報道で、原告側を応援するのが目的だと思います。

 今回の様に問題教師を学校教育から追放する必要がある場合は、懲罰とは別に不適当な人物として解雇すれば良いと思います。その為には教職は児童・生徒の為にあるのであって、教師の生活のためにあるのではないと言う点を明確にして、職業選択の自由云々の議論とは切り離し、“終身免許制度”を廃止して、「懲戒処分」とは別に、不適当人物を
解雇する道を確保することが必要・有益だと思います。

令和3年1月13日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ