H150
[国会改革]国会における討論は野党議員による政府追及だけでなく、与党議員による野党党首追及も実施し、更に「質問」と「答弁」ではなく、「主張」と「反論」という形を取るべきである

 4月7日~4月16日にかけて、読売新聞には[進まぬ国会改革]と言うタイトルの次の様な連載記事がありました。
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[進まぬ国会改革]前例主義の壁<1>緊急事態「備え」に遅れ
2022/04/07 05:00
[進まぬ国会改革]前例主義の壁<2>文通費日割りに5か月
2022/04/09 05:00
[進まぬ国会改革]前例主義の壁<3>答弁で拘束 外交に制約
2022/04/12 05:00
[進まぬ国会改革]前例主義の壁<4>徹夜で答弁案 官僚疲弊
2022/04/13 05:00
[進まぬ国会改革]前例主義の壁<5>「質問力」向上 余裕なく
2022/04/14 05:00
[進まぬ国会改革]前例主義の壁<6>不要論打破 もがく参院
2022/04/16 05:00
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❶.
 今回の〈1〉~〈6〉のシリーズのメインテーマは「前例主義の壁」のようですが、その後に続いて書かれている「緊急事態『備え』に遅れ」以下の、その日ごとのタイトルは、相互に関連はないものの、それらを「前例主義」に結びつけて、「国会改革」を論じる事を意図しているようです。

 しかしここで展開されている議論は、個別の「前例主義」の実例に対して、それぞれの問題点・改善・解決について論じているだけです。「国会改革」、「前例主義]の議論にはなっていません。

 「前例主義」と言いますが、それは単なる
“怠慢”に過ぎず、そんな“主義”があるとは思えないし、そう名付けてそれが問題の核心であるかのように一括りにして議論を展開する構図は、的外れと思われます。

❷.
 そうではなく本当に「国会改革」を目指すのであれば、今の議会が
与野党の議員間の討論・議論の場でなく、野党による政府追及の場になっていることを、一番の問題点として取り上げるべきです。

 今の国会では、議会本来の姿であるべき、与野党間、各党間の
議員による論戦はなく、野党議員による政府追及一色です。それ以外に、与党議員による政府に対する質問がありますが、これは全く無意味です。与党議員は総理に対してではなく、野党党首に対して質問・批判を展開し、野党党首に答弁を求めるべきです。

 それが健全な与野党間の論戦であるにも拘わらず、議論が
片側一方通行になっているのが、国会の議論が健全性を欠く致命的な原因です。野党が政府を攻撃する一方で、攻撃・批判されることがなければ、まともな政策議論の展開は期待できず、野党が無責任になるのは避けられません。

❸.
 更に展開される
一方的な追及の議論が、双方が対等な立場に立った議論の形式を取らず、野党議員による総理・閣僚に対する「質問と、それに対する防戦一方の政府側の「答弁という形を取るために、質問する方は相手の“言葉尻”を捉えて、揚げ足を取ろう、足下をすくおうとする姿勢が目立ち、答弁する方は事なかれの“答弁”で質問をかわそうとする姿勢が目立ちます。
 国会における議論の形式は、
「質問」「答弁」ではなく、「主張」「反論」という議論・討論の本来の形を取るべきです。

 現在の国会運営では、与党は野党党首を攻撃する機会が無いために、野党の無責任は放置されて劣化の一途をたどり、政権担当能力を喪失していき、政権交代が遠ざかり、万年与党、
万年野党体制が政治の劣化の大きな原因となっています。

 また、議論が「野党政府」、「質問答弁」となっていることは、政府の官僚の負担が増加していると言われる一因です。

❹.
 読売新聞は、なぜ本当の問題点を指摘しないのでしょうか。
 彼らの無能が大きな原因である事は間違いありませんが、それ以外に言えることは、彼らは本当に国会が改革されて、本来の機能を取り戻して、
政治に民意が反映することを望んではいないと言うことです。
 彼らが望んでいるのは、
新聞・テレビ業者(とその背後にいる学者など)の意向が政治に反映することであって、民意が反映することではないのです。なぜなら、彼らの意見は民意からかけ離れており、民意の反映自分たちの意見が政治に反映しなくなることを意味するからです。
 それは彼らが
「ネット」が影響力を拡大し、それを通じて多数の国民の意見が、マスコミを介さず拡散している現状を敵視・警戒していることからも明らかなことです。
(参照)A191 国会での質問時間配分は与野党の議席数に従うべき -与党議員による野党党首への質問が不可欠-

令和4年4月22日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ
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(以下、各記事の全文です)
[進まぬ国会改革]前例主義の壁<1>緊急事態「備え」に遅れ
2022/04/07 05:00 読売

 新型コロナウイルスの感染拡大やロシアによるウクライナ侵攻を受けて、国会改革を求める声が高まっている。時代に即応した機能的な動きは少なく、前例に固執する場面が目立つためだ。「唯一の立法機関」が抱える課題を考察する。

          ◇

 ロシアによる軍事作戦開始から1か月後の3月24日。衆院憲法審査会で自民党の新藤義孝氏はウクライナの憲法に緊急事態条項があることを紹介し、問いかけた。


 「我が国に緊急事態が発生した場合、私たちは国民を守り、国家機能を維持するために必要な法制度を準備しているか」

 衆院議員の任期を4年と定めた憲法45条に任期切れ後の「不在」に対する規定がないことなどを問題視したのだ。

 2019年9月、衆院憲法審の与野党議員視察団の一員として、新藤氏はウクライナを訪問している。1996年に制定された同国憲法では、緊急事態の終了後に選挙された議員によって国会が開かれるまで、「議員の任期(5年)は延長される」と定められている。視察時に憲法裁判所幹部は「非常事態が起きないという保証はない。対処方法を定めておいた方がいい」と新藤氏らに助言した。

 今、ウクライナは激しい攻撃にさらされている。それでも一院制の国会は本会議を開いた。3月3日には14本、15日は21本の法律をそれぞれ採決し、刑事訴訟法改正案なども審議する。仮に戦況が長引き、2024年夏までの議員任期が切れても、緊急事態条項があり、議会機能は維持できる。

 衆院事務局によると、13年時点で約200の海外の憲法のうち、約9割で緊急事態条項を明記し、緊急事態時の議員任期延長は約2割が定めていた。

コロナ禍で懸念
 日本も人ごとではない。昨年は、コロナ禍もあり、衆院選が議員の任期満了(10月21日)より後に初めてずれ込んだ。議員不在を回避するためのウクライナの「備え」に学ぶべき点は少なくない。

 日本国憲法には緊急事態条項はない。憲法54条に「参院の緊急集会」の規定があるだけだ。自民は、「緊急集会は衆院解散から新議員が選ばれるまでの『平時』の規定で、大災害時などの衆院の長期空白は想定していない」などと主張し、同条項創設を盛り込んだ4項目の改憲案の議論を求める。自民改憲案には、緊急事態対応として、内閣が緊急政令を制定できることなども盛り込まれている。

 一方、野党第1党である立憲民主党は、衆院議員の任期延長明記に後ろ向きだ。泉代表は4月2日、自民改憲案について「同意できない」と記者団に語った。背景には、共産党と立民内への「二つの配慮」がある。

 共産は憲法改正を議論することさえ反対だ。先の衆院選で共闘し、夏の参院選でも協力を模索中で、共産が離れる状況は回避したい。立民内には、リベラル色が強い最大グループ「サンクチュアリ」が存在し、改憲論議は火種になりかねないという懸念もある。緊急事態対応をきっかけに改憲論議が深まることは避けたいのが本音だ。

 コロナ再拡大の可能性に直面する中、他党は「立民共産危機感の欠如は際立っている」と批判する。

オンライン審議
 「とても感動しました」

 ポーランドを訪問した林外相は4月2日、ウクライナのドミトロ・クレバ外相との会談で、同国のゼレンスキー大統領が日本の国会で行ったオンライン演説の感想を伝えた。海外要人の国会演説は来日時に実施してきたが、オンライン開催は初めてだ。

 当初は、「格式の高い国会で何を言い出すか分からない」として、演説自体に難色を示す議員もいた。英国や米国などの議会が連帯の意思を示すため、即座に応じた動きとは対照的だった。

 国会では、議員がリモートで国会に参加する「オンライン審議」も焦点だ。衆院憲法審は、緊急時に限って憲法上可能とする報告書をまとめ、3月8日に細田衆院議長に提出した。1か月が過ぎようとするが、結論時期は不明だ。

 2月17日の衆院憲法審では、公明党の中野洋昌氏が、「妊娠や出産なども含めた個人の議員の権限の行使を保障する観点も重要」と強調した。大規模災害の発生や感染症の流行だけでなく、対象をより広義に捉えるべきだとの主張だ。立民や国民民主党も同様の見解を示すが、自民には慎重論も根強い。

 新型コロナに感染した議員数は衆参両院で50人近くに達し、閣僚からも感染者が出た。感染者などが増えた場合、国会機能の維持が困難になるという懸念は、コロナ禍の当初から指摘されていた。民間企業でのテレワーク導入が広がる中、国会の対応には国民の厳しい視線が注がれている。

議員任期 延長議論必要…国士舘大 百地章客員教授
 緊急事態に関する規定がないことが、日本国憲法の最大の問題点の一つだ。首都が大地震などの被害に遭うことは、想定外の事態ではない。国会機能を維持しながら危機を乗り切るため、議員任期の延長を含めた議論を深める必要がある。

 衆院憲法審査会がオンライン審議に関する報告書をまとめたことは評価できる。ただ、改憲の原案を審議することが審査会の本来の目的だが、2007年の設置以降原案を一つも作っていない。何よりも大事なことは、原案を示し、憲法改正の国民投票で国民の意思を直接聞くことだ。現在までその機会がないことは残念だ。
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[進まぬ国会改革]前例主義の壁<2>文通費日割りに5か月
2022/04/09 05:00 読売

 昨年11月10日、当選後初めて衆院第1議員会館の自室に入った日本維新の会の小野泰輔氏(比例東京)は我が目を疑った。机の上に厚さ3センチ程度の封筒があったためだ。中身は現金259万323円。10月分の文書通信交通滞在費(文通費)100万円が含まれていることは明細で知った。衆院事務局に聞くと、「(10月は)1日だけ議員になっているので、満額支払われる仕組みです」との回答が返ってきた。

 小野氏は、昨年10月31日投開票の衆院選東京1区で敗れたが、比例選で復活した。それが確実になったのは、翌11月1日午前2時半頃のことだった。


 「自分が議員になったと認識したのは日付が変わってから。今どき、口座振り込みだと思うが、現ナマが机にポンと置いてあった」

 「二重の違和感」を感じた小野氏が、「国会の常識、世間の非常識」と投稿サイトで発信すると、一気に世論に火がついた。

与野党に溝
 新人議員の問題提起に慌てた各党は、文通費見直しに動き出した。だが、与野党の溝は簡単に埋まらない。野党側が日割り支給だけでなく、使途公開や未使用分の国庫返納なども求めたのに対し、与党側は日割りを優先する方針を示したためだ。維新に加えて、立憲民主、国民民主両党も公開にこだわり、時間だけが過ぎた。自民党からは「立民も本音では見直したくないから、結論の先延ばしは好都合だろう」との不満が出た。

 2月8日に始まった与野党協議会。5回目となった4月7日の会合で、日割りを導入するための歳費法改正でようやく折り合った。24日投開票の参院石川選挙区補欠選挙で新たな任期が始まる議員がいる。これが早期の結論を迫られた理由だ。衆院選からは5か月以上が過ぎていた。

 「日割り支給だけが先食いされて、使途公開や(未使用分の)国庫返納がなおざりにされることが、私の一番の懸念だ」

 維新の遠藤敬国会対策委員長は7日の協議会の最後で、他党にクギを刺した。「調査研究広報滞在費」という名称変更には、現在よりも幅広い使途を容認するものだと批判も出ている。

 使途公開は法改正を待たなくても可能だ。維新は2015年10月以降分から、党のホームページで独自公開している。「アールグレイ無糖」(149円)や「アイロン」(1万3700円)、「洗濯機」(9万3600円)のほか、秘書に支払ったとみられる「12月分給与」(20万円)など、使い道は幅広い。使途公開を主張する立民は「すべての国会議員が同じルールで公表すべきだ」(西村幹事長)として、独自の公開には慎重だ。

「第2の給与」
 日本と同じ議院内閣制の英国では、09年に議員経費の不正請求が発覚。下院では議員手当の目的外使用をチェックするほか、実費精算や使途公開も始まった。不正請求への返金や懲罰を設け、リコール(解職請求)制度も導入した。チェック結果はインターネット上で公表する。実費精算と使途公開は米国にもある。

 衆参両院の常任・特別委員長には、国会開会中、開催の有無にかかわらず土日も含めて1日当たり6000円の手当がある。特別委は衆院に九つ、参院には七つあるが、通常国会の場合、最近は平均5回前後の開催にとどまる。今国会でも1月17日の召集以降、衆院科学技術・イノベーション推進特別委は1回行われただけだ。だが、会期延長がない場合には、90万円(150日分)の手当が支給される。このため、特別委については改廃論もくすぶっている。

 「議員特権」の恩恵にあずかる与野党議員は少なくない。先の衆院選で初当選した新人は、「第2の給与」とも指摘される文通費について、「資金力に乏しい自分にはありがたい存在だ」と本音を漏らす。ただ、「政治に金がかかる」と言うならば、説明責任を果たすことが必要だ。

 「文通費のあり方で議会のコンセンサス(意見の一致)を得るのは、憲法改正よりも至難の業だ」

 国会会期末を6月15日に控え、協議会出席者の一人は自嘲気味につぶやいた。

議員待遇 包括的議論を…日大名誉教授岩井奉信氏
 文書通信交通滞在費(文通費)の見直しに向けた国会の動きは鈍すぎる。使途の制限や公開について本格的な議論に入る前に、名称を「調査研究広報滞在費」への変更で合意したことにはあきれた。今までの目的外使用にお墨付きを与え、この問題を終わりにしたいという気持ちが見え見えだ。

 必要経費が多く、文通費から捻出せざるを得ないと言うが、使途を公開しなければ議論のしようもない。

 開会実績の少ない特別委員長の好待遇も問題だ。各党内の人事で漏れた議員を送り込むポストになっており、改革が進まない。議員宿舎の家賃が妥当であるかという問題なども含め、議員の待遇全般について包括的に議論をしてはどうか。
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[進まぬ国会改革]前例主義の壁<3>答弁で拘束 外交に制約
2022/04/12 05:00 読売

 「第一報」を受けたのは国会審議の真っ最中だった。3月24日午後2時35分、国会内にある参院分館・第34委員会室。秘書官が岸防衛相に「北朝鮮がミサイルを発射したようです」と耳打ちした。岸氏は自席から立ち上がると、建物内の別室に急いだ。刻一刻と寄せられる情報に耳を傾けながらも、岸氏が心配そうに漏らした。

 「防衛省に戻らなくてもいいのかな」

 通常、緊急時には約2キロ・メートル離れた防衛省で、陣頭指揮にあたる。省内にいれば情報伝達もスムーズだ。与野党で対応を協議したが、岸氏はこの日、質問通告を受けており、発射後も答弁に備えて国会にとどまる必要があった。


 岸氏は途中、首相官邸で開かれた国家安全保障会議(NSC)4大臣会合への出席を挟み、質疑終了まで委員会室に残った。防衛省に戻ったのは、午後6時過ぎ。発射からはすでに3時間以上が経過していた。

 ミサイルは通常軌道で発射されれば、米本土全域を射程に入れるものだった。防衛省幹部は「ミサイルが日本本土に向かっていたら、国民に被害が出ていたかもしれない。そんな時に大臣が国会に拘束されていてよいのか」と不満げに語った。

2日に1回
 憲法63条は、首相や閣僚が国会で答弁を求められた場合、「出席しなければならない」と定める。野党はこの規定を根拠として、首相らに国会出席を要求する。

 読売新聞の集計では、安倍首相(当時)は2016年に94日、国会に出席した。国立国会図書館によると、英国は38日、ドイツは6日だけだった。1月17日召集の今国会では、岸田首相の国会出席は32日(4月11日時点)に上る。平日のほぼ2日に1回は国会に出席している計算になる。

 国会に拘束される時間が長くなれば、外交にもしわ寄せが出る。国会会期中の外遊は平日を避け、連休を活用するケースが多い。とはいえ、ロシアによるウクライナ侵攻に伴う国際情勢の変化に「慣例」で対応するには無理がある。

 「外遊から帰って、さらに0泊3日の強行日程。体力もきついが、先進7か国(G7)が集まる場に日本だけが行かないわけにはいかない」

 3月18日、首相周辺が言葉に力を込めた。外交で日本の存在感を示さなければ、国益を損なうというわけだ。

 首相は翌19日から3連休を使ってインドとカンボジアを訪問した。さらに、ウクライナ情勢を受けて、緊急のG7首脳会議が平日の24日にベルギーで行われた。自民党の麻生副総裁も「国会の最中だが、ウクライナへの支援やG7の結束を示す大事な機会だ」と首相に助言していた。

「代役」
 「大臣の代わりを副大臣が務めるということでどうか」

 3月25日午前、衆院議院運営委理事会。自民の盛山正仁氏は、午後の衆院本会議で予定される消費者契約法改正案の趣旨説明を「代役」が務めることを提案した。担当の若宮消費者相の秘書官が新型コロナウイルスの濃厚接触者となり、検査結果次第では登壇できない恐れがあったためだ。

 しかし、立憲民主党の青柳陽一郎氏は、前例がないとして「大臣にお願いしたい」と譲らなかった。若宮氏は陰性が確認され、本会議に出席できたが、自民幹部は「野党は与党の足を引っ張ろうとしている」とこぼした。

 国際情勢の緊迫化や新型コロナ禍で、野党には変化の兆しも見える。

 ロシアがウクライナ侵攻を開始した2月24日。立民の蓮舫氏が、参院予算委で、首相に「NSCを開くべきではないか」と異例の「提案」を行い、委員会が休憩になった。

 国民民主党の古川元久国会対策委員長は4月1日の与野党国対委員長会談で、林外相が同日から首相特使としてポーランドを訪問することなどを踏まえ、「(国会対応は)副大臣でもいいのではないか」と提案した。1999年に成立した国会審議活性化法は、閣僚に代わり、副大臣による国会答弁の増加を狙ったものだった。もっとも、自民が野党だった民主党政権でも活用は多くなかった。与野党に関係なく、閣僚答弁を軽視せず、閣僚自身が、緊張感を持って、 真摯しんし に説明責任を果たすことは言うまでもない。

 「国会議員は、私自身も含め、国民から負託を受けているという責任と 矜持きょうじ を持たねばなりません」

 2018年7月に大島衆院議長(当時)が出した所感の一文は、国会が危機下でのあり方を模索する今、重みを増している。

与野党 不断の見直しを…駒沢女子大 弥久保宏教授
 同じ議院内閣制を採る英国と比較しても、日本は首相や閣僚の国会出席日数が非常に多い。英国では政府・与党主導で議会日程を確定できるが、日本の場合は与野党間でその都度、合意を得る方法のため、日程闘争になりやすい。野党は、首相らを国会にくぎ付けにする「強気の交渉」も可能となる。

 こうした国会対応が続くのは、政権交代がなかなか起きないからだ。野党は「専業野党」から脱し、政府・与党になった時に跳ね返ることを想定すべきだ。

 首相らを拘束するスキャンダル究明は、衆参両院の政治倫理審査会に委ね、委員会を本来の法案審議中心にする必要もある。副大臣の権限強化や、英国で導入されている閣僚と同様に答弁に立つ「閣外大臣」への名称変更も検討価値がある。

 英国では与野党問わずに国会改革に取り組んでおり、日本も与野党が不断に見直しを行ってほしい。
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[進まぬ国会改革]前例主義の壁<4>徹夜で答弁案 官僚疲弊
2022/04/13 05:00 読売

 「高校の先輩として申し上げると、30分でこれだけの質問はできないと思う」

 萩生田経済産業相は3月4日、衆院経産委員会で、早稲田実業高校(東京)の後輩で、立憲民主党の梅谷守衆院議員に苦言を呈した。質疑内容と直接関係ない発言を閣僚が行うのは珍しい。

 質疑に立った梅谷氏は、「雪国対策」や「ウクライナ危機が日本に及ぼす影響」など5項目の質問を経産省に事前通告した。同省は論点や問題意識を梅谷氏に確認し、19問の質問を想定した答弁を用意して臨んだ。だが、時間切れとなり、消化できたのは8問分だけだった。

 衆院新潟6区(上越市など)選出の梅谷氏が質問の中で、「地元では雪が降ると早く起きて除雪している」とのエピソードを紹介すると、萩生田氏が「官僚たちは徹夜で(答弁作成に)対応しなきゃならない」と霞が関の現状に触れる場面もあった。梅谷氏はその後の取材に「聞きたいことがたくさんあり、質問が増えた」と語った。


 金子総務相は4月6日、参院決算委終了後、「用意していた答弁は、質問が来なくて読めなかった」と周囲にぼやいた。

改善せず
 萩生田氏が異例の指摘を行った背景には、答弁作成などの国会対応が、官僚を疲弊させていることへの危機感がある。国会の各委員会で首相や閣僚が行う答弁案は、質問に関係する省庁の官僚が書く。事前に国会担当の官僚が詳細を聞き取る「質問取り」を行い、答弁を担当する部署に割り振った後、作成作業に入る。

 1999年に閣僚答弁を官僚が補佐する「政府委員制度」が廃止された際、政府委員が担当していた質問取りについて、与野党は、政府に入る政治家の担当とすることを申し合わせたが、現在も官僚が続ける。

 質問通告は、与野党の申し合わせで「本会議、委員会の2日前の正午まで」だが、守られないケースが横行する。内閣人事局の調査では、2020年の臨時国会で質問が出そろった時刻は、全省庁平均で前日の午後6時46分。前日の定時(午後6時15分)以降となったケースは65%、午後8時以降は36%に上った。答弁作成は、前日深夜から当日未明に及ぶことも珍しくない。中堅官僚は、「国会対応でへとへとになり、本来の業務の遂行にも支障が出てしまう」とこぼす。

 先の衆院選以降は開催がないとはいえ、立憲民主党などが政府の不祥事などで官僚を厳しく追及してきた「野党合同ヒアリング」も負担になった。自民党の部会にも随時、出席が要求される。

 新型コロナウイルスの感染拡大で、質問取りには電話やオンライン会議システムの活用が始まった。ただ、質問の割り振りに備えて、省庁で待機を強いられる状況は変わっていない。

若手退職
 各省庁では近年、若手職員の退職が増加している。内閣人事局によると、19年度に自己都合で退職した20歳代の総合職は86人で、13年度(21人)から約4倍になった。一般職や専門職を加えた職員全体でも同じ6年間で2倍以上に増えている。

 「平日は早くても午前2時、遅ければ午前4時まで勤務した」。新型コロナワクチンの接種を担当する厚生労働省の職員が証言する。政府内にも「過酷な労働環境が霞が関を去る一因だ」との指摘がある。

 今年1月には総務、法務、文部科学、国土交通の4省がそれぞれ作成した22年度予算案の参考資料に誤りが見つかった。昨年の通常国会でも、政府提出法案に条文自体の誤り14件を含む計181件のミスがあった。入省24年目の官僚は「ミスはあってはいけないが、人手不足も理由だ。業務量とマンパワーのバランスが崩れている」と話す。

 国会にも「ブラック霞が関」からの脱却に向けた変革が求められる。与野党の議員でつくる「衆院改革実現会議」会長の浜田靖一・元防衛相は、「働き方改革が叫ばれる中で、我々も官僚に負担を強いているという自覚を持ち、今後議論を積み重ねたい」と語る。

 質問通告が審議直前まで来ないのは、国会日程を巡る与野党の駆け引きで、開催がギリギリまで決まらないことも背景にある。日程闘争をなくすための案としては、会期末までに成立しない法案は廃案にするとした「会期不継続の原則」の廃止や、通年国会の実現などが挙げられている。国立国会図書館によると、ドイツは会期制を採用していない。英国では会期不継続の原則こそ残っているが、会期は毎年ほぼ1年間とされ、通年で法案審議が可能な体制が整っている。

 「国会対応、土日の呼び出しに夜遅くの会議――。長時間労働を変えないと優秀な人材は入らなくなる」

 霞が関の将来を案じる声は少なくない。

議員が拘束「政策作り」支障…元厚労省職員 千正康裕氏
 国会の審議日程を巡る与野党の日程闘争が、官僚の長時間労働の遠因となっている。議員からの直前の質問取りや国会答弁作成などで官僚を夜に拘束すれば、仕事と家庭生活の両立はできないし、勉強会や視察の予定も入れられなくなる。「政策を作る」という官僚の本来業務に必要な研さんや情報収集が著しく困難になり、国民にとっても不利益になる。

 省庁側も、世の中の関心が高い政策を扱う部署には夜中まで働ける人しか置けず、「職員配置の不自由さ」という問題も生じる。

 政府がどの法案を提出するかは、国会召集前におおむね判明している。審議入りから採決までの日程をあらかじめ決められる制度にすれば、議員も官僚も十分に準備でき、政策論議は深まるはずだ。
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[進まぬ国会改革]前例主義の壁<5>「質問力」向上 余裕なく
2022/04/14 05:00 読売

 コンビニで買った夕食を食べ終えると、新人議員の「格闘」が始まった。

 衆院千葉8区(柏市など)選出で立憲民主党の本庄知史氏は、3月下旬~4月上旬、連日のように衆院第2議員会館の自室にこもり、夜通しで質問作りを進めた。

 本庄氏は、衆院内閣委員会に所属し、政府が今国会の目玉法案と位置づける経済安全保障推進法案の質問を任された。計3回にわたり質問者を務め、1回あたりの持ち時間は30~45分だった。


 自身は「経済安保は土地鑑がない」という。まずは閣僚の過去の答弁や記者会見の発言録を確認し、重要だと思う部分をパソコンに書き出した。山のように積まれた雑誌や書籍の中から見つけ出した専門家の意見も読み込んだ。朝は選挙区の駅頭に立ち、昼間は党の会議などに忙殺される。週末は選挙区回りがあり、質問作りは平日の夜を充てるしかない。睡眠不足になることもしばしばだ。

 秘書として19年間支え、民主党政権で外相などを歴任した立民の岡田克也衆院議員は、「1時間の質問のために100時間勉強する」が口癖だった。本庄氏は「そこまではできないが、私も50時間ぐらいは勉強する」と話す。

 経済安保推進法案は7日、衆院を通過した。本庄氏は質疑で、法案の運用があいまいな点を中心にただしたが、「政府は『これから決める』の一点張りだった」と振り返る。「日程が過密すぎて、議論を深掘りするための準備に割く時間がない」とも嘆いた。

掛け持ち
 衆院内閣委の定例日は毎週水、金曜日と定められている。本庄氏は衆院憲法審査会(定例日は木曜日)も兼ねており、出席は週3回になる。

 複数の委員会掛け持ちは国会では珍しいことではない。衆院には委員会や審査会が29あり、定員は合計1028。議員総数465で割れば、1人当たり二つ以上兼ねている計算になる。参院でも1人が三つを兼務し、専門性を磨く余裕はないのが実情だ。

 新人が熱心に質問準備を行うことは多い。だが、与野党問わず、中堅になるにつれて、党務などで多忙となり、国会質問は片手間になりがちという。これが、「論戦が深まらない原因」との見方も出ている。

 立民は1月、新人を含む若手対象の研修会を始めた。ベテランが持つ質問のノウハウを伝授し、「即戦力」として活躍してもらう狙いがある。

 「日々の蓄積が大事。これだと思う分野を持ち、勉強を重ねるべきだ」

 4月7日の研修会で、当選10回の玄葉光一郎・元外相が強調すると、約15人の出席者が熱心にメモを取った。

 一方で、選挙地盤が弱い若手議員にとっては、次の選挙での当選も関心事になる。玄葉氏もこの日、約40分間の講義時間の大半は、後援会作りや選挙区の回り方など、どぶ板選挙の重要性を説くことに費やした。「地元活動も国会質問も両方とも大切で本当に悩ましい」。出席した若手が本音を漏らす。

理詰めで
 今国会で、多くの政府関係者が口をそろえて評価したのは、立民の野田元首相が2月18日に行った衆院予算委での質疑だった。

 野田氏は、環太平洋経済連携協定(TPP)などに参加する日本が、アジア太平洋地域でさらに大きな経済圏を構築することを提案し、「中核的な役割を果たし、戦略的な外交を推進すべきだ」と主張した。岸田首相も「問題意識は共有する」と応じた。評価が高いのは、「しっかりと国益を考えた建設的な質問」(財務省関係者)だったからだ。「質疑ではなく討論だった」との指摘も出た。

 官僚からは、「スキャンダル追及一辺倒よりも、データや資料を読み込み、数字の矛盾を理詰めで突いてくる質問者が怖い。緊張感も生まれる」との声があがる。

 予算委のあるべき姿も問われている。「予算審議は国政全般に関わる」(衆院事務局)として、幅広い内容の質問が可能だ。

 予算委には、テーマを事前設定した集中審議があり、今国会では衆参で計10回開催された。ただ、テーマに「等」が加えられ、結果的にスキャンダル追及もできる。「ウクライナ情勢等」を議論した3月2日の集中審議では、立民参院議員が、自民党京都府連の政治資金を巡る問題などを取り上げた。

 質問力の向上は与党側にも求められる。特に所属議員数が多い自民では、新人が予算委で質問に立つ機会は多くない。ただ、政府の法案などを閣議決定前にチェックする「部会」があり、ここでの指摘や質問が目に留まれば、国会の質問者に起用されることもある。下村博文・前政調会長は、「部会で鍛え上げられ、鋭い質問ができるようになる。部会は人材育成の役割も担っている」と強調した。

 「国会は有意義な政策論議の場となっているか」。日本財団が2019年、17~19歳の男女計800人を対象として実施した調査では、半数を超える54・8%が「思わない」と回答した。若者の「政治不信」を物語る数字だ。国会議員一人ひとりが胸に刻む必要がある。

過度な追及 支持得られず…学習院大特別客員教授(前衆院事務総長) 向大野新治氏
 日本の国会は「政治機関」だ。立法を行うのはもちろんのこと、監視するために憲法62条に規定されている「国政調査権」を行使する。国会が統治者を選ぶことで、統治の最善化も図っている。

 与野党のトップが論戦をかわすことで、誰に統治者としての資質があるかを示し合う場でもある。その結果、国会は権力闘争の舞台とならざるを得ないわけだから、政権追及は野党の立派な仕事といえる。野党には、しっかりと存在意義を示してほしい。

 ただ、追及や抵抗の仕方は考える必要がある。ルールやマナーを無視した、行き過ぎた追及はダメだ。自制しないと国民からの支持も得られなくなる。
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[進まぬ国会改革]前例主義の壁<6>不要論打破 もがく参院
2022/04/16 05:00 読売

 参院決算委員会には、税金の無駄遣いをチェックする役割がある。11日は、2020年度決算が対象だった。

 「国会開会中にもかかわらず、どうして補正予算の編成ではなく、予備費を使う判断をなさったのか」


 立憲民主党の小沼巧参院議員は、21年3月に政府が新型コロナウイルス対策の若者向け広報事業に予備費を充てたことを問いただした。予備費は、緊急時に国会の議決を経ずに使途を決めることが可能だ。しかし、20年12月には若年層での流行がすでに報告されており、わざわざ予備費を使う必要があったのかと疑問を抱いたのだ。

 鈴木財務相は、「補正予算だと時間がかかる。総合的に考えて予備費で対応した」との答弁に終始し、質疑はかみ合わなかった。

 1947年の第1回国会で衆参両院は、決算委を設置した。衆院では98年に決算行政監視委に改組したが、参院は決算委を単独で存続させた。予算先議権を持つ衆院に対抗し、参院は「決算重視」を掲げるためだ。

 決算審査は、秋の臨時国会で、政府が前年度予算に対する決算書を国会に提出して始まる。年明けの通常国会では例年、新年度予算成立後に決算委で首相出席を含めて、50時間弱の審査を行い、承認の可否を本会議で議決する。直後にある次年度の予算編成に生かす狙いがある。

 チェックに目を光らせているとはいえ、決算審査で金額が修正されることはなく、否決されても法的拘束力はない。民主党など野党が多数派だった2009年7月に07年度決算を否決するなど、過去に8度の否決例はある。しかし、首相が引責辞任したケースはない。

 民間企業で決算に問題が生じれば、経営陣の責任問題につながりかねない。予算委とは対照的に地味で、国民の注目も少なく、若手参院議員は「審議中の緊張感もなく、『決算重視』はお題目にすぎない」とこぼす。

「くら替え」波紋
 参院は貴族院を前身とする。戦後の1947年、初めての参院選で当選した無所属議員が院内会派「緑風会」を結成した。自由な言論を重んじ、党議拘束もなかった。

 だが、自民党が与党を維持し、社会党が野党第1党の座を占めて対立する「55年体制」になると、次第に「衆院のカーボンコピー」とやゆされ、独自性の発揮が難しくなった。予算案や条約の承認、首相指名選挙の議決で衆院の優越があるが、それ以外には、ほとんど違いはない。

 2007年の参院選後には、衆参で多数派が異なる「ねじれ国会」が生まれ、「強すぎる参院」が問題となった。08年3月には、日本銀行総裁の人事案が2度否決され、戦後初めて日銀総裁が一時空席になる事態も起きた。

 参院では今、自民党の世耕弘成参院幹事長が3月のテレビ番組で、将来の首相就任を視野に「衆院くら替え」に言及したことが波紋を呼んでいる。世耕氏は参院自民党の中で、議員会長を支える要職を務める。自民党参院議員は、「幹部の立場で、『衆院に行く』と言えば、参院自身が『衆院は一軍、我々は二軍』と認めたことになる」と非難した。

 首相には参院議員も就ける。ただ、岸田首相を含め、現行憲法下で首相を務めた33人は全員が衆院議員だ。

地方の府
 先進7か国(G7)はいずれも二院制を採用するが、その多くで参院にあたる上院は地域代表から構成されるなど、下院とは違う役割が与えられている。

 英国の上院(貴族院)は公選制ではなく、キリスト教の大主教などの聖職貴族と一部の世襲貴族に加え、下院での首相・閣僚経験を持つ政界や司法界などの各界有識者(一代貴族)で構成される。このため、専門的見地に基づいた議論が可能な点が特徴だ。当初は、下院と同程度の権限があり、政府提出法案を否決することが何度もあった。だが、その後の改革で次第に権限は弱められた。「現在は大所高所から法案を修正する『修正院』としての役割を果たしている」。海外の議会制度に詳しい駒沢女子大の弥久保宏教授が解説する。

 フランス上院は間接選挙制で、下院議員や地方議員などによる選挙で選ばれ、地方自治体を対象とする政府提出法案について先議権を持つ。

 日本では現在、各会派の代表でつくる「参院改革協議会」の中で、自民、立民両党が、参院を「地方の府」と位置づけるための選挙制度改革を提案する。合区を廃止して都道府県単位で選出し、「地方選出」の色合いを濃くするものだ。衆院との差別化を目指すが、他党には異論もある。仮に与野党が合意できた場合でも、周知期間などもあって、夏の参院選には間に合わない。衆院側からは、「選挙制度をいじるだけでなく、そろそろ抜本的な改革に自分たちで乗り出すべきだ」との厳しい視線が注がれる。

 経済同友会は昨年、参院改革を求める提言を発表し、独自性のある運営を目的とした「参議院法」(仮称)の制定を打ち出した。「不要論」をはね返し、前例主義の壁を壊すことができるだろうか。(おわり)

行政監視など役割特化を…京都大名誉教授 大石眞氏
 近年の参院選の投票率は50%を割り込むこともある。衆院と同じような審議を繰り返す参院に対し、国民が期待を抱いていないからではないか。

 衆院と参院は別々の組織原理をとらないと、二院制の意味がない。衆院は政府を形成する機能を持つが、参院にはない。参院からは首相指名権を外し、参院議員の入閣を自粛することで行政監視に特化できる。衆参の選挙制度が似ているので、衆院と大きく異なったものにすべきだ。例えば、参院は比例代表制を徹底することも考えられる。

 参院改革協議会ではコツコツと議論が続くが、議員が議論する以上、限界もある。参院議長が外部の有識者による会議を設置することも一案だ。


 この連載は、仲川高志、大藪剛史、天野雄介、山崎崇史、大槻浩之、鷹尾洋樹、三沢大樹、北村友啓が担当しました。
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