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“問題官庁”法務省 葉梨法相の“死刑のハンコ”発言は“当たらずといえども遠からず”で、非難には値しない

 11月12日の読売新聞は、「法相辞任 軽口をたたくにも程がある」と言う社説で、次の様に論じていました。
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法相辞任 軽口をたたくにも程がある (社説)
2022/11/12 05:00 読売

 死刑は究極の刑罰だ。その執行を命じる
立場の重みを、認識していなかったのだろう。軽口をたたくにも程がある。

 葉梨康弘法相が自らの発言の
責任をとって辞任した。

 同じ自民党岸田派に所属する外務副大臣のパーティーで、法相の職務について「朝、
死刑のハンコを押し、昼のニュースのトップになるのはそういう時だけ、という地味な役職だ」と述べていた。

 葉梨氏は、自らの仕事を「受け」も狙って紹介しようとしたのだろうが、人間の命を奪う死刑執行の
重みを考えれば不見識過ぎる。

 法相在任時に11人の死刑執行を命じた谷垣禎一氏は、裁判資料を読み込み、
納得した上で、死刑の執行命令書に署名するように心がけていたという。署名時には数珠を携え、手を合わせていた。

 過去には、
精神的な苦痛を理由に署名を拒んだ法相もいる。法相にかかる重圧は計り知れない。

 世界では、死刑を廃止する国が増えている。制度を維持しているのは、経済協力開発機構(OECD)に加盟する38か国では、日本と米国、韓国だけだ。

 日本は、犯罪の凶悪さや被害者の無念さを考慮して、死刑制度を維持している。制度を厳正に運用しなければならない立場にあるが、葉梨氏の発言には、その配慮が感じられない。

 葉梨氏はパーティーで、外務副大臣への支援を求める趣旨で、
「外務省と法務省は、票とお金に縁がない」とも述べていた。

 最近は、どの役職が目立つかや、
資金や票が集まるかといった点にばかり関心を持ち、国政で重要な責務を負っている、という自覚が感じられない政治家が多い。葉梨氏の発言は、そうした「政治の劣化」を象徴しているようだ。

 岸田首相の対応が、後手に回ったのは明らかだ。発言が報じられた10日には続投させる考えを示していたが、11日になって方針を一転させた。野党の追及をかわせないと判断したのだろう。

 首相は11日午後、東南アジア歴訪のため、日本を 発た つ予定だったが、出発を遅らせた。政局の混乱が、外交に影響を及ぼすような事態は避けるべきだ。

 岸田政権では先月、世界平和統一家庭連合
(旧統一教会)との関係を巡って曖昧な答弁を繰り返した山際大志郎・前経済再生相が、辞任したばかりだ。

 首相は、自らの任命責任を重く受け止める必要がある。政権内の緩みを排して、立て直しを図ることが不可欠だ。
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 死刑判決の権限は全て司法(裁判所)にあり、法相には何の権限もありません。権限のないものには責任もありません。
“立場の重み”なんてあるはずがありません。死刑判決の時には大きな声を出さず、死刑執行の時にはそれ以上の大騒ぎをするのは、マスコミの常であり議論の歪曲であり、欺瞞の極みです。
 “死刑のハンコ”発言は“当たらずといえども遠からず”で、非難に値するものではありません。決して間違いではありません。判事を正義の味方にして、法相に最終責任を負わせて悪役だけ押しつけるのは卑劣の極みで、他意あるものと感じます。

 法務大臣の
“精神的な苦痛”は、「署名を拒む」正当な理由にならず、“職務怠慢”でしかありません。こちらの方こそ“責任を取って辞任”するのがふさわしいと言えます。

 
「外務省と法務省は、票とお金に縁がない」正論であり、正論は評価すべきです。反対に正論に対して“揚げ足取り”で応じて、“正論を封じ”、他の省庁の不正・偽善を隠蔽・放置する行為こそが強い非難に値するものです。

 マスコミが「
資金や票が集まるかといった点にばかり関心を持って」政治活動をしている政治家の名を隠さず、漏れなく・詳しく報じていたら、旧統一教会の悲劇は生まれてこなかった筈です。

 この死刑云々に限らず、
法務省は他の省庁と異なり、裁判所・検察庁からの一方的な天下り的人事交流があるなど、制度上官僚(特に司法試験合格者)の地位が特別に高く大臣の地位が低いと言う構造的な欠陥を抱えています。そのため行政官庁であるにも拘わらず、省内が国民の常識ではなく“司法の常識”に支配される、“司法(判事・検事)上位”という倒錯した現実があります。法務省が最高裁の下位機関化と言う問題を抱えているのです。

 刑事問題に関してだけでなく、民事
(民法)の分野に置いても、「18歳成人、親の懲戒権の廃止」、「再婚、嫡出認定」などの問題が、国民の代表でもない、どういう“基準”で、誰のどういう“選考”によって選ばれたのか不明の、少数の“専門家”“有識者”達だけの非公開議論によって進められ、法務大臣が法案の議論に関与(リーダーシップを発揮)した形跡は報道されていません。

 
法務省は「最高裁」の下位機関ではない、と言う事を明確にすべきです。法務大臣の「死刑のハンコ」などは廃止を含む見直しをすべきです。
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(参考)

〈解〉法務省職員
2006.02.03 読売

 他省庁と異なり、
局長以上は全員、司法試験に合格した検察官裁判官の出身者。刑事、民事の法令立案には、法律専門家の方が適しているとの考えからだ。裁判官はいったん検事となる辞令を受け、同省職員になる。東京・霞が関の本省では、約130人の法律専門家が、それ以外の職員約700人を引っ張る形だ。
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韓国検察 揺らぐ独立 検事総長懲戒…政治介入 許す法体系
2020/12/19 05:00 読売

(前略)

日本 手厚い身分保障

 日本の検察庁法では、多くの検察官の任命権は法相にあるが、検事総長ら一部の幹部の任免は内閣が行い、天皇による認証が必要となる。歴代総長の人選は、法務・検察内部で絞り込み、政府が追認する形がとられてきたとされる。政権による人事介入の余地を狭め、独立性を守るためだ。

 また、検察官には恣意しい的な処分で職務遂行が妨げられないよう、手厚い身分保障がある。同法は、不祥事を対象とする懲戒処分と、病気や職務能力が低い場合が対象となる「検察官適格審査会」の議決以外では、意思に反して失職や職務停止されないと規定する。

 懲戒手続きは一般の国家公務員と同じだが、国家公務員法に基づき、人事院が示す指針に沿って行われる。懲戒権は任命権者にあり、総長であれば閣議で決める。検察官適格審査会では、法相も審査請求できるが、委員の構成上、法相の意向は反映されにくい。これまで同審査会が免職にしたのは、失踪した副検事1人のみだ。

 日本でも「政治と検察の距離」が問われたケースはある。政府は1月末、「官邸と近い」との評もあった黒川弘務・東京高検検事長(5月に辞職)の定年直前で、半年間の勤務延長を閣議決定した。今年の通常国会に提出された検察庁法改正案には、総長ら幹部の定年を内閣の判断で最長3年延長できるなどとした特例規定が盛り込まれ、野党や世論の反発を招き、廃案に追い込まれた。
 (社会部 倉茂由美子)
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(参考)
H56 法務省に、「シビリアン・コントロール」を
H127 根拠が乏しい司法公務員(検事)の特別扱い 
−公務員に“独立”、“中立”を与えると、学校教育の劣化(荒廃)に見られる
ように、碌な事にならない−


令和4年11月13日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ