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消費税増税延期、安倍総理の矛盾 −財政再建=増税ではない−

 11月19日の産経新聞は、「衆院解散表明 首相会見詳報」と言う見出しで、次のように報じていました。
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衆院解散表明 首相会見詳報
2014年11月19日 産経新聞 東京朝刊 総合・内政面

 今年4月から8%の消費税を国民に負担してもらっている。3%の引き上げを決断したあのときから、10%への引き上げを来年10月に予定通り行うべきか、ずっと考えてきた。

 消費税率の引き上げは、社会保障制度を次世代に引き渡し、子育て支援を充実させるために必要だ。だからこそ、民主党政権のときに、私たちは税制改革法案に賛成した。しかし、消費税率を引き上げることで
景気が腰折れすれば、国民生活に大きな負担をかけ、その結果、税率を引き上げても税収が増えないことになっては元も子もない。

 17日、7〜9月期の国内総生産(GDP)速報値が発表された。残念ながら、成長軌道には戻っていなかった。消費税率を引き上げるかどうか、有識者や私の経済政策のブレーンから意見をうかがい、何度も議論を重ねてきた。それを総合的に勘案し、デフレから脱却し経済を成長させ、「アベノミクス」の成功を確かなものにするため、本日(18日)、消費税率10%への引き上げを、法定通り来年10月には行わず、18カ月、
延期すべきだとの結論に至った。

 しかし、申し上げておきたいのは、「三本の矢」の経済政策は、確実に成果を挙げつつあることだ。経済政策において最も重要な指標は、雇用や賃金だ。政権発足以来、雇用は100万人以上増えた。有効求人倍率は22年ぶりの高水準だ。今春には、平均2%以上、給料がアップした。過去15年間で最高だ。

 企業の収益が増え雇用が拡大し、賃金が上昇して消費が拡大する。景気回復という経済の好循環が生まれようとしている。何よりも個人消費の動向を注視してきたが、17日発表のGDP速報値によれば、個人消費は4〜6月期に続き、1年前と比べ2%以上の減少となった。3%分の消費税率引き上げが個人消費を押し下げる重しとなっている。3%引き上げに続き、来年10月からさらに2%引き上げることは、個人消費を再び押し下げ、デフレ脱却が危うくなると判断した。

 (中略)

 しかし、
財政再建の旗を降ろすことは決してない。国際社会におけるわが国への信頼を確保しなければならず、社会保障を次世代に引き渡していく責任を果たしていく。

 来年10月の引き上げを18カ月延期し、その後、さらに延期するのではないか、という声がある。
再び延期することはないと断言する。平成29年4月の引き上げについては、景気判断条項を付すことなく、確実に実施する。「三本の矢」をさらに前に進め、必ずそうした経済状況をつくると決意している。

(中略)
 −−消費税率引き上げを先送りしたら、財政再建に取り組む姿勢に疑問符が付けられ国民生活に影響が及ばないか。衆院選の勝敗ラインをどう考えるか

 「財政再建の旗を降ろすことは決してない。29年4月に確実に消費税率を10%に引き上げる。2020年度の財政健全化目標も堅持する。それにより、国際的な信認の問題は発生しないと確信している。経済の再生なくして財政健全化はできない。デフレ脱却がなければ財政健全化は夢に終わってしまう。断固としてデフレ脱却に向けて進んでいく」

(以下略)
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 安倍総理は、消費税再引き上げの延期と、それを理由とした衆議院解散の表明の中で、「財政再建は重要であるが、
経済は生き物である。消費税を10%に引き上げた結果、景気が更に落ち込み、税収減となっては元も子もない」、「しかし、引き上げを1年半延期するものの、平成29年4月には必ず増税すると断言する。再度の延期はない」と言いました。
 そして、その判断の是非を問うために衆議院を解散すると言いました。

 しかし、これは矛盾しています。経済が生き物であれば、
平成29年4月の増税を迎えるときの景気が必ず上向きであるという保証はありません。今と同じか更に悪化する可能性もあります。「決意」だけで実現できれば苦労はありません。実現出来なかったときに、断言した通りに増税すれば、税収減という元も子もない結果に陥る事になるはずです。

 安倍総理はなぜこのような見え透いた嘘を言うのでしょうか。
財政再建=増税ではありません。財政再建に必要なのはまず支出の削減です。企業でも家計でも赤字を脱却するための基本は同じです。赤字企業の再建例を見ても、まず手をつけるのは従業員のリストラ、人件費の削減です。断じて商品の値上げではありません。そんなことをしたら破綻は目に見えています。

 かつて欧州諸国やニュージーランドでも、財政再建のために大規模な公務員削減を実施しています。
(下記記事「欧州、財政再建へ公務員大幅削減」参照)

 
公務員のリストラは国家の財政再建のためには避けて通れない議論のはずですが、この問題は議論されたことすらありません。財務省の官僚が国家の財政悪化を憂いて増税の必要を訴えるがごとき発言をするのは、単に自分たちの給料の原資の枯渇を憂慮しているだけです。

 特に問題なのは
経済学者、マスコミのかなりの人たちが、財務官僚に洗脳されて、財政健全化のための公務員のリストラを論じることなく、増税不可避論を唱えていることです。

H5公務員削減はタブーか
http://www.kcn.ne.jp/~ca001/H5.htm。


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欧州、財政再建へ公務員大幅削減
ポルトガル7.3万人 仏は人件費10%、労組の反発根強く
2010年6月19日 4:00 日経
https://www.nikkei.com/article/DGXDASGM1803E_Y0A610C1FF2000/

【パリ=古谷茂久】財政赤字が膨らんでいる欧州諸国が公務員や公的部門の大幅人員削減に着手する。解雇は避けるが、退職者の補充を抑制して公務員の定員を減らすほか、公営企業の民営化を通じて公的部門を縮小する。公務員の人件費削減は各国の財政再建策の柱のひとつとなっているが、組合の反対も根強く実行には困難が伴っている。

仏政府は公務員2人の退職に対し当面は1人しか採用しないことを決めた。計算では毎年約3万4千人の削減になる。公務員の人件費を2011〜13年の間に10%減らす。10年の財政赤字国内総生産(GDP)比で約8%に達する見込みで、財政不安が広がるスペインポルトガルの水準に近い。仏政府はこの比率を13年までに欧州連合(EU)が求める3%に圧縮する目標を掲げている。公務員の人件費削減は歳出削減の2〜3割を占めるとみられ、財政再建の柱となっている。

ドイツ政府は14年までに800億ユーロ(約8兆8000億円)の歳出減を打ち出した。28万人いる連邦政府の職員のうち1万5000人を削減する。これに加えて防衛部門で約4万人削減する。

ポルトガルは当面、公務員2人の退職に対し補充を1人に抑える。公立学校の閉鎖・統合教員も減らす。11年から4年間で公務員の約1割にあたる7万3000人の削減になる。このほか電力、航空、製紙など公営企業の民営化も進めて公的部門の人員を減らす。

スペイン退職者10人に対し1人しか採用せず定数を減らすほか、給与を平均で5%減額英国は公務員の採用を11年3月まで凍結する。

欧州は米国や日本に比べて経済全体に占める公的部門の割合が高い仏では公的部門で働く人は全就労者の約2割を占める。民間部門に比べ非効率と指摘されており、各国政府は公営企業の民営化も進め、経済効率の向上をはかる狙いもある。

ただ公務員の削減には関連する労働組合が反対しており、スペイン、ポルトガルでは大規模なストが実施された。仏労組も24日のストを呼びかけている。公務員改革が頓挫すれば財政再建の手がゆるんだと見なされて市場の不安を再燃させる恐れがある。
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平成26年12月3日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ