<CINDERELLA REVIEW>

by  Natsumu

1997年4月、AMPの存在が日本で知られるようになるきっかけを作った「SWAN LAKE」のビデオが発売された。それは一部の人間にとっては衝撃的な作品で、AMPにとってもジャンピングボードとなった作品である。
ロンドンでは既に1995年から公演を重ねている「SWAN LAKE」はいくつかのアワードで受賞し、遂にはオリビエ賞までとってしまった。それから2年。途中「HIGHLAND FLING」の再演をはさんだが、今回の「シンデレラ」がAMPにとっては受賞後初の作品となった。

マシュー・ボーンがあの「SWAN LAKE」の後に何をどう作るのか。その期待と注目にマシューはかなりのプレッシャーを感じていたと思う。何を作っても「SWAN LAKE」と比較されてしまうのは当然の成り行きであるし、なかなかあの作品を越えるものを作るのは容易な事ではない。

さて、今回の「シンデレラ」は良く考えられた作品である。しかし、「SWAN LAKE」を期待して観ると少し物足りなさを感じるかもしれない。
全体に作品のトーンはグレーで統一され、大戦中という時代設定は当然の事ながら死のにおいを放っている。前作と比べるとかなり地味な仕上がりになっており、衣装にしてもメークにしてもかなり地味だし、黒鳥ほど派手なダンスシーンもない。
しかし、その構成はSTORYを読んでみると分かるようにかなり練られており、しっかりしている。ダンスシーンにしても良く考えられているし、楽しめる。AMPの「シンデレラ」は極めて演劇的でかなりの演技力を必要とし、正しく「モーション・ピクチャーズ」の作品である。
この作品からはマシューの成長が感じられ、「SWAN」の前にはこの作品は作れなかっただろうと思う。だが「シンデレラ」には前作のような華やかさは無く、AMPを世に広く知られる存在に押し上げるには少々力不足である。

ところで、今回の作品で特筆すべきはリン・シーモアだった。彼女の継母は実に見事だ。101のクルエラのような悪党ぶりは堂に入っており、正しく役者。ユーモアのセンスも抜群である。アダム・クーパーとリン・シーモアの二人のかけあいはとても印象的だった。お互いが役者でないと成り立たない駆け引きのあるダンス。実に見事なシーンである。
今回2公演を見たのだが、継母はシーモアが、パイロットはアダムがベストキャスティングだった。

さて、肝心のシンデレラであるが、これはどちらがベストという事はなく、二人とも自分のシンデレラを作り上げていた。まず最初に観たマキシーン・フォーンのシンデレラは実におきゃんでユーモアたっぷり。いじめられても上手くかげでうっぷんばらしをして強く生きているという感じ。継母の椅子を踏み付けるところなどは実におかしく会場は笑いの渦と化していた。
一方、サラ・ウィルドーのシンデレラは可憐で少し儚げ。いじめられても耐え忍ぶタイプのシンデレラである。そのせいか椅子を踏み付けるシーンでも前日とは違い笑いはあまりおこらなかった。しかしその分、最後の最後で家族に「出ていけ!」というシーンの爽快さはサラの方が勝っている。ダブルキャストで観るとこういう楽しみがあると実感させられたシーンである。
ホーンは極めてAMP的で、実にユーモラスな役者であり、サラは基礎がしっかりしているロイヤルのダンサーという感じだった。

そのシンデレラの相手役のパイロット、ハリーはアダム・クーパーの時が最高の出来。初日のワードロップのパイロットも良かったが、一つ一つのステップがクーパーの方が断然冴えている。
ケンプのハリーも観てみたかったが、年齢的にもクーパーのハリーがオリジナルキャストである。ダンスシーンは白鳥/黒鳥の時よりも少し減っていると思うが、ちゃんと見せ場が各幕ごとにあり、かなりのテクニックを要求される。特に一幕目の人形ぶりのシーンではマクミランもの並のリフトの連続で、そのスピードは圧巻。マシューとクーパーが共同で生みだしたキャラクターであるというのが良く表れているハリーだった。

さて、今回の一番の役得はエンジェルである。カーテンコールで一番人気なのは連日ともエンジェルだった。特にウィリアム・ケンプのエンジェルの日は、まるでアイドルかと思うほどの盛況ぶりだ。
からだ全体を発光している様にみせようとしている為、エンジェルは髪も肌も白く、洋服はグレーになっている。更にまゆと唇、そして手の甲にはダイヤを貼り付けてキラキラと光るようにしている。発光している様に見える素材を追求しているせいか、彼の洋服は化学繊維で出来ているらしく、動く度にガサガサと音がしてしまうのは改善すべきだと思うが、ケンプは驚く程しなやかで、どんなステップを踏んでもほとんど音がしない。それだけに衣装の素材の音が残念だった。

その他、シンデレラの義理の兄弟姉妹達やその友人など、脇をかためる「SWAN LAKE」でもおなじみのメンバーは相変わらず役者であった。
中でもスコット・アンブラーは変幻自在で、初日の義兄ではしっかりゲイ、翌日の公演では何処から見てもイギリスの紳士然としたロマンスグレーの退役軍人、更にあいた時間ではエンバークメントのスタンドの主人まで演じていた。彼を良く知っていないと見分けられないほど彼はしっかり化けてしまう。
今回大きくなったとしみじみ思ったのは「SWAN LAKE」で幼少の王子を演じたアンドリュー・ウォーキンショー。もうすっかり大人になっていた。しかしまだ彼は半ズボンに紙飛行機を持って駆けずり回る義弟を演じている。いつまで子供役を続けられるのかが見物である。

全体を通して見てみると、本当に良く出来た筋立てであり、作品の完成度は高い。マシューが頭の中で思い描いたものがそのまま舞台になっているという感じがする。役者もダンサーも揃ってきたという充実感が今のAMPにはある。
この舞台をブラウン管を通してみると、より一層映画のように見えるだろう。約135分の長さをもつ「シンデレラ」はその長さを感じさせないストーリー展開で、正しく「アドベンチャーズ・イン・モーション・ピクチャーズ」だった。これから先、マシューがどの様な方向に進み、どのような作品を作り上げていくのか。非常に楽しみである。

★11/27からロンドン旅行記掲載予定です★

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