ロンドン旅行記 〜ウェストミンスター大聖堂編〜


<10/9・午後>

風は再び強くなってきました。ビルの谷間を歩いているせいか、風は容赦なく髪を乱していきます。 強風に立ち向かうようにして歩きながら銀行の横を通りすぎ、ファーストフード店の横を通り過ぎると、いきなりビルが途切れて広場のようになっている一画が現れました。
ふと横をみるとそこに赤茶色をしたウェストミンスター大聖堂が現れました。その左にそびえ立つ塔は驚く高さです。 こんな街の真ん中に突如として現れるなんて京都みたいだと思いながら、大聖堂の入口に向かいました。

大聖堂の中はモザイクと大理石で美しく飾られていました。しかし、イタリアとは違いどこか落ち着きのあるというか、地味な色合いです。お国柄でしょうか。青地に黄色い星が描かれた部分などはベニスで見たのと同じ色合いなのですが、ベニスで見たとき感じた「トルコ風」という感じがここにはありません。手法や色合は同じなのに、受ける印象が微妙に違うという現実をおもしろいなぁと感じながら内部を一周しました。

モザイクに彩られた天井には唐草模様のような絵が描かれている部分がありましたが、これも何故かどちらかと言えばウイリアム・モリス風に見えます。描かれたキリストの顔も、イタリアのそれが平面的であったのに対し、ウェストミンスター大聖堂の方が新しいせいか、立体的に描かれています。それに顔の感じも少し違っているのです。恐らくイギリス人的な顔に描かれているのでしょう。

豪華なのに落ち着きがあり、地味派手といった感じのイギリスの教会にイタリアとの違いを感じながら、先ほどその高さに驚いた塔に登るべく事務所に向かいました。

大聖堂の中の人はまばらでひっそりしていましたが、ここだけは話し声が聞こえてきます。「リフト」と書かれた立て札の前に立ち「すみません」と声をかけると白髪の60代ぐらいのかっぷくの良いおじさんが出てきてくれました。

「塔に登りたいのですけど」と言うと、何故か両手をしっかりと握られ、「OK」と頷き、秘密の場所に案内するかのように芝居がかった様子で私の手をひいたまま「こっちだこっちだ」とエレベーターの方に連れていってくれました。
くすくす笑いながら£2を払い、「では、行くからね」と言われてエレベーターのドアがしまりました。

「この上からはロンドンの街全体が見下ろせるよ」と言いながら上から見える街の写真と説明の入った細長いリーフレットを手渡してくれました。エレベーターが止まった時、「見終わったらまた呼んでね」と言い、おじさんは別のカップル一組を乗せて下へ降りていきました。

エレベーターを降りてみるとこれが凄く狭いのです。10人もいたら窮屈という感じです。円形をしたフロアーには四方にドアがついていて、そこから外のバルコニーへ出る事が出来るようになっています。
それではロンドンの街を見ようと思い、いざバルコニーに足を踏みだしました。すると物凄い風、風、風!バルコニーに取り付けられた動物園の檻のような柵はこの突風で人が落とされない為のものなのでしょう。
これではゆっくり眺めているなんていう事はできません。たたき付けるような風にコンタクトレンズが心配になってきました。

ほとんど叫ぶように「す、凄すぎる!」と言いながらエレベーターの方へ逃げ帰りました。でも、せっかく来たのだから見なきゃと今度は別のドアへ。
少しましになりましたが、それでも台風のような風です。どうにかこうにか先ほどもらったリーフレットと街を見比べ、あれがウェストミンスター寺院だとか、セント・ポールズ寺院だとか言い、もうこれでよしとしようと再びエレベーターの方へ逃げ帰りました。

今私の髪はどうなってしまっているのだろうと心配になりながら、
「もういいよね。降りようか」と言いつつ、エレベーターのボタンを押しました。 しばらくして再びあのおじさんが目の前に現れ、ホッとして少しは暖かいエレベーターへ乗り込みました。
「凄い風ですね」と話しながら「ここには長いんですか?」と聞いてみると「今日は当番でね」という様な返事が。
わかれを告げ、今度からは不用意に高台へは登らないぞと心に決め、ウェストミンスター大聖堂を後にしました。

・上の写真はウェストミンスター大聖堂の塔(左)とウェストミンスター大聖堂(右)です。(著者撮影)

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