ロンドン旅行記
〜AMP「シンデレラ」2nd Night編・2〜


<10/10・夜>

飛行機の行き交う音が鳴り響く中、観客がいそいそと席に着いています。振り返ってみると、客席は満杯になっていました。

私の隣にはドイツ語圏のハイティーンの女の子四人組が、友人の隣には日本人女性とイギリス人のカップルが座っています。左右ともにラフな格好です。二列目のアダルトでおしゃれな人達とはちょっと違う雰囲気の一列目です。

ふとロイヤルボックスを見上げると、皆の注目を浴びて恥ずかしがっているカップルが椅子に座ろうとしているところでした。この席を買うのはさぞかし勇気がいった事でしょう。

目の前のオケボックスでは演奏者が席に着き、演奏準備を始めています。そして、ショートヘアーの女性コンダクターが入って来ました。彼女はとてもにこやかで、元気でさわやかという感じです。さあ、楽しく振るわよという明るさが伝わってきました。

耳をつんざくような爆発音がスピーカーから流れ、ついにプロコフィエフの「シンデレラ」が会場に響きはじめます。
悲しげな音の中、シンデレラのイラストが描かれた幕が瞬時に消え、サラ扮するシンデレラとその両親、三人の幸せな家族が現れました。
昨日は遠目だったので、この瞬時に幕が消えるというのが魔法みたいでとても不思議だったのですが、最前列の今日は仕組みがよく分かります。ライトの当て方でこの幕は透けたり絵が浮き出たりするのです。薄い布を一枚隔てたところに出演者が立っていました。
そう言えば「SWAN LAKE」の中にもバーのシーンでこの方法を使っていたなと思い出しました。この手法、衣装&美術デザイナーのレズ・ブラザーストーンのお気に入りなのかもしれません。

目の前に立っているサラ(シンデレラ)はとても華奢で小さく、どこかはかなげです。抱きかかえたテディベアーが幼さを出しています。
そして、ふいに母親がいなくなり、入れ代わりに義母とその家族が現れました。
スコット・アンブラー扮する父親は、とても渋いロマンスグレーでなかなかのハンサムだなと見ているうちに、さっさと車イスに座らされてしまいました。ああ、今日はこれで彼はずっと座ってうつらうつらしているばかりの父親になってしまった。もっと動いているところをみたいのにと役柄上仕方がないのですが、少しがっかりしました。

シンデレラの家をのっとってしまったシビル。リンシーモア扮するシビルは昨日のイザベル・モーティマーよりすごみがあります。
ああ、この人にかかったら、簡単にこの家は乗っ取られてしまうだろうなという説得力が立っているだけであるのです。

他の家族はというと、「SWAN LAKE」で王子のガールフレンドを演じていたエミリー・ピアシー演じる義理の姉イレーネはダークブラウンの髪にグレーのブレザーのような毛皮に黒いスカート、黒い靴。ふてくされた表情で腕を組んで立っています。どこから見てもシビルに育てられた人間という感じ。

もう一人の義理の姉ヘザー・ハーベンス演ずるヴィヴィアンはただ一人メインカラーは黒ではなく、白いボレロタイプの毛皮を着てプラチナブロンドの大袈裟な髪、黒地に白い花柄のツーピースに白い靴を履いています。こちらはイレーネよりまだ女性的です。

二男バーノンを演じているベン・ライトは過去の作品で見せた優しい物腰とはまるで別人で、嫌な男だという感情を立っているだけでこちらに持たせてしまうほどのはまり方。今回は黒髪、メガネ、グレーのコートに偽善者じみたほほ笑みを浮かべて立っています。

そして、長男マルコム。昨日はスコットだったのですが、今日はコリン・ロス・ウォターソンが演じています。グレーのスーツを着た彼は、一見地味に見えますが、きのうより女性っぽさが増しているような・・・・

そして義母のシビル。黒い髪は両サイドで大きなウェーブがかかっていて肩よりちょっと上ぐらいの長さです。その派手な髪型は気の強さを表しています。
黒の毛皮に大きなダイヤのブローチ、そしてブルーグレーの口紅にブルーグレーのマニキュアが塗られたツメ。その右手は三男エリオットの頭の上に置かれています。

床にぺたんと座って母親になついているエリオットは「SWAN LAKE」で幼少の王子を演じたアンドリュー・ウォーキンショーです。
メガネをかけチェックのコートを着ていますが、ガリガリに痩せている彼にはちょっと大きいようで、まるでガウンかバスローブのように見えます。

この強烈な家族に追いやられてしまった二人は悲しげにシビルの横に並んでいます。
スコット演ずる父親は黒のタキシードを着て車イスに座り、目を伏せて左手をシンデレラとつないでいます。スコットの性格からすると、この座りっぱなしの役というのは楽だけどおもしろくないと感じているに違いないと思って眺めていました。

そして、右端に一人のけ者のように立つサラ演ずるシンデレラ。彼女は金髪を後で二つにわけ、細かい三つ編みにしてまとめてアップにし、グレーのカーディガンに黒の膝がかくれるぐらいの長いプリーツスカートを履いてテディベアーを胸にしっかりと抱いて立っていました。
乗っ取りに成功した義母と家族は全員が上を見上げ、それとは対照的に乗っとられた二人は下を向いています。

そして、第一幕が始まりました。

・上の写真はピカデリーシアターです。(著者撮影)

・「シンデレラ」の内容についてはこちらをご覧下さい。

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