ロンドン旅行記
〜AMP「シンデレラ」2nd Night編・8〜


<10/10・夜>

指揮者が息を深く吸い、勢い良く指揮棒を振り始めました。三幕が始まります。
そう、この席は指揮者の呼吸音が聞えるのです。これほどまでオーケストラボックスに近い席というのは、初めての体験です。ダンサーの動きを真剣に見つめながら指揮棒を振り降ろす彼女の姿は、正に闘うコンダクターです。

舞台の幕が上がり、再び頭に包帯を巻いたアダムが登場しました。
手にはしっかりとシンデレラの靴を握り締めています。ここからの彼は踊りを忘れ、ひたすら歩きまわらなければなりません。

道行く人にシンデレラの行方を尋ねて歩くハリー(アダム)。でも、誰に聞いても彼は迷惑そうに冷たくあしらわれてしまいます。
みんな、アダムの言うこと聞いてあげて!かわいそうじゃないの!!!とは思いませんが、又、何故みんなこんな魅力的な人に声をかけられてこんなに冷たく出来るの?皆おかしいんじゃない?(おいおい)とも思いませんが、とにかく彼は寂しくシンデレラさがしをしています。

舞台は地下鉄構内のセットになりました。昨日も見ていて思ったのですが、この三幕。実に見事に場面展開をするのです。ハリーがシンデレラを探して街を歩きまわるので、セットは次々に変わらないといけなくなり、はっきりと場所の移動を表さなければなりません。それをブラザーストーンは面白いほどスムーズにやってのけているのです。
以前からAMPは舞台美術が優れていると思っていたのですが、今回も驚くほどスピーディーに、スムーズにセットが現れては消えて行きました。しかも、細部まで凝りに凝っているのです。

地下鉄構内にはハンティングをかぶった青年と、派手な格好をしたコールガール風の女達がたむろしています。そこにハリーが登場。靴を持ち、人に尋ねてまわりますが、相変わらず邪険にされています。かわいそうに・・・・
そうこうしている内に女性に言い寄られてしまいました。思わずぐらっとくるハリー。まあ、サラが怒るわよと思うのもつかの間。はっと気が付き自分を律するアダム。偉い偉いって、役柄なのにと自分で自分がおかしくなります。

そこに再びAMPのコメディーパート担当者二人が登場。救世軍ペアーです。
アコーディオンとタンバリンを持っています。これまたいつも思うのですが、マシューは本当に音楽を使うのが上手くて、このコミカルな二人の登場から楽器の演奏、そして退場まで、音楽はプロコフィエフのスコアのままなのですが、あつらえたようにピッタリと合っているのです。彼の感覚ってどうなっているんだろうと思わされる程、見事な場面の一つです。

救世軍の登場から退場までの間、ずっと客席ではくすくす笑いが起こっています。善人ぶっているのに、この救世軍。何の役にもたたないのです。その証拠に、ハリーが シンデレラの事を聞いても、にこにこ笑ってビラを渡して彼をおっぱらってしまいました。
この場違いをものともせずに自分たちの信じる道をひたすら突き進む救世軍の二人に 観客はしっかり目を奪われています。
短い出演にもかかわらず、退場の時には拍手まで起こる盛況ぶり。 実にマシューらしいキャラクターの登場でした。

更に舞台はマシューらしい展開に。ここに居てたんじゃ駄目だと考えたハリーはこの場を立ち去ろうとしています。救世軍の退場の後を追っかけるようにハリーは出口に向かって歩き始めました。
その時、身なりのいい紳士がハンティングをかぶった若者の前に立ち、お金らしきものを渡し、次に足早に出口へと向かいました。残された青年は困った顔をして、紳士に下げられてしまったズボンのチャックをあげています。
会場からはどっという笑い声。私も笑いながら、もうまたマシューったら、地下鉄と言えばこの展開がお約束と考えたのねと思って笑っている人がかなりいるなと感じていました。

そうこうしているうちに舞台はあっという間にエンバンクメントに移動しています。ここはどうやら橋の上。
シンプルなセットなのに地下鉄でもそうでしたが、舞台奥と前面の間に、中央が開いている(ここから人が出入り出来る)壁を立てているので奥行きがあり、なかなか雰囲気が出ています。ライティングも相変わらず上手く、エンバンクメントでは、夜中から明け方にかけての独特の静寂が良く出ています。橋の上の街灯もなかなか美しく、絵画的です。

その橋の上に男が二人。街灯にもたれ掛かって何やら話していました。
私の目の前にはベンチがぽつんと置かれています。そこに映画でいうならハリウッドの昔の映画に出てくる新聞記者のような少しずんぐりした男が入って来て、ベンチの奥の壁を叩きました。壁にしか見えないようなそこは、実ははめ込みの板をはずすとスタンドになっており、こんな夜更けだというのに、おじさんが出てきました。

こんな時間に店を開けてくれるなんて変な店だと思いつつ、目の前のスタンドの主人を見つめます。何だか痩せてて前髪はバラバラ。大きなヤカンを大袈裟に振り回し、出がらしのお茶を入れています。常連のお客らしい男と話し込む主人。
そのしゃべり方が声が聞こえる訳ではないのですが、口を大袈裟に動かしていて何だか下品です。でも、このあばら屋のようなスタンドにはとってもお似合い。

こんな人AMPにいたっけなどと思ってじっと見ているうちに、気づいたのです。
スコットだーっっっっっっ!!!!!絶対、ぜーったい良く見ないと、それに彼の顔を良く知っている人じゃないと分からないっっっっっ!もう、やっぱりね。あんなただ座っているだけの父親の役だけで、彼が満足するはずないとは思っていたのよ。と一人、ただ単に人が足りなかったから出てきただけかもしれないスコットの登場を、自分なりの解釈で納得して頷いてしまいました。それにしても、見事な化けっぷり。役者だなぁと感心してしまいます。
そこにハリーがまたよろけるように登場して来ました。

・上の写真はダンスブックスで購入した雑誌(左)とシンデレラのパンフレット(右)です。(著者撮影)

・「シンデレラ」の内容についてはこちらをご覧下さい。

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