ロンドン旅行記
〜テート・ギャラリー編・1〜


<10/11・朝>

雨雲に覆われた薄暗い朝が、カーテンの向こうに広がっていました。
日本を出発する時から風邪気味だった友人の苦しそうな咳を一晩中聞き、いつもより浅い眠りから目を覚ますと、私もしっかり風邪をもらっていました。

薬を頑なに拒絶し、お風呂に入り続けた友人は、疲れも出たのでしょう。熱はありませんが、どうも風邪をこじらせていまったようです。
相変わらず彼女は大丈夫と言っていますが、今日ばかりはと説得して薬を渡しました。しとしとと雨が降りだしたロンドンの街を窓から眺め、友人の支度を待ちます。
今日も朝食を食べに行こうという雰囲気ではないなと諦め、日本から持ってきたものを朝食がわりに食べ、私も風邪薬を飲んでからホテルを出発しました。

テートギャラリーに向かう今日は、ピカデリー線コヴェントガーデンからの出発です。
折り畳みの傘をたたみ、改札を通ってホームへ降りるのに必ず乗らなくてはならないエレベーターの列に並びます。朝から既に軽い疲労感を覚えている私たちは、エレベーターの来るのをぼんやり待っていました。すると、20代後半か30代前半ぐらいのイギリス人が話しかけてきたのです。

髪は短く、ジャンパーを来て、どこから見てもこれから出勤とは思えない、背が170cmぐらいの男性です。「こんにちは」日本語でにこにこしながら、何故か合掌して軽く会釈しています。本人は気づいていないけど、日本とタイかどこかが混ざっている・・・少し赤い顔がもしかして酔ってるの?という疑問を持たせます。
今、私たちはさぞかし不信な顔つきをしているのだろうと思いながら、こちらも「こんにちは」と挨拶しました。すると、この男性は益々私たちに興味を持ったようで、自分の知っている日本語を話し始めたのです。しかも、ターゲットは私のようで、近寄りじっと見つめながらずっとささやいています。
次第に日本語は英語になってきました。その様子が何だか怖くて、ただでさえ体調が悪い日なのに、こんな人に会うなんて。私たちが何をしたっていうの?という気分になってきます。

私は都合良く急に英語が全く分からない人になり、彼の言う事を首をかしげ、分かりませんのジェスチャーをします。漸く来たエレベーターに友人にしがみつくように乗り込み、出きるだけ男性から離れようとしました。
ところが、この人はついて来てしまうのです。あー、怖い〜と更に友人にしがみついていると、頭に何かがボコっとぶつかってきました。どうやら乗り込んで来た人のリュックが私の頭にぶつかったようです。すると、さっきの彼が急にそのリュックの人に向かって怒りだしたのです。
「あやまれ!」とつめより、あっと言う間にエレベーター中の注目を浴びていました。彼の剣幕に押されたのか、すぐさま私はあやまられ、私も彼にお礼を言います。

いい人なのかもと思いつつも、やはりちょっと苦手なので、エレベーターがホームのフロアーについた途端、私は足早に歩き始めました。
ホームに向かう通路を歩きます。しかし、なおも彼は追っかけて来て、何やら話しかけようとしています。どうか、方向が違いますようにと祈りながら、ホームの分かれ道に到着した時、彼は私たちに「さよなら」と告げ、違うホームへ歩いて行きました。
ほっと胸をなで下ろし、よかったねと言いあい、やって来た地下鉄に乗り込みました。

ビクトリア駅でセントラル線に乗り換え、ピムリコで下車。テートギャラリーに向かいます。表示に従い、地上への通路を進みます。
表の光が見える通路に差し掛かった時、20代ぐらいのイギリス人らしき男性が、寝袋に足を突っ込んで通路に座っているのに気が付きました。
彼はにこにこしながら私たちを見ています。辺りはまだ朝のせいか、私たちしかいないので、足早に通り過ぎようとしました。

すると、また日本語で「こんにちは」と挨拶されてしまいました。にこにこ笑いながら彼はこたつにでも入るように寝袋に両手両足を入れています。仕方なくこちらも笑って「こんにちは」と答えます。
ロンドンに来てから3人目の日本語での挨拶に、何でいつも中国とか韓国ではなく、日本人だとすぐに見抜かれるのかと不思議になり、それにしても今日はよく話しかけられるなぁと思いつつ、降り続けている雨を見て、傘の用意をしました。

・上の写真はバッキンガム宮殿の広場です。(著者撮影)

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