ロンドン旅行記
〜テート・ギャラリー編・2〜


<10/11・朝>

小雨の降る中傘をさし、コートの前をしめてテート・ギャラリーを目指します。
ここは観光地からは程遠く、雨のせいか閑散としています。歩いている人はまばらで、肌寒さも手伝って寂しさが漂っていました。

地図を片手にきちんと舗装された歩道を歩きます。有名な美術館があるわりには標識がありません。こちっであってるよねなどと言いながら歩きだした途端、今度はティーンエイジャーの女の子二人組に声をかけられました。今度は英語です。

「すみません」という声に振り向きます。見ると私より少し背の高いぐらいで、金髪のショートヘアーの女の子が、リュックを背負って友達と地図を持っていました。
「テート・ギャラリーにはこの道でいいんですか?」
なぜ、なぜ彼女達は見るからに東洋人の私たちに道を聞くの?!でも、あまりにスムーズに
「ええ。あってるわよ。」と答えてしまう私。ああ、ついに分からなくても答えてしまうイギリス人の癖がうつってしまったっっっ!と自分に驚き、慌てて「多分」と付け加えます。
すると、少女は「ええっ、多分だなんてっっ」と、アメリカの映画なら大袈裟に不満な顔をして両手を下に振り下ろす様な態度をとりました。
「だって、私たちも初めて行くんだもの」と言うと、納得した様子。もういいわという感じで、「ありがとう」と言って、さっさと歩き始めました。私たちに聞く方が間違っているのよと思いながら彼女達の後を追います。

大きな道路を横断歩道を使って渡り、突き当たりのバーバーを右に折れます。
ギャラリーへの道の左右には、白い壁のアパートが立ち並んでいました。中には空き部屋もあり、カーテンが掛けられていない窓からは、がらんとした部屋が覗けます。
静かな住宅地を通り、ところどころにある「テート・ギャラリー」の標識に従いながら歩くこと15分ぐらいでしょうか。右側にテムズ川が見える頃、テートギャラリーに到着しました。

さすがに観光客が入り口にたむろしています。見ると、先ほど道を尋ねて来た少女たちもいました。ほっとして、ちゃんと辿り着けたんだねと友人と話します。 入り口の写真を撮ろうとする彼女に、小雨の中で撮るより後で雨が止んでからにすれば?と言い、テートギャラリーに足を踏み入れました。雨はもうじき止みそうです。

中に入ると朝なので混雑とまではいきませんが、見学者が結構いました。

テートギャラリーは入場無料で、ところどころに大きな透明の募金箱が置かれています。
館内の中心にある通路の天井は白で、全体に明るいイメージです。そしてその通路にはギリシャ風の彫刻が点在しています。

まずは有名なミレイの「オフィーリア」を見に行きます。中心にある通路の左右に展示室が並んでいるのですが、それは左側の部屋にありました。

ドアを開け、奥に進みます。ほとんど人のいない展示室に靴音が響きます。日本で見たなら人の頭の間だからしか見ることが出来ないであろうこの絵を、たった3人で眺めるこの贅沢さ。
絵は考えていたのと同じ位の大きさです。そして、これはイギリスの絵画全般に感じる事なのですが、精密で美しすぎるせいか芸術的深みがなく、絵本あるいはポートレートがわりのような薄っぺらな印象をうけました。技術的には非常に優れていると思いますし、ポスターやポストカードで見たなら目を惹き付ける魅力を持っています。しかし、本来なら実物と印刷による再現との間だにおこる差が、余り感じられないのです。
もしかすると、絵画の表面自体がそれほど立体的ではなく、きれいに塗られているものだからかもしれません。
とは言うものの、この「オフィーリア」はひときは目を引く絵画です。

今度はギャラリーの奥へ進みます。ここも大きいギャラリーだという事がだんだん分かってきました。美術品の量も半端なものではありません。

一番奥の部屋に、ガイドブックには必ず出てくる「チャムリー家の令嬢」がありました。
左右対称かと思われるほどそっくりな二人の貴族の令嬢が、赤い布に巻かれた赤ちゃんを抱いているという絵です。
少し高い所に掛けられているので、はっきりとは見えませんが、かなり細かく書き込まれています。
この部屋はチューダー朝とスチュアート朝の絵画が展示されているのですが、どれをとってもレースや宝石の書き込みが、まるで本物のように見事です。レースの細かい織りが精密に描かれています。白い真珠のネックレスもまるで浮き出るようなリアリティーがあります。洋服の質感といい、肖像画の人の顔といい、これは正しく職人技。見事なものだと感心させられます。

次の部屋へ行こうとすると、部屋を抜けたところに地下へ降りる為の階段がありました。そこには女性のスタッフが立っています。
近寄ると、地下の展示室へ行くチケットを持っていますかと尋ねられました。話しによると、地下は有料で特別展示をしているとの事。チケットブースで購入して下さいと言われました。

そこで思いだしたのは入り口付近で見た昔から、どこがいいのだか私には分からない、モンドリアンの絵らしきポスター。あのスクエアーな色の組みあわせは、私にはピンと来ないのです。見なくていいやと思い、常設展示に戻ります。

次に現れたのはウィリアム・ブレイクの版画です。私は「羊たちの沈黙」の原作者として知られるトマス・ハリスの小説、「レッド・ドラゴン」でウィリアム・ブレイクの絵を崇拝している犯人が出てくる事から、初めて彼の絵を知りました。
ブレイクの作品は聖書にまつわる版画が大半をしめています。挿し絵として描かれたものが多く、彼の絵はその物語と平行して見る事によって、本来の力を発揮するのです。ここに展示されているものは、額に入った絵として存在しているので、日本人の私にはどんな物語をこの絵が表しているのかは分かりませんが、ブレイクの独特の不気味さは伝わってきました。

・上の写真は国会議事堂の裏側です。(著者撮影)

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