ロンドン旅行記
〜ハマースミス編〜


<10/11・夕方>

地下鉄ナイトブリッジ駅への地下通路は、ハロッズから帰るお客さんで大混雑していました。

地下への階段を降りた途端、私は大変な事になっているのに気が付きました。人で前が見えないのです。土曜の夕方だからでしょうか。時計を見ると5時半をまわっています。英国ロイヤルバレエの「ジゼル」は7時開演なのでまだ余裕があるので心配はないのですが、あまりの混雑ぶりにうんざりします。
ここへ来た時以上の混雑で、床さえ見えない状態が続きます。これではまるでスタジアムで行なわれたコンサートの帰りだと思い始めます。次から次へと降りてくる観光客と、そこで既に膠着状態になっている観光客でますます地下道は混雑してきました。雨の日どくとくのもわっとした空気が充満しています。

一歩一歩ゆっくり進み、どこまで行けば改札になるのだろうと、人の頭の間から前をのぞき込みます。後6mほどで改札かという所まで来た時、更に混雑ぶりが激しくなりました。このまま将棋倒しになったらどうしようと思うほど、ほとんど日本のラッシュアワー並の混乱になって来ました。
怖い・・・日本女性の標準的な身長しかない私では、埋もれてしまう・・・・
熱気が更に私に追い打ちをかけてきます。今や蒸し風呂状態の通路で、汗がとめどなく出てきます。後で絶対体が冷えてしまうだろうと悟り、既に風邪をひいているのに最悪だとくらくらしてきました。
何故ここまで混雑するの?と誰もが思う地下通路をどうにかこうにかくぐり抜け、漸く自動改札に辿り着きます。二度とハロッズなんかに来るもんか!と思ってから、漸くピカデリー線に乗り込みました。

大混雑のナイトブリッジ駅から数えて5つ目のハマースミスで下車します。
ここは空港からホテルに向かう為、初めてロンドンの地下鉄に乗った時に通った駅でした。私たちが宿泊しているホテルのある、そして通常英国ロイヤル・バレエ団が公演を行っているロイヤル・オペラハウスがあるコヴェント・ガーデンからは、地下鉄で40分ぐらいかかるといった遠さです。
駅は地下ではなく地上にあり、少々閑散としていました。

結構はずれで公演をしているなぁと思い、改札へ向かいます。
日本を出発する時に、バレエ専門のお店、ダンス・ブックスの場所を教えて下さった花見さんのホームページにあった説明を頼りに、劇場「ラバッツ・アポロ・ハマースミス」に向かいます。
「Broadwayと書かれた出口を出て左折し、徒歩2分」とあるので、まずは「Broadway」を探せば、後はすぐよねと余裕で改札口を出ました。どうやらここは駅ビルになっている様で、改札周辺はショッピングモールになっています。中央辺りには、エスカレーターがありました。

Broadwayはどこかなぁと辺りを見回しながらショッピングモールを歩きます。ところが、何という事でしょう。外に出てしまったのです。
困った・・・また迷っているよと悲しくなってしまいます。辺りを見回しても、どこにもBroadwayという文字は見当たりません。仕方なく外に出た所にある、地図を見に行く事にします。また小雨が降っています。

劇場はどこだろうと地図を見つめ、ふと横を見ると、50代か60代ぐらいの、少しふくよかな、優しそうな、見るからにイギリス人といった感じの白髪の男性が私と同じように地図をのぞき込んでいました。
この時間に地図を見ている・・・もしかしてこの人もロイヤルに行くのではないかしらと思い、勇気を出して聞いてみる事にします。

「すみません、ロイヤルバレエに行かれるのですか?」
「そうですよ」とにこやかに答えてくれました。良かったこの人について行こうと思い、
「私たち、迷ってしまったんです」と言うと、「いや、実は私もなんです」とにっこり笑って返されてしまいました。お互いに顔を見あわせ、笑ってしまいます。でも、彼は
「今妻が道を聞きに行っているから、ちょっと待って下さい。一緒に行きましょう」と続けてくれました。安心して私たち三人で奥さんを待っていると、すぐに彼女がやって来ました。金髪がかった茶色い髪をボブにして、きれいにブローしたマダムといった感じの人です。

「道が分かったわよ、こっちですって」と御主人に説明しています。
「彼女達も一緒の所に行くのだけど、迷ったそうだから一緒に行こうと言っていたんだよ」というような会話があり、奥さんが私たちの方を振り向きました。軽く会釈します。
「行こうか」という御主人の促しで、先ほど歩いて来た駅ビルの中ではなく、外側を歩いて劇場に向かいました。

途中、何度もこの親切な御夫婦は、私たち二人がちゃんとついて来ているかどうかを心配し、後を振り返っては微笑んで確認してくれました。
今日は一日中何だかついていなかったので、この親切がとても嬉しく、心の中が温かくなってきます。途中地下道に入り、道路を地下から横切ります。そして階段を上ると、ロイヤルのポスターや写真が飾られた劇場が突然目の前に現れました。
最後まで私たちの事を気づかってくれた御夫妻にお礼を言い、チケットの用意をします。

いよいよ英国ロイヤル・バレエの公演の時間が迫ってきました。

・上の写真は、改装中のロイヤル・オペラハウスです。
ロンドン旅行記の「ホテル編」にある写真は、ロイヤル・オペラハウスでした。(著者撮影)

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