ロンドン旅行記
〜英国ロイヤルバレエ「ジゼル」編・2〜


<10/11・夜>

赤い幕が引かれると、村のセットが現れました。全体に茶系の落ち着いたイメージです。おとぎ話のような世界がそこには作られていました。
絵画的なセットに、昨日までの舞台とはまた違った面白みを感じます。うさぎさんが出てきてもおかしくないという感じがよく出ています。油絵のような色の落ち着きがあり、奥行きも上手く表現されています。

まずはヒラリオンが狩りで取ってきた獲物をジゼルの家の入り口に掛けました。彼の衣装もシックな感じ。全体に大人っぽい、いい色です。思ったより押さえられた色が絵画的な雰囲気を作りだし、独特の美しさを出しています。
アルブレヒトが登場し、ジゼルの家のドアをノックしました。いよいよヴィヴィアナの登場です。会場からひときは大きな拍手が起こります。ジゼルというと、白と青の衣装という印象があったのですが、ヴィヴィアナの衣装は白いブラウスに白いスカート、そして茶系のベストというか、胸あて風のものでした。
髪型と表情、しぐさが少女らしさを出していますが、見た目はシックで落ち着いています。思った通り、華奢で小柄でかわいらしいヴィヴィアナのジゼルがそこに居ました。
お約束になっている花占いで首を横に振る仕草も、初々しさが良く伝わってきます。表情豊で、華があり、そして安定した踊りを続けるヴィヴィアナに、やはり彼女はプリンシパルだなと納得します。

村人が登場し、バチルドの登場に舞台は進んで行きます。村人達の衣装も全体にシックな色使いで、背景とのコンビネーションが美しく感じられます。
その中に、東洋系のダンサーを発見。もしかして佐々木陽平君だろうかと思いましたが、キャスティングを見ると、中国人の「Shi-Ning Liu」(シー・ニン・リューでしょうか)でした。

ジゼルの恋敵、バチルドが遂に登場します。衣装はオレンジ系で、美しいのですが、どこか落ち着きがあり、ジゼルとはかなり歳が離れている感じ。
恋敵というよりは、どっちかと言うとアルブレヒトのお母さんと間違えてしまう人もいるかもしれないと、怒られそうな事を考えてしまいます。

ここから物語は悲劇へと変わっていきます。バチルドの美しいドレスを手にとって見てしまうジゼル。そして、バチルドからネックレスを渡され、喜ぶジゼル・・・
この展開、実は余り好きではないのです。優柔不断なアルブレヒトにも、いつも違和感というか、腹立たしさを感じますし、こんな人の為に何故ジゼルがこんな事にならなきゃならないのと思ってしまうのです。
舞台の上で話しはどんどん進み、徐々にジゼルが死にからめ捕られていきます。全身で悲しみを表現するヴィヴィアナに、観客の目はくぎ付けになっていました。
恋人の裏切りと身分違いの恋に絶望し、次第に狂っていくジゼル。話しの展開を知っているが故に、余計に彼女がかわいそうに思えます。
先ほどまでの無邪気で可憐な少女は大人の女性のように見え、近寄りがたいおうらのようなものを体から出しています。そして遂に、彼女は倒れてしまいました。
彼女の死を嘆き悲しむ人々と、永遠に目を閉じてしまったジゼル。悲しみに満ちた舞台を、赤い幕が覆いました。

あっという間の一幕が終わった途端、場内は例のごとくアイスクリーム売りが登場し、またまた長蛇の列が出来上がっていました。
本当にイギリス人はアイスクリームが好きなんだなと、ぼんやり眺めてしまいます。昨日と同じくオケボックスに観客が数人居て、中をのぞき込んでいました。今日の観客は、AMPのように知りあいが挨拶をしに来たというのではなく、楽器を見に来たらしい人達でした。
今日一日の疲れも出てきているのでしょうが、私の風邪は随分ひどくなってきています。もしかすると、熱も出てきているかもしれないと思って立ち上がる気力もなく、休み時間はずっと椅子に腰掛けて過ごしてしまいました。

もうそろそろ二幕が始まるという頃、私の隣に居た40代ぐらいのふくよかなおばさんが、赤くて四角いクッションのような物を二つ抱えて帰ってきました。
何だろうと思って見ていると、私の前の席とその右隣に腰掛けていた少女二人の座席にそのクッションを置きました。何と、チャイルドシートだったのです!
さすが演劇の国、イギリス。劇場にまでチャイルドシートがあったのかと、驚かされるものでした。
今まで座席に埋もれていた子供たちの頭が、大人と同じ高さまで浮上して来ました。良く見えるようになったようで、二人とも嬉しそうにしています。日本でもこんな工夫があったらいいのにと思う、出来事でした。

観客が再び着席し、いよいよ二幕が始まります。場内が暗くなり、幕が上がりました。

・上の写真は、英国ロイヤルバレエ「ジゼル」のパンフレットです。(著者撮影)

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