ロンドン旅行記
〜英国ロイヤルバレエ「ジゼル」編・4〜


<10/11・夜>

舞台の上ではジゼルの必死の守りも虚しく、アルブレヒトが倒れてしまいました。もう駄目かと思ったその時、鐘の音が鳴り、朝がやってきます。ウィリ達の時間の終わりを告げる鐘です。ウィリ達はあっという間に森へ帰って行きました。
命が助かったと同時に、アルブレヒトにはジゼルとの別れがやってきます。二人の悲しみが漂います。ウィリ達が去った後、二人は別れを嘆きます。立ち去ろうとするジゼルを呼び止めるアルブレヒト。しかし、時は待ってくれません。彼の手をすり抜けるように、ジゼルは去っていきました。
何故あの優柔不断なアルブレヒトが生き残るの?という感情は、ヴィヴィアナが演じたジゼルの健気さが打ち消してくれました。
ジゼルが姿を消し、アルブレヒトだけが舞台に残り、そして幕。

その瞬間、静まり返った会場が息を吹き返しました。
大きな拍手で埋め尽くされた会場の中で、私は熱を帯び始めた体を、拍手をしながらシートに深く埋めています。困った。完全に友達の風邪をもらってしまった・・・それもかなりひどい様です。

舞台では、カーテンコールが始りました。村人、ウィリが登場し、それにバチルドや侯爵が続きます。そしてヒラリオン、ミルタが登場。歓声が起こります。
そして最後にジゼル(ヴィヴィアナ)とアルブレヒト(スチュアート・キャシディー)が登場。当然、場内の拍手がひときは大きくなります。
私も惜しみなく拍手を贈りました。隣に座っている、チャイルドシートを運んでいたおばさんも、子供たちと幸せそうに話しながら、惜しみない拍手を贈っています。ブラボーの声にヴィヴィアナが笑顔で答えています。
鳴り止まない拍手に再び二人が登場。会場は声援と拍手で、一層盛り上がります。愛らしいほほ笑みをたたえたヴィヴィアナがそれに答え、キャシディーも彼女の手を取り観客の声援に答えています。

とうとうカーテンコールが終わり、会場に明かりがつきました。重くなってしまった体を座席から引きはがします。赤い幕がおりた舞台を振り返り、会場を後にすべく歩きだします。

するとその時、舞台の上から金づちの音が・・・・会場にはまだ結構観客が残っているのですが、幕の向こうでは早速大道具の撤去作業が始った様です。
す、凄い・・・・スピーディーというか、何というか。確かに、土曜日の今日はジゼルの最終日で、月曜日からは「眠り」になるのですが、余韻冷め遣らぬうちに工事現場の様な音を聞かされるとは・・・・・・明日の日曜日、劇場は閉まるので急いでいるのでしょうか?これが普通なのでしょうか?疑問を感じながらロビーに出ます。

トンカン、トンカン、バリバリバリバリ、キュイーンという音はロビーにまで響いていました。BBCのドキュメント「ハウス」で見た、ロイヤル所属の大道具さん達を思いだします。確か、あの時には夜のシフトもあると言っていました。彼らはこれから徹夜をして、あの複雑そうな「眠り」のセットを組むのでしょうか?
うーむ・・・・見てみたい。眠りも見たかったと未練を感じて、二度と来る事はないであろうラバッツ・アポロ・ハマースミスの扉の外へ出ました。

外は相変わらず雨で道路が濡れています。劇場を振り返ると、ドアの間の壁には、舞台のワンシーンを撮った写真が掛けられていました。ジゼル、ロミジュリ、眠りの写真が飾られています。暗い夜の闇の中、そこだけがスポットライトを浴びて浮き上がっています。どことなく寂しさを感じ、ロイヤルと書かれた看板を見上げました。小雨が私の顔に降ってきます。

漸くホテルへの帰路につけたとさすがにホットし、地下鉄の駅へ移動します。地下道を通って道路を下から横切り地上へ。
人の流れに乗って行くと、あっという間に駅に着きました。何だ、改札から真っすぐ表に出れば簡単だったのねと今ごろ気づきます。どうして来る時、あんなに迷ってしまったのか。自分の迷い癖に驚いてしまいました。

地下鉄のホームはロイヤル帰りのお客さんで少し混雑しています。漸く来たピカデリー線に乗り、だるくなっている体をシートで支えます。さすがに車内はすいていて、立っている人はほとんど居ません。
皆ロイヤル帰りという事を示すように、手には赤いパンフレットを持っていました。どうやら口々に今日の舞台の話しをしている様子。
一方、私は今日はお風呂は無理だなと、ぼんやり考えていました。帰ったらまず風邪薬を飲んで、ゆっくり眠ろう。

地下鉄に乗り込んで40分ぐらい経つ頃、漸くコヴェントガーデンに到着。お決まりのエレベーターへ乗って地上へ。ホテルへの坂道を下り、ホテルを目指します。
コンシェルジュのカウンターの前を通り、その隣にある中々来ないエレベーターを待ちます。さすがに朝よりは早く来たエレベーターに乗り込み、漸く自分たちの部屋に辿り着きました。無事帰って来られたとほっとし、ベッドになだれ込みそうになります。
ブーツを脱ぎ捨て、洋服を着替えるべくクローゼットの前に立ちます。ああ、もう一秒でも早くベッドに入りたい。その時、友人が私の背後で叫びました。

「パスポートがない!!!」

・上の写真は、英国ロイヤルバレエ「ジゼル」のパンフレットです。(著者撮影)

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